日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第48回日本家庭科教育学会大会
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第48回大会 口頭発表
  • 松尾 美江, 滝山 桂子, 佐藤 洋美
    セッションID: 1
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    [目的]生活の選択肢が多様化している中で、人々は自分らしい生活を実現するために生活システムを構築する必要性が増大している。ここで、生活システムを「生活主体が自分の生活に関する課題を解決するために、資源・情報を選択し自分なりに構築する生活のまとまり」とする。衣生活に関する生活システムを衣生活システムとする。自立と依存の間にある中学生が衣生活学習に主体的に取り組むために衣生活システムの概念を導入することは意義があると考えられる。衣生活において、生活主体は、個人の生活価値に則り、衣生活行動の中の着用・手入れなどの諸要素に、選好順位をつけながら、日々の生活の中で自己情報を入手し、保有し、構築している。自己情報とは、情報を受容する生活主体の側からとらえた概念である。また、学習者が関心を高める教材の一つとしてマルチメデイア教材がある。これは、情報の双方向性、ファイル交換、コンパクト性、カラフルな色彩、音声などの特徴をもつ。マルチメディア教材は、リンクさせることにより、衣生活行動の要素相互間における関係性の認識を明確にし、強調することができる。そのため、総合的な性格をもつ家庭科の教材として適切である。そこで、本研究は、中学生が衣生活学習に関心を高めることをねらいとして、衣生活システムの概念を導入したマルチメデイア教材を開発することを目的とする。この教材を用いた授業研究に資する。
    [方法]本教材の開発に使用したソフトは「プレゼンテーション作成ソフトKiT97」である。マウスで適所をクリックすると次の画面へ進んでいくため、パソコン操作が苦手な生徒にも容易に対応できる。 衣生活行動の要素に関する先行研究として、大村が述べている衣生活の活動や行動(調達・着装・手入れ・保管・処分)、石黒がかかげている衣生活を構成する7つのイベント(計画・入手・保管・着用・洗濯・廃棄・譲渡)を参考にした。これらと、中学校技術・家庭科(家庭分野)の教科書の2社中1社の記述と対応させて、1)入手 2)着用 3)手入れ 4)保管 5)処分を取り上げた。また、中学生が積極的に情報を選ぶという意味で重要な、情報選択の特性を5つ取り上げた。先行研究から、経験性、アドバイス性、関心性、ネットワーク性、評価性とした。
    [結果]マルチメディア教材は次の3点をふまえて作成した。1)衣生活行動の要素を認識する契機になる教材であること、2)マルチメディア教材の使用者である生徒自身が、自分自身の衣生活の実態を知り、衣生活に興味・関心を抱くようはたらきかける教材であること、3)2)を踏まえ、衣生活にかかわる自己情報の構築につながることに寄与する教材であること、である。 衣生活行動の諸要素に沿って、自分の衣生活の問題点を理解し、フィードバックすることが可能な教材とした。即ち、衣生活の計画・衣服の入手・着用・手入れ・保管・処分の諸要素を取り上げ、生徒が自分の衣生活の問題点を理解する支援を行う構成とした。 本教材は、衣生活行動の5要素と情報選択の特性を組み合わせた項目を用いた衣生活診断を主とする「イセイカツ惑星」および「この表示チェックするときどんなとき」からなっている。前者はさらに、1)ツナガール国登場Tシャツ紹介、2)イセイカツ惑星ツナガール国~ある日のできごと~、3)あなたのイセイカツ惑星にはどんな住人がいますか~イセイカツの問題を探ろう!~、から構成されている。衣生活診断では64タイプの判定結果を設定し、衣生活に対する関心分野を生徒自身が自覚することを目的としており、衣生活学習の導入部で活用することを意図して作成した。 
    本教材を用いた中学生対象の授業研究を実施したが、別の機会に報告する予定である。
  • 着衣形態および着用能力を中心として
    福田 典子
    セッションID: 2
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    【目的】 児童・生徒の基本的生活習慣自立年齢の遅滞や生活技術・技能の低下が教師によって多く指摘されている。被服の着用能力は様々な生活場面で要求され,年齢とともに発達し,自立するものと考えられ,人間の着用自立は着用者の精神的な自立を促し,自信につながるという指摘もある。そして,児童の心身の成長に大きな影響を与えることが近年注目されている。着用行動の自立やその指導に関しては,一般にこれまで就学前の子どもに注目されることが多く,主に一人で着衣を纏うという段階にとどまっていた。纏う行動に関してはボタンかけ技能や着脱技能についていくつか報告されている。しかしながら,狭義の着用能力が発達した後に,さらに高度な着用能力は向上し,整え技能も含めて美しくきちんと整えて着衣を纏う能力や環境や活動内容に適応させながら,着脱をしたり,着衣を変化させたりする能力という広義の段階に進むものと予想される。この広義の高度な着用能力に注目し,その実態を報告されたものはほとんど見当たらない。さらに,小学校低学年児童を対象とした着用実態について詳細な現状を明らかにされたものも見当たらない。小学校5・6年家庭科衣生活領域の被服の着用指導に関して,子どもたちの実態に対応した指導内容や指導方法を検討する基礎資料を得ることを目的とし,低学年および中学年児童の着用実態を明らかにしたいと考えた。そこで,本研究では,まず低学年のうち,いまだ着用技能の未熟な状態と予想される1学年児童を対象として,その着衣形態の特徴および着用能力の実態について明らかにすることを目的とした。
    【方法】 着衣形態と着衣の乱れについては,公立小学校4校の第1学年(6歳~7歳),4クラス140名(男児67名,女児73名)を対象とした観察調査を行った。調査は2000年6月から7月に行い,観察時間は概ね14時から15時ころの帰りの会で,約15分間とした。観察教室はそれぞれの所属学級教室とし,観察時の教室における平均気温は30.6℃,平均湿度は39.4%であった。観察は成人女子4名が教室の4箇所に立ち,児童1名づつの着衣形態を記録紙に記入した。主な観察項目は服種,あきの有無・位置,着衣の乱れ部位であった。 着用能力については,公立小学校28校の第1学年担当教諭を対象とした郵送による配票調査を行なった。調査期間は1999年10月であった。有効回答数は108名で,有効回収率は92.3%であった。児童の問題着用行動に関する観察頻度について,よくみかける5点,ときどきみかける3点,ほとんど見かけない1点の5段階択一式で回答を得た。主な調査項目は,1) 正しく着衣を身につけることができない行動 2) 環境や活動に応じて着衣を調節できない行動 3) 身体寸法に合った着衣を選択できない行動 4) 脱いだ着衣を管理できない行動の4項目とした。
    【結果】 着衣形態については,主に上衣と下衣に分けて分析した。上衣は67%がTシャツであり,最も多く着用されていた。続いて,ポロシャツ,タンクトップであった。このことから,ニット素材で伸縮性の大きい服種を上衣として着用している傾向が明らかとなった。上衣のあきについては,服種と関連して,着衣にあきがなく着脱の際にあきの開閉不要な着衣が全体の79%であり,ほとんど手や指の操作なしに着衣している傾向がうかがえた。あきのある着衣の場合,そのほとんどは前身頃・部分開き・ボタン留めであることがわかった。下衣は75%がズボンであり,最も多く着用されていた。このことから,下衣として,女児もその運動し易さが支持されて,スカートよりもズボンを着用している傾向が明らかとなった。下衣のあきについても,ウエスト部は伸縮性の高いゴム構造で,上衣と同様に,着脱の際にあきの開閉不要な着衣が全体の62%であった。あき部のある着衣の場合,そのほとんどは前身頃・ファスナー留めであることがわかった。着衣の乱れについては,下着のはみ出しが25%の児童で観察された。はみ出しは襟部と上衣裾部に多く観察され,はみ出しが観察された児童の14%はその両方部位に,61%は襟部に観察された。上衣の乱れは裾部に最も多く観察された。裾部の乱れが観察された児童の64%は後ろ身頃部位であった。 着用能力については,各問題行動項目の平均得点を算出したところ,_正しい着装に関しては「紐がほどけたまま」3.6点,「ねじれたまま」3.1点,となりこれらの問題着用行動の観察頻度が大であることがわかった。さらに,脱衣に関しては「たためない」3.2点,「脱ぎ散らかしたまま」3.1点となり,脱衣の管理能力不足行動も観察頻度が大であることがわかった。
  • ー4つの動機づけの視点からー
    富士栄 登美子
    セッションID: 3
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    <目的>
     亜熱帯性気候で育った素材・色・形から、沖縄の独自の文化を生み出し、美への追究の意志が琉球の絣文化と美を成立させた。現在、沖縄で琉球絣の生産量の90%以上を占めている南風原町は、沖縄島の南部に位置している。町役場ができた1998年頃に製作された琉球絣のタペストリーが、役場の各受付の柱に掛けられ、絣は人々の生活の中に自然に美しくとけ込んでいる。
     同町では、児童・生徒に対する伝統工芸品教育事業も始まっている。そのひとつとして中学校では、2001年から職場体験実習を行っており、琉球絣の製作実習体験もあった。また、同町の南星中学校の制服の襟に絣の刺繍がなされ、学校の玄関の広場には、絣の布片がパネルになって80枚程展示され、 「絣の広場」と呼ばれている。しかし、大学院生による同校での授業実践の観察を通して、同校生の意識の中に絣の存在は薄いように感じられた。以上の経験を踏まえ、琉球絣を題材にした家庭科の教育実践の必要性を感じ、沖縄の中学校で琉球絣の授業を実践した。本研究は、教育実践の中で、地域の琉球絣について生徒たちの知識や関心がどの程度高まったかを、生徒たちの反応と4つの動機づけから分析することを目的とする。
    <方法>
     2003年12月12日(金) 、南風原町の隣町である与那原町の与那原中学校での「選択家庭」の時間に、3年生女子20名(3名欠席)の授業を実施した。
    [導入]:琉球舞踊衣裳の実物を提示しながら入っていった。
    [展開(動機づけ)]:
    (1)日本本土へ絣を伝えたのは沖縄であること(初期的動機づけ)。
    (2)絣の歴史を調べ、琉球絣の美しさはどこからくるのか、本土の絣と何がちがうのかを知る(知識的動機づけ)。
    (3)絣の図柄の意味を知る(知識的動機づけ)。
    (4)絣の図柄は、風土や文化から生まれたものであること(行動的動機づけ)。
    (5)沖縄に住んでいる生徒が沖縄の文化に触れること、知ることの大切さを伝える(意識的動機づけ)。
    <結果>
     授業の展開(1)から(5)の中での動機づけと教育実践を行った後の生徒たちの反応は以下のとおりである。
    (1)初期的動機づけ・・・「本土に絣を伝えたのが沖縄というのがすごかった。」
    (2)(3)知識的動機づけ・・・「沖縄出身の絣なので、もっと知りたい。」 「沖縄に住んでいるのに知らなかったけれど、わかるようになった。」「生活の道具までが模様になると知ってびっくりした。」 「絣柄は、生活の中から出ていることを知った。一番気に入ったのは、ミジフム(水雲)で綺麗だと思う。」
    (4)行動的動機づけ・・・「昔の琉球の生活の中から出てきた絣柄はどれも素敵だと思ったし、伝えていきたい素晴らしい文化だと思った。」「これから、いろいろな琉球の伝統に触れていきたい。」
    (5)意識的動機づけ・・・「沖縄には、このような綺麗な絣がたくさんあるので誇りに思う。」
      各動機づけの教育実践によって、実践前は「見たことはある」程度であった琉球絣の知識や関心度は一定程度高まった。ただし、導入部での舞踊衣裳の実物提示は、初期的動機づけには効果があったが、行動的動機づけへとつなげるためには、中学生にとって、より身近な物の実物提示の方がよかったと考える。
      尚、本研究は、平和中島財団国際学術研究助成・外国人研究者招致等助成金(2002年度)の援助を受けたことを申し添えます。
  • 高等学校でのマフラーづくりの授業観察を通して
    中屋 紀子
    セッションID: 4
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    <研究目的>本研究は着るものを製作する授業(被服実習を通して学ぶことが多い)の課題を実際の授業観察を通して明らかにすることを目的とする。特に、「被服製作」の「技能」の伝達に注目して検討したい。生徒の学ぶ意欲や、性差による取り組みの違いについての報告はあるが、「技能」の伝達についての詳細を分析したものは少ない。観察ができたのは、高等学校家庭科マフラーづくりを題材とする編み物の授業であった。
    <研究対象及び方法>観察対象は宮城県立古川高等学校家庭一般(4単位)、2年4組男子38名の授業である。授業者は相沢由貴教諭である。極太の毛糸を用いた二目ゴム編みのマフラーを17時間かけて製作することを題材としたものである。2002年10月22日から2003年1月21日までの間、毎週、火曜日4校時11:45~12:35、金曜日2校時9:45~10:35の授業時間帯である。記録は、複数のハンディタイプのビデオカメラを用いた。その記録を用いて、個人指導ではなく、学級指導での技能の伝達方法を明らかにし、課題を明確にする。
    <結果と考察> 観察結果、以下の特徴が明らかになった。(1)生徒の学習意欲を引き出せるような製作題材であった。対象校は男子校であり、男子のみの授業で、着るものを作る題材は難しいが、このマフラー作りは教師の工夫もありあり、生徒からの抵抗は少ないように見受けられた。(2)良好な学習規律のもとで、学習が進められていた。(3)生徒の進度にあわせた教師の指導もよくいき届いていた。しかし、(4)編む技能の指導でいくつかのの課題が明らかになった。編み物の初心者として、生徒がぶつかるつまづきを教師は十分につかんでいるとはいえなかった。1) 最も大きいつまづきは、編み棒から目がはずれるという「恐怖心」(可能性に対するおそれ)である。目を外さないために、作り目に針を差し込む時に生徒は針先をめいっぱいに差し込んでしまいがちである。そうすると、次に必要な針の動かし方が難しくなる。2) それを避けるためには、まず、作り目の作りの方法を変える必要がある。3) 安心して作った目に針を差し込むことが次に必要になるが、そのとき、差し込んだ針を差し込む右手を上手に動かして、針の下に置いた毛糸をひっかけつつ方向転換して作り目の中に糸を通してやることが必要となる。その方法をスムーズにするためには図を変えなければならない。4) しかも、針先を余り出さずに編むことが必要となる。5) たしかに、熟練すると本授業で用いられた方法の方が早く作業ができると思われる。しかし、生徒のつまづきを考えると、作り目のあと、作り目に針を十分に入れ、安定させてから、右手で針に糸をひっかけて、その掛けた糸を作り目の中を通す方法の方が、目をはずす可能性は低く、初心者にはこの方法の方がより早く安全に(目を外さないで)できるようになると考えられた。実技試験では、検討する記録がなかった1名を除く37名中、8名がこの方法を用いていた。彼らは学校の授業に途中で落ちこぼれ、家庭で習ってできるようになったと考えられた。  
    最後に、教師は進度の異なる生徒達に、進度に応じて、柔軟な指導を行っていたが、いっせい授業での指導方法について、さらに、教材研究が必要であると考えられた。例えば、授業に先立って教師の示範をビデオで撮影しておき、それを「コマ送り」や「遅い速度で再生」して示し、それを見て同時に、いっせいに生徒に真似させるなどの工夫が必要ではないかと考えられた。 以上のような工夫があれば、大幅な授業時間短縮が可能となる。そうすると、この題材の普及にも役立つのではなかろうか。
  • -ロンドンおよびパリ日本人学校の事例をもとに-
    池崎 喜美恵
    セッションID: 5
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    【目的】 ヨーロッパ圏には、21校の日本人学校が設置され、アジア圏についで多くの児童・生徒が通学している。日本人学校は海外生活をしている児童・生徒の重要な教育機関であり、在外教育施設として多様な教育を展開している。 本研究では、イギリスとフランスに設置されている日本人学校の児童・生徒の家庭科学習の現状や課題を明らかにし、日本人学校の家庭科指導に資することを意図した。
    【方法】 2004年10月にロンドンおよびパリ日本人学校の協力を得て、小学部および中学部の家庭科や技術・家庭科の授業を参観した。また、家庭科担当教師から家庭科指導の現状や問題点についてヒアリングした。さらに、2004年10月_から_11月にかけて、2校の児童・生徒を対象に海外生活の実態や家庭科学習に関する意識調査を実施した。 調査の概要は、海外生活の態様、家庭科および技術・家庭科の学習の現状、家庭科観などについてである。169名(小学部78名、中学部91名)の児童・生徒の回答を分析し、特質を明らかにした。
    【結果および考察】
    1. 親に帯同して海外生活を送ることに対し、約55%の児童・生徒が消極的であった。また、海外生活、特に言葉に対する不安感を抱いているものが多かった。
    2. 家の手伝いの遂行率は、全体的には低率であるが、「食事の後かたづけ」や「自分の部屋の掃除」などを約半数の児童・生徒が実践していた。学校種や性別により有意差が認められ、中学部の生徒の実践率がやや高い傾向が示された。
    3. 海外生活に対する満足感を大変満足から大変不満の5段階で評定したところ、「家族のつながり」の平均値は3.87(SD 0.99)で最も満足感が高く、海外で生活することによる家族の凝集性の強まりがみられた。次いで、「住生活」の平均値は3.84(SD 1.15)で、異文化体験による住空間や住まい方への関心の高まりが表出されていた。
    4. 小学部の児童は、家庭科を毎日の生活に役立つ、生活に関連の深い、技術を学習する教科であるととらえていた。一方、中学部の生徒は、家庭科を男女共に学習し、生活に関連の深い、生活に役立つ教科であるととらえていた。学校種により、教科観に特質がみられた。また、海外生活経験と家庭科学習の有用性意識や家庭における実践率は低かった。
    5. 日本人学校では、設置国独自のカリキュラムを作成し、現地の小・中学校との交流を図っていた。例えば、現地の児童・生徒たちと調理をしながら、生活習慣や考え方の違いに対する理解を深めるなど積極的に展開していた。
    6. 児童・生徒は家庭科の実習に対する興味・関心を高く表明していた。本研究で対象とした2校の家庭科関連の施設・設備の充足状況は良好であった。しかし、調理実習における電熱器使用時の指導上の配慮など、現場サイドでなければ理解できない課題が指摘された。
  • 野原 慎太郎, 鈴木 敏子
    セッションID: 6
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    【目的】ベネッセ教育研究所(1998)の高校生の教科観の調査によると、家庭科は、普通教科8教科の中で、「好きな教科」「得意な教科」「苦手な教科」「楽しい教科」の項目において最下位であった。家庭科は印象が薄い教科であることがわかる。ところで鈴木(2004)は、高等学校の家庭科が男女共修になる前と後の学生の家庭科の学習状況や意識を比較し、男女共修後においても家庭科はなお女子教育的な性格を有していることを明らかにし、再構築の必要性があることを提起した。そこで本研究では、さらに学生が初等中等教育で家庭科をどのように学習してきたか、そのことを他教科と比較してどのようにとらえているか、どのような学習観をもっているかといった点について明らかにし、家庭科教育の課題と家庭科のカリキュラムや授業をつくっていく視点を見出すことを目的とする。
    【方法】横浜国立大学教育人間科学部学校教育課程で1年生対象に開講されている「家庭科概説」の2004年10月5日(1)と2005年1月11日(2)の授業で、一斉自記式記入法で「家庭科の授業に関するアンケート」を実施した。分析数は、(1)が121票(男子50、女子71)、(2)が109票(男子46、女子63)である。
    【結果】
    (1)家庭科の学習の実際
    家庭科の授業で学習したことを記入してもらったところ、どの学校段階においても1位は「食物」、2位は「被服」の領域であった。ここに記入された内容の大半は、実習に関するものであった。また、女子の方が男子より学習内容を記憶しているという性差もみられた。
    (2)他教科と比較した家庭科の授業の特徴
    授業態度について家庭科と他教科で比較すると、家庭科では、他の教科の勉強をする(50%)、ボーッと他のことを考えている(46%)、いねむりをする(44%)、おしゃべりをする(42%)などが他教科よりも多く、黒板に書かれたことをノートに書く、わからないところは後で先生に聞くなどはいずれも1%と少なかった。
