日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第46回日本家庭科教育学会大会
セッションID: 16
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第46回大会口頭発表
思いやりと豊かな人間性を育む高等学校家庭科の授業構想
-「高齢者福祉」を題材として-
*杉田 久枝永原 朗子
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抄録

【目的】 近年、少子高齢化、核家族化の進展に伴い高校生にとって高齢者や乳幼児に触れあう機会は減少しており、異年齢の人々を理解することも困難な状況にある。こうした社会問題に起因する影響による、いじめや不登校などの教育課題に憂慮し、他者への思いやりの心を深めたり豊かな心を育てるなど、より良い人間形成を行う教育が強く求められている。 このような時期に、新しい高等学校家庭科学習指導要領において、介護の基礎を体験的に学ぶことを適して、高齢者に対する思いやりや、共感などの大切さを学ぶことの重要性が唱えられた。 また、国際高齢者年(1999)に示された「高齢者が安心して自分の生きる生き方、或いは自分の運命を自分で決めていくこと=自己決定=ができる生活」が送れる社会づくりを目指していくためにも家庭科教育の果たす役割は大きいといえる。以上のことから、本研究は、「高齢者の生活と福祉」に関する先行授業実践と「高校生保育介護体験事業」報告書の分析を基に、思いやりと豊かな人間形成を育むため高齢者福祉を題材とした授業の構想を目的とする。
【方法】 ?家庭科教育・家庭科研究(1989~2002)に掲載された「高齢者の生活と福祉」に関する高等学校家庭科の授業実践を抽出し(67事例)、「学習の目標」「題材」「方法」「効果」の4観点から分析した。 ?文部科学省は委託事業として平成12年、13年の2年間に各都道府県教育委員会の指定実践研究校において、「高校生保育介護体験事業」を行った。この報告書を教育委員会を通して取り寄せ、特に「介護体験事業」に焦点をしぼり、「実践のねらい」「内容」「成果」「問題・課題点」「その他」の5観点から分析した。
【結果】1.先行授業実践では、「目標」は『高齢者福祉に関するもの』『住居に関するもの』『生徒の人間形成に関するもの』の順で「題材」についてはその目標に則した題材が用いられていた。「方法」は主として『文献・資料』『テレビ・ビデオ』といった授業の導入の際に教師側が準備したものを用いるものが中心であり、『施設訪問』や『疑似体験』など体験的な学習を取り入れているものは少なかった。「効果」をみると『高齢者から生き方を考える』や『今後の生活に生かす』など〔思考・判断〕に関する効果は最も上がりにくかった。一方、高齢者に対するマイナスイメージを抱かせる授業は、生徒の学習意欲や関心を低下させた。
2.報告書では「実践のねらい」は『異世代交流』『高齢者理解』が8割を超え、『思いやりの心』『生きる力』、『教育・授業の在り方』、『進路指導』、『地域との連携など』の順であった。委託事業の主旨からその9割以上の学校が施設訪問による体験学習であった。その「内容」は主として『介護の知識・技術』、『交流』であった。「成果」については約8割の学校がねらいどおりに成果を上げていた。「課題・問題点」については、8割を超える学校が『教育・授業関係』『準備』『生徒』『施設』に対する問題や課題点をあげており、体験学習についての学校側の経験の少なさが伺えた。 以上の分析を踏まえ、授業構想にあたっては、?自分の問題としてとらえ、生徒の考えや疑問を生かす、?「老い」をエイジングと捉える、?高齢者をプラスイメージに捉える、?体験学習を取り入れる、?生徒一人一人が持つ課題と結びつく目標を設定する、?評価に情意的な観点を重視することを視点とした高齢者福祉の授業構想を行った。

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© 2003 日本家庭科教育学会
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