抄録
<目的>長らく女子のみ必修であった高等学校の家庭科は、1994年度入学生からすべての生徒の必履修教科に、いわゆる男女共修(共学)とされ、それは、「男女共同参画社会の推進を考慮」することが家庭科の改善の基本方針の一つにあげられた2003年度入学生から適用の教育課程へと引き継がれた。つまり高校の家庭科が男女共修となって10年たち(それは中学校の技術・家庭科の履修形態の改訂とも連動している)、高校生などにはもはやそれは当然とみなされている。とはいえ、家庭科とは、家庭で母親や主婦がやるような家事や育児のやり方を学習するものといった一面的な考え方やとらえ方も存在している。中等教育の家庭科が男女共修になった前後の大学生の家庭科の学習状況の比較によって、今後の課題を探る。
<方法>横浜国立大学の教員養成系の学部・課程の学生を対象に、1996年度以来、教職免許状取得のための必修の科目の授業で、一斉自記式記入法で「家庭科に関するアンケート」を実施してきた。そのうち、高等学校で家庭科が、女子のみ必修だった学生(全日制の高校卒業年が1996年3月以前で、中学校の技術・家庭科はいわゆる領域の相互乗り入れで履修した世代。A群とする)と、すべての生徒に必修になった学生(高校卒業年が1997年3月で、技術・家庭科は履修の範囲が「男女同一の取扱いとする」と改訂された中学校学習指導要領の移行措置がとられ、3年生次に実施された世代。B群とする)とを含む1997年度の調査を比較、分析する。分析数はA群が男子112、女子108、B群が男子78、女子106である。
<結果>出身高校の属性〉回答者が卒業した高校の所在地は神奈川県が64(16%)ともっとも多いが、北海道から沖縄県までほぼ全国の都道府県に分布している。設置者は公立84%、私立15%で、共学校が82%、男子校が9%、女子校が8%である。〈家庭科の学習率の比較〉?小学校では、両群の傾向に大きな違いはないので、総数で領域別にみると、食物は85%、被服は83%、住居は20%、家族は16%が学習したとしている。?中等教育で、「家庭科は学習しなかった」という男子は、A群は中学校で34%、高校では94%にのぼるが、B群になると中学校、高校ともわずか2人(3)%となる。「覚えていない」という男子もA群は中学校で21%、高校で13%いるが、B群は中学校で13%、高校で3%に低下する。男子が学習した記憶のある領域は、中学校では、A群は食物45%、被服16%、住居7%、保育3%、家族2%、B群は食物78%、被服71%、住居37%、保育31%、家族30%である。高校のB群は、食物90%、被服78%、住居41%、保育39%、家族47%である。女子はA群、B群とも、中学校でも高校でも、80%から90%以上が食物と被服を学習したといっている。保育はA群が中、高とも40%台、住居は30%台、家族は中で24%、高で41%であったが、B群になると保育は中、高とも60%台、住居は40%台、家族は中で41%、高で60%に、それぞれ上がる。?以上のように、初等・中等教育を通して、家庭科では圧倒的に食物と被服の内容が学習されているが、中等教育では、共修になることによって、その他の保育、家族、住居などについて学習したというものが多くなる。〈学習した内容〉各領域で学習した内容は、学校段階、比較群や性別に関わらず、食物では調理実習、被服の小ではエプロン作りなど、中ではパジャマ作り、エプロン作りなど、高ではスカート作り、エプロン作りなど、画一的な傾向がみられる。〈まとめと課題〉女子の方が男子より、どの学校段階でも家庭科で学習したことを記憶している、家庭科を学習してよかったと思うものも女子の方が男子より多い、など、家庭科の学習に対する学生の意識には性別による差がみられる。女子教育的であった伝統的な家庭科の性格をどうとらえ、どう再構築していくか、課題である。