    学校現場や世間一般で家庭科が重視されていると思わない者は、それぞれ9割、8割であった。また、自分自身は家庭科を重視してきたと「思わない」が16%、「あまり思わない」が66%であった。その理由は、受験教科でないから(81%)が最も多く、既に知っていることやできることを繰り返しているからが23%、以下、小学校から同じことをしている気がするから、興味がわかないから、知的な刺激が少ないから、学習しなくても家庭生活は送れるからと続く。
    他教科と比較すると家庭科では、役に立つこと(79%)、楽しい雰囲気(76%)などを家庭科で感じることは多いが、深く考えること、授業へのモチベーション、授業後に授業に関連した本を読むこと、学習の歯ごたえなどを感じることは少ないようである。
    (3)家庭科の可能性
    家庭科を「好き」とする割合は、小学校の時で87%、高校生の時では72%とその割合は低下しているが、全体としては好まれている教科といえる。また、66%が学校教育の一教科として家庭科が「必要」とし、31%が「やや必要」ととらえていた。さらに、学生たちは受験勉強だけを自分にとって意味のある学習とは考えておらず、家庭科から生徒に学びを保障していく可能性があることを示唆している。
    【引用文献】
    ベネッセ教育研究所、1998、モノグラフ・高校生、54
    鈴木敏子、2004、家政教育における男女共同参画社会形成の課題-家庭科教育の実情から-、丹羽雅子、循環型・共同参画型社会をめざすライフスタイルのあり方に関する研究、203-214
  • 柴 静子
    セッションID: 7
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    [研究目的と方法]
    1947年4月、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)の民間情報教育局(CIE)の指導と示唆を得ながら、文部省は新しい教科である家庭科を高等学校に設置することとした。それから50余年、その歩みを辿ると、基本的には女子用教科として設けられた教科の男子への解禁の歴史であり、また、7単位もしくは14単位を履修させるものとして「一般家庭」を最大として、次第に単位が縮小する歴史であった。
     今日の高等学校家庭科教育は、生活をよりよきものに改善する意欲と実践的な態度の育成を目指すという教科理念とホームプロジェクトに代表される課題解決を中心とする指導方法を継承している。このことから、占領期における家庭科の成立過程や教育政策の実際と評価について実証的に明らかにすることは、現在及び将来のあり方を考える上で欠かせない課題となる。
    高等学校家庭科の成立過程については、筆者が長年手がけてきたことであり、細部がかなり明らかになったが、教育政策の評価については、「産業教育の現状と課題」(文部省初等中等教育局職業教育課)やGHQ文書中の日本教育改革の進展に関する各種報告書などに頼らざるを得なかった。高導学校家庭科の成立過程については,筆者が長年手掛けてきたことであり,細部がかなり明らかになったが,政策の評価に関しては,次のような不十分な資料に頼らざるを得なかった。
    ?「産業教育の現状と課題」(文部省初等中等教育局職業教育課:1952)
    ?CIEの家政教育官ウィリアムソンによる家庭科教育進展の報告書
    ?CIEが発行した米国側報告書に記された家庭科教育の進展状況
    ?中等教育研究集会の報告書に見られる評価(1949-1953)
    ?「高等学校家庭科の問題点とその対策」(北海遺立教育研究所:1955)
    不十分ながらこれら各種の評価を重ねて見ると,CIEと文部省による当初の家庭科教育振興政策は,生徒の個人的な発達を促すことのみならず,日本の生活改善を家庭科を通して実行するという大きな祉会的使命を併せもつものであり,その方面の貢献は大きいものてあったこと,だが,占領解除前後に,家庭科は女子全員が学ぶべき教科であるとの固定観念に基づく女子必修化論が台頭してくるなと,占領教育政策に対する批判が生じてきたことが明らかになった。
    本研究は、占領期の高等学校家庭科教育政策がどのような意義をもち、いかなる役割を果たしたのかという点について、地方に現存する「産業教育総合計画」などを新資料として加えながら、実証的に考察することを目的としたものである。
    結果
    (1)1951年6月11日に制定公布されたY業教育振興法」を受けて都道府県はY業教育総合計画・B計画の策定に当たっては,産業や教育の現況を適確に把握し,諸問題についての対策を具体化することに重点を置いた。それゆえ占領期の家庭科教育政策の地方における成否を窺うことのできる史料である。
    (2)「福岡県産業教育総合計画」(1955)には,普通課程をもつ高等学校(全日制)74校中60校に家庭科を設置しているが,扱いに苦心しているのが「一般家庭」であり,内容が広いこと,僅か7単位で家庭生活全般の基礎となるべきものを学習させ,その上生活から遊離しないように実験実習を通して具体的に学習をさせなければならないことが問題点として指摘されている。更には家庭科を全然履修しない女子が27%いることも問題とされている。
    (3)「香川県産業教育総合計画」(1953)には,生活改善の先頭に立つ家庭科教員に対して現職教育が必要であることが謳われ,ワークショップ,専門教科講習,内地留学,各種機関への個人的参加の実数が記されて,これらの効果を認めている。
    以上のように「産業教育総合計画」から,CIEと文部省が策定した家庭科教育政策が地方でどのように展開し,また問題を生み出すことになったのかを窺うことができ,占領期を評価する手がかりとなる。
  • -短大生を対象とした授業実践を通して-
    安藤 美紀子
    セッションID: 8
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 日本家庭科教育学会誌47巻4号で記述した「高等学校家庭科におけるホームプロジェクト(以下HPと表記する)学習の課題」で問題点を抽出した。
     そこで本研究では家庭科の教師を目指して、教職課程を履修している短大生10名にHP学習を実施させ、生徒としての立場と教師としての立場からHP学習の授業を分析し、より効果のあるHP学習の指導法を明らかにすることを目的とした。
    [方法] 以下のような指導法を工夫した授業を実施した。
    (1)全国高等学校家庭クラブ連盟編集のHPガイド&ワークブックに従ってHPの説明をした、HP実施前の意識調査をした(5月17日 85分)。
    (2)全国高等学校家庭クラブ研究発表大会集録から抜粋して、食生活(5月31日 20分)、衣生活(6月14日 20分)、住生活(6月14日 20分)、保育(7月5日 20分)、家族・家庭生活(7月5日 20分)、消費と環境(7月5日 20分)のHPを参考資料として配布し、説明した。
    (3)テーマを決定させ、計画を立てさせた。(7月5日 25分)
    (4)2003年の全国高等学校家庭クラブ研究発表大会HPのビデオを視聴し感想を書かせた(6月28日 85分)。1996年のビデオも見せ2003年と比較させた。また夏休み実施にあたり4項目の注意事項を説明した(7月12日 85分)。
    (5)夏休み(7月24日~9月14日)にHPを実施するにあたり、メールで途中2回(8月10日、8月30日)経過報告をさせた。
    (6)クラスでHP発表会をし、相互評価・教師の評価をし、実施記録・作品・写真等を提出させた、HP実施後の意識調査をした(9月27日 85分、10月4日 60分)。
    [結果及び考察]
    (1)教師がHPの計画時に食育と環境問題、少子・高齢化問題の重要性を強調した結果、HPの題目が「エコクッキング」「朝食を食べよう」「夏ばて予防」等の食生活に関する内容が最も多く、次に「リメイクとリサイクル」等の衣生活、「リサイクルおもちゃ作り」の保育に関する内容が見られた。
    (2) 教師が夏休みの実施中に2回以上のメールや電話で学生を励ましたり、元気付けたり、急がせたりしたことはHPを完成させるのに効果的だった。
    (3) 地域や社会に働きかけるビデオと働きかけないビデオを見せ比較させた結果、地域の保育園で子どもたちに自分の作ったおもちゃで遊ばせてよい評価を得た学生、地域の料理を韓国の友達に紹介した学生、学童保育でリメイクした作品を使用してもらった学生等地域や社会に働きかける姿勢が見られた。
    (4)実施前に家族の協力を得て実施し、家族に評価を書いてもらうことを義務付けた結果、家族から我が家の味、地域の食品や調理法を使った料理、その家に伝わる家具のリサイクル等を家族の協力を得ながら仕上げていた。
    (5)教師が発表の機会を多くするため、夏休みの実施中にメールで経過報告をさせる、授業時間を十分とってクラスで発表させる、また保育園・学童保育・韓国の友達等に発表をさせた結果、学生はそれらの評価を参考にしてよりよいHPになるよう工夫した。
    (6)学生にHP実施前と実施後に行った意識調査では、実施後にHPに対する関心が深まり、実施に対する積極的な姿勢が見られた。また学生が将来教師になった時、家庭へHPの協力依頼をする、自分が実施したHPの経験を生かし計画的に実施させる、実施中に教師が途中でアドバイスし実践面を充実させる、段階を踏んでレベルアップしたHPを実施する等、HP実施に意欲的である。
  • 多田 福子, 長澤 由喜子
    セッションID: 9
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    【目的】ジェンダーは,社会的・文化的に創られたものであるがゆえに根強く,男女の生き方を歪め男女平等の権利を奪うものとして存在する。本研究は,青年期の発達課題の一つとしてジェンダーとかかわる課題に着目し,男女の生き方教育として両性の社会的役割認知を適切に教育課程に位置づけるための手がかりとすべく,青年期におけるジェンダーの形成プロセスの一端を構造的に捉えることを目的とするものである。家庭科教育において男女協力のもとに家庭建設をすすめ,男女の生き方教育支援としてジェンダー教育が取り込まれているが,授業実践を通して意識が変容した事実を取り上げる報告は多いものの,効果的な授業の方略に関する理論的根拠が示されていない。これらのことから,本研究では高校生を対象とし,共分散構造分析を用いて男女のジェンダー・アイデンティティ形成に関わる諸要因間のつながりを構造的に捉えることを通し,両性の社会的役割認知に効果的な授業の方略に関する説明的な手がかりを得たいと考えた。
    【方法】本研究では,「ジェンダー・アイデンティティ」の形成要因として「ジェンダー・スキーマ」および「成育環境」に着目し,これらの抽象的概念間の因果関係の分析手段としてAMOSによる共分散構造分析を用いた。潜在変数「ジェンダー・スキーマ」については性役割観に関する8項目,同様に「成育環境」に関しては家庭・学校・友人・メディアの4項目を観測変数として仮説モデルを作成し,仮説モデルの検証を通して形成要因間の影響分析を行った。12項目の観測変数データを得るための自記式質問紙による調査は,岩手県立M高等学校1学年を対象とし,2004年4月に実施した。得られた有効サンプル数は男子142名,女子133名,計275名である。なお,「ジェンダー・スキーマ」の形成要因としての性役割観に関しては,伊藤裕子によるMHFスケール30項目を用いた。
    【結果】AMOSの試行に先立ち,各観測変数に関する分析を通して各観測変数を構成する項目の吟味を行った結果,MHF項目は各6項目に絞り込まれた。また男女による違いが著しいことから男女別にモデルの検証を行った。仮説モデルに基づく男女別の共分散構造分析結果,3タイプの有効な修正モデルが得られたが,適合度を指標とする最も信頼度の高い修正モデルは男女で異なった。それぞれの修正モデル作成のプロセスにおいて得られた結果は以下のように要約される。
     (1)「成育環境」が「ジェンダー・スキーマ」の形成に及ぼす影響は女子に比較して男子の方が著しく大きかった。
     (2)「成育環境」に関しては男女ともに「友人」による影響が最も大きく,さらに「学校」および「家庭」より「メディア」による影響が大きかったが,女子では「友人」による影響が突出して大きくなっていた。
     (3)「成育環境」の「家庭」と「学校」の間には男女ともに関連性が認められた。すなわち家庭と学校における性役割行動は互いに強化しあう関係にあり,男子の場合は_丸1_の関係を介してジェンダー・スキーマ形成に直接影響すると考えられる。
     (4)「ジェンダー・スキーマ」の形成に関しては,男子では「男性にとっての男性性」および「女性にとっての女性性」による影響が大きくなっていた。一方女子では「人間性」の影響力が大きく,いずれのモデルにおいても男子の場合の人間性の影響を上回る傾向が認められた。また「女性にとっての男性性」は女子では「女性にとっての女性性」の影響を上回り,男子における影響も小さくないことから,男女ともに旧来の男性性を女性が備えることを肯定的に受け止めた性役割観が形成されつつあると推察される。
     (5) 女子の最良モデルでは,「ジェンダー・スキーマ」における「女にとって重要な人間性」と,「男性にとっての男性性」および「成育環境」の「家庭」との間に相関が認められ,そのパス係数がいずれもマイナスを示した。この結果は,家庭内で頻繁に性役割行動が繰り返された場合,あるいは「男性にとって重要な男性性」にかかわる性役割観が強く認識されている場合,「女性にとって重要と考える人間性」の概念が育ちにくい事実を示している。
     (6) 男子の場合には自己概念の形成過程とジェンダー・スキーマ形成が深くかかわっている傾向が認められた。
     今後,これまでのジェンダーにかかわる授業実践報告を取り上げ,同世代間交流,メディア情報の利用,男女による影響構造の違いの位置づけなどを視点として本研究による知見の説明力を検証したいと考える。
  • -高等学校「家庭総合」におけるFlour Baby Project の実践と検討-
    佐藤 ゆかり, 三浦 聖子, 佐藤 園
    セッションID: 10
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    <目的> 本継続研究の目的は、保育学習において、全ての生徒が乳幼児との関わりを経験する中で自分が親になるということを考え、自己理解を図る家庭科授業の開発にある。第1から3報では、米国のミドルスクールとわが国の大学生に実践されたFlour Baby Project(以下、FBPと記す)に着目し、中・高等学校家庭科保育学習で投げ入れ教材単元としてFBPを実践し、Flour Baby(以下、FBと記す)の教材としての有効性とFBP実践の意義を検討した。その結果、FBは生徒が強い興味・関心を持つことができる教材であり、FBPを通して生徒が自分の成長と家族との関わりを考えることができることが把握された。以上を踏まえて、本報では、高等学校家庭科普通科目にFBPを位置づけて実践し、その有効性を検討することを目的とした。
    <方法> 新潟県立長岡大手高等学校の家庭科普通科目「家庭総合」の“人の一生と家族”の前にFBPを位置づけ、履修生40名(第2学年男子19名、女子21名)を対象に、家庭科担当教諭佐藤ゆかりが以下の実践を行い、その記録に基づきFBPの有効性を検討した。
    (1)FBP実施前…a.教職員及び保護者へのFBPの趣旨説明
    (2)FBP第1日目:2004年9月8日(水)
    1)4限 家庭科授業…b.ベイビージャーナル(以下、BJと記す)の配布、概要と注意事項の説明、c.生徒の誕生時と同体重のFBの作成、d.FBとの親子写真の撮影、BJの記入
    2)5限以降…e.5限から放課後 FBと共に授業を受け行動し、帰宅する、f.自宅でFBと共に生活を送る、g.1日の終了時にBJを記述する、h.FBを自宅に連れて帰り世話をした証明のために、保護者からBJに署名をもらう、i.保護者からFBPに対する感想をもらう
    (3)FBP第2・3日目:2004年9月9日(木)・10日(金)
    1)学校:FBと共に登校し、授業を受け、行動し、帰宅する
    2)自宅:第1日目のfからhの活動を行う
    (4)FBP第4・5日目:2004年9月11日(土)・12日(日)
     終日、FBと共に行動し、1日の終了時にはfからhの活動を行う
    (5)FBP第6日目:2004年9月13日(月)…第2・3日目と同じ活動を行い、j.終了時に保護者からFBPに対する感想をもらう
    (6)FBP第7日目:2004年9月14日(火)
    1)3限まで…FBと共に登校し、授業を受け行動する
    2)4限 家庭科授業…k.ディスカッション(テーマ「子どもの世話に関して生じた問題」「親になること」)、l.FBとの親子写真の撮影、m.BJの提出とFBの返却
    <結果>
    1.BJの記述結果にみる生徒が獲得した認識:BJを提出した生徒37名(男子17名、女子20名)のBJを分析し、頻度の多い記述内容を抽出した結果、FBPにより生徒が獲得したと考えられたのは「世話に伴う様々な大変さ(73%)」「FBに対する愛着(54%)」「子育てに対する責任(54%)」「家族の必要性(43%)」であった。
    2.ディスカッションにより生徒が獲得した認識:ディスカッションの授業記録を分析すると、生徒は、FBが「重く」「通学が大変」であり、「自分の行動が制限されること」を赤ちゃんと共に暮らす事で生じた問題として挙げると共に、「自分がFBの世話を充分にできなかったこと」を問題として認識し、「親になること」とは、「赤ちゃんの世話のために、自分の事よりも赤ちゃんを優先した生活が送れ」「子どもの成長に喜びを感じること」であると考えていた。
    3.FBPに対する保護者の感想:保護者は、FBPを通して生徒が「命の大切さ」「子育ての大変さ・責任」と共に「子育ての楽しさや子どもの可愛らしさ」を感じてほしいと考えており、この時期にFBPを体験することの重要性を評価し、今後の継続を期待していた。
  • _-_硬さの異なる被切断物の切断_-_
    鈴木 洋子
    セッションID: 11
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    目 的
    小学校教育における児童の調理体験が,生活科や総合的な学習の時間を通して拡充されている.包丁の操作は調理作業の重要な要素である.身体の小さい児童が,成人用の包丁を使用することは,安全面や技能習得と作業の効率のうえで問題であることから,包丁の重さと柄の太さに焦点をあて,子ども用包丁の開発研究を行ってきた.その結果、重さについては市販の子ども用包丁より重めの方が力の負担が軽減されること1),柄の太さについては,従来の包丁のサイズに合わせた設定よりも使用者の手指の大きさに応じて柄の太さを選定するのがよいことを確認し2)、全長21.9_cm_, 刃渡り10.7_cm_, 最大刃幅4.0_cm_, 重さ100g,柄の太さ長径1.8_cm_,短径1.7_cm_,最大周囲6.3_cm_の子ども用包丁を開発し製品化した.そして,児童らが「開発した子ども用包丁」と,「成人用の文化包丁」と,「鎌形のむきもの包丁(市販の子ども用包丁に大きさと重さが類似.)」の3種類の包丁を使用して練習をした際に,「成人用の文化包丁」に比べると「開発した子ども用包丁」が,技能の習得上,効果的であることを報告した(IFHE2004京都大会).今回は,これらの3種類の包丁を使用して,硬さの異なる被切断物を切断した際の違いより,「開発した子ども用包丁」の技能習得に対する有効性を検討した結果を報告する.

    方 法
    1)被験者:第3学年児童5名(男子2名女子3名).
    2)使用包丁:開発した子ども用包丁(大きさ,重さは上記の通り.以下,子ども用包丁と記す.),成人用包丁(全長30.5_cm_, 重量165gの文化包丁),むきもの包丁(全長21.5_cm_, 重量50gの鎌形包丁).
    3)被切断物他:バナナ,きゅうり,だいこん,にんじん. 10_cm_の被切断物を2_から_3mm程度の厚さに切断することを指示.(にんじんは5_mm_程度).
    4)測定項目
    切断所要時間,枚数,厚さ,動作解析(二次元動作分析Act Imager 2Dd(販売元Acty株式会社)を使用)他.

    結 果
    包丁操作時の動画解析より,子ども用包丁の非切断時間,すなわち1切片の切断終了から次の切片の切断にかかるまでの時間の個人差が,むきもの包丁に比べると少ないことがわかった.切断時間についても,子ども用包丁を使用した際に,個人差が少なかった.硬い被切断物を切断する場合,小ぶりの包丁では力の負担が大きく包丁の動きに勢いがなくなること,成人用包丁のように大きい形状の包丁の場合は,恐怖感が伴い包丁の動きに勢いがなくなり,無駄な動きが多くなることが明らかになった.以上の結果より,子どもの手指の大きさと把持力に適した大きさと重さに配慮して開発した子ども用包丁の使用が,包丁技能の習得に効果的であることが確認できた.

