抄録
【目的】 平成15年4月より新『高等学校学習指導要領』が全面実施の段階に入り、保育領域の充実が図られることになった。新たな教育課程への移行にあたり、高等学校家庭科における保育領域の現状を把握するとともに新課捏の実施に向けて解決すべき課題について明らかにして、今後の保育領域の授業のあり方について検討することを目的とする。
【方法】 現行の教科書の項目等から保育領域に関する項目を作成し、現場の家庭科教員の協力を得て調査票を再考して質問紙法による調査を実施した。調査期間は2002年11月~12月、調査対象者は長野県下の公立および私立高等学校全108校の家庭科教員で、郵送により配布した。配票数304、回収数140、回収率46%であった。
【結果と考察】?家庭科教員像:回答者の99%が女性教員で、教諭(76%)常勤講師(10%)非常勤講師(14%)で、97%は主免許状を有し、家政学部出身者(76%)が教育学部出身者(22%)より多く、家政学部出身者の専攻は食物(47%)被服(39%)で、児童(保育)は4%にすぎない。40歳代(38%)が最も多く30歳代と合わせて2/3を占める。77%は既婚者で67%が子ども有りである。?保育領域の取組の現状:現在扱っている内容は「生命の誕生」「子どもの心身の発達」「青年期」「保育を学ぶ意義」を8割以上の教員が回答し、「保育体験実習」は1割に満たない。?保育領域に対する捉え方:「保育領域の指導は得意だ」(57%)「扱いやすい」(61%)と捉え、「生徒の興味・関心は高い」(81%)と感じているが、「大学で保育について十分に学んだ」(17%)は少数派で「私の知識が足ない」(58%)という自覚があるが、「高校家庭科に保育領域は必要だ」と99%の教員が回答する。?今後も重点を置きたい内容:「子どもの発達を理解する」「子育ては男女が協力して行うことを理解する」等の9項目によって捉えたところ、「命の大切さ」「男女の協力」「子どもを取り巻く環境」「自分の生き方を考える」「親の責任」に対しては「そう思う」「ややそう思う」の回答が合わせて99~95%である。「他者理解」「子どもの発達」は92~88%、「将来の親としての適性」「子どもと触れ合う楽しさの体験」は79~72%で相対的に回答率は低い。?保育体験実習:54%の教員は行ったことがあり、生徒は積極的に取り組んだ(96%)、教育効果は大きい(92%)と捉えているが、準備は大変だ(83%)と思っている。行わない理由は、時間がとれない、生徒数が多く対応できない、近くに保育施設がない等を挙げる。?新課程について:2単位では網羅することができない、削減によって生徒たちにとって魅力のない教科になるのではないかと心配だ、母性保護や生殖・生命の誕生などがカットされ不満、人を中心とした内容になり教員の力が試されるなどの不安や不満が挙げられた。?保育領域についての課題:保育体験実習の実施の困難さを挙げる教員が多い。その他には、さまざまな生育環境の生徒がいるので気を使う、男女ともに親になっていくにもかかわらず性差を感じる、生徒は年々精神的に幼さを増していて自分の生き方として保育を学ぶ意識が低くなっているなどが挙げられた。?「保育領域の指導は得意だ」と他の項目の関連:子ども有り教員の方が、および年齢が高い教員の方が、得意とする傾向が認められた。また、「扱いやすい」「生徒の興味関心は高い」の回答と関連が強く、「保育を学ぶ意義」「子どもの心身の発達」を取りあげる教員が多い。今後も重点を置きたい内容として「子どもと触れ合う楽しさの体験」「子どもの発達」をより多く挙げる。保育体験実習の実施状況との関連は見いだせない。?考察:これらの結果から、新課程に移行後も生殖や生命の誕生を扱いたいという家庭科教員は多い。保育体験実習の実施状況は未だ低調であり、工夫の余地があるようである。「保育領域の指導は得意だ」と回答する教員は「保育を学ぶ意義」を重要と捉えていることから、保育領域の“ねらい”を明確に認識していることがうかがえる。それゆえに生徒の興味関心を引きつけることができるのではないかと思われる。