日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第53回大会・2010例会
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日本家庭科教育学会第53回大会
口頭発表
  • ~栄養素・食品・料理・食事のつながりの理解を求めて~
    佐藤 真紀子
    セッションID: A1-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    【目的】 家庭科において栄養バランスのよい食事を指導する際の課題として、献立作成の能力に小・中・高の段階を経た学習の効果が明確に見出せない、食べ物と栄養素は結びついているが栄養素の働きは不十分、不足している栄養素を補う献立を考えることや栄養や献立の知識を調理などの実践に結び付けることに課題があるといった知識のつながりや系統性に関する指摘がある。題材の構成にあたっては、内容相互の関連を図り、指導の効果を高めることとされているが、この点がまだ十分機能していない原因として、栄養バランスの良い食事について指導するツールが一貫していない、学んだ事柄が生活と結びつきにくい、栄養素や調理についての学習が単発的であることなどが考えられる。<BR>  栄養バランスの良い食事を指導するツールとして、食事バランスガイドのような料理ベースでバランスを考えさせる指導方法、食品群を用いた食品ベースによる指導方法、食事摂取基準を用いた栄養計算による栄養素ベースによる指導方法などがあり、いずれも理解できる知識の範囲とそれに適した生徒の発達段階や状況があると考えられるが、食事バランスガイド゛は提唱されたばかりなので高等学校での実践研究例はあまり見られず、また他の方法についても個別には研究されているものの、指導方法による違いを比較した研究はあまりみられない。そこで、どのような指導方法がどの段階・状況に適しているのかを整理することを目的として本研究を実施する。本研究においてはそれぞれの学習ツールとして、料理ベースの指導方法についてはまだ活用についての検証がほとんど行われていない「食事バランスガイド」を、食品ベースの指導方法については「食品群」を、栄養素ベースの指導方法については「栄養計算ソフト」をとりあげて比較検討する。<BR> 【方法】 2009年11月~1月に東京都の公立高等学校(全日制・普通科)1校の2年生6クラス(240名)に対して家庭基礎(必修)の食生活領域の授業(全22時間)における総括の授業として、食事の栄養バランスを考えて献立作成と調理実習をする授業(22時間中の8時間)を行った。その際、料理ベース(食事バランスガイド)による指導、食品ベース(食品群)による指導、栄養素ベース(栄養計算ソフト)による指導を、学級により順序を入れ替えて同一クラスに対し2種類ずつ実施した。学習の前後に食生活に関するアンケート、知識テスト(記述とコンセプトマップ)、学習後のみに授業評価アンケート、学んだ2つのツールのうちどちらが良いかのアンケート、そのアンケートで選択したツール毎に抽出した生徒にインタビュー調査を実施した。<BR> 【結果】 いずれのツールにおいても、高校生が献立作成を行うことができた。また、学習の前後で五大栄養素の働きと名称、栄養素名と多く含む食品及びその食品を使った料理名のつながりの理解が進んでいた。「今日の授業内容は理解できたか」「楽しく学習活動ができたか」「自分から進んで学習に参加することができたか」「授業では自分なりに考える活動ができたか」「学習の内容に満足できたか」の質問に対して大変・少し・あまり・まったくの4件法で調査した結果、いずれのツールも大変・少しの肯定的回答が多く、特に食事バランスガイドでは最も肯定的な回答である「大変」を選ぶ生徒が多かった。学習ツールの選択は、食事バランスガイドが最も多く、栄養計算ソフト、食品群と続いた。それぞれのツールの選択理由としては食事バランスガイドは「簡単だから」、栄養計算ソフトと食品群は「詳しいから」を挙げる者が多かった。
  • ‐食生活と社会とのかかわりを考慮して‐
    梅田 有希子, 佐藤 真紀子, 金子 佳代子
    セッションID: A1-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    【目的】
     食生活は個人の生活習慣や文化的・社会的な環境などさまざまな要因が影響して営まれており、食生活で何を重視し、どうありたいかという考え(食生活観)も多様である。しかし今日のように、いつでも好きなものが食べられるという豊かさの中では、一人ひとりが主体的に食生活とかかわり、望ましい食行動・食環境のあり方を考えていくことが求められる。
     高校生になると、自分の意思で身の回りのことを決定する機会が多くなり、食生活においても自分の価値観に基づいて、食物を選択したり、飲食したりするようになる。自分たちの食生活が、食品の生産・流通・販売などの社会・経済とどのように関わっているのかを理解することで、価値観を広げ、吟味することができるのではないかと考えた。
     本研究では高等学校家庭科において、食生活と社会とのかかわりを考慮した授業を構想・実践し、高校生の食生活観を吟味・醸成することをねらいとした授業のあり方について考察した。
    【方法】
    (1)高校生の食生活に対する意識の実態とその課題
     高校生の食生活に関する実態調査および研究論文をもとに、現代の高校生の食生活や健康に対する意識の実態を明らかにし、主体的に食生活を送るための課題について検討した。
    (2)授業の実践と考察