    引用文献
    1)鈴木洋子,児童が使いやすい包丁の大きさと重さの選定,日本官能評価学会誌第4巻2号19-24頁(2000)
    2) 鈴木洋子,児童が使いやすい包丁の柄と太さの選定,日本官能評価学会誌第4巻2号25-30頁(2000)
  • -栄養教諭制度の導入と小学校家庭科担当教師の意識-
    荒井 紀子
    セッションID: 12
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    【目的】
    最近の子どもの食については、朝食の欠食・偏食・孤食など食の内容・習慣・行動などに様々な問題がある。このような子どもの食の問題に対して、2004年7月に「栄養教諭制度」が創設され、2005年4月に制度が導入された。このように短期間のうちに慌しく栄養教諭制度が創設された背景には、まず子どもの食に対する危機感が広く社会的に共有されているということがあるが、同時に、栄養師の「職員」から「教諭」への格上げについての関係団体の要望や、食育を体育や徳育とともに、国民教育の一環に位置づけようとする国の政策的な理由が推測される。いずれにせよ、教科の誕生以来、学校教育のなかで一貫して、子どもの食教育を中心的に担ってきた家庭科が、これら食育の新制度の創立をめぐる議論に加わる機会がなかったという事実は問題であり、また、子どもをめぐる食教育の視点からみても、さまざまな問題が未整理のまま残っている。
     このような食教育をめぐる社会的な状況をふまえて、本研究は小学校家庭科担当教諭の家庭科にかかわる意識や実態、特に食教育に関する意識や授業の実態を明らかにすることを目的とした。なお、本研究では「食育」を「健康的な生活を送るために自分で栄養のバランスを考えて食生活を営む力」、「食教育」を「栄養面だけでなく、健康・人間・環境の視点から、食を通して自分の生活のあり方を総合的に考え営む力」とし、家庭科における食の教育を「食教育」と定義することとする。
    【方法】
    調査対象者は、福井県の全小学校215校の家庭科担当教諭と家庭科主任である。平成16年12月上旬から1月上旬にかけて郵送法により自記式質問紙法による調査を実施した。回答者は349名、有効回答率は98.2%であった。学校規模は、第5・6学年のクラス数でみると、複式学級が10.2%、各学年1クラスが53.5%、各学年2クラスが27.4%、各学年3クラス以上が9.2%であった。
    【結果】
    (1) 家庭科への興味関心では、教師の97.1%が興味・関心を持っていると回答した。そのうち興味・関心があるという回答が多かった学習領域は「バランスのよい食事のとり方」「簡単な調理実習」となり、食教育への興味・関心は高い。
    (2) 家庭科の授業に対しては、実習の準備や後片付け、機材(特にミシン)・道具類の管理に大変さを感じており、6割弱の教師が家庭科専科の必要性を感じている。今後TTやTAの配置などの配慮が必要である。
    (3) 食教育に対しては、子どもの食実態について複数回答で尋ねたところ、「気になる」という回答が多かったのは「朝食の欠食」「食べ物の好き嫌い」「食事マナーの乱れ」となった。また、教師の67.1%が食分野を教える難しさを感じており、その理由として「生活力の乏しい児童に一から指導するのは難しい」、「子どもの食生活の見直しには家庭の協力が必要」という記述が多く見られた。
    (4) 栄養教制度については、制度を「知っている」59.2%となった。制度をどう思うかを尋ねたところ、栄養教諭制度を「積極的に進めるとよい」83.4%、「慎重に検討するとよい」13.1%となり、約8割が制度について賛成であった。その理由としては「専門性の高い授業が受けられる」73.6%、「食授業が増えることはよいこと」10.7%となり、教師は専門性を期待している。
    (5) 栄養教諭と家庭科の関わり方としては、「まず家庭科の食教育を充実させる」18.4%、「家庭科と栄養教諭が各々実践し時には協力」34.5%となり、家庭科の食教育も充実させながらそれぞれに実践し、相乗効果を挙げるという考え方が見られた。また、「家庭科の食教育の一部を栄養教諭が担当し、その時間を家庭科の別の時間に充てる」29.5%となり、家庭科の時間の少なさから一部の食教育を栄養教諭に担当してもらい、その分で家庭科の学習を増やすという考えが見られた。全体として、栄養教諭については、家庭科との連携を図りながら、食教育の充実に努めるという方向性が見られた。
    (6) 家庭科免許取得者は、免許を持たない教師に比べ、家庭科の時間減が学習内容に与える影響をより深刻にうけとめており、栄養教諭制度についてもより慎重な回答が多く、有意差がみられた。
    新制度を家庭科における食教育の充実とどう結びつけるか、一人一人の子どもの食の学習の全体像を見据えた論点の整理と、家庭科で何をどこまでするのか、できるのかについての、より意識的なカリキュラム・授業の検討が必要であろう。
  • 西 智子
    セッションID: 13
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    目的
    近年の食環境は生活を豊かなものにしたが,食の問題を助長し、特に子どもの食に関する問題が多く指摘されている。簡便化,外部化している食生活は食を選ぶ自由がある反面,自分で健康を維持する責任があるということでもある。従って,大人だけでなく子どもも周囲にあふれる食べ物を選択し,健康を維持していかねばならない。小学校段階における家庭科での食教育はその基礎を担っており、学校におけるその役割は極めて重要である。しかし子どもたちの食生活は家庭の影響が大きく,学校で食教育を行うだけではその成果が期待しにくい。よって学校での食に関する学習が日常生活で実践されるには,保護者の協力が不可欠であると考える。そこで本研究では,学校と保護者が連携した食教育の方法を探求することを目的とした。
    方法
    1.授業前にH大学附属小学校5年生の保護者78名(有効回収率98.7%)を対象に食生活意識調査を実施し、家庭での食教育の実態を把握した。調査時期は2003年12月上旬であった。
    2.栄養に関する授業実施後,保護者に授業内容に関する家庭での働きかけを依頼した。また保護者には学校での栄養学習と家庭との連携に関する調査を実施した。期間は2003年12月中旬から2004年1月中旬,有効回収率は83.3%であった。

    結果と考察
    1.保護者を対象とした調査から、栄養を考えた食生活を営んでいると思っている者が96.1%認められ、食教育の中でも特に「栄養について」を重視する必要があると考える者が多くみられた。そして,そのうち65.7%が学校と家庭の双方で栄養に関して教えるべきと考えていた。しかし,食に関して疑問や質問が生じた場合,人に尋ねたりする保護者は半数認められ、また家庭における子どもへの食指導の中で,自分の知識に対して不安を持っている保護者もみられた。さらに,子どもに偏食がある場合に注意するかを問うた結果,注意する保護者は76.7%みられたが,その言葉がけの内容を分析すると,「指示的指導」,「一方的指示」の順で多くみられ,子どもの要求を受容しながら指導・助言を与える「受容的指導」の言葉がけは認められなかった。
    2.栄養に関する授業後,保護者に対して今後の栄養教育に望むことを問うと,「栄養やカロリーなどの基礎的知識に関する学習」,「調理実習をはじめ,食に関する体験活動」,「食と健康の関連についての学習」,「食習慣に関する学習」の順にあげられていたが、これらの学習は,家庭科授業において実践されている内容である。学校で行われている授業内容が保護者に理解され,家庭においてもその内容が定着するための手立てを講じることが必要であると考える。
    3.食に関しての疑問が生じた保護者に対して、学校との連絡方法として希望するものを問うと,「連絡帳で伝える(64.6%)」,「相談・質問箱で伝える(44.6%)」,「口頭で伝える(35.4%)」,「メールで伝える(21.5%)」の順であげられていた。
    4.食に関しての疑問を解決する方法として希望する取り組みを問うと,「家庭科便り,学級通信などによる情報提供(96.9%)」,「講演会や学習会,料理講習会など,食に関する学びの場の提供(50.8%)」,「授業参観の実施(18.5%)」の順にあげられていた。
  • 鈴木 智子, 得丸 定子
    セッションID: 14
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    目的
    近年、中食やインスタント食品、加工食品の増加、外食産業の広く普及した食生活においては、栄養の偏りとともに若い世代における生活習慣病や味覚異常などの問題が危惧されている。中学生に焦点をあてるとこれまでの食意識や食行動に関する研究は、摂取食物、食生活習慣などに関連する研究がみられる。しかし中学生の味覚に関する研究においては、基本味の識別能の実態は1986年以降調査されていない。また、味覚教育に言及した研究に関しても味覚の教育が調理教育と連動したものにとどまり、味覚と食意識や食行動との関連が明らかにされていない。ゆえに本研究では次の2点を目的とし取り組んだ。(1)中学生の食意識と食行動の現状を把握し、その問題点を明らかにする。(2)中学生の味覚の現状と食意識、食行動についての関連を探る。
    方法
    1)中学生の食意識・食行動の実態調査
    上越市内A中学校の1,2年生232名および、上越市内B中学校1,2年生244名を対象に、質問紙法による自記式調査を実施した。調査は2004年4月から5月におこなった。
    2)中学生の味覚の官能検査
    上記1)と同様の中学生を対象に「基本五味識別官能検査」、「甘味と塩味における濃度差識別官能検査」、「甘味と塩味における識別官能検査」を実施した。さらに、「甘味と塩味における識別官能検査」の結果を指標にして生徒を味覚の識別能高群と低群に区分し、食意識・食行動と味覚との関連を比較検討した。なお、味覚の官能検査は2004年4月から5月の期間におこなった。
    3)聞き取り調査
    上記上越市内A中学校1年生12名(識別能高群生徒6名、低群生徒6名)を対象に、上記1),2)の調査の補足を目的に、半構成面接法により調査を実施した。調査は2004年9月におこなった。
    結果
    (1)中学生の食意識・食行動 中学生の食意識について因子分析をおこなった結果、「ファスト・享楽性」、「食文化・マナー性」、「食卓環境性」が抽出され、女子の意識に「食文化・マナー性」、「食卓環境性」が高いことが示された。食行動では「健康情報性」、「栄養バランス性」、「ファスト・濃厚味志向性」、「間食志向性」、「刺激味志向性」が抽出され、男子の食行動は「ファスト・濃厚味志向性」が、女子には「栄養バランス性」、「間食志向性」が高いことが示された。
    (2)中学生の味覚 中学生の味覚の識別能は、幼児、小学生および家政学専攻の学生の文献値と比較すると低い傾向にあった。また、味覚の識別能高群・低群における味覚と食意識・食行動との関連を因子得点を用いてt検定をおこなった結果、食行動において、味覚の識別能高群は「栄養バランス性」が高く、低群は「ファスト・濃厚味志向性」が高いことが示された。
    (3)聞き取り調査 食品の味の識別については、味覚の識別能の高低にかかわらず、意識的な味覚経験の積み重ねが食品の微妙な味の識別力を育てることが示唆された。また、味覚の識別能高群は食への関心が高く家庭の食事の手伝いに関わる生徒と、食への関心が低く親任せの食生活を送る生徒に二分された。一方、低群は家庭の食事の手伝いへの関わりが少なく食への関心も薄い傾向にあった。
  • 小島 章子, 平山 素子
    セッションID: 15
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    健康な生活と食生活の自立を目指す食生活の分野では、栄養や食品及び安全・衛生面に関わる知識とともに食事をつくるという実践的な技能の修得も必要である。食事作りにおける調理技術の実践及び体験的な学習活動は授業内では、諸種の条件の制約からグループ単位で調理実習として行われている。グループ単位での学習は協力して仕事を進めるという重要な側面を持つが、生徒側は実習を一種のイベントとして捉える傾向にあったり、グループの人数によっては手待ちの時間ができる生徒がいる等など作業の不平等が生じる可能性も少ないとは言えない状況にある。周知のように調理技術は一朝一夕に習得することが難しく、繰り返しの訓練と経験が大きい効果を持つと考えられる。家庭での手伝いを含めても、生徒が実生活において調理に関わる機会は極めて少ない現状にあることから、授業内で行う調理実習に加えて、各家庭において調理実習の機会を設け、その内容及び一連の作業を行なった結果に食に関する知識や食に関する習慣がどのように作用しているのか検討を行った。
    【対象及び方法】
    1)対象:東京都内A区の区立中学校2校より185名、私立B女子中学校239名、独立行政法人大附属C中学校359名、いずれも1~3年生。
    2)方法:レポートによる記名式自由回答法及び質問紙を用いた記名式による集団調査法。調査期間は2001年4月~2003年3月。 
    3)内容:「家族の夕食作り」という題目で課題を設定し、生徒が献立作成、材料・用具の準備、調理、食事、片付け等々を自ら行いその結果をレポートとして報告させた。レポートの調理実習の工程から調理品目数と調理にかかった時間を中心に検討を行なった。また、食の知識の指標として三色食品群の認知度と家庭での食に関する習慣等も合わせて調査を行った。

    【結果及び考察】
    1)自由献立による調理実習:調理品目数と調理時間の間に相関関係が認められ、調理品目数が少ないほど調理時間が短く、反対に調理品目数が多くなるに伴なって調理時間が長くなる傾向があった。調理品目数の多い者は調理の手際が良くなる傾向が認められた。
    2)三色食品群認知度:三色食品群と調理品目数の関係では、調理品目数が少ない者の点数は低く、調理品目数が多くなるに伴なって得点が高くなる傾向が見られた。三色食品群と朝食摂取状況では、朝食の摂取頻度の少ない者ほど三色食品群の点数が低い傾向が示唆された。
    3)食についての習慣:家庭での食習慣と調理品目数の関連では調理品目数が多くなるに伴なって「あなたの家庭で料理を作っている人に熱心さを感じますか」「家族と食事や栄養の話をしますか」等の設問に対して比較的肯定的に答える傾向が見られた。
    4)まとめ:生徒が家庭内で行なった自由献立による調理実習から調理品目数を指標に食の知識及び食の習慣の関連を検討したところ調理品目数を多く作った者ほど食の知識が高く、食習慣も比較的安定している傾向にあると考えられた。一方、課題を提出しなかった生徒や食の知識テストの得点が低い生徒、食習慣も安定しているとは言いにくい生徒も存在した。重ねて10年後20年後には家庭生活を支える中心となる彼らの健康や食の自立を支援するための学習指導への新たな展開も示唆された。
  • -家族を核とした食分野の授業の試み-
    鈴木 真理子, 佐藤 文子
    セッションID: 16
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【研究目的】 家族が一緒に食事をすることの意義は、家族のふれあい、食事のマナーなど社会性を深めることにもつながり、食事を一緒に「つくる」ことを通して、食材や調理方法について学ぶことができる。また、家族のために食事をつくる喜びや達成感を実感することができる。 中央教育審議会の答申でも、家族が一緒に食事をとる機会を確保し、家族の間で豊かな会話をすることなどの習慣化の促進と家族が一緒に食事をするということの重要性を提言している。 しかしながら、授業としてこのような問題を取り扱うことは家族関係など生徒のプライバシーに関わることで難しいテーマであり、実践に結びつきにくいという問題点がある。 そこで本研究では、食と家族の内容を融合させ、両者の大切さや問題点を実感として持てる家庭科の授業設計と生活における実践化の追究を行うことを目的とする。
    【研究方法】 中学校家庭科教育における「食」と「家族・家庭」に関する現状を把握し、「願いを込めた食事をつくろう」の授業設計を行い、実験的授業を実施した。学習前後の生徒の意識や実践の変化はプレテスト・ポストテスト、生徒の感想等で分析検討を行った。授業対象は、富津市立大貫中学校2年生70名、授業は平成16年6月から7月、2クラスそれぞれ7時間実施した。
    【授業の概要】 「食」と「家族・家庭」の学習内容を取り扱うにあたって、現在の自分の食や家族・家庭を見つめ直し、より豊かな生活をつくっていけるように、また自分の将来像を描けるように実感を重視させ、生徒自身の生活に実践として活きていくようにする。 そこで目標を以下の3点とした。1) おせち料理に込められている家族への願い、自分の家独自の願いの込められた料理を知り、家族への感謝の気持ちを実感として感じ、家族の中の自分をみつめることができる。2) 自分が今の家族や、将来自分が築く家族への願いを込めた料理を考え、それを形にすることによって楽しい会食の場になること、家庭生活をより豊かにすることができることを実感として感じ、実生活に活かしていくことができる。3) 自分の生き方や将来の家庭生活について考え、主体的に創造できる生活者を目指すことができる。
    【結果と考察】 授業実施後の生徒の認識として、「伝統的な料理や地域の特産物を使った料理の会食の計画を立てて実践できる」、「食事によってより楽しい団らんの機会を作るよう自ら工夫して実践している」、「家族みんながそろう時間をなるべく持つようにしている」、「家庭生活の中で自分のできることは実践している」などの項目において生徒の実践化の向上が期待できる結果となり、家庭生活への貢献の実感は、生徒の生活実践化を高めることができるということが明らかとなった。記述式の「自分の将来創る家庭の中で食事についてどんな夢をもっているか」の質問では、授業実施前は「わからない、夢はない」または空欄の生徒が多かったが、授業実施後は、「家族みんなでそろって食事をしたい」、「家族においしい、といってもらえる食事」や「オリジナルレシピでつくって家族に食べてもらいたい」など家族を意識した内容が多くみられるようになった。 また、学習前後の生徒の認識の変化で、「オリジナルレシピを将来築く家庭で作りたいと考えている」、「将来築きたい家庭像がある」という質問に有意な差がみられたことから、本授業によって、将来の家庭生活について考え、主体的に創造できる生活者を目指すことができることが明らかとなった。
  • 家庭生活での実践と自信度との関連性を中心に
    佐藤 希, 大竹 美登利
    セッションID: 17
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    目的 生活技術を身につけることは家庭科の重要な目標であるが、同時に日常生活の中でも育まれている。そこで本研究では、第1に、家庭科の履修学年及びそれ以前との相違に注目し、「家庭での生活技術の実践頻度」と「生活技術の習得の度合い」との関連を明らかにすること、第2に「家庭での生活技術の実践頻度」「生活技術の習得の度合い」と「自信度」「生活への積極性」との関連を明らかにすることを目的とした。生活技術に関して、田結症(1984)、米川(1985)、谷田貝ら(1986)、家庭科教育学会(2001)などによって研究されているが、それらは頻度を中心としたもの、習得を中心としたものであり、それらの相互関連について深く分析している研究はない。そこで本研究では、実技調査で「生活技術の習得の度合い」を客観的にとらえるとともに、質問紙調査で「家庭での生活技術の実践頻度」「親の態度」「仕事への責任感」「自信度」「生活への積極性」を明らかにし、それらの諸要素の相互関連について総合的に分析することとする。
    方法 質問紙調査では、「家庭での生活技術の実践頻度」「親の態度」「仕事への責任感」「自信度」「生活への積極性」について、4件法で回答してもらい、その結果を得点化し分析した。実技調査では、「きゅうり切り」「タオル絞り」「洋服たたみ」という、衣食住それぞれ1つずつの生活技術を取り上げ、「きゅうり切り」では、「包丁の持ち方」「きゅうりのおさえ方」「包丁と手の位置」「切ったきゅうりの枚数」「正確さ」という5つの観点から、「タオル絞り」では、「タオルのたたみ方」「タオルの持ち方」「手の使い方」「絞った後のタオルの重さ」という4つの観点から、「洋服たたみ」では、「しわをのばしているか」「平らにたためているか」「収納の様子」「たたみ方」「たたむのにかかった時間」の5つの観点から評価し、分析した。質問紙調査の対象は、国立大学附属小学校1校、都内公立小学校2校の2年生4年生6年生、計532名である。実技調査の対象は国立大学附属小学校の2年生4年生6年生、計231名である。調査時期は、国立大学附属小学校の6年生は平成16年2月、それ以外は平成16年7月である。
    結果 「家庭での生活技術の実践頻度」の学年ごとの推移を見ていくと、頻度が高い児童の割合が6年生で増加していた。一方、「針や糸を使う」のように日常あまりおこなわれていない生活技術を「まったくしない」児童の割合は減少していた。このことから、家庭科の授業は、家庭での生活技術の実践のきっかけになっているということが考えられる。実技調査による「生活技術の習得の度合い」については、学年進行とともに高くなっていた。質問紙調査による「家庭での生活技術の実践頻度」と実技調査による「生活技術の習得の度合い」との間には、正の相関があった。すなわち、生活技術の習得には家庭での生活技術の実践が重要な鍵になるということが明らかになった。「家庭での生活技術の実践頻度」と「自信度」「生活への積極性」との間には、正の相関が見られたが、「生活技術の習得の度合い」と「自信度」「生活への積極性」との間には関連が見られなかった。Coopersmith,S(1967)は、自信度に寄与している要因として、重要な他者からの尊敬・受容・関心をあげている。今回の実技調査で取り上げた「きゅうり切り」「タオル絞り」「洋服たたみ」といった生活技術は、日常評価される機会が少なく、他者からの尊敬・受容・関心を得ることが難しいものであると考えられる。したがって、今回は「生活技術の習得」が「自信度」「生活への積極性」に反映しにくかったと考えられる。生活技術を自信度や生活への積極性につなげるためには、家庭での生活技術の実践を促す工夫をすることや、生活技術の習得が評価されることが必要であると考える。
  • 藤田 智子
    セッションID: 18
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    【研究の目的・背景】
    過剰な痩身願望を持つことは、特に青年期の女性にみられる現象とされ、その影響としての摂食障害の増加も問題視されている。近年、摂食障害の患者の低年齢化、男性における発症なども指摘されている。摂食障害の大きな原因として、身体像(ボディ・イメージ)の歪みと、それに基づくダイエット行為が挙げられる。田結庄(1997)は家庭科における学校知と日常知の検討において、栄養や食品に関する知識、特にダイエットに関する知識は学校知より日常知が先行し、「学校知が日常知を後追いするか、あるいは両者が対立することになってしまうという事情をどう解決するかが課題」であると指摘している。学校知が日常生活において実践されるためには、生徒たちがどのような日常知を持っているかを明らかにすることが必要であると考えられる。よって、高等学校において、家庭科で食物領域を学ぶ前の生徒たちが、ダイエットについてどのような知識を持ち、ダイエットを実践しているのかを明らかにすることを本研究の目的とする。
    【研究の方法】
    高等学校において、家庭科の食物領域を学ぶ前の都内の高校1_から_2年生を対象とする質問紙調査。有効回答数269名(男子校84名、女子校115名、共学校70名。男子113名、女子156名。2004年1~2月に実施。)なお質問紙は高校生14名(男子8名、女子6名)に対するインタビュー調査(藤田 2003)を元に作成した。具体的には、知っているダイエット、実際に行ったダイエット、ダイエットの情報源、他者(家族や友人)との関わり、実際のBMI、理想の身長と体重、属性などである。
    【研究の結果と考察】
    (1)知っているダイエット りんごダイエット、マイクロダイエット、ダイエットテープ、カロリー計算、断食ダイエットをそれぞれ知っているか尋ねた結果、知っていると回答した生徒は、53.5%、36.9%、36.1%、73.2%、81.4%であった。知っているダイエットの数と、性別×学校属性の一元配置分散分析の結果、女子校、共学・女子、男子校、共学・男子の順で有意差があった。同じ性別の場合、学校属性によって差が生じていた。
    (2)実際に行ったダイエットの種類 上記の5種類のダイエットのうち少なくとも一つは行ったことのある生徒は、男子生徒は0%、女子生徒は1割強であった。自由記述欄を入れても、男子でダイエットを行ったことのある生徒は1人であった。χ2検定の結果、性別による差は有意であった。現在の身長とそれに対する理想の体重、理想の身長とそれに対する理想の体重を聞いた結果から、男子は身長、体重とも増加するのを望んでいるのに対し、女子は身長は男子と同様に高くなることを望んでいるが、身長が高くなっても理想体重はほとんど変わらなかった。男子の場合、理想の身体に近づこうとする際、やせるということが重視されないため、ダイエットといった場合、実践率が低いと考えられる。
