抄録
研究の背景と目的
家庭科教育学会課題研究1-1のグループでは、「食に関する教育―行動変容を目指した授業の検討―」という課題に取り組んだ。授業において、生徒が自己効力感をもつことが、意識と行動の変容を起こすことになるのではないかという仮説を立て、研究を行った。その結果、「食」の授業を通し、教師が特に課題としていないにも関わらず、授業での学びを家庭で実践している生徒の姿が明らかになった。よって、本研究は、「食」の授業での学びを実践している生徒は、どのような生徒なのか、実践に繋がる要因を質問紙調査の分析から明らかにする。
研究方法
対象:首都圏の公立中学2年生の生徒142名(男子79 名、女子63名)
調査時期:2009年5月(事前調査)、2009年10月(中間調査)、2010年2月(事後調査)
質問項目:_丸1_普段の食生活行動の実態、_丸2_家庭科での学習内容に関する意識や実態、_丸3_家庭科への認識(有用感)、_丸4_家庭科を学習して日常生活についてどのくらい出来る・わかる・気づく・考えるようになったか(納得感)、_丸5_家族の凝集性(オルソン 1985他)、_丸6_自己効力感(シェラー 1982))
結果
「食」の授業での学びを家庭で実践したことがあるかどうかによって、普段の食生活行動の実態や、家庭科教育への意識、家族の凝集性、自己効力感等が異なるのかを明らかにするため、男女別にt検定を行った。また、家庭科での学びとの関連を考察するため、事前、中間、事後、事後と事前の差の4つの得点に対して分析を行った。
男子では、事前調査において、「家庭で料理をすることがある」「包丁を上手に使うことができる」「食事を作ることはめんどうである」といった項目で有意差がみられ、実践した生徒の方が得点が高かった。中間調査では、「家族でいっしょに食事ができるように自分で努力したり、家族で話し合ったことがある」という項目のほか、「家族の凝集性」や「自己効力感」において、実践している生徒の方が有意に得点が高かった。事後調査でも、「家族でいっしょに食事ができるように自分で努力したり、家族で話し合ったことがある」という項目と「家族の凝集性」が、実践した生徒の方が有意に高かった。事前事後の差とは、有意な結果は得られなかった。
女子では、事前調査において、「朝食を毎日食べる」「調理実習で手順よく作業を進めることができる」「食事をするとき、いつも栄養のバランスを考える」といった項目と有意差がみられ、実践していない生徒の方が得点が高かった。中間、事後調査においても同様の結果であった。事前事後の差については、「調理実習で手早く作業を進めることができる」「食事をするとき、いつも栄養のバランスを考える」といった項目で有意差がみられ、実践している生徒の方が得点差が大きく、事後の得点が増加していたのに対し、実践していない生徒は得点が減っていた。
考察
男子では、授業前の時点での調理に対する認識や行動が、学びの実践と関連していると考えられる。また実践している生徒の方が、調理することは面倒と思っており、作ることを具体的に知っているからこそ面倒と思っているのだと考えられる。中間、事後調査では、家族に関わる項目や自己効力感に有意差がみられ、学びの過程で家族について考えたり、自己効力感をもてたことで実践につながっていると推察される。
女子では、事前、中間、事後調査の結果からは、実践していない生徒の方が望ましい食生活行動をとっていると考えられた。だが、事前事後の差をみてみると、実践している生徒の方が変化が大きく、望ましい方向に増えていた。女子の場合、一時点での状態よりも、授業を通した行動や認識の変化が実践と関連していると考えられる。