抄録
【1.目的】
現在、我が国では、偏った栄養摂取や肥満傾向の増加、生活習慣病の若年化等の食に関する問題が顕著になってきている。それに対応するため、1997年以降、政府諸機関が取り組みを行い、答申等を提出してきた。その中では、児童・生徒の問題の解決を学校教育が果たすことが期待され、家庭科もその一端を担うことが明記されている。これに対して教科としての家庭科は、どのような役割を担い、内容・授業を組織していけばよいのだろうか。
本研究は、この課題を解決していく第一段階として、小学校における食に関する指導の現状とその中での家庭科の位置付けを把握すると共に、教科としての家庭科が行ってきた食生活学習から、その現状と問題点を、以下に示す方法で明らかにすることを目的とした。
【2.方法】
(1)現行学習指導要領等から、学校教育における食に関する指導の現状と、家庭科が果たすべき役割を考察する。
(2)教育法制による小学校教育の目的と家庭科の学的背景となる家政学の「(家庭)生活の営み」の定義から、家庭科の位置付けと食生活学習の理念を求める。
(3)(2)に示された役割を達成するため行われてきた小学校家庭科の食生活学習の目的・内容を、学習指導要領・教科書の記述内容から明らかにする。
(4)(3)で得られた結果を枠組みとして、平成10年版指導要領に示された小学校家庭科の食生活学習の問題点を把握し、上記目的に示した授業を構成していくための今後の課題を検討する。
【3.結果】
(1)小学校教育では、学級担任の指導による、教科の中の社会・理科・家庭・体育、道徳、総合的な学習の時間、特別活動の中の学級活動・学校行事で食に関する指導を行い、それを総合する場として学校給食を位置付けていた。
学校給食では、『学校給食指導の手引』に6分野33項目の食に関する指導内容が示されていたが、その指導は学級担任に委ねられているため、学習指導要領により食に関する内容が法的に義務付けられている社会・理科・家庭・体育、学級活動でそれを保証する必要があると考えられた。
(2)家庭科は、他教科では代替できない“家庭生活を営む力”を育成することを通して、学校教育の目的である「学習者の人間形成」を達成する教科として位置付けられ、その一生活領域を担う食生活学習では、「学習者」と「食物」とのかかわりを通して“食生活を営む力”を育成する目的・内容を有さなければならない。
(3)学習指導要領に示された家庭科の教科理念は、経験主義(昭和22年度)、科学主義(昭和31年度)、技能主義(昭和33年_から_平成元年)に分けることができ、科学主義家庭科が最も(2)を具現化していた。そのため、昭和31年度版指導要領に示された食生活学習の内容を構造化し、それを枠組みとして昭和33年~平成元年版指導要領に準拠した教科書の知識を分析した結果、家庭科の食物学習は、学習者に「食事の意義」を習得させることを目的として、“栄養的意義”を具体化した「食物と栄養」、「食事の仕方」、「食事の支度と後片づけ」、“社会的な意義”を具体化した「食事の仕方」に関する知識で構成されていた。
(4)しかし、平成10年版指導要領に示された家庭科の食生活学習では、「食物と栄養」に関する知識の不足が見られ、家庭科の食生活学習の目的及び家庭科に期待されている食に関する指導の役割を達成することはできないと考えられた。以上から、それを補う授業の開発が急務であると捉えられた。