    女子生徒のうち、どのような生徒がダイエットを実践しているのかを明らかにするため、クロス集計をした後、χ2検定行った。その結果、知っているダイエットの数、学校属性において有意差が見られたが、自分は太っていると思う、今よりやせたいと思う、BMIとの有意な関連は見られなかった。また、家族、同性の友人、異性の友人から体型について言われた経験がある女子生徒は、それぞれ6割以上が実際にやせようとしたと回答した。
    高校生において、ダイエットに関する知識および実践において、性別差のほか、学校属性による差がみられた。また身近な他者とのかかわりの中でダイエットは実践されており、身体像や実際のBMIではなく、日常生活環境の中でダイエットに関する知は影響を受けているといえるだろう。
  • 食分野を中心に
    福田 公子, 貴志 倫子, 山本 奈美, 高木 弘子, 諸岡 浩子, 小川 見恵, 長石 啓子
    セッションID: 19
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    [目的]
     教育改革推進の一環として、高等学校の再編計画が進行している。とくに専門高校では、戦後のシステムの根本的な見直しが始まっている。平成10年の理科教育及び産業教育審議会の「今後の専門高校における教育の在り方等について」の答申に加えて、平成15年には「若者自立・挑戦プラン」により「実務・教育連結型人材育成システム(日本版デュアルシステム)」を推進するモデル事業も始まっている。このような変革のなかで、専門高校における教科「家庭」のあり方や方策等について、理論的かつ実践的に探求することが急務の課題である。
     そこで本報告では、中国地方の専門高校における教科「家庭」の食分野を中心に、教育の実態を調査し、改善への課題について検討することを目的とした。

    [方法]
     中国地方5県の公立・私立の高校から、専門教育に関する学科を設置している高校を対象に、学校要覧を収集した。まず、それらの中から、教科「家庭」を設置している高校について、方針や目的及びカリキュラムと教員等について分析した。対象となったのは、資料請求後、返信を得た32校である。次に、食を中心とした学科14校について、各学校、学科の特徴をまとめた。このうち調理師養成を行っている高校について、各県1校ずつ訪問し、設備や授業の見学等を行った。その際、担当教員に面接調査を依頼し、詳しく実情を聞き取った。

    [結果]
     調査の対象とした中国地方5県の専門高校では、急激な変革に対応できずに、統合・縮小されている傾向が顕著であった。とくに教科「家庭」は、ジェネラリストの養成からスペシャリスト養成への転換が不十分であり、かつ生活関連産業に向けたキャリア教育体系が構築されていない傾向にある。 そのなかで、調理師養成課程の場合、担当教員の努力のもと全学的な支援を得られている事例や、地域の理解を得てうまく連携を果たしている事例では、インターンシップや業界から外部講師を招聘して指導を行うことにより、教育効果をあげていた。
     この要因の一つとして、調理師養成課程では資格取得のための明確な基準やカリキュラムが確立されていることがあげられる。他方、教員の個人的な資質、能力による要因の大きさも推察された。中国5県で調理師養成課程をもつ9校のうち、公立校は3校、残り6校が私立学校である。公立高校では担当教員が、数年のサイクルで専門高校と普通高校を行き来する状況であり、教員の専門性の確保と維持という点で困難があることが示唆された。その点、移動がほとんどない私立学校では、長年の経験の積み重ねによる取り組みがみられた。
     スペシャリスト養成を目的としたキャリア教育として教科「家庭」を体系的にとらえ指導するためには、現在、公立の教員に対して行われている短期集中型の研修や教員個人の努力にゆだねるあり方では、専門性の保証は十分ではないことが考えられる。
     以上の結果から、課題として、担当教員の研修制度、および人事システムの検討があげられる。
  • 伊藤 敦美
    セッションID: 20
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    研究目的
     報告者は、昨年度の本学会の大会において「デューイ実験学校における『食』実践の位置づけ」というテーマの下に研究発表を行った。本報告では、先に報告したデューイ実験学校における「食」実践の位置づけを基にして、家庭科教育における「食」実践について検討する。現在の学校教育のカリキュラムにおいて「食」は、生活科、総合的な学習の時間、そして家庭科において取り上げられる。小学校低学年では生活科、中学年では総合的な学習の時間に実施されているが、高学年では総合的な学習の時間、家庭科の両方の時間に実施されている。各時間においては、「食」実践の役割や相互の関連については不明確なまま、それぞれの実践が行われているのが現状である。したがって、家庭科教育が開始される以前に生活科や総合的な学習の時間において「食」実践が行われていることの意義や、家庭科教育に及ぼす影響、そして家庭科教育開始後の総合的な学習の時間との関連を検討することが必要である。そこで、本報告ではデューイ実験学校における「食」実践の位置づけから、現代の「食」実践を捉えなおし、家庭科教育における「食」実践について検討することを目的とする。
    研究方法
     デューイによる授業計画である「大学附属初等学校の組織案」(Dewey,1895)、実験学校の諸教員による「実験学校ワークリポート」(1898-1899)、デューイによる授業実践の解釈である『学校と社会』(Dewey,1900)を、授業の計画、実践、解釈の一連の授業実践として捉えて、デューイ実験学校のカリキュラムにおける「食」実践の位置づけについて検討した結果について、年齢別の観点から再検討し、現代の学年と対照する。検討にはカリキュラム系統図を作成する方法を用いる。
    結果
     デューイ実験学校のカリキュラムにおける「食」実践の位置づけについて検討した結果について、年齢別の観点から再検討し、現代の学年と対照することを試みた。その結果、デューイ実験学校における「食」実践は報告の内容からおおよそ3つに分類できた。すなわち、(1)調理としての報告が最も多く、続いて歴史、科学・植物としての報告が同程度であったグループ1、2、3、 (2)調理としての報告が最も多く、科学・植物、歴史の順であったグループ4、5、(3)ほとんどが調理としての報告であったグループ6、7、8、9である。(1)に分類されるグループでは、「食」と自分たちの生活とのつながりを認識するための作業が取り入れられていた。(2)に分類されるグループでは、調理をする視点から食品を分析して、加工方法を検討し、適切な調理方法を決定するような学習の展開が確認できた。(3)に分類されるグループでは、生活と関連付けることはほとんど行われず、食品の性質の分析、調理に最適な素材の選択、調理方法の検討など調理そのものが詳細に、専門的に学ばれたていた。(2)に分類されるグループ4、5と(3)に分類されるグループ6は現在の小学校中学年にあたるのだが、専門的な調理の学習が行われている。中学年では、総合的な学習の時間で「食」に関する実践が行われているが、専門的な調理の学習という点では十分ではない。また、高学年にあたるグループ7、8、中学生にあたるグループ9では、調理に焦点化された学習が行われているが、総合的な学習の時間、家庭科の両方で「食」実践を行う場合には、家庭科では調理技術の習得を目指し、総合的な学習の時間では食品の性質の分析や調理に最適な素材の選択といった内容を取り上げるなど、スパイラルな関わりを意識的に作ることが必要である。
  • 佐藤 聖美, 梅木 佳代, 三好 玲子, 吉田 舞, 渡辺 彩子, 上里 京子
    セッションID: 21
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    [目的】 家庭科における家族学習は、小・中学校では家庭の仕事やその分担を通した家庭や家族の機能が、高校では生涯発達における家族の機能と家族関係が学習指導要領では内容としてあげられている。しかし、これらの家族の役割や関係は、こうあるべきという姿が固定化すると現実にはそぐわないことが多く、知識だけの観念的な学習になりがちである。 本研究では、家族学習において、家族の中の自分の立場・役割をあらためて見つめなおしながら、児童・生徒が問題に気づいたり、家族・家庭の機能とは何かを考えるきっかけとして心理劇を取り上げた。心理劇はロールプレイと異なり、最初の状況設定はあるが、それぞれの役割の決められたセリフはなく、お互いへの反応によって演じていく。心理劇を演じたり見たりした後、生徒自身がどのように家族をとらえるのか、小・中・高校の各学校段階でどのような違いがあるかを本研究では明らかにする。
    【方法】 心理劇は「大家族の朝の風景」という浜田による心理劇教材を取り入れ、10人くらいが1グループとなって、それぞれの学年の子どもを含む大家族での役割を起床場面から自由に演じる。授業分析は、高等学校は2004年11月に2学年1クラスの男女40名、中学校は2005年1月に2学年2クラス男女計66人、小学校は2005年2月に5学年1クラス男女計40名をそれぞれ対象とした。 心理劇を演じた後の自由記述による感想をひとまとまりの意味ごとに区切り、KJ法により分類カテゴリーを設定した。各学校段階ごとにカテゴリーを検討した結果、最大公約数のものを設定し、各学校段階の特徴を比較考察した。
    【結果と考察】 カテゴリーは1)家族の役割 2) 家族の関係 3) 家庭の機能 4) 多様な家族像 5) その他となり、さらにサブカテゴリーを設けた。 各学校段階ごとの特徴は次の通りであった。1. 小学生は自分への気付きが多い。また、きょうだいへの気付きも多く、家族の一員として家族をよく観察していることが分かった。特に母親への同情や苦労への気付きが多く、子どもへの言葉かけや叱ることもしつけや愛情であることに気付いていることが分かり、心理劇が他者理解に有効であったと言える。2. 中学生以上は、家族の関係のうちの会話の大切さがトップで、次に家族や家庭全体について気付いている生徒が多い。いろいろな家族がいて、それはそれで認めるという姿勢も中学生以上に出てきて、発達段階としては当然の気付きと言える。ここでも母親は家庭の要として、苦労しながらがんばっている存在として多くの生徒の記述に出てきている。3. 父親は、小学生の記述の中では、母親の世話になっていたり、一緒に食事をしてほしいと言われたりしながらも子どもたちの意識の中にあった。しかし、中学生では全く現れず、高校生になると「いないと大変」や夫婦として出てくるなど、母親の背後で存在価値を示すような位置を占めるようになる。男子生徒がどのクラスにも半数いるにもかかわらず、父親が心理劇に出てこないことは、家庭が母親中心に動いている実態を物語っていると言える。4. 母親の役割分担の多さには、小学生も中学生も高校生も気付いているし、実際に、母親の役割分担は多いと思われる。大変そう、かわいそう、感謝しているなどの感想があったが、母親とはそういうものという固定した性別役割観とも受け取れ、家族の一人一人が自立する必要や皆で分担すべきなどの意見は少ないことは、この後の家族の学習の課題であろう。5. 子どもたちは、心理劇を見るとき、自分や自分の家庭と比較してよく見ているということが分かった。また、将来の家族像に結びつけて考えている生徒もおり、視点のもっていき方により家族観の深まりが期待できる。
  • 鎌野 育代, 伊藤 葉子
    セッションID: 22
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  多くの実践研究によって、幼児とのふれあい学習が幼児への関心や保育学習への意欲を高めることが報告されてきたが、その多くが一回のふれあい学習に関するものであった。  本研究では、二度のふれ合い学習を実施し、中学生がどのような学びを展開するのかを明らかにすることを目的とする。今回、二度のふれあい学習を、第一回目は「幼児と遊ぶふれあい学習」、第二回目は、幼稚園の園児を中学校へ招待し「幼児と一緒におやつをつくるふれあい学習」という形態で実施した。それぞれのふれあい学習での生徒の意識の変容を探ることによって、中学における保育の授業で生徒にどんな力をつけたいのかを捉え直していきたい。なお、二度目のふれあい学習が「幼児と一緒におやつをつくる」という形態であることの特徴を明確化するために、二回とも「幼児と遊ぶふれあい学習」を実施した年度の生徒の感想文を、比較検討資料として検討した。注)
    【方法】対象生徒:千葉市立T中学校3年4クラス 126名(男子63女子63)
    実施時期・形態:1)「幼児と遊ぶふれあい学習」2004年9月実施、T中学生がクラスごとに私立I幼稚園にいき、午前中2時間程度自由に遊ぶ。事前に保育学習において製作した絵本を読み聞かせる時間を設ける。2)「幼児と一緒におやつをつくるふれあい学習」2005年1月実施、私立I幼稚園年長3クラス及び私立M保育所年長1クラスが、クラスごとにT中学校へ来て(国立C大学教育学部生がサポート)、調理室において白玉だんごと飲み物をつくり、一緒に食べる。
    対象とした資料:各生徒が一年間、継続的に授業の目標・ふりかえりを記録した学習ノートを資料とした。特に、二度のふれあい学習前に生徒ひとりひとりが学習前に掲げた目標と学習後の幼児に対する意識の変化やふれあい学習への感想の記録を主たる分析対象とした。
    【結果】 二度のふれあい学習の分析から、「幼児と遊ぶふれあい学習」では、実習前と実習後の生徒の気づきはおもに幼児についての知識の獲得や幼児の特徴の把握といった内容が多いことがわかった。幼児と接する機会の多少により個人差は見られるが、多くの生徒がこの実習で幼児との距離が縮まったと感じている。また、二度とも「幼児と遊ぶふれあい学習」を行った場合、二度目の実習で生徒は、遊びを工夫したり、自分から積極的にふれあうといった意識の変化は見られたが、学びの深まりはみられなかった。一方「幼児と一緒におやつをつくるふれあい活動」では、生徒は「幼児を優先させたおやつづくりをする。」「幼児に手作りのおいしさを知ってもらう。」といった幼児を対象にした目標を持って取り組んだ。幼児に十分な配慮をしながらの調理実習に、不安を抱いていた生徒もいたが、学習後には「幼児と一緒におやつをつくる」という複合的な学習活動の中で、様々な角度から自分自身に関する記述をした生徒がみられた。 これにより、生徒にとって、より生活現実に近い設定でのふれあい学習での学びが、幼児に対してだけではなく、生徒自身への捉え直しの機会を与えることが示された。注)比較対象とした資料は2003年度中学3年15名の感想文。なお、この時の第1回目のふれあい学習はその前年度の特別活動で実施したものである。
  • 総合的な学習の時間での保育体験より
    河岸 美穂, 綿引 伴子
    セッションID: 23
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)少子化が進み、児童虐待や育児放棄などが多発している中、子どもについて理解し、乳幼児に適切に対応できる力をはぐくむことは大切である。先行研究より、乳幼児に対する興味・関心や理解を深めるために、保育体験をすることは有効であることがわかっているが、家庭科の単位数が減少している中、家庭科の授業の中で保育体験の時間を確保することは難しい現状である。そこで、幼児に対する興味・関心や理解を深めるとともに、生徒の自己理解を深め、進路選択の一助になることを期待して「総合的な学習の時間」において幼児と接するための学習と保育体験を行った。この体験が生徒の自尊感情や社会的スキルを高めることに役立つかどうかを考察することと、高校生だけでなく、参加した高校教員、保育士、幼稚園児の意識調査から、保育体験の有効性と課題を検討することを目的とした。
    (方法)2005年に県立高校普通科2年生273名(男71名、女202名)を対象に総合的な学習の時間において幼児と接するための学習と保育体験を行い、保育体験学習前と体験後に乳幼児や保育体験に対する意識と、自尊感情及び社会的スキルに関する調査を行った。また、保育体験後に生徒と共に参加したクラスの担任・副担任14名、受け入れ先の保育士18名、幼稚園児365名に意識調査を行った。
    (結果と考察)(1)生徒の自尊感情の平均得点は、保育体験後の方が有意に高かった。この結果から保育体験によって自尊感情が高まることがわかった。(2)社会的スキルについては体験前と後において有意差は見られなかった。短い体験時間では社会的スキルの変化までは難しいと考えられる。しかし、社会的スキルの高い生徒群ほど「子どもに対する興味・関心」「関わる自信」「成長を知ることの大切さ」が高く、子どもに対するマイナスイメージが低いことがわかった。(3)3才から5才の幼稚園児1人1人に聞いた結果、361人(99%)が「高校生と遊んで楽しかった」、359人(98%)が「また遊びたい」と答えた。(4)保育士は18名全員が園児にとって「良かった」「わりと良かった」と答えた。具体的には「大人とは違う、きょうだいとも違う年代の人と過ごす経験は大切だと思うから」「園児が自分のことを話そう、わかってもらおうとする姿がたくさん見られたこと」等と答えている。保育士さん自身は楽しかったかという質問に対しては、15名(83%)が「楽しかった」「わりと楽しかった」と答えている。その理由として「園児の違った一面を見ることができた」「つまらなそうな顔をしていた高校生が子どもと触れ合うことにより明るい表情に変化するのを見て」「普段、高校生と話す機会がないので」「若い子には負けられないといつも以上にハッスルできた」等と答えている。保育体験を続けたら良いかについては17名(94%)の保育士が続けたら「良い」「わりと良い」と答えた。保育体験の課題として、園児の安全を十分に考える、おしゃべりや私語を慎む、返事や自己紹介をしっかりする、積極的に子どもと関わる等をあげている。(5)参加した教員は回答しなかった1名を除く全員がこの体験が高校生にとって「良かった」「わりと良かった」、園児も「楽しそうだった」「わりと楽しそうだった」と答えている。意見・感想として「幼児との接し方がわからなく、幼い命が奪われてしまうことが多い中、十代のこの体験はとても意味があると思う」「実習の後、授業でもわがまま言う生徒が減った気がする。意外な生徒の意外な一面が見られて、教師側からも生徒理解を深めることができた」「園児は片づけや身支度『こんにちは』『さようなら』という基本的なことがきちんと出来ていたので、今の高校生が忘れている大切な基本を振り返る時間となった。この体験が保育に関しての知識を深め、進路決定に役立つことだろうと思う」と答えている。保育体験を続けたら良いかについては8名(57%)の教員が続けたら「良い」「わりと良い」と答えた。他の教員も保育体験をすることを否定しているのではなく改善が必要と述べている。改善点として、時期や時間帯、回数の見直し、教科との関連を探る、体験が生かされる総合的な学習の時間全体の「流れ」が必要、事前学習と身なり指導の徹底等があげられた。(6)総合的な学習の時間で行うことのメリットは、担任の引率で実施することで生徒の実習態度が良くなったこと。教室では見られない生徒の表情をみることができたこと。教員の生徒理解が深まること。デメリットは、事前事後の学習時間が確保しにくく、幼児の心身の特徴・行動パターン・接し方などの理解が充分とは言えないことである。
  • 田中 宏子
    セッションID: 24
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】家庭科は人として生きる力の育成を目指している。家庭科の学習を、どのようにすれば、実生活での行動につなげることができるのかを検討することは、家庭科教育の重要な課題であると考える。これまでの研究より、家庭科学習内容の実践の個人差には、実践の場である家庭生活が影響していることが明らかとなっている。そこで本研究は、家庭内における父親の役割に焦点を当て、父親の家族に対する絆を深めようとする行動(家庭関与)と児童の家庭生活における行動との間にはどのような関連があるのかを検討する。また、子どもの発達には、親が直接的に影響を持つと同時に、家族構成員の相互の影響も考える必要がある。そこで、父親の家庭関与と母親の生活感情との関連、母親の生活感情と児童の家庭生活における行動との関連についても検討を試みる。
    【方法】滋賀県の公立小学校4、5、6年の児童及びその母親を対象として、質問紙法により調査を行った。父親の行動に関する項目の評定は、父親に回答を求めた場合と母親に回答を求めた場合に有意差が認められなかったという先行研究の結果をもとに、母親に回答を求めた。調査期間は2004年10_から_11月。母親と児童がともに有効であるデータのみを分析の対象とした。有効回答数は267組(男子児童とその母親181組、女子児童とその母親86組)である。調査の主な内容は、父親の家庭関与 (20項目)、母親の生活感情(8項目)、児童の家庭生活における行動(15項目)である。
    【結果及び考察】
    1.因子の析出と意味付け
    父親の家庭関与に対する最小の構成次元を見出すために、主因子解による因子分析を実施した。その結果、固有値1.0以上になるものとして、4つの共通因子が析出され、「家事への援助」、「子どもへの関わり方」、「夫婦間のコミュニケーション」、「子どもとの遊び」と命名した。母親の生活感情についても、因子分析を行った結果、3つの共通因子が析出され、「充実感」、「自己否定感」、「イライラ感」と命名した。児童の家庭生活における行動については、5つの共通因子が析出され、「人と関わる」、「身の回りを整える」、「資源を大切にする」、「調理をする」、「頼まれた仕事をする」と命名した。
    2.父親の家庭関与と母親の生活感情との関連
     父親の家庭関与と母親の生活感情との関連を、因子得点を用い、ピアソンの積率相関を算出して検討した。父親の「子どもへの関わり方」、「夫婦間のコミュニケーション」、「子どもとの遊び」と母親の「充実感」との間に有意な正の相関が得られた。また、父親の「家事への援助」、「夫婦間のコミュニケーション」と母親の「イライラ感」との間に有意な負の相関が得られた。
    3.父親の家庭関与、母親の生活感情と児童の家庭生活における行動との関連
     父親の「家事への援助」と児童の「身の回りを整える」、「調理をする」との間に有意な正の相関が得られ、母親の「イライラ感」、「自己否定感」と児童の「身の回りを整える」との間に有意な負の相関が得られた。また、父親の「子どもへの関わり方」、母親の「充実感」と児童の「人と関わる」、「資源を大切にする」との間に有意な正の相関が得られた。
    以上、児童の家庭生活における行動を引き出すためには、父親においては、家事をすることと家族成員に対するコミュニケーションスキルを機能させることが大切である。家庭教育力が低下しているといわれて久しいが、人間関係能力を養い、父親となった時にもその能力を発揮させることは、次世代の子どもの生活自立につながると思われる。家庭科学習内容における生活の自立と家族関係は、個別のものではなく、互いに関連していると考える。
  • 小口 倫子, 松岡 英子
    セッションID: 25
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高等学校においては、2003年度入学生から新学習指導要領の下での教育課程が実施されている。今回の学習指導要領改訂によって、普通教科「家庭」に最も大きな影響を与えたのは、「家庭基礎」の設置である。そこで本研究では、高等学校普通教科「家庭」のこれからの方向性を探るために、第1に、「家庭基礎」実施の現状と問題点を高校家庭科教員および生徒を対象とした配票調査によって明らかにすること、第2に、構成主義学習観に基づいた「家庭基礎」カリキュラムを開発し、それに基づいた授業実践を行い、その妥当性を検証することを目的とする。
    【方法】
    (1)「家庭基礎」実施の現状と問題点を明らかにするために、長野県の公立および私立高等学校108校の家庭科教員283名を調査対象として、郵送法による質問紙調査を実施する。実施時期は2004年2月。回収率56.5%(160名)である。(2)授業実践を行う高等学校における1年生287名を対象として、2004年4月の初回の授業時間に質問紙調査を実施する。欠席者を除く284名の回答を得た。(3)構成主義学習観に基づいた「家庭基礎」カリキュラムを開発し、それに基づいた授業実践を行い、その妥当性を検証する。
    【結果】
    (1)高校教員および高校生の意識と実態
    長野県における普通教科「家庭」の新科目設置状況は、「家庭基礎」38.6%、「家庭総合」49.4%であった。また、「家庭基礎」を担当した教員の78.6%が「実習が減った」と答えていた。高等学校入学直後の生徒は各出身中学で多様な学習経験をもっていた。また、問題・課題解決学習を「面倒だ」と感じている生徒の実態にどう対応するかが、カリキュラム開発、授業実践の課題であることが明らかになった。
    (2)カリキュラム開発と授業実践
    本研究では、高等学校普通教科「家庭」の役割を「生活の自立を中心とした青年期の発達課題の達成を直接的、具体的に支援すること」ととらえた。また、カリキュラム開発にあたっては、構成主義学習観に基づき、従来、教壇から一方的に知識が伝達されていた教室空間において受動的な位置を与えられてきた学習者の活動に積極的な位置が与えられ、教室空間を生徒が相互に協同で学び合い教えあう場へと変えていくことを重視した。また、質問紙調査の結果をふまえて、時間が足りない現状への対応、多様な学習経験や意識をもつ生徒への対応、実生活の中でいかすことのできる問題解決能力を育むことに注目した。授業では、生徒の主体的な活動および仲間から学びあう場面の設定、評価のためのルーブリックの作成、生徒の評価への参加を重視した。学習後の質問紙調査から、構成主義学習観に基づくカリキュラムでの授業実践を行ったクラスは、統制群のクラスと比較して、また、高等学校入学直後と比較して、家庭科学習の必要性・有用性を認識していることが明らかになった。2単位の「家庭基礎」においても、限られた時間の中で、広く深い学びをつくりだしていく可能性を示すものであり、生徒が家庭科を学ぶ意味を見出すことにつながる有意義な実践になったと評価できる。授業で活用したルーブリックの内容とその活用方法について更なる改善を加えることによって、生徒の家庭科学習への積極的な取り組みを実現していくことが今後の課題である
