日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第48回日本家庭科教育学会大会
セッションID: 9
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第48回大会 口頭発表
高校生のジェンダー・アイデンティティ形成に関する要因分析
*多田 福子長澤 由喜子
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抄録

【目的】ジェンダーは,社会的・文化的に創られたものであるがゆえに根強く,男女の生き方を歪め男女平等の権利を奪うものとして存在する。本研究は,青年期の発達課題の一つとしてジェンダーとかかわる課題に着目し,男女の生き方教育として両性の社会的役割認知を適切に教育課程に位置づけるための手がかりとすべく,青年期におけるジェンダーの形成プロセスの一端を構造的に捉えることを目的とするものである。家庭科教育において男女協力のもとに家庭建設をすすめ,男女の生き方教育支援としてジェンダー教育が取り込まれているが,授業実践を通して意識が変容した事実を取り上げる報告は多いものの,効果的な授業の方略に関する理論的根拠が示されていない。これらのことから,本研究では高校生を対象とし,共分散構造分析を用いて男女のジェンダー・アイデンティティ形成に関わる諸要因間のつながりを構造的に捉えることを通し,両性の社会的役割認知に効果的な授業の方略に関する説明的な手がかりを得たいと考えた。
【方法】本研究では,「ジェンダー・アイデンティティ」の形成要因として「ジェンダー・スキーマ」および「成育環境」に着目し,これらの抽象的概念間の因果関係の分析手段としてAMOSによる共分散構造分析を用いた。潜在変数「ジェンダー・スキーマ」については性役割観に関する8項目,同様に「成育環境」に関しては家庭・学校・友人・メディアの4項目を観測変数として仮説モデルを作成し,仮説モデルの検証を通して形成要因間の影響分析を行った。12項目の観測変数データを得るための自記式質問紙による調査は,岩手県立M高等学校1学年を対象とし,2004年4月に実施した。得られた有効サンプル数は男子142名,女子133名,計275名である。なお,「ジェンダー・スキーマ」の形成要因としての性役割観に関しては,伊藤裕子によるMHFスケール30項目を用いた。
【結果】AMOSの試行に先立ち,各観測変数に関する分析を通して各観測変数を構成する項目の吟味を行った結果,MHF項目は各6項目に絞り込まれた。また男女による違いが著しいことから男女別にモデルの検証を行った。仮説モデルに基づく男女別の共分散構造分析結果,3タイプの有効な修正モデルが得られたが,適合度を指標とする最も信頼度の高い修正モデルは男女で異なった。それぞれの修正モデル作成のプロセスにおいて得られた結果は以下のように要約される。
 (1)「成育環境」が「ジェンダー・スキーマ」の形成に及ぼす影響は女子に比較して男子の方が著しく大きかった。
 (2)「成育環境」に関しては男女ともに「友人」による影響が最も大きく,さらに「学校」および「家庭」より「メディア」による影響が大きかったが,女子では「友人」による影響が突出して大きくなっていた。
 (3)「成育環境」の「家庭」と「学校」の間には男女ともに関連性が認められた。すなわち家庭と学校における性役割行動は互いに強化しあう関係にあり,男子の場合は_丸1_の関係を介してジェンダー・スキーマ形成に直接影響すると考えられる。
 (4)「ジェンダー・スキーマ」の形成に関しては,男子では「男性にとっての男性性」および「女性にとっての女性性」による影響が大きくなっていた。一方女子では「人間性」の影響力が大きく,いずれのモデルにおいても男子の場合の人間性の影響を上回る傾向が認められた。また「女性にとっての男性性」は女子では「女性にとっての女性性」の影響を上回り,男子における影響も小さくないことから,男女ともに旧来の男性性を女性が備えることを肯定的に受け止めた性役割観が形成されつつあると推察される。
 (5) 女子の最良モデルでは,「ジェンダー・スキーマ」における「女にとって重要な人間性」と,「男性にとっての男性性」および「成育環境」の「家庭」との間に相関が認められ,そのパス係数がいずれもマイナスを示した。この結果は,家庭内で頻繁に性役割行動が繰り返された場合,あるいは「男性にとって重要な男性性」にかかわる性役割観が強く認識されている場合,「女性にとって重要と考える人間性」の概念が育ちにくい事実を示している。
 (6) 男子の場合には自己概念の形成過程とジェンダー・スキーマ形成が深くかかわっている傾向が認められた。
 今後,これまでのジェンダーにかかわる授業実践報告を取り上げ,同世代間交流,メディア情報の利用,男女による影響構造の違いの位置づけなどを視点として本研究による知見の説明力を検証したいと考える。

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© 2005 日本家庭科教育学会
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