日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第48回日本家庭科教育学会大会
セッションID: 3
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第48回大会 口頭発表
地域教材(琉球絣)を生かした中学校家庭科教育実践
ー4つの動機づけの視点からー
*富士栄 登美子
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抄録

<目的>
 亜熱帯性気候で育った素材・色・形から、沖縄の独自の文化を生み出し、美への追究の意志が琉球の絣文化と美を成立させた。現在、沖縄で琉球絣の生産量の90%以上を占めている南風原町は、沖縄島の南部に位置している。町役場ができた1998年頃に製作された琉球絣のタペストリーが、役場の各受付の柱に掛けられ、絣は人々の生活の中に自然に美しくとけ込んでいる。
 同町では、児童・生徒に対する伝統工芸品教育事業も始まっている。そのひとつとして中学校では、2001年から職場体験実習を行っており、琉球絣の製作実習体験もあった。また、同町の南星中学校の制服の襟に絣の刺繍がなされ、学校の玄関の広場には、絣の布片がパネルになって80枚程展示され、 「絣の広場」と呼ばれている。しかし、大学院生による同校での授業実践の観察を通して、同校生の意識の中に絣の存在は薄いように感じられた。以上の経験を踏まえ、琉球絣を題材にした家庭科の教育実践の必要性を感じ、沖縄の中学校で琉球絣の授業を実践した。本研究は、教育実践の中で、地域の琉球絣について生徒たちの知識や関心がどの程度高まったかを、生徒たちの反応と4つの動機づけから分析することを目的とする。
<方法>
 2003年12月12日(金) 、南風原町の隣町である与那原町の与那原中学校での「選択家庭」の時間に、3年生女子20名(3名欠席)の授業を実施した。
[導入]:琉球舞踊衣裳の実物を提示しながら入っていった。
[展開(動機づけ)]:
(1)日本本土へ絣を伝えたのは沖縄であること(初期的動機づけ)。
(2)絣の歴史を調べ、琉球絣の美しさはどこからくるのか、本土の絣と何がちがうのかを知る(知識的動機づけ)。
(3)絣の図柄の意味を知る(知識的動機づけ)。
(4)絣の図柄は、風土や文化から生まれたものであること(行動的動機づけ)。
(5)沖縄に住んでいる生徒が沖縄の文化に触れること、知ることの大切さを伝える(意識的動機づけ)。
<結果>
 授業の展開(1)から(5)の中での動機づけと教育実践を行った後の生徒たちの反応は以下のとおりである。
(1)初期的動機づけ・・・「本土に絣を伝えたのが沖縄というのがすごかった。」
(2)(3)知識的動機づけ・・・「沖縄出身の絣なので、もっと知りたい。」 「沖縄に住んでいるのに知らなかったけれど、わかるようになった。」「生活の道具までが模様になると知ってびっくりした。」 「絣柄は、生活の中から出ていることを知った。一番気に入ったのは、ミジフム(水雲)で綺麗だと思う。」
(4)行動的動機づけ・・・「昔の琉球の生活の中から出てきた絣柄はどれも素敵だと思ったし、伝えていきたい素晴らしい文化だと思った。」「これから、いろいろな琉球の伝統に触れていきたい。」
(5)意識的動機づけ・・・「沖縄には、このような綺麗な絣がたくさんあるので誇りに思う。」
  各動機づけの教育実践によって、実践前は「見たことはある」程度であった琉球絣の知識や関心度は一定程度高まった。ただし、導入部での舞踊衣裳の実物提示は、初期的動機づけには効果があったが、行動的動機づけへとつなげるためには、中学生にとって、より身近な物の実物提示の方がよかったと考える。
  尚、本研究は、平和中島財団国際学術研究助成・外国人研究者招致等助成金(2002年度)の援助を受けたことを申し添えます。

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© 2005 日本家庭科教育学会
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