  • 福田 公子, 伊藤 圭子
    セッションID: 26
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー

    目 的
     2003年に特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議がまとめた『今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)』によると、「障害の程度などに応じ特別の場で指導を行う『特殊教育』から障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う『特別支援教育』への転換を図る」とあり、2007年度を目標に特別支援教育実施のための作業が進められている。特別支援教育推進のためのモデル事業も全国的に実施され、その成果も報告されている。 家庭科においては、これまでも「障害児学級と通常学級の子どもが共に学ぶ」授業が多く実践されている。しかし、家庭科教師は大きな不安と負担を抱えながら、試行錯誤しながら授業を行っているのが現状である。家庭科教師の自助努力だけでは解決できない問題も内在している。この状況のままで特別支援教育が実施されると、さらに深刻な問題を抱えることになるであろう。特別支援教育における家庭科授業の在り方を構想することは急務の課題である。 そこで、「障害児学級と通常学級の子どもが共に学ぶ」家庭科授業において、特色ある取り組みを行っている実践から、今後の特別支援教育における家庭科への示唆を得ることを目的とする。
    方 法
     第1次調査:全国の小・中学校において指導的立場にある家庭科担当教師360名に対して,2003年11月から2004年1月にかけて調査を郵送法によって実施した。有効回収率は71.4%(小学校136名、中学校121名)であった。 第2次調査:第1次調査の回答者のうち、特色ある実践を行っていた学校の家庭科教師を対象にインタビュー調査を実施した。対象校は、小学校3校、中学校3校であり、時期は2004年2月~3月であった。
    結果および考察
    1.「障害児学級と通常学級の子どもが共に学ぶ」授業の実践経験がある家庭科教師に、理論学習・実習学習別に自由記述で効果的指導方法を問うた結果、理論学習においては「教材や学習課題の提示方法の工夫」(39.4%)、「複数教員やボランティアの支援」(22.2%)、「通常学級の子どもの活用」(19.2%)の順に多く挙げられていた。実習学習においては「通常学級の子どもの活用」(44.1%)、「複数教員での支援」(38.2%)、「教材や学習課題の提示方法の工夫」(22.8%)の順に多く挙げられていた。2.効果的指導方法として特色ある取り組みをしていた学校に訪問しインタビュー調査をした結果、先進的取り組みの中にも幾つかの課題が提起された。例えば、学校全体の取り組みとしてボランティア人材リストを作成し、そのリストに登録された保護者や地域の人が授業を支援する実践がみられた。この学校の教師は、特に実習授業において、支援者が障害児学級からの子どもの指導をすることの有用性について述べていた。しかし、この実践には障害児学級の子どものプライバシーの問題、本授業における評価の問題、支援者の専門性および指導方法の問題など様々な課題が内在していた。その他の学校においては、複数教師での指導体制をとっている学校もみられたが、その実践には教師の多様な子どもを指導できる専門性や体力などの問題、打ち合わせ時間確保の問題、教育委員会や学校長などの支援体制の問題など多くの課題が内在していた。
  • 高木 幸子
    セッションID: 27
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】
     家庭科教員養成段階における授業実践力の育成をねらいとした演習(模擬授業)を家庭科教育法の中に組み込んで実践し、学生の学びの分析を通じて、本教育法プログラムの内容や方法を検討する。具体的な目標は以下の通りである。 1 先行研究や文献に示されている記述を基に教師及び家庭科教師に求められる資質能力および授業実践力の構成要素の枠組みを整理する。 2 模擬授業実践を試行し、授業実践に関わる学生の課題を明らかにする。 3 模擬授業実践で見出した課題の改善をねらいとする2度目の模擬授業(以下、改善模擬授業と記す。)を試行し、授業改善に関わる学生の課題を明らかにする。
    【方法】
    (1) 教師(家庭科教師)に望まれる資質能力の整理 先行研究および文献を参考に、教師の資質能力について記述されている部分を抜き出し、教師(家庭科教師)に必要とされる資質能力の枠組みを整理する。(2) 模擬授業の構想と実施 2回の授業経験(模擬授業、改善模擬授業)を組み込んだ教育法プログラムを試行実践する。授業科目は、中等家庭科教育法(教職に関する科目:2単位、2004年4ー7月実施)で、家庭科教師を目指す3年次生16名を対象とし、模擬授業(および改善授業)は2名から4名のグループを単位として行い、授業を構想する学校種と扱う題材はそれぞれのグループに任せ、授業は複数の学生によるティームティーチングで行うことも可能とする。なお、模擬授業の構想の前提学習として中学校・高等学校家庭科の目標や内容を確認する。(3)課題の確認および改善模擬授業の実施 模擬授業後に自己評価(授業を行った学生)及び相互評価(授業を受けた学生)を行い、各グループの授業作りにかかわる課題を整理する。そして、課題を改善するための方策の検討に基づいた改善模擬授業を実施する。これらの模擬授業および改善模擬授業の実践を通じて、共通して得られる資料や記録を基に授業を比較し、改善の状況を分析・検討する。
    【結果】
     教師及び家庭科教師に求められる資質能力を整理し、授業実践力の構成要素の枠組みとして、授業構成力、教材研究力、授業展開力を設定した。 模擬授業の実践を通じて、授業構成に関して、目標設定の甘さ、時間配分を考慮した指導過程の難しさが、教材研究に関して、ワークシートや配布資料の内容が、授業展開に関して、生徒への対応などに課題が見られた。 改善模擬授業による課題解決の状況から、ワークシートや配付資料、板書計画などの授業実践前に取り組めるものについては、課題の改善が図りやすいと思われた。また、授業の発話記録から、学生は教師からの一方的な働きかけだけではなく、生徒との柔軟な応答を試みようとしている様子が伺えた。一方で、学校種にあわせた指導展開や柔軟な生徒への応答に課題が残された。今後は、教材研究に不可欠な知識を強化するために専門教科内容との連携のあり方や教育実習との構造的な接続を検討していきたい。
  • !)授業を進める意思決定プロセスの視点から!)
    庄司 佳子, 佐藤 文子
    セッションID: 28
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)初任者研修制度は、教育公務員特例法第20条の2の規定に基づき、新任教員に対して、現職研修の一環として1年間の研修を実施する。研修は、「実践的指導力と教育者としての使命感を養うとともに幅広い知見を得させる」ことを目的としていて、_丸1_校内研修 _丸2_校外研修 _丸3_宿泊研修 の3つの内容で実施されている。
     本研究は、この初任者指導の「_丸1_校内研修における教科指導」に焦点をあてる。教科指導では、教員が自信をもって授業に臨み、児童・生徒が期待をもって学習に取り組むことが大切である。従って、初任者研修の重要な部分が指導法の習得にある。そこで、初任者が教室で展開する授業を記録し、授業中の児童の反応、初任者指導教員の指導内容との関連から初任者が授業を改善していくための視点を探る。授業改善は、個人でできにくい。初任者指導教員が配置されている現在、指導教員は、初任者に授業改善のための視点を提示することができれば、初任者は、自信をもって授業に臨むことができる。また、その後も定期的に自己診断をしながら授業を改善していくことができるのではないかと考えた。
    本稿では、授業記録を初任者の発問内容と児童の様子から分析した結果を報告する。
    (方法)初任者4人の授業記録を教師の発問と児童の応答を中心に記録し、その内容から教師の授業を進める際の発問を意思決定プロセスの過程にあてはめて分析する。調査は、2004年4月から2005年3月までの1年間の授業記録を収集して分析した。初任者4名の性別は女性。4名の内、講師経験が1年以上の初任は3名、新卒者は、1名である。
    (結果と考察)初任者の授業は、授業の導入で目標や問題を明確にする発問をした直後、課題に取り組むよう発問する教師主導の授業展開が多くみられた。よって、課題や解決方法を理解できない児童は学習に集中できなかったり、再度説明を必要としたりするため、授業が混乱したり長引いたりした。しかし、講師経験の長い初任者は、教師主導の授業を展開しても新卒者ほど混乱もなく授業を進められる傾向にあるが、授業の目標や問題を明確にする発問以外に、注意や叱責が多くあった。注意や叱責は、児童が学習を受身的に捉えていくことにつながり、その結果児童の発言が極端に少ない授業になる。経験を積んだ教員と初任者の比較では、初任者のほうが授業中の総発問数が多く、発問を意思決定プロセスにあてはめると発問の分散に違いがみられた。初任者は、導入と学習結果の発表での発問数が突出して多く、経験を積んだ教師は意思決定プロセスの各過程にそれぞれに平均的に発問している。初任者の授業中の発問を教科別に分析した結果では、それぞれ得意な教科の授業を例に発問を検討させることを繰り返した結果、各学習過程の発問が分散するようになった。新卒者は、算数を中心に授業研究を進め、発問数の分散が進んだ。講師歴5年の初任者は、理科が得意であることから理科での研修を進め、導入時の発問数が激減した。そして、児童への問いかけや児童の意思を確認する発問が増加した。このことから、小学校教員は、それぞれが得意とする教科での授業研究を進めることの効果が確認できた。
    (まとめと課題)本稿では、初任者でも意思決定プロセスの過程にそった発問計画を立てることで児童の意思が授業に反映して混乱のない授業が成立することが確認できた。今後は、発問内容と子どもの応答との関連から更に分析・検討していきたい。
  • 菓子の消費実態調査から
    近藤 精洋, 滝山 桂子
    セッションID: 29
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>現代の人々は、多くの情報により購買意欲を刺激され、多種多様な商品やサービスを選択している。最近増えてきているコンビニエンスストアはインターネット端末や現金自動預け払い機の設置など従来の小売店とは大きく異なっている。小学生はまわりの環境や情報の影響を受けやすく、多面的な見方がまだ育ってはいない。政府は「21世紀型消費者政策の在り方」の中で、消費者に対して自己責任を求めている。消費者教育は現行の学習指導要領の中に位置づけられているが、小学生の実態に合った教材や評価の方法が十分に整っていない。消費者教育では、消費のみならず、生産・販売などの多面的な見方が育つ教材が求められる。小学生が商品選択時に多面的な見方ができるように、価値認識が変容することをねらいとした授業として、彼らにとって身近な菓子の商品開発を事例として取り上げることは適切であると考えられる。教材の作成にあたっては、児童の消費行動や菓子に対する価値認識の実態を把握する必要がある。 そこで、本研究は、小学校高学年児童の菓子に対する嗜好や消費の実態、菓子に対する評価および価値認識の実態を調査により明らかにすることを目的とする。その際、属性と関連させて検討し、これらの結果を消費者教育の教材開発に資することとする。<方法>2003(平成15)年11月_から_12月に千葉県F市、U市の10小学校5、6年生953名を対象に質問紙留置法による実態調査を行った。 調査内容は「日常生活における小遣いの使いみち」「購買経験の有無」「菓子に対する嗜好や消費の実態」「菓子に対する評価や価値認識」などとした。 分析方法は、購買経験の有無、菓子に対する嗜好や消費の実態、菓子に対する評価の実態を属性と関連させて視覚的に明らかにするためにコレスポンデンス分析を行い、その結果を二次元の散布図に示した。小遣いの使いみちや菓子に対する価値認識を視覚的に明らかにするために、自由記述の回答についてテキストマイニング法を用い、価値ポートフォリオ、価値認識構造図を作成して分析した。<結果>小遣いの使いみちとしては「菓子」「マンガ」が多かった。5年生と6年生の学年間では使途が類似していたが、男子は「ゲーム」「カード」が多く、女子は「文房具」「雑誌」などが多く、男女間では相違が見られた。また、小遣いが増えた場合、女子は「貯金」男子は「ゲーム」に使いたいと考えていることが明らかになった。 購買同伴者と購買経験については、5年生は商品を問わず家族との購買経験が多く、6年生男子は「本」「マンガ」など娯楽的要素の強い商品を自分一人で、6年生女子は「雑誌」「CD」など流行性の高い商品を友達と購買する傾向が見られた。 菓子に対する評価や価値認識としては、コレスポンデンス分析から5年生女子は安全面での関心が高く、6年生女子は菓子に対して積極的な傾向が見られ、6年生男子は菓子に対してやや消極的な傾向が見られた。価値認識構造図からは、全体的には菓子に対して、「好き」「必要」「大事」など肯定的な認識が多く見られた。価値ポートフォリオから、菓子に対し、買い得感や身体・健康面にかかわる価値を認識しており、女子は利便性や環境への配慮にも価値を認識していると理解された。 以上の結果をふまえ、評価の観点を広げ、価値認識を深めることにより自立した消費者をめざした意思決定能力の育成をはかるために教材を開発し、授業実践していくことが今後の課題である。
  • 志村 結美
    セッションID: 30
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    目的
      家庭科教育では、自己実現をめざした主体的な生活者を育成することが主要な目標となっている。主体的な生活を創造するためには、経済的自立とそれを支える職業生活の充実が欠かせない。しかし、家庭科教育において、経済的自立を生活の中で現実的かつ実現可能なものとして捉えさせ、職業生活の在り方と関連させた生活設計教育が不足しており、これに関するカリキュラムや教育方法の見直しをはかることが必要である。
       そこで本研究は、高校生の自己実現をめざした経済的自立及び職業生活を始めるための準備意識、すなわち職業レディネスに関する認識を向上させるための高等学校家庭科教育における教育内容を明らかにし、授業設計の構築を行うことを目的とする。
       前報までにおいて、本研究における東京都の高校生は自己実現に対する意欲や経済的自立志向等を持っている一方、具体的な経済観念や家計管理行動、及び具体的な職業認識について低い傾向にあること、自己実現と経済的自立及び職業レディネスに関する認識と実態には関連性があること、カナダ(アルバータ州)の高校生との比較により、自己肯定感が低く、将来の職業への可能性に自信がもてない等の現状が認められた。
      また、高等学校家庭科教員の調査結果からは、自己実現と経済的自立及び職業レディネスを関連させた授業を行うことの重要性が認められた。さらに、家庭科教育の独自性である生活に密着した授業展開が重要であることも明らかとなった。また、自己実現、経済的自立、職業レディネスを関連させた授業を行なっている教員の聞き取り調査からは、共通的に生徒に培いたいと考えている力として社会的自己実現、個人的自己実現、主体的な生活者・消費者としての自覚、意思決定力・自己決定力、具体的・客観的な職業観・勤労観、将来的展望等が認められ、また授業実践における重要な事項として、生徒の実態に即すること、現実の社会に沿った具体的な題材を提示すること等、が抽出された。
       そこで、本報では以上の結果をふまえて、高等学校家庭科教育において求められる教育内容を追究し、授業設計の構築を行うことを目的とする。
     方法
      まず、自己実現、経済的自立及び職業レディネスに関する高校生の認識と実態調査、高等学校家庭科教員の認識と実態調査の2つの調査を行い、高等学校家庭科教育における課題を明らかにした。次に以上の調査の分析・検討から、家庭科教育において求められる教育内容の構築を試み、最後に教育内容をもとに授業設計、授業実践、評価・分析を行った。
     結果
       高校生と家庭科教員の調査分析・検討から、高等学校家庭科教育において求められる教育内容をもとに、授業設計を構築した。題材を設定する際の順序性として、具体的に把握しやすい自分自身を分析することを授業の導入とした。自己分析をすることにより自己理解を高め、家庭科教育の独自性である身近な家庭生活における視点で授業を展開した。その後、高校生の発達段階に即した市民社会の一員としての視点に発展させるよう意図した。社会の変化に対応したデータを活用することにより、身近な家庭生活から社会へとつながりを持たせ、個人的自己実現とともに社会的自己実現を育成することに努めた。本授業設計は、授業実践・評価を通して、生徒が自己実現をめざした経済的自立や職業レディネスを向上させるのに総合的に効果があったことが認められた。
  • 妹尾 理子, 青木 幸子, 伊藤 葉子, 内野 紀子, 佐藤 麻子, 渡辺 彩子
    セッションID: 31
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    研究の背景と目的
    近年、子どもをとりまく情報世界では、安易な消費や借金を誘う情報があふれている。また、金融規制緩和と情報通信の技術革新により、主体的に消費生活をつくっていくために必要な健全な金銭観や金融経済の基礎的な知識を扱う新たな「金銭教育」の重要性が高まっているといわれる。さらに、金融や消費者教育関連の諸機関からは教材や冊子の提供等がみられ、その有効性の検討や利用の可能性を探ることでより意味のある教育実践の可能性が考えられる。 そこで、関東地区会金銭教育研究グループでは、家庭科における金銭教育の方向性を考え、カリキュラム開発を行うことを最終目標に、子どもを対象としたメディア・リテラシーに関する基礎的研究に取り組んでいる。これまでに実施したのは、学習指導要領や先行研究の概要把握と、小・中・高等学校の子どもを対象にした質問紙調査である。本報では、子どものCMの受け取り方と、金銭観及び金融に関する意識・知識との関連等を分析し、メディア・リテラシーの形成要因を探ることを主目的としている。
    方法
    以下の2種類の質問紙調査を同一の生徒に実施した。1)金融関連のテレビCM(銀行、信販、生命保険、消費者金融関連の5種)を視聴させた上でその印象を問う調査 2)「金銭・金融に関する意識・知識」を問う調査調査の概要は以下の通りである。1)実施時期:平成17年2_から_3月 2)対象生徒:小学校5年255名(男113名、女子142名)、中学2年生300名(男子156名、女子144名)、高校2年生218名(男子114名、女子104名)(東京・千葉・群馬の国公立学校在学生)
    結果
    (1)金融CMに関する質問紙調査の結果、CMによって好感度は異なり、学校段階を比較すると小学生のほうが中学生や高校より好感度が高い傾向がみられた。ただし、CMの内容に関する質問では、3種のCMにおいて、画面に登場している動物や人物への印象のほうが強く、各CMの主目的とされる消費者金融やクレジットカードに関する印象は薄い傾向が見られた。
    (2)金融に関する意識や知識についての質問紙調査の結果、貯蓄への意欲や適切な値段での購入への意識は高いことがわかった。一方、株や投資への興味は低く、税金や消費者金融の金利に関する知識は乏しいことが示された。
    (3)学校段階の比較においては、質問20項目中半数以上に有意な差がみられ、小学生のほうが中学・高校生にくらべて、支出内容を記録している割合が高かった。一方で、クレジットカードの仕組みや所得税の知識は年齢が高くなるほど多くなることが示され、金融に関する意識や知識の年齢による違いが明らかとなった。

    注: 本研究では、「金銭教育」の関連用語として「家庭経済教育」や「金融教育」という言葉の使用も考えたが、健全な金銭観を養い、金融経済の基礎的な理解をすすめるための教育という意味で、「金銭教育」という言葉を用いた。
  • 仲田 郁子
    セッションID: 32
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    1、目的
    自分らしく充実した人生を送るためには、生活設計を立案し自らの課題について考えることが不可欠である。しかし十代半ばの高校生には、何十年も先まで考えることは簡単なことではない。近年は社会変動の激しさに伴うフリーターの増加や未婚化・少子化の進行などの問題点が指摘され、また就職活動に取り組もうとしない若者が増えていることなど、従来は見られなかった問題も注目されてきており、高校生にとっては、学校を卒業してから精神的・経済的に自立するまでの移行期の過ごし方を考えることが特に重要であると考えられる。就職や結婚などに関する意識は、性別や進路の違いによって相当大きいことが予想されるが、これらについて今までに充分研究がなされているとは認められないことがわかった。
    そこで本研究では、高校生が学校卒業後の生き方についてどのように考えているか調査を行い、男女差と進学志向に注目して、その特徴と課題を明らかにすることを目的とする。
    2、方法
    ほぼ全員が大学進学を希望していると考えられる高校2校(都立高、千葉県立高各1)と、多様な進路選択が行われていると考えられる高校2校(都立高、千葉県立高各1)の計4校を選び、各校の家庭科担当教諭に依頼して質問紙調査を行った。対象は1年生、調査時期は2004年11月から2005年2月、回収数は647(男子302、女子345)である。
    3、結果
    調査は高校生の(1)親との関係と成育環境、(2)職業選択・結婚・自立に関する意識、(3)現段階での自立度と興味関心、(4)生活設計のための資源の4点について行った。今回は(2)と(4)について報告する。
    職業選択で重視する点については全体に大きな違いは見られず、「安定していて雰囲気が良く、自分がやりたい仕事」が挙げられていた。働き方についても大きな違いは見られなかったが、男女別に見ると、どの高校でもフリーターについては男子の方が「長く続けるべきではない」と考えていることがわかった。「就職のことを考えると不安になる」者は進路多様高の男子に多く見られ、女子は男子に比べて、人間関係に不安を持つ者が多かった。
    結婚については「するつもりはない」とする者は大変少なく、結婚志向は高い。「フリーターとは結婚したくない」と考える女子は男子と比べて多かった。「長男には特別な役割がある」、「理想的な女性の生き方は専業主婦」とする者は今回の調査ではかなり少なかった。「子どもが3歳になるまでは母親は家で子育てをするのがよい」とする者は進路多様高の女子には比較的多く見られたが、全体では「女性も働き続けるのがよい」とする者が多かった。
    自立したと言えるのはいつかという問いに対しては、全体では「就職して自活が可能になった時」が最も多かった。進路多様高の女子ではそれ以外に「親元を離れた時」とする者が多く、男子では同様に「親元を離れた時」と「就職した時」が多かった。
    自分の生活設計を考える時、どのような資源を利用したいかについては、男子は「自分で勉強する」と答えた者が最も多く、続いて「学校での進路指導」や「アルバイトの経験を生かす」が挙がった。女子もほぼ同様であるが「親や友人と相談して考える」とする者が男子より多かった。「授業の中で考える」を選んだ者は男女共大変少なく、彼らも教科としては現代社会や政治経済、総合的な学習を挙げており、家庭科はごく少数の者しか選択していなかった。
    高校生は就職や結婚について真面目に考えてはいるが、生活設計として積極的に捉えることは充分にできていないように思われる。
  • インターンシップの実施を通して
    香川 実恵子
    セッションID: 33
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    小松高等学校家政科は平成14年度にライフデザイン科に学科改編し、新しい教育課程に基づき、時代の変化や社会のニーズに対応できる家庭科教育の在り方を模索してきた。なかでも、専門科目として、学校設定科目「ライフデザイン」を開講し、自らの生き方を見つめ、将来を考える時間を設ける取り組みを行うことにした。学校設定科目「ライフデザイン」は教科書等もないため、本校独自の年間指導計画・独自の指導書を作成し、これに改善・工夫を加えながら、日々の授業を行ってきた。さらによりよい授業展開を行うためにインターンシップ実施を通した進路指導の取り組みを検討することにした。
    【方法】
    小松高等学校ライフデザイン科ライフデザイン科コース2年生の生徒20名を対象に、学校設定科目「ライフデザイン」の授業を1年間週2時間ずつ次のような内容で授業展開することにした。
    (1)自分を見つめ、自分の在り方を考える。
    (2)ライフステージと生活課題を考える
