抄録
【目的】
学びとは結果としての知識や技能の習得のみを指すのではなく,活動の過程を含むものとしてとらえられる。活動を多様に含む実習授業の活動過程に着目することによって,家庭科の学びを追究したいと考えた。
家庭科学習は具体的生活内容を対象としており,中でも最も身近な生活事象を実践的・体験的に扱う調理実習や布を用いた製作実習は家庭科の代表的学習である。これらを対象にした先行研究として,異なる実習授業において同じ生徒の活動を分析した研究はみられない。本報告では,抽出班を対象に2種の実習中の生徒の実態を比較分析することによって,活動過程の学びの様相をとらえることを目的とした。
【方法】
対象は広島県立A高等学校で家庭基礎を学ぶ1年生1学級38名(男子20名,女子18名)であった。うち調理実習班1班5名(男子3名,女子2名)を抽出班とした。2005年10月から2006年3月にわたり授業観察をおこない,分析対象外の授業からも個々の生徒や学級の特性をとらえた。
分析対象とした授業は,調理実習3回(6時間)および布を用いた製作実習2回(2時間)であった。VTR記録およびICレコーダーによる記録をもとに,抽出班の発話・行動分析をおこなった。分析には生徒の感想文や自己評価,教師のコメントも用いた。
さらに,実習活動に関する個人意識を質問紙法により調査した。調査内容は高田(2000)の相互独立的―相互強調的自己観尺度20項目,および堀野(1987)の達成動機測定尺度23項目であり,7段階評定で回答してもらった。各因子における平均値を算出し,因子間の関係性をとらえた。
【結果および考察】
相互独立的―相互強調的自己観尺度の抽出班(学級全体)の平均値は,相互独立性4.43(4.70),相互協調性4.67(4.89)であった。達成動機測定尺度の平均値は,自己充実達成動機5.16(5.38),競争的達成動機4.44(4.80)であった。班構成員の個別データと学級平均を比較することによって,個人特性が明らかになり,発話・行動分析に有効な示唆が得られた。
調理実習は,素材や方法があらかじめ共有化されたものであるため,断片的に多様な素材とかかわりながら連続的な活動が構成されていた。抽出班生徒A(女子)の活動を追うと,他者をサポートする,担当に集中する,他者の活動を観察する等,即時的に変化していた。これらは個の相互協調性や班員との活動の共有意識に起因しているといえる。また,学びは個々に多様な形で存在していた。生徒B(男子)は活動が控えめであったが,班活動が他者を知る機会,自己をふりかえる機会となっていたことが感想文より明らかになった。その感想文および個人特性を参考に生徒Bの行動以外に表出された表情や視線によって,それを裏付けることができた。
布を用いた製作実習の活動過程を分析すると,他者がどのような作品をつくっているかを観察する姿,他者と評価・助言し合う姿,道具の共有や使用方法を教える姿等が多くみられた。先述した生徒Aは,作業開始時は素材を媒介して他者と積極的にかかわっていたが,目標が定まるとひたすら自身の製作に向き合っていた。これらをふまえ,布を用いた製作実習の特徴として,素材や作品が個人と密着に結びついた形で学びが存在していることが推察できた。
学びの成立には自己とモノと他者との複雑な相互の関係性がみられ,関係性のあり方が2種の実習で異なっていた。また,異なる実習における学びは,個人の特性にもとづいてそれぞれ享受されていた。