日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第46回日本家庭科教育学会大会
セッションID: 17
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第46回大会口頭発表
城戸幡太郎編『わたしたちの生活設計』にみる家庭科の概念構造
青木 香保里
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抄録

目的:戦前の民間教育研究運動において「生活主義」と「科学主義」を掲げ、「科学的教授の方法」を問題とした城戸幡太郎が編者となり、刊行された中学校職業・家庭科教科書『わたしたちの生活設計(家庭生活中心)』(1954・1956、日本書籍)に着目し、その検討を試みる。
方法:文献研究による。対象とする家庭科教科書は、城戸幡太郎編『わたしたちの生活設計』(1954・1956、日本書籍)。このほか戦前および戦後初期の雑誌『教育』、ならびに戦前・戦後初期の教育科学研究会(以下、教科研と記す)関係者の論稿などを資料として用いる。
結果:
1.教科研における家事教育の検討過程 戦前の教科研生活教育部会において理論的中心を担った留岡清男『生活教育論』では、家事教育における?生活の合理化、共同化、?生活協同体、協同組合主義、?家庭生活の総合性、への着眼と焦点化の必要が説かれた。これらを支柱に生活教育部会の家事教育検討委員会では「生活標準の設定」を目標に研究活動が展開し、開示教育のカリキュラム再構成と教材の再選択の具体化が目指される。1937・1940年の期間にみる教科研の家事教育研究の到達点として、?家事教育の目標を家庭生活中心から国民生活の理解と訓練にまで拡大、?家事教育をひろく国民を対象とし、「生産」と「消費」を一貫してとらえる教育内容を位置づける試み、?「生活の標準設定」の指標として「労働力の再生産」の概念を抽出し、「教育」と「生活」を結節する生活科学の教育内容を総合的に梢想、?そのような国民生活の実現の重要な手段として共同化を位置づけ、生活の合理化、科学化と並んで重視、などをあげることができる。
2.『わたしたちの生活設計』にみる家庭科の構想『わたしたちの生活設計』の執筆者である城戸幡太郎と篭山京が展開した「生活科学論」「生活横造論」「生活教育論」の各論が反映した特徴を同書は有する。その特徴は、?具体的な家庭生活に基づきながら、「生活」を「労働力の再生産」の視点から総合する家庭科の構想が、戦前の教科研における生活教育部会を源流としつつも、戦後の新教育においてより具体化された教育内容として拡張し、教科書として結実をみた、?人間にとって本源的で本質的な労働に着目し焦点化し、生活を構造的に把握し、生活における認識と実践の統一をめざしていた、?生活構造のまんなかに「労働力の再生産」を中心概念としておき、生活の総体を構成する「労働」「休養」「余暇」と現実生活の関係から構造的にとらえる科学的な認識と、それを現実生活において社会的に実践する労働力と生活力の形成を目標とする家庭科の具体化であるとともに、戦後の新教育に寄せる期待と実験の集大成のひとつであった、などに整理できる。
3.『わたしたちの生活設計』にみる家庭科の単元構成と概念構造 図1に示した基本構造を基碇単位としながら、各学年(1学年は「生活のあり方」、2学年は「生活の設計」、3学年は「生活の改善」)の単元が構造化されており、学年進行に伴って基本構造は連結し、3年間の学習が構造化されている。学年進行に伴い前学年で学習したことを深化し発展させる単元構成となっている。基本構造を構成する「家庭」については、社会との関係がたえず意識化される。職業・家庭科は生産と消費を密接不可分なものとして位置づけ、具体的な生活を学習の対象として「労働力の再生産」の視点から生活にたいする認識の総合と実践化をはかるためには、「生活の合理化」「生活の社会化」「生活の計画化」「生活の共同化」「生活の民主化」の概念から分析・総合することが重要であるとした。

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© 2003 日本家庭科教育学会
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