    (3)よりよい生き方を考える
    (4)インターンシップ(就業体験)を通して考える
    (5)ライフデザインを考える
    なかでも、「(4)インターンシップを通して考える」では、社会人活用事業として、事業所の指導員の方に「社会人としての心構え」講話をしていただき、事前指導を充実させた。インターンシップの実施場所は地元の企業7社とし、生徒の将来就きたい職業を配慮した企業に配置した。実施は連続2日間、一日6時間程度、各事業所で行った。事後指導として、レポート・感想文の作成、お礼状の送付などを行った。また、各事業所より個人評価、インターンシップを通してのアンケートなどを実施した。
    【結果】
     「(1)自分を見つめ、自分の在り方を考える」では、自己理解、他者理解が深まるとともに、自分の考える短所も見方によっては長所にもなるという認識が深まった。「(2)ライフステージと生活課題を考える」では、ライフステージの全体像を把握し、将来の夢を具体的に表現することができた。また、ライフステージ毎の課題について、具体的な事例を元に考えることができた。
    「(3)よりよい生き方を考える」では、いろいろな生き方や暮らし方、職業や資格などについて学んだ。さらに具体的な職業とその仕事内容、必要な資格や適性、仕事の将来などを調べながら、自分にあった仕事を他の職業と比較して考える機会をもつことができた。また、次に行うインターンシップ実施に向けての意識付けにつながった。
    「(4)インターンシップを通して考える」の事前指導では、「社会人と学生の違い」、「あいさつの大切さ」などを、生徒たちは改めて学ぶことができた。また、インターンシップ当日は、働くことの喜びや、仕事の大変さ、仕事に取り組む従業員の意気込みや協力体制などを体感していた。事後指導では、一生懸命働いたことに充実感を持った生徒、チームワークの大切さを学んだ生徒、自分が就きたい職業を再確認した生徒、など生徒それぞれが多くのものを学んでいることが示された。職場での実体験、敬語の使い方、あいさつの仕方などの学習事項は3年次の進学・就職試験の面接等でも生かされることが予想される。事業所に対するアンケート結果もおおむね良好であり、来年度以降も引き続きインターンシップを実施する予定である。
    (5)ライフデザインを考える」は1年間の学習内容を振り返りながら、より具体的に将来設計ができていた。
  • 飯塚 比奈子, 佐藤 文子
    セッションID: 34
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【研究目的】 家庭科教育では、「よりよい生活を目指し、主体的に判断して意思決定できる人間の形成」を目指している。そのためには、生活的自立のための基本的な技術・知識の習得に加え、自分の人生は自分で築くという、生活づくりに対する積極的な意識と態度が重要であり、その割合は年齢を重ねるほどに大きくなっていくと考えられる。すなわち大学生活は、生活すべてにおいての自立を目指し、社会に出るための準備をする最終段階であるといえる。そこで、本研究では社会にでることを目前に控えた大学生が、社会人としての自覚・責任についてどう考えているかを意識と実態の両面から探究し、さらにそれが特に企業における社会人として求められる資質・能力との関連においてどれほどの相違があるのかを追究することを目的とする。【研究方法】 調査対象は、千葉大学全学の3年生および4年生548名、有効回答率は98.0%であった。調査期間は2004年6月_から_12月で、質問紙留置法によるアンケート調査を実施した。調査内容は_丸1_社会への貢献、_丸2_社会的ルールへの対応、_丸3_自分が周囲に与える影響、_丸4_他者とのコミュニケーション、_丸5_物事への取り組み方、_丸6_自己管理等である。なお、本研究における調査内容において、社会人として求められる自覚・責任とは特に企業に働く社会人として求められるものであることを前提として規定している。以上から、一部上場企業において長年人事に関する業務に携わってきた5名へインタビュー調査を行い、そこから抽出された内容と文献をふまえて質問内容を設定した。【結果】 全体の傾向として、社会的ルールへの対応、自己管理、他者への思いやり・受容、自分自身の物事に対する取り組み方に関する内容において高い意識が認められた。しかし、全体的な意識の高さに対して、実態が伴っていないという傾向が認められた。 性別による比較では、女性のほうが男性よりも他者に対する理解や受容の気持ちが強く、また実態においても肯定的結果が高いことが明らかとなった。社会的貢献等への積極的な行動に関する項目においては、全体的に女性が意識・実態ともに肯定的な回答が高い結果が認められた。男性が女性に比して高い結果が得られた項目は、意識・実態ともに他者を説得し自分の意思を貫こうとする等の内容が多いことが認められた。また、政治・経済への興味関心等も男性が高いことが明らかとなった。 学部による比較では、未知に対する意識や柔軟性は社会科学系学部生が自然科学系学部生に比して高いことが明らかとなった。教育学部と医学部の結果に共通する点が多く、他者への理解・受容、物事に対する誠実・積極的な取り組みに関する項目において両者に高い傾向が認められた。また、教育学部・医学部・薬学部・園芸学部等の将来の職業が明確である学部の学生のほうが目指す自分像を持っていることが明らかとなった。自己規制に関する項目では、医療系学部生がその他の学部生に比べて否定的な回答が多い結果となり、自己規制ができていることが明らかとなった。 学年による比較では、意識項目に関しては学年間において大きな相違はみられず、全体的に肯定的な回答において高い結果が得られた。社会貢献等への積極的行動に関する項目では4年生のほうが肯定的結果においてやや高い傾向が認められた。実態項目においては4年生のほうが3年生よりも肯定的な回答が多いことから、4年生のほうが意識と実態が一致していることが明らかとなった。 今後は、本研究をさらに発展させ、既に社会に出ている若者たちが社会人としての自覚・責任についてどう考えているかを意識・実態の両面から探究し、企業において求められる能力・資質との関連においてどれほどの相違があるのかを追究する。
  • グランデッド・セオリー・アプローチを用いた分析
    荒井 きよみ, 伊藤 葉子
    セッションID: 35
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】今、家庭科教育に求められることは、生徒の生活現実につながる視角から生活者としての自立を育んでいくことだと考える。そこで、生活をめぐるヒト・モノ・コトを基点にその複合的な様相に気づかせ、様々な価値観を知った上で生活者としてのアイデンティティの確立を目指して高校家庭科の授業実践を行ってきた。本研究では卒業生に面接調査を行い、この授業実践が彼らの生活現実にどのようにつながっていったのかを明らかにすることとする。同時に、現代社会に生きる若者がどのような視角から生活という営みを実感しているのかを捉え直し、これからの家庭科教育への示唆を得たいとも考えている。この若者の生活現実とのつながりや彼らの視角を捉え直すためには、解釈による意味の探索を重視する質的な方法が適していると思われる。本研究では絶えず変化している社会的現象の解釈に依拠する割合の高いグランデッド・セオリー・アプローチを用いて分析する。なお、面接調査の分析の際に、授業実践後の感想も参考資料とした。
    【方法】対象:2002年度_から_2003年度に家庭一般を履修した20歳の男女9名(大学生7名・専門学校生2名)実施時期:2005年1月_から_3月面接調査:一定の質問に従い進めながらも、対象者の語りに沿って情報が得ることが可能である半構造化面接を行った。聞き取り時間 60_から_100分質問項目
     1 家庭科でどのような授業が印象に残っていますか
    2 家庭科の授業で役に立っていることはありますか。授業内容(対象者が高校1_から_2学年時に実施):2年間を通じて5領域を扱うのではなく、領域の枠にとらわれずに「アイデンティティの探求」という一つのキーワードで授業を編成した。まず、1学年(2単位)では家族・保育・衣生活・住生活を融合して、これらを時間軸と空間軸で組み換え、授業を行った。2学年(2単位)ではグリーンコンシューマーとしての視点から、消費生活を中心に食生活を展開して行った。
    【結果】 面接調査からトランスクリプトをおこし、木下康仁の修正版M_-_GTAを用いて分析した。この分析方法ではデータの切片化はせずに、データの解釈を行い、概念を生成していく。トランスクリプトを何回も読み返した結果、家庭科の授業の印象を言語化するレベルには個人差があること、各授業内容と今の生活とを直線的に結びつけることは難しいことが示されたので、分析テーマを「彼らがどのような視角から生活を捉えているのか」にし、そこから家庭科の授業を捉え直す示唆を得ることとした。まず、この分析テーマに沿って、対象者データの着目した箇所に関してできるだけ多角的に検討し、概念を抽出した。概念例としては、「薄っぺらな土台の発見」「ひとりぼっちの時間のバランス」「形から思い出せる情景」などが挙げられる。例えば、「薄っぺらな土台の発見」は、「もともと自分でも薄っぺらい土台があって、家で仕込まれていたものとかあったんですけど、たいしたことではなくて、基本的なことだけ。」や「自然に人にうめこまれていることが、知識として自分が得て、意識できればいいんじゃないですか。」などの箇所から抽出されたものである。これらの概念からカテゴリーを生成し、若者が生活を捉える視角を表していく。その上で、若者の生活現実につながるような家庭科の授業のあり方を考えていきたい。
  • 得丸 定子, 川島 名美子
    セッションID: 36
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ペットロスは正常な適応反応であるが、飼い主が受けるストレスは様々で、情緒的・身体的症状が現れることもある。日本ではペットロスに関する一般の理解はあまり進んでおらず、文献や研究論文等も少ない。ペットロス・ケアに関しても、欧米諸国の知識や方法を直訳的に取り入れている現状である。
     そこで本研究では、個人の性格・価値観・ペットの飼育経験等の観点から、ペットへの接し方・ペットロスの諸症状・対処法等について分析し、日本人の感性に合ったペットロス・ケアや学校教育における「いのち教育」の取り組みに資することを目的とした。
    【方法】本調査『ペットとペットを失うことに関するアンケート』(無記名、自記式)は、2004年4月_から_同年6月に実施した。調査対象は、新潟県・群馬県・千葉県・大阪府から各1大学、合計4大学679名である。調査内容は、「心理尺度に関するもの」82項目を中心に、「属性と信仰している宗教の有無に関するもの」「ペットの飼育経験に関するもの」「ペットの位置づけ・価値観に関するもの」「ペットを失った時の状況と対応に関するもの」の、計116項目と自由記述である。分析は因子分析(主成分分析、バリマックス回転)、分散分析、多重比較、比率の差の検定、KJ法を行った。
     【結果・考察】
    1.因子分析結果
    心理尺度に関する質問項目について因子分析を行い、8因子を抽出。各因子名は第1因子“抑うつ型”、第2因子“協調・努力型”、第3因子“理解・共感型”、第4因子“自信型”、第5因子“宗教肯定型”、第6因子“情緒型”、第7因子“個性尊重型”、第8因子“内向型”とした。
    2.因子とペットロスとの検討
    各因子により、ペットの位置づけ・価値観、ペットロス時の心身の状況、対処法の違いが明らかになり、心理傾向により、具体的なペットロスへの対処法の手がかりが示された。
    3.「性別」「宗教」「飼育経験」とペット・ペットロスとの検討
    “性別”では、女性の方が男性よりも情緒的なペットロス反応を示した。ジェンダーバイアス的な価値観や子育てが影響し、感情を認めたり表出したりする段階で男女差が生じているものと考えられる。“信仰心”では、信仰心の高い人はペットロス時に悲嘆が身体症状として表れたり、他に傾聴を求めたり、ペットの安楽死反対論が示された。 “ペットの飼育経験の有無”では、飼育経験がある者の方が、ない者よりもペットを「守るべき存在」、「心の安らぎ」と捉えていた。これらの結果は、ペットの飼育を実際に経験することが、ペットの存在感を認識させることを示している。“ペットの喪失経験の有無”では、ペット喪失経験により「後悔」を覚え、ペットが自分にとって「心の安らぐ大切な存在」であったことに気付き、「守るべき存在」であると認識していることが示された。また、ペットの喪失経験者の方が未経験者よりも代わりのペットを欲している結果が示されたが、「代わりが欲しい」とは、なくしたペットと外見や習性などが同じ代替のものではなく、ペットという存在や、そこから得られる安らぎが欲しいと感じているものと考えられる。
     以上の結果は、日常生活で死別経験が乏しくなっている現在の子どもにとって、ペット飼育や死別で経験する出来事、心理体験は「いのち」の重さを実感できる重要な教育内容を持つことを示している。
    4.自由記述の検討
    ペットを亡くした時の感情については「悲しみ」や「怒り」などの情緒的反応が回答の約半数を占めた。次に否定的反応が多く、内容は後悔と罪悪感の反応が大部分であった。ペットを亡くした悲しみから立ち直ったきっかけについては「時間の経過」が最も多かった。
第48回大会 ポスター発表
  • 青木 幸子, 安藤 美紀子, 石井 克枝, 岩崎 恭枝, 内野 紀子, 妹尾 理子
    セッションID: p-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    目的:関東地区会の研究グループでは全国調査のデータを用いて、児童・生徒の生活の自立と共生に関する意欲と実態の関連、親から受ける影響を分析し、今後の家庭科教育カリキュラムや指導方法の改善に資することを目的とした。
    方法:全国調査の「家の仕事」の中から自立に関して8項目、共生に関して7項目を選んだ。各項目を子どもの実践の度合いと意欲の関係、「父親による食事の用意」と「母親の就業形態」による子どもへの影響について地区別、性別で比較・分析した。分析対象は関東地区(東京を含む)と全国である。
    結果と考察:(1)調査対象者は、全国11,142名、関東地区2,225名である。
    15項目のうち「いつもする」と約半数が答えている項目は、「季節や気候にあった服装を自分で決める」「近所の人に挨拶する」の2項目のみである。「パソコンを使って暮らしの情報を集める」以外の項目はすべて女子が男子を上回っている。地区別では関東地区の方がやや高い項目が多い。「父親による食事の用意」は全体的に低いが、関東地区の方がやや高い。「母親の就業形態」はパートが約3割、常勤・無職は2割台で、関東地区と全国の差はほとんどない。
    (2)自立の項目で「もっと上手になりたい」という意欲は、食生活では男女共約50%強で高いが、衣生活では男女共に約20%である。意欲と実践度との関係では、男子は食生活の実践度の高い方が意欲があるが、衣生活では実践度との関係は見られない。女子は食生活でも衣生活でも実践度の低い方が意欲がある。情報の活用に関しては男子の方が意欲も実践度も高い。実践度と意欲の関係では、男子は実践度の高い方が意欲的であり、女子は実践度との関係が見られない。
    食生活や衣生活の仕事に対する意欲には女子自身のジェンダーが関係していると考えられる。
    (3)人との共生の項目で「もっと進んでしたい」という行動意欲は、総じて関東・全国の地区別、男女別にかかわりなく、実践度の高い人ほどある。しかし、意欲的に「子どもの遊び相手」をしたいと思っている人は、他の項目に比べて極端に低い。幼稚園や保育所などでの体験学習を含めた交流の機会と内容の検討が必要であると考えられる。 環境との共生の項目は、概して実践度が低い。ゴミの出し方や電気・水の使い過ぎに対する行動意欲は、実践度の低い人ほど、また男子より女子、全国より関東地区の方が高い。
    (4)自立の項目で「父親による食事の用意」が子どもの実践度に与える影響は、比較的容易で困難なく実践できる項目に見られ、女子がやや高くなっている。ある程度技能が必要な項目への影響は低く、男子に顕著である。地区による違いはないと言える。
     共生の項目では、挨拶や買い物に父親の行動が関連しているが、地区による違いはなく、やや女子に高い傾向が見られる。環境に関する項目では性別、地区別による違いはなく、父親の行動が実践度に関連しているとは言えない。
    (5)母親の就業形態(常勤・無職)が子どもの実践度に与える影響を見ると、自立の「フライパンや鍋を使って料理する」でわずかに違いが見られたものの、その他自立・共生の項目ともに母親の就業形態による違いはほとんど見られない。地区による差も見られない。顕著ではないが、母親の就業形態よりも性別において、子どもの家庭内での実践度に差が見られる。
    子どもの行動には、母親の就業形態よりもそれぞれの家庭の方針・考え方の方がより影響を与えていると考えられる。
  • ー女子学生のミシンモニター調査からー
    安岡 和佳, 鳴海 多恵子
    セッションID: p-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    <目的> 布を使ったものつくりの指導は、児童・生徒さらに短大・大学の学生においても知識・技能の低下や興味・関心の希薄さから多くの課題を抱えており、教材や指導法について種々の研究が行われている。本研究は、製作環境面から課題解決をはかることを目的として、代表的な用具であるミシンの日常的な使用実態に基づく改善等について検討した。
    <方法> ミシンを一定期間貸与し、その間の使用状況および使用上の意見や要望を中心にモニター調査した。 対象は教育学部に在籍する女子学生22名である。モニター22名のうち応募によるものが13名、依頼が9名である。モニター期間は2004年8月_から_10月初旬の約60日間である。貸与したミシンは12通りのジグザグ機能のある直線縫いミシンで、自動糸調子設定、上停止・下停止機能等がある。種々の機能については調査期間前にモニターに説明をした。調査方法は、記録用紙を配布し、ミシン使用時に使用日時、作業内容、使用場所、使用機能や縫い目の種類等についての記入を依頼した。また、製作物、作業場所、収納場所の写真による記録も依頼した。さらに、モニター期間後に記録内容をもとにミシンの使用感やミシンへの要望やこれまでの被服製作に関する学習経験等について記入式および聞き取りによる調査を行った。
    <結果> モニターがミシンを使い始めたきっかけは、「身近な人がミシンを使用していた」ことが70%と多く、「家庭科の授業」とする人の割合を大幅に上回った。
    さらに「身近な人からミシンの使い方や裁縫を教えてもらった」経験は85%が持ち、今回のモニターについては家庭縫製にふれる環境が幼少時代にあったことがわかった。しかし、モニター期間前の日常的な布を使ったものつくりは55%が「していない」状況であった。 モニター期間中のミシンの使用日数は、モニターの72%が1日_から_5日間であり、平均使用日数は11日であった。最大では32日間の使用もあったが、全く使用しなかったモニターが4名あり、縫製の基礎知識がないことや縫製用具が揃っていないことが意欲を欠く要因であったことがあげられた。
    ミシンの使用場所はほとんどが自室で、「こたつくらいの高さの座卓」「20cmくらいの高さの木箱や机」と座位での使用が80%であった。ミシン使用時の不都合な点として、ミシンが重いことや準備の面倒さ、スペースの確保の難しさがあげられており、製作意欲に用具と住環境の相互の問題が影響することが示された。
    モニター期間中のミシンの使用目的は、衣服製作はリメイクも含め8名(9点)あったが、全般的にはマットやカーテンなどの生活用品(35点)やバッグや小物の製作(16点)、衣服の裾直しなどの補修(28点)など、簡易なものが多かった。
    使用した機能などについては、モーターの作動は「スタートストップボタン」の使用が86%であったが、座位の使用状況でも膝を立ててコントローラを使用する例もあり、両手が作業に使用できる利点へのこだわりもみられた。また、押さえは7種あったが、作品の部位や布の特性に応じて付け替える事はなされず、基本押さえのみで製作されていた。ジグザグ縫いは30%の作品に使われていたが、刺繍模様縫いについてはほとんど使われず、将来子どものために作るものに使う縫い目、との位置づけがされていることがわかった。
     以上の結果から、ものつくりの意欲を支持し持続させるために、ミシンはさらに軽量化と省スペース化、使用実態に応じて選定された機能に簡易化する改善が求められるとともに、被服製作学習におけるミシン指導においては、生活用品など容易なものの製作活動の実態を視野にいれて、教材設定されることの必然性が示唆された。
  • 調理実習の分析・考察から
    千葉 悦子, 河村 美穂, 小倉 礼子, 松井 洋子, 松岡 文子, 小清水 貴子
    セッションID: p-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    目的
    近年、総合学習等で調理して食べる授業が広がる一方で、家庭科の調理実習では手先や身体を使うのが苦手な生徒、少しの失敗で気力を失う生徒の増加という問題状況がある。そこで本研究では学校教育の現状や生徒の実態を通して、家庭科で調理実習を学ぶ意義を明らかにすることを目的とする。本研究は次の3つの研究からなる。1)筆者らが実際に行っている調理実習の目標を分析し、実際にはどのような設定理由により、実習が行われているかを明らかにする。2) 高校教科書に掲載されている調理実習の題材を抽出し、その特徴と傾向を明らかにする。3) 年間を通した調理実習計画の事例を目標設定の視点から分析し、1)2)の結果と併せて調理実習の提案を行う。
    方法:研究_丸1__から__丸3_の方法は次のとおりである。_丸1_ 各メンバーが自校で実践している調理実習において目標としていること、目標設定の理由を題材ごとに書き出しデータ化して分析する。_丸2_ 高校教科書19冊(家庭総合8冊家庭基礎10冊生活技術1冊)に掲載されている調理実習題材を、ねらい、使用食材、調理方法、献立などについて分析する。_丸3_ _丸1_で分析した調理実習事例のうち、年間6回を通して自立を目指して計画されている一例を対象として、題材の選定、配列、設定目標、について相互の関連及び生徒の実態との関連について分析し、調理実習の目標設定や題材選定について明らかにした上で、理想とする調理実習について考察する。
    結果と考察:_丸1_筆者らが実践している調理実習の目標は、実習全体の基盤になる目標と個々の実習目標との二層で示されることがわかった。つまり、食の自立に向け、理論と体験を結びつけた応用力の育成と個々の調理技術の習得を同時に目指しているのである。したがって、各回の調理実習を個別に捉えるのではなく、年間を通して意味のある授業計画が必要であるといえる。_丸2_教科書に掲載されている調理実習のねらいは「寒天とゼラチンの扱い方」のようにhow toの形で書かれているものが多く見られた。とくに和風だしのとり方は全教科書にあり、日本の食文化について学ぶことも意図されている。ただし、「日本型食生活を考えよう」といった食生活について考えさせる調理実習は少なく、調理法についても若い人の好む揚げ物や、簡便といわれる電子レンジの使用も多くはない。_丸3_対象事例の分析結果からは、6回の調理実習(1、ご飯・豚汁 2.ハンハ゛ーク゛・ハ゜スタ 3.麻婆豆腐・粟米湯・涼拌三絲・ご飯 4.フ゜リン・サフ゜リメント飲料・マヨネース゛・マシュマロ 5.自由献立)が題材の配列及び学習を通した生徒の成長の視点から考えられていることがわかった。すなわち、生徒は、1_から_3で調理をすることへの違和感をなくし、美味しく作りたいという意欲を持つようになり、人間関係も変化する。4_から_5では自らの食の問題を社会的視点から考えるようになる。6で食生活全体を自身の発達の関連から総合的に捉え、食を通じて生活の自立を目指すようになる。対象事例では、調理実習が単に技術の習得や調理科学的な理解を目指すものではなく、生活を体験し成長させる方法として位置づけられている。 実際の調理実習では、教師は生徒が「何かを学んでくれるはずだ」という期待をもって、作って食べることだけを目標にすることも多い。しかし、教師が二層の目標をはっきりと意識し、全体を見通して生徒の生活実態に応じた実習を行うことで、二層の目標が生徒の中で有機的につながっていくと考えられる。ここに家庭科の調理実習の意義があるのではないだろうか。
  • 杉村 桃子, 綿引 伴子
    セッションID: p-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】:私たちの現代生活は,自分の周りにある商品からよりましなものを選んでやりくりしていくだけでは,安全で健康な暮らしを望めなくなってきている.経済性を原則とする生産者の提供する財・サービスを購入し消費する「消費者」の視点のみから生活を営むことでは,自らの生命を安全に明日へとつなげることは困難であろう.「消費者」の視点ではなく「生活者」の視点に立ち,自分の生命を安全で健康に営むため,一人ひとりが食への関心を高め,食に関する情報を適切に理解し,安全で健康な食生活を求めて行動して,企業や行政にはたらきかける力(社会的意思決定能力)が必要であると考える. 本研究では,学習指導要領や教科書の記述内容,授業実践内容を分析・考察し,これまでの家庭科の消費者学習分野と食生活分野における課題を明らかにし,上記の力を児童・生徒が育むための授業試案を作成することを目的とする.
