抄録
【目的】近年健康で安全な食生活を求める意識が高まる傾向がある一方で、食生活に密接に関わる生活習慣病やダイエットプームなどが社会問題となってきている。健康や食生活に関する情報が溢れている一方で、それを利用する者の知識が追いつかない状況である。時に欠食や外食が多い若い世代には、自分自身の食生活を管理する能力が必要であり、そのためには食生活に対する意識の向上を促し、実践につなげるきっかけが必要である。そこで、従来より検討を重ねてきた「生涯を通した食物教育プログラム」の調理分野において、調理体験の場を提供し、調理実習を行うことが食意識や知識、技術の習得度にどのように影響するかについて検討した。
【研究方法】男子大学生25名を対象とし、3回の調理実習を行なった。また1回目の調理実習の直前に事前アンケート調査を、3回目の調理実習終了後2~4週間後、および6ヶ月後に事後アンケート調査を行い、食生活に対する意識や知識に変化について調べた。調理実習の献立は調達するにも価格的にも手に入れやすい食材を選び、栄養の偏りが少なくなるように考え、一人ずつ実習を行なった。なお、対象者は自宅生及び下宿生をほぼ半数ずつとした。
【結果と考察】自宅で料理をする頻度は、5%の危険率で自宅生より下宿生の方が高かった。調理実習2~4週間後にも同様の有意差はみられたが、実際に調理を行なったことで自宅生、下宿生ともに料理をする人が面倒だと考える人が64%から36%に減り、自宅で料理をする人が増え、できる料理も増加した。特に調理実習で作った料理をできるようになった。あるいは作ってみたという回答が多くみられ、実際に調理を行なうことは実践につながることが明らかになった。今回の対象者は自宅生・下宿生ともにほぼ全員が、冷蔵庫、コンロ類、レンジ類、炊飯器などの調理器具を所持しており、調理実習の事前アンケートで調理器具が揃っていないことを自宅で料理しない理由にあげていた人も、実習後は理由としてあげることはなくなった。さらに調理実習2~4週間後のアンケート調査では、自分の健康のために普段の得ようの摂り方を気にする人が増え、即席ラーメンや市販弁当、市販おにぎりなどの手間のかからない食品の利用頻度が減り、惣菜の利用が増えた。実習の中で1食ごとに1飯1汁2菜または3菜を揃えることが基本であり、副食や補食に惣菜の利用を紹介したことが影響し、おかずを揃えて食事をするようになったと考えられた。実習を通して、栄養や食品、料理についてほぼ全員が知識が増えたと回答しており、中でも実習以前から食生活に対して興味・関心を持っていた人の方が、実習による学習効果が大きかった。食生活に対する意識の高い人は、知識を増やそうという意欲が大きく、その結果、知識の習得度も高かった。しかし、一方で、機会があればもっと知識を増やしたいかという事後アンケートでの質問に対して、どちらでもよいという回答が増え、今回の実習で満足した人もいることが分かり、今後の課題として残った。調理実習6ヶ月後のアンケート調査では、自宅で料理をする頻度や加工食品の利用頻度が調理実習以前の状態に戻っている人が多く、継続的な食教育の必要性が示唆された。ただ、6ヶ月経過後も、調理実習で実際に調理した料理をできると答えた人は多く、実習の効果が認められた。 本研究を通して、食物教育プログラムの中に調理実習を取り入れることは、食知識や食への関心を高める効果的な方法であることが明らかになった。さらにこのような意識の変化が、加工食品の利用方法など毎日の食事に好影響を及ぼし、その結果、食事への満足度は高まり、健全な食生活をおくることへの意欲につながることも大い期待された。今後は、このような効果をいかに定着させるかを検討する必要がある。