    【方法】:(1)平成元年告示(前要領)及び平成10・11年告示(現行要領)の学習指導要領(小・中・高)及び,(2)教科書(小・中・高)の,食生活分野,消費者学習分野において,「食の安全」と「社会的意思決定」についてどのように記述されているか分析する.(3)1990年1月_から_2004年12月の『家庭科教育』(家政教育社),『家庭科研究』(芽ばえ社,家庭科教育研究者連盟編集)の中で紹介された「食の安全」に関する実践を抜粋し,学習の視点,学習内容・方法などについて考察する.(4)(1)から(3)の結果をもとに,これまでの家庭科の反省と今後の課題を明らかにし,授業試案を作成する.
    【結果と考察】:
    (1)前要領と現行要領を比較して,小学校では変化はなく,物の選び方,買い方,金銭の使い方について書かれていた.中学校では,消費者の権利や消費者相談機関について新たに記述されたが,社会参加の視点や食の安全について考える視点はなかった.高校では食の安全について考える視点と消費者の社会参加の方法とその効果について記述が増えた.小,中,高校と学校段階が上がるにつれて,食の安全と社会的意思決定に関して多く記述されるようになったことから,重複をなくし発達段階に応じて食の安全性や消費者の社会参加について指導することが意図されていると考えられる.
    (2)前要領版教科書と現行要領版教科書を比較すると,小学校では,社会参加や食の安全の視点がなかったが,中学校・高校ではどちらの視点もみられるようになり,特に高校では消費者の社会参加の視点が多くなった.高校の現行要領版では,遺伝子組み換え食品,ポストハーベスト農薬,内分泌かく乱物質の危険性が新らたに記述され,安全で健康的な食生活が困難になっている現状をあらわしている.
    (3)授業実践内容をみると,21実践中20実践で食品添加物が題材となっていた.着色料の検出実験やウインナーソーセージやハンバーグなどの調理実習を取り入れているものが多くみられた.食品添加物に対してメリット・デメリット・中立の視点での実践比率は3:11:6であった.社会参加の視点が含まれていた実践は,3実践あり,消費者相談室に電話や手紙を書いた実践や生協と手紙のやりとりをした実践,地域の消費者運動や消費者の権利について学んだ実践があった.
    (4)「食の安全」を題材にし,社会的意思決定能力を育むことを意図した消費者学習の授業試案を作成した.全体目標を,「生活者の視点で食生活の背後にある問題を探り,認識し,安全な食生活のために何をするべきかを個人レベルと社会レベルの視点から考えていく力を養う.」「消費者として積極的に食品を扱う企業や行政にかかわっていく姿勢を養う.」とし,各学校段階に応じた目標と題材を設定した.(共同研究者・河本那未(石川県内灘町立鶴ヶ丘小学校))
  • 依田 多恵, 岡野 雅子
    セッションID: p-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    問題と目的 近年、少子化の進行や家庭生活の変化などに伴い子育てについてもさまざまな変化が見られるようになった。子どもの健全な発達には周囲の環境がきわめて重要であるといえる。そこで、本研究では子どもにとって最も身近な人的環境である母親に焦点をあて、特に母親のもつ「養護性」に着目した。「養護性(nurturance)」とはFogel & Melson(1986)によれば「相手の正常で健全な発達の促進のために用いられる共感性と技術」と定義される。養護性は幼い子どもへの保護やいたわりおよび慈愛に満ちた行動を指すが、対象は幼い者に限らず一時的にでもその有用性を失っている存在(例:障害者や高齢者、傷ついた動物や萎れた花など)に対して、その発達を支え促す方向の機能を含み、育つことを目標とするところが特徴的である。
    近年では親の子どもへの不適切なかかわりや児童虐待等が社会問題化しているが、今日、実際に親となり子どもを育てている母親の養護性はどのようであるのだろうか。それは、彼女たちが受けてきた中学・高校「家庭科」保育領域の学習とどのように関連しているのだろうか。このような視点のもとに、本研究では幼児をもつ母親の養護性と「家庭科」保育領域の学習経験の関連について探ることを試みた。
    方法 方法は質問紙調査法である。調査対象者は、長野県の保育所(園)35ヶ所の年中組と年長組に在籍する幼児の母親である。質問内容は、属性、母親の養護性についての項目、中学・高校の「家庭科」保育領域の中で「印象に残った授業」等である。配票数1,597、回収数897(回収率56.2%)で、調査時期は2004年6月_から_7月であった。
    結果と考察 (1)母親の養護性は、先行研究(小嶋1991、中西・粟津1996など)を参考に作成した57項目に対する回答について因子分析(主因子法、固有値1以上の値についてハ゛リマックス回転)を行い、5因子を抽出した。各因子負荷量0.40以上で2因子にまたがらない項目について検討し、第1因子「子どもに対する自信」、第2因子「親との関係」、第3因子「子どもへの興味」、第4因子「福祉への関心」、第5因子「夫の態度」と命名した。(2)中学・高校「家庭科」保育領域の中で「印象に残った授業」が「ある」の回答は16.3%であり、母親の年齢と関連が認められ若年層に多い(p<.01)が、子どもの性や人数、母親の就労状況との関連は認められない。その授業内容についての自由記述は「保育体験学習」が過半数を占め最多であった。(3)母親の養護性の各因子得点および総得点を算出し、平均点について中学・高校「家庭科」保育領域の「印象に残った授業」の有無について比較した結果、第1因子、第2因子、第3因子、第4因子および総得点において2群間に有意差が認められた(p<.05_から_p<.001)。したがって両者の関連は強く、中学・高校「家庭科」保育領域について「印象に残った授業」がある母親の方が養護性得点は高いことが明らかとなった。(4)本資料の母親にとって中学・高校での「家庭科」は15_から_20年前のことであり、回顧法による回答である。当時の高校『学習指導要領』では「母性の健康と生命の誕生」は必須であるが「印象に残った授業」には僅かしか挙がらず(回答者の1.4%)、「印象に残った授業」自体が16.3%にすぎない。なぜ保育領域の授業は印象に残らないのか。「印象に残った授業」は若年層の母親に多く「保育体験学習」が多かったことは近年「保育体験学習」が盛んになってきた反映であろうが、比較的高齢層の母親は経過年数が長いという要因があるとしても、「保育体験学習」をほとんど受けておらずより一層保育領域の学習が印象に残っていない現状である。子育て期の母親が知りたい情報はハウツーや子どもの発達の平均値であるという報告がある。しかし、それを「家庭科」保育領域の授業内容とすることは中学・高校生の発達段階に合致していないと思われる。「印象に残った授業」がある母親は養護性がより身に付いていることが明らかになったことから、「保育体験学習」のみならず学習者の適時性に合った授業内容をさらに検討する必要があるといえよう。
  • 齋藤 美保子, 井元 りえ, 妹尾 理子
    セッションID: p-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    1.目的
     高等学校家庭科は、これまでの衣食住だけでなく、現代的な課題を追求するテーマとそれに基づいた方法の授業の構築を行うことが期待されている。生活者として環境問題を知り、どのように問題解決を行うかは避けて通る事ができない。そこで本研究は日常生活にかかわる家電製品やペットボトルなどの題材を通して環境問題について考え、高校生の環境意識を高め、環境に配慮した消費者の日常行動や企業・行政などの対応について考えさせる授業を開発することを目的とする。
    2.方法
     研究対象は高校生74名。内訳は、公立高校3校。A高校女子5名男子17名、B高校女子19名男子20名、C高校女子13男子5名である。期間は05年1月から2月末までである。開発した授業を実践し、その結果を分析考察した。
    3.結果
    (1)開発授業の概要
     高等学校(家庭総合)の時間において2005年1月から以下のような流れで実施した。
    1.エコライフ・チェックシートの記入
    2.地球温暖化と私たちのくらし
    3.地球温暖化とは何か
    4.地球温暖化の影響
    5.温室効果ガスと人間活動の関係を考える
    6.環境に配慮した生活を創造するー環境カルタの作成
    (2)開発教材
    1)エコライフ・チェックシートの作成。
    これまでに提案されている様々な環境家計簿やエコライフ・チェックシートなどを収集し、独自のエコライフ・チェックシートを作成した。
    2)授業用ワークシートの作成
     生徒が興味を持って学習に取り組められるように、なるべく多くの図やイラストを用いて作成した。
    3)地域の資料の活用
     地方自治体で発行しているパンフレット『くい止めよう地球温暖化』(墨田区2004年)を活用し、学習に生かした。地域の住民意識調査なども掲載されており、地域に対する意識を深めるきっかけになると考えた。
    4)パネルの活用。
     地球環境パネルを借り受け、地球環境の現状、地球温暖化について視覚に訴える方法を活用した。。
    5)ビデオ視聴の活用。
    「宇宙船地球号」「ゴミゼロの街」などを視聴させ、地球温暖化の影響とその解決方法を考えさせた。
    4.授業結果
    1)エコライフ・チェックシートの分析結果>
    ・レジ袋を断ることやリサイクルはしていな生徒が多く、殺虫剤・消臭剤などを普段から使用していることがわかった。
    ・コンビニに殆ど毎日行っている様子が伺え、飲料や食料を買っていることが分かった。・環境関連の言葉(地球温暖化・エコマーク・待機電力)の言葉の意味を「知らない」と答える生徒が多かった。
    2)生徒の意見・発表を多くとった。当初「おれたちには関係ない」という生徒がいるなかで、ビデオ「地球温暖化」の影響を視聴すると、非常に驚いたり、墨田区パンフレット『くい止めよう地球温暖化』を見直し、興味を示す生徒も出てきた。ペッボトルの回収に必要な税金を計算する学習によってリサイクルには多大な経費がかかることを理解していた。
    3)授業のまとめとして環境カルタを作成した。
  • 小川 裕子, 吉原 崇恵
    セッションID: p-7
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    目的:
     昨年度の研究発表に引き続いて、本研究では、「教育実習」履修前後に当たる2年生と3年生の間で「実践参加型授業」によって得られるものの違いを明らかにする。これらによって、家庭科教員養成カリキュラムの構築に示唆を得ることを目的とする。
    方法:
     2003年度の実践に改善を加え、2004年度「実践参加型授業」では、小・中学校の家庭科を中心とする授業への参加を9_から_12月に実施した。受講生は2年生12名、3年生4名であり、各受講生の実践参加は、題材や参加回数によって以下の五タイプに分けられた。_I_:被服製作・7回以上の型(2名)、_II_:被服製作・4回以下の型(4名)、_III_:小学校1日参加を含む型(3名)、_IV_:被服製作と調理又は保育の混合型(3名)、_V_:被服製作・3年生の型(4名)。すなわち、_I__から__IV_はすべて2年生、_V_は3年生である。受講生には毎回の実践参加後1週間以内に「学んだこと」「感想、反省」計1,000 字程度のレポートを提出するという課題を出し、そのレポートの記述内容を本研究の分析の資料とした。
    結果:
     まず、レポートを分析するにあたって、その記述内容を「子どもの見方」(子どもの姿が具体的に描かれている)、「子どもへの関わり方」(学生自身が直接子どもと関わった内容やその時の思い)、「教師の仕事」(授業の中で教師が実際に行っていたことやそれに対する思い)、「大学における学び、(今後の)課題」(授業に参加して意識化された学生自身の中・長期的な(学習)課題)、「その他」(授業への感想、教材・教具等への意見など)の5項目に分けて捉えた。そして、まず、受講生の学年が異なり、参加した授業の題材が共通している、_I_、_II_(共に2年生)と_V_(3年生、参加回数は5回)の間で、記述内容を比較することにした。
    2年生と3年生の共通点としては、「子どもの見方」「子どもへの関わり方」の記述が大変多い点である。被服製作の様々な場面で様々な子どもの姿を見て、また、それに関わりを持ったことで、色々な思いや問題意識を得ていることがわかった。ただし、この共通点の中にも、記述の仕方(課題を持つ主体が誰か)が2,3年生の間で若干異なる場合もあることがわかった。それは、2年生では、課題は専ら授業支援者としての学生自身の課題として描かれている(例:手本通りでない時、どこから以下を指摘したらいいのか難しい。どうすれば興味や楽しさを感じてくれるか課題。等)のに対して、3年生では子ども達の課題としても描かれるようになっている点である(例:先生の話の中で理解出来なかったことは、わかるまで聞けるようになることが課題。等)。
     次に、2年生と3年生で異なる点として「教師の仕事」についての記述量が異なる点がある。ただし、これは、同じ2年生でも参加回数が「7回以上」と多い場合に著しく記述が多いのに対して、「4回以下」と少ない場合には3年生と同様に少ないので、必ずしも「教育実習」履修による差異ばかりでは無いかもしれない。
    また、「大学における学び、(今後の)課題」についての記述は、2年生では全員が1回以上はあることに対して、3年生では全く記述が無い人もいるという明らかな差異があった。
    以上の点から、「教育実習」を履修していない2年生時期の「実践参加型授業」は、その後の「大学における学び、(今後の)課題」に、より強く影響することがわかった。
  • 「家庭科の授業を創る会」の21年の歴史と活動
    仲田 郁子, 中村 恵美子, 千葉 悦子
    セッションID: p-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    1、目的
    「家庭科の授業を創る会」(以下、創る会と記す)は1984年(昭和59年)、今から21年前に発足した家庭科教師のための研究会である。中学・高校・大学等で、常勤あるいは非常勤として働く教師たちがほぼ月1回集まり、検討を積み重ねながら、より良い授業を創ることを目的として活動を続けてきた。 長年続く中で何度か閉会も提案されたが、その都度継続を強く望む声が上がり、話し合いを繰り返し、創る会は今日まで活動を続けてきた。本発表では、私たちがこの会に何を求めてきたのか、創る会で学んだことは何だったのかを振り返ることによって、家庭科の教師がグループで学ぶということを明らかにすることを目的とする。
    2、方法
    (1)残されている記録から、創る会の21年間の活動を整理する。
    (2)「月刊家庭科教育」誌(家政教育社刊)に掲載された創る会の実践報告を全員で分担して読み、その内容について検討する。
    (3)メンバー全員が自分の創る会での活動を振り返り、得られたことや気付いたことなどをまとめ、考察する。
    3、結果
    (1)創る会の活動の流れ創る会の記録と月刊家庭科教育誌に掲載された報告の内容から、以下のことが確認された。
    _丸1_おもしろい教材を求めて発足当時は、まだメンバーの教師としての経験が少なかったことと、その頃に家庭科の男女共学化が決まったこともあって、新しい家庭科にふさわしい教材を求めて夢中で活動を行っていた。
    _丸2_生徒の実態を考えること創る会では生徒の実態をもとに授業を構成することの大切さに注目し、どうすれば生徒を惹きつけるよりよい授業ができるかを一貫して考えていた。より多様な高校の教師が参加するようになり、生徒の実態について考えた時、学校間の格差が問題となったが、話し合いを続ける中で、「生徒の実態から授業を創る」という営みはどのような学校でも共通であることにメンバーも気付くようになった。
    _丸3_教師が学ぶということ近年は、教師が学び成長するとはどういうことかを意識して考えるようになった。メンバーが創る会に求めていたものは「深く学びたい」、「授業に役立つ情報が欲しい」など様々だったが、「教師として成長したい」という気持ちは全員が共通して持っていることがわかった。
    (2)教師の学びと「守・破・離」「守・破・離」とは、芸事を学ぶ上での基本理念である。「守」とは修にもつながり基本をしっかり身につけること、「破」は教えられた基本をもとに自分らしさを発揮すること、「離」は基本を確実に身につけたうえで新たに発展させることである。創る会で話し合う中で一人のメンバーから指摘されたのだが、教師にとっても「守・破・離」は大きな意味を持つと言えるのではないだろうか。創る会で学んだ教材を自分の授業に必死に取り入れるのが「守」の時期であるならば、自分なりの工夫ができて生徒の状況を見ながらゆとりを持って授業に取り組むことができるのが「破」であり、教師が真に自分らしい授業を創ることができたときが「離」に到達したと言えるだろう。私たちは創る会で教師としての自分の歩みを確かめつつ、気心の知れたメンバー同士が自由に話し合いながら「離」を目指して進んできたのだということが、今回得られた結論である。
  • 日景 弥生
    セッションID: p-9
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    1 はじめに
     男女共同参画社会実現のためには、教育現場における隠れたカリキュラムを見直していく必要があることが指摘されている。そこで、隠れたカリキュラムの代表的なものと考えられている名簿に注目し、男女混合名簿実施校と未実施校における児童と保護者のジェンダー観を調査した。
    2 研究方法
    (1)調査対象および調査時期
     対象者は、青森県内の小学校児童727名、その保護者380名とした。このうち、混合名簿実施校(以下、実施校)では児童358名、保護者81名、混合名簿未実施校(以下、未実施校)では児童369名、保護者299名であった。調査は、各学校にアンケート用紙を配布し、2004年6月から10月に実施した。
    (2)調査項目
     調査項目は、東京女性財団のジェンダーチェックを参考に当研究室が作成し、児童用21項目、保護者用20項目を使用した。
    (3)回答方法
     児童に対する回答方法は「はい」「?」「いいえ」、保護者は「あてはまる」「どちらともいえない」「あてはまらない」の三段階でみることにした。さらに、各項目についてジェンダーフリーの意識や実態を示す回答に3点、「どちらともいえない」回答に2点、ジェンダーバイアスの回答に1点の点数を与え、合計点を算出した。
    3 結果および考察
    (1)実施校および未実施校における児童のジェンダー観
    1)合計点からみた児童のジェンダー観
     実施校では、45.3点を平均とし、30点から61点の間に分布した。未実施校では、44.5点を平均とし、29点から59点の間に分布した。これより、両者には有意差(p<0.001)がみられ実施校の児童の方がフリーであった。
    2)アンケート項目ごとにみた児童のジェンダー観
     アンケートの各項目を両校で比較したところ、21項目中6項目で有意差がみられた。そのうち、2項目は実施校の方が、4項目は未実施校の方がフリーとなった。
     実施校がフリーであった項目「女の子が野球部に入ることはよい」では、実施校の児童は、性別にかかわらず好きなことをしてよいという機会が与えられるために、そのように考えている児童が多いのに対して、未実施校は性役割にとらわれて行動を制限する傾向にある児童が多いことが推測された。一方、未実施校がフリーであった項目「女の子よりも男の子のほうがえらい」では、未実施校では学校生活において男女の優劣や上下関係を重視することが多く、それにより、性別で優劣をつけられることに違和感を覚え、フリーの考えをもつ児童が増えたのではないかと推測された。
    (2)実施校および未実施校における保護者のジェンダー観
    1)合計点からみた保護者のジェンダー観
     実施校では、41.9点を平均とし、33点から53点の間に分布した。未実施校では、46.0点を平均とし、29点から58点の間に分布した。これより、両者の間には有意差(p<0.001)がみられ未実施校の保護者の方がフリーであった。
    2)アンケート項目ごとにみた保護者のジェンダー観
     アンケートの各項目を両校で比較したところ、20項目中5項目で有意差がみられた。そのうち、4項目は実施校の方が、1項目は未実施校の方がフリーとなった。
     有意差のみられた項目のうち、実施校の方がフリーであった項目「学年主任や進路指導部などは、男性の先生が担当した方がよい」では、実施校の保護者の約6割は男女の優劣や上下関係を否定しているが、未実施校の保護者は肯定しない者が約46%と多くみられた。一方、未実施校がフリーであった項目「児童のやりたいことに対し教師が『女子(男子)ではなく男子(女子)のほうがいい』と言っても仕方ない」では、未実施校の保護者の方が性別によって指導を変えるのはおかしいと考える割合が高いことがわかった。合計点による全アンケート項目の比較では、未実施校の保護者は実施校の保護者よりフリーであったことから、学校生活の中にあるジェンダーバイアスを直接的、または間接的に感じる機会が多いことにより、それらに対して疑問を感じ反発した結果であると推測された。
2005年例会 口頭発表
  • 自尊・依存・孤独に着目して
    吉井 美奈子, 吉井 美也子, 鈴木 真由子
    セッションID: m1
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
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    _I_.研究目的
    今日の大学生は、多様化する生活環境の中で、自立ができていない状況にあると指摘されている。家庭科教育は、自立の力を養うことを重要な目標の一つとしており、関連する研究もこれまで多数行われてきた。
    一方、先行研究によれば、依存心が強いほど自尊心が低い傾向にあり、自尊心が低いほど孤独を感じやすい傾向にあると言われている。これらの結果と自立度とは何らかの関連があると推測されるが、依存心・自尊心の程度と孤独感・自立度との関係性は明確に捉えられていない。そこで、本研究では大学生の自立の現状を把握するとともに、自立の形成にどのような要因が関わっているのかを分析することを目的としている。また、これまで受けた家庭科教育での学習経験が、本人の自立度にどのように影響を与えたのかについてもみていく。

    _II_.研究方法
    本調査は、質問紙による調査を、直接配票・直接回収または間接配票・間接回収により実施した。対象者は平成16年4月現在、北海道、東北、甲信越、北陸、関東、東海、関西、中国、四国、九州地方の教員養成系学部に在籍する大学生、調査期間は、平成16(2004)年7_から_10月、配票数は1,700票、有効回収数は1,471票であり、有効回収率は86.5%であった。
    _III_.結果及び考察
     自立に影響するものとして自尊心からのプラスの影響が見られ、わずかではあるが性別による差もみられた。生活的自立に関しては、項目によって性別で異なる回答傾向がみられた。また、生活的自立、及び経済的自立に関する複数の項目において、依存心、孤独感との間に統計的に有意な差が認められた。
    居住形態別(親との同居の有無別)では、生活的自立、経済的自立の複数の項目において、統計的に有意な差がみられた。つまり、親と別居している方が生活的自立、経済的自立意識が高くなると考えられる。
    また、家庭科教育での学習経験(アイデンティティ、自立、意思決定、家族や友達との付き合い方)について聞いたところ、「学習経験の記憶がある」と答えるものは、4項目全てに経験の記憶があり、「よく覚えていない・記憶にない」と答えているものは、4項目全てに経験がない、という偏りがみられた。
  • 「Home Economics10」と「Planning10」
    渡瀬 典子
    セッションID: m2
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    カナダのブリティッシュコロンビア州(以下、BC州と記載)は州の教育スタンダード、IRP(Integrated Resource Package)が定められている。同州の教育法は各初等・中等学校にIRPを基盤としたカリキュラム構築を推奨し、各学校は生徒の実情等に合わせて開講科目を決定している。家庭科はApplied Skills(応用技能)の一選択科目としてGrade8-12段階に置かれている。IRPの構成は、「予想される学習成果(Prescribed Learning Outcomes:PLO)」に対応する形で「指導戦略例(Suggested Instructional Strategies」、「評価戦略例(Suggested Assessment Strategies)」、「推薦学習資料(Recommended Learning Resources)」を提示している。
    BC州の家庭科教師はApplied SkillsのHome Economics科目だけでなく、「Planning」,「Tourism」等の科目を兼担する場合がある。この状況を受け、「1)IRPの利用に関する教師の意識」、「2)卒業要件関連のカリキュラム改訂(2004)に伴う『Home Economics10』と『Planning10』の特徴と変化」に注目し、IRPの活用状況とBC州での家庭科の学習状況について報告する。【方法】 BC州の教育省調査結果(2002年6月実施、N=2,954)とBC州の家庭科教師及び教育実習生(フ゛リティッシュコロンヒ゛ア大学)への聞き取り結果(2005年7,8月実施)・・・1)2)、IRP『Home Economics 8 to10(1998)』と補足資料(2004)、『Planning10(2004)』等を用いる。
    【結果】
    「IRPの内容をどの程度授業で言及するか」という問いを見ると、半数強の教師が「ときどき」「通常」と回答している。また、教職歴とIRPの利用についてみると、教職歴が少ないほどIRPを参考にする割合が高い。また、IRPの構成要素のうち「予想される学習成果(PLO)」が最も参考にする頻度が高く、実用性があると評価されていた。家庭科担当の教師、教育実習生の聞き取りでも、指導案やシラバス作成上で、PLOを参考にしていた。しかしながら、「内容が曖昧で、もう少し具体的な規定がほしい」、「IRP導入以前と授業内容にはあまり違いがない」という声も聞かれた。この背景には、IRPの利用が教師の裁量に任されていること、教師の(他科からの)トランスファー、等の要因がある。
    中等学校の卒業プログラムが2004年9月入学者から改訂になり、2年間(Grade11-12)から3年間の卒業プログラム、「卒業ポートフォリオ(Graduation Portfolio)」の必修化が打ち出された。また、必修科目「Career and Personal Planning(CAPP)」が「Planning10」という科目になり、「教育とキャリア」「健康」「ファイナンス」を柱とする学習とともに、「卒業ポートフォリオ」作成支援を含むことになった。「卒業ポートフォリオ」は、6領域(美術・デザイン、コミュニティ活動への参加、教育・キャリア計画、雇用適正能力、情報工学、健康管理)の中から生徒が1つを選択し、実際の取り組みを経た後、まとめ、報告する学習活動である。
    家庭科でも「Home Economics10」のPLOの視点に「計画と問題解決(Planning and Problem Solving)」「状況背景(Contexts)」「技術的能力(Technical Competence)」が加わり、「卒業ポートフォリオ」支援の方向を示している。「状況背景」では、文化的背景を含むが、カナダは「多文化主義(multiculturalism)」をとり、同国の「多文化主義法」においても移民者の文化を尊重することが定められている。以上の背景を受け、カナダの大都市圏では90年代以降、移民の流入が爆発的にすすみ、BC州の大都市圏もその例にもれない。個々の生徒が持つ文化をどのように授業で出会わせ、学びを深めていくか、現在の授業開発の課題となっている。
  • 教師調査に見るカリキュラム開発と評価の特徴
    飯田 範子, 工藤 悦子, 小林 美礼
    セッションID: m3
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究は、小・中・高一貫教育に対応した学習内容の最適化の解明をはかる家庭科のカリキュラム開発研究の一環で行われた筑波大学の大学と附属学校教員による共同研究として推進されている研究の第三報である。筆者らはこれまで、第一報では、カリキュラム・アーティキュレーションの視点による研究の枠組みと方法を提示し、第二報では、児童・生徒調査から見た学習内容のアーティキュレーションの特徴を明らかにした。
     本報告では、現行の小・中・高別の現在の家庭科カリキュラム開発の現状と問題点、指導評価に関する諸点の特徴を全国の教師に対する調査研究として行った結果をもとに考察し、家庭科における小・中・高一貫のカリキュラム開発の課題と意義を明らかにすることを目的とする。
    【方法】
    本調査は2004年10_から_11月実施、自記式郵送法質問紙調査により、教大協及び公立小・中・高各教諭を対象とし、有効回答数計92名、有効回収率55.7%であった。本報告で取り上げる内容は、1)「家庭科」の年間指導計画作成の際、重視する事項及び困難点、2)「家庭科」の指導で重視していること及び、重視して評価したい事柄、3)新課程実施後の「家庭科」授業の変化、4)カリキュラムづくりの課題、の以上四点である。
    【結果】
    1)の年間指導計画作成の際、小・中・高教諭ともに「子どもの生活実態」は最も重視しているが、それ以外では差が見られ、その他を重視している高い順に並べると小学校では「各学年間の内容の関連」「子どもの学習ニーズ」「家庭との連携協力」、中学校では「各学年間の内容の関連」「子どもの学習ニーズ」「評価項目との関連」、高校では「子どもの学習ニーズ」「他教科との内容の関連」「各学年間の内容の関連」となっていた。また、年間指導計画作成の際の困難点では、小学校では「子どもの生活技能の低下」「授業時数の不足」「校内の施設設備の不足」、中学校では「子どもの生活技能の低下」「授業時数の不足」「校内の施設設備の不足」「自身の多忙さ」、高校では「授業時数の不足」「子どもの生活技能の低下」「子どもの学習意欲の低下」「自身の多忙さ」の順で困難としていた。特に、中・高において「授業時数の不足」、高の「学習意欲の低下」の認識は顕著であり、早急な対応が望まれる。2)の指導の重視事項・評価したい事柄では、小学校では、「実践」「かかわり」「体験」「工夫」、中学校では「自立」「体験」「生活」「実践力」、高校では「意欲」「科学」「応用」「創造」等のキーワードに見られるように、学校段階性を考慮した指導評価が行われていた。
    3)の新課程後の変化では、小・中・高ともに「授業時数の減少」による実習や実践の減少、網羅的に扱おうとすると表面的な学習になりがちであること等、主としてカリキュラム内容の精選の問題状況を指摘できる。_丸4_のカリキュラムづくりの課題としては、時間数減への対応として、他教科・地域社会との連携を考慮したカリキュラム作りの必要、基礎基本の徹底・系統性の創出、一環したテーマの必要。高校での意欲の低下にはTT等の導入、体験の拡充等が上げられていた。
     以上より、カリキュラム内容は多義化している反面、今後改善が求められる方向は、時間数減への対応であり、そのためのカリキュラム開発の課題、カリキュラム内容の精選は急がれる課題である故、小・中・高一貫のカリキュラム内容の系統性・構造化のための研究は改めて意義を有する。
     本研究は筑波大学及び大塚地区附属小・中・高の共同研究「四校研」による研究であり、他に共同研究者として、筑波大学附属小学校勝田映子、筑波大学附属高校西祐貴子が研究にたづさわっている。また、本研究は平成15_から_17年度科研費基盤研究B(2)「小・中・高一貫制にもとづく教科・教科外のカリキュラム開発研究」研究代表者・桑原隆(筑波大学大学院人間総合科学研究科)ならびに平成16年度科研費奨励研究「小・中・高一貫制にもとづく家庭科カリキュラムに関する研究_-_高等学校の立場から見た適時性の考察_-_」研究代表者・西祐貴子(筑波大学附属高校)の一部を使用した。
  • 調理実習の実習記録および振り返りから
    河村 美穂, 小清水 貴子
    セッションID: m4
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    研究目的 数多くの実践がある調理実習に関しては、児童生徒の実習中の行動分析やグループにおける学びの様態について様々な知見が示されている。近年では、家庭科の学習を振り返る感想文分析から役立ち感と学習意欲の関連も明らかにされており、さらに生徒の側から学びの実態を明らかにすることが求められている。 そこで、本研究では生徒が調理実習の直後に何を学んだと感じているのかを生徒自身の記録から読み取り、さらに実施後約1ヵ月後の振り返りをあわせて検討することにより、生徒が調理実習で学んだことを明らかにすることを目的とする。研究方法表に示す調理実習3回を高校家庭科「家庭基礎」において実施し、実習直後に記述した実習記録をデータとして、生徒が学んだと考えることについて検討を加えた。○調査対象:国立大附属高校1年生(40名)。○調査時期:2005年1月_から_2月。○データの収集:毎回の授業後に生徒40名が記述した実習記録、   および、実習後約1ヶ月に記述した振り返りシートをデータとし  て用いた。この他、生徒の実態を把握するために事前アンケート 調査を実施した。また、10班のうち2班を抽出し、実習中の様子 を観察、ビデオ録画、録音により記録し補足データとして用いた。全体的な目標
    ●1日に食べる食品の量と質を体験し、朝・昼・夕食に食べるものを理解する●包丁で切る技術を学ぶ。●料理にあう皿を選んで盛り付ける。●班で協力して作業を行い、時間内に手早く調理・試食・片づけをする。●食材を大切に扱い、できるだけ生ごみを出さないように工夫をする。
    題材
    オムレツ・ミネストローネ・ヨーク゛ルト・ロールハ゜ン・ハ゛ナナ
    本時の目標●卵の調理性(熱凝固性)を理解する。(オムレツ)●食材の形をそろえて切ることを理解する。(ミネストローネ)●調理実習室に慣れる。
    題材 スハ゜ケ゛ティミートソース・ク゛リーンサラタ゛・ハ゜ンナコッタ(いちご添え)
    本時の目標●ミートソースを手作りする方法を知り、味わう。(スハ゜ケ゛ティ)●ハ゜スタのゆで方を知る。(スハ゜ケ゛ティ)●ゼラチンの調理性と取り扱い方を知る。(ハ゜ンナコッタ)●ドレッシングを手づくりできることを知る。(サラタ゛)
    題材 肉じゃが・ほうれん草の胡麻和え・米飯・味噌汁(豆腐とワカメ)・うさぎりんごと木の葉りんご
    本時の目標●混合だしの取り方を理解する。(肉じゃが・味噌汁)●調味料の浸透性を理解し、手順よく調味料を扱うことができる。(肉じゃが)●無洗米の扱い方を知る。(米飯)●青菜のゆで方を理解する。(ほうれん草の胡麻和え)●肉じゃがが簡単にできることを知る。(肉じゃが)●りんごの飾り切りができる。(りんご)
    結果と考察
     生徒が調理実習で身についたと考えていることは、「実習した料理そのものの作り方」「その後に応用可能な知識・技能」「グループ学習としての学び」の3つに大別できる。「その後に応用可能な知識・技能」のうち多くを占めるのは「材料を切る」など包丁を使う技能であった。包丁を使う技能は、調理実習で多く使用されるだけでなく、生徒にとっては技能の習得を実感しやすいと考えられる。また、振り返りにおいて調理に対する自信を持つようになった生徒は、直後の記録においては「その後に応用可能な知識・技能」を多く記述していた。これは、調理を一つ一つの料理を作る方法としてではなく、複数の調理方法や知識・技能が複合して成立するものとして捉えていることを示していると考えられる。
  • 岩崎 香織
    セッションID: m5
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    子どもの自尊感情には、_丸1_家族・家庭生活、_丸2_学校生活、_丸3_性別の大きく3つ影響がこれまでに明らかにされている。しかし、子どもの自尊感情と家族、学校、性別の3点の関連について小学校低学年から高校段階までの幅広い年代において明らかにされた研究はこれまでにない。そこで、本研究では、子どもの自尊感情の発達へと家族、学校の関連について、小学校低学年・高学年・中学生・高校生の4つの段階と性別から明らかにすることを目的とする。
    【方法】
    使用するデータは、お茶の水女子大学JELS2003調査の児童・生徒質問紙調査(2003年10月_から_12月に記名自記式で実施)である。対象者は、関東地方A市の小学3年生1118名、6年生1164名、中学3年生1057名、高校3年生1438名、計4777名である。お茶の水女子大学21世紀COEプログラム「誕生から死までの人間発達科学」プロジェクト_III_「子どもから成人への移行についての追跡的研究」JELSは、日本の青少年の学力・能力、アスピレーション、進路・職業生活を、家庭的背景、学校的背景、地域的背景などとの関わりにおいて把握することを目的とした共同研究であり、本研究は、その成果の一部について報告するものである。
    【結果と考察】
    「自尊感情」得点は、Rosenberg(1965)の「自尊感情尺度」(山本・他訳1982)を元に作成された「物事を人並みにはうまくやれる」、「自分に対して肯定的だ(自分が好きだ)」、「自分には人よりすぐれたところがある」の3項目に対する回答を「あてはまる」5点、「ややあてはまる」4点、「どちらともいえない」3点、「ややあてはまらない」2点、「あてはまらない」1点として点数化し、加算した。対象者の「自尊感情」得点は、小3を除く全ての学年において男子の平均値が女子よりも有意に高く(T検定)、思春期において子どもの自尊感情が最も低下するという先行研究と同様の傾向がみられた。
    本研究では、自尊感情に影響を与える家庭生活の要因として「家庭の雰囲気」、学校の要因として「学校の楽しさ」、「学校での人間関係」、「成績の自己評価」を取り上げたが、男子よりも女子において「家庭の雰囲気」、「学校での人間関係」、「学校の楽しさ」が良好であるとの回答される傾向にあり、「成績の自己評価」には、性差がみられなかった。
    「家庭の雰囲気」と「自尊感情」の相関は、男女とも小学校低学年においては、学校要因よりも大きいことが明らかとなった。また、女子では小6、男子では高3において自尊感情との相関が強く、小3・中3・高3および全学年の男子において女子よりも相関が強いことが明らかとなった。
     学校要因と自尊感情について、「学校が楽しい」、「学校での人間関係」、「成績の自己認知」の3つの要素との相関を分析したところ、最も相関が高かったのは「学校での人間関係」、次いで「成績の自己認知」との相関が強いことが明らかとなかった。小3_から_高3の対象者全体を分析した結果からは、男子の方が「成績の自己認知」、女子の方が「学校での人間関係」、「学校が楽しい」ことの相関が強いことが明らかとなった。男子は学業、女子は人間関係というジェンダー化された達成規範を持つ傾向が示されたわけであるが、男子にも「学校での人間関係」、「家庭の雰囲気」、女子も「学業成績」が、異性とほぼ同様に自尊感情と有意に結びついていることも明らかとなり、家庭・学校での人間関係と学業成績の達成度のバランスによって、子どもたちの自尊感情が形成されていたことが確かめられた。子どもの自尊感情は、単に家庭のみ、学校の授業のみ、友人関係のみで育むことはできないことが示されたわけであるが、今後、子どもたちの自尊感情を育むために家庭・学校ができることについて、具体的に追及してくことが課題である。
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