     (1)をふまえて高等学校家庭科における食生活と社会とのかかわりを考慮した授業を構想し、東京都立A高等学校において選択科目フードデザインを受講する3年生13名を対象として、2009年9月に3回(計6時間)扱いで実施した。1回目は食品廃棄に関する新聞記事と食品広告を題材とした。表面的な印象に惑わされず、批判的に情報を読み取ることの重要性に気づき、それを実践することができること、また、問題の解決について販売者の立場と消費者の立場を理解して考えることができることを目標とした。2・3回目では生徒たちがサンドイッチ屋となり、商品提案、広告作成、経営シミュレーション・ゲームを行った。消費者や社会にもたらす影響を意識しながら取り組むことで、自分‐食‐社会のつながりを認識しやすくした。これらの授業を通して個人的な興味・関心に偏らない食生活観を得ることをねらいとした。授業記録およびワークシートの記述から、授業の理解度や生徒の意識の変化などを明らかにした。
    【結果および考察】
    (1)現代の高校生は食生活や健康に関して、好きなものを好きなだけ、食べたい時に食べるとか、痩身へのあこがれから食事量を少なくし、朝食を欠食するなど、自分個人の興味・関心を偏重する傾向があり、食糧・資源問題について考えたり、国や地域の食文化を大切にするというような、食生活と社会・文化とのかかわりには関心が薄い傾向があることがわかった。
     自分の食生活を社会文化的文脈の中で捉えること、すなわち今手元にある食べ物がどのような経路をたどってきたのか、また、食品廃棄が環境に対してどのような影響があるのかなど、自分の食生活と社会とのかかわりを理解することは、主体的に食生活とかかわっていくために欠かせないものではないかと考えた。
    (2)授業実践の結果、生徒は授業に積極的に参加する姿勢が観察された。ワークシートからは、商品としてサンドイッチを作ったことで、食べ残される悲しさや、客に食べてもらう意識が生まれるといった感想が見られた。また、個人的な興味・関心に偏らない食生活観を持ち、今後の自分の食行動を改善しようとする意欲のある生徒は、食生活にかかわる社会的な問題について、消費者側と販売者側の両者の立場を理解して問題の解決策を考えることができた。
  • ボディ・イメージとダイエットへの関心
    河野  公子, 神田 由紀
    セッションID: A1-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    〈目的〉中・高校生の時期は,適切な食習慣を確立する上で重要な時期であるにもかかわらず,様々な食生活上の問題が指摘されている。特に,若年女性の痩身志向による間違ったダイエットの問題は,「健康日本21」にも目標項目が揚げられている。そこで,中・高校生のボディイメージやダイエットへの関心と食情報との関連について調査し,今後の家庭科における食指導の在り方を探ることを目的とした。〈方法〉2009年2月~4月に,関東の中学校及び高校各2校のいずれも2年生計648名(男子316名,女子332名)を対象に自記入式調査を実施した。調査内容は,生活リズム,食生活,身体や健康の状態,ダイエットへの関心,健康や食情報の入手法,家庭科の授業観の6項目である。回収後,有効な638票(有効回収率98.5%)について,統計解析ソフトSPSS11.5Jを用いて分析した。統計的な有意差の検定は,χ²検定を用いた。 〈結果〉1)起床時刻は,高校生がやや早いものの6時~7時半が多かった。就寝時刻は,男女とも中学生23時台,高校生0時台が多く,起床時に「すっきり目覚める」者は8%であった。テレビの視聴時間は,2時間以上が最も多く38%で,中学生の方が長く,高校生では男子の方が長かった。ネット利用は少なかった。2)日常の食生活に関する肯定的な回答は上位から,「3食食べる」90%,「外食やコンビニの利用は少ない」74%,「野菜をたくさん食べる」69%,「食事時間が決まっている」69%,「好き嫌いはほとんどない」65%,「多種類の食品を摂る」63%であった。中高別では,「外食やコンビニ利用が多い」のみ高校生の方が有意に高く**,性別では「野菜をたくさん食べる」のみ,女子の方が有意に高かった**。3)ローレル指数段階では,男子は,「痩せぎみ」が多く(中57%,高47%),女子は,中学生は「痩せぎみ」が56%で,高校生は「標準」55%であり,有意差が認められた**。現実の体重と理想体重との差は,女子で「痩せたい」とする者が多く,平均-3kgであった。4)授業以外の運動については,30分未満が最も多く32%であり,特に,高校生の5割,女子の5割が30分未満であった***。5)健康状態については,「疲れやすい」のみ5割を超えた。中高別では,「身体がだるい***」「「何もやる気が起きない**」「便秘気味である***」「めまい,立ちくらみを感じる*」について,高校生の方が悪く,すべての項目で,女子の方が悪い結果であった。6)ダイエットへの関心については,「太っている」は48%で,「もっと痩せたい」52%,「ダイエットに関心がある」36%,「ダイエットしたい」31%,「現在ダイエット中である」13%,「今までにダイエットをしたことがある」20%,「家族がダイエットしている」25%であった。中学生より高校生の方が,男子より女子の方がダイエットへの関心が強く,すべての項目において有意差が認められた。7)バナナ,こんにゃく,寒天,納豆,酢などの食品を用いたダイエット法については,情報源としては「テレビ」を挙げる者が多かったが,「内容まで知っている」が5割を超えたのは,「バナナダイエット」のみであり,「聞いたことがある」程度の認知度であった。8)健康や食に関する知識の入手方法としては,「テレビ番組」583,「家族等との会話」325,「学校の授業」279,「本・雑誌」265,「友人との会話」181の順であった。9)家庭科の授業に対する肯定的な回答は,「楽しい」は7割,「調理実習で作ったものを家で作った」は5割あったが,「自分の食生活が改善された」や「栄養バランスを考えた食事ができるようになった」は3割であった。「調理実習で作ったものを家で作った」は,中学生のほうが有意に高く,すべての項目で男子より女子のほうが有意に高かった。 〈まとめ〉「痩せ,痩せ気味」の体型であるにもかかわらず,「痩せたい」とする間違ったボディイメージを持つ者が多いことが分かった。健康や食に関する情報源として,テレビ番組や家族との会話を挙げる者が多く,家庭科の授業に対しては,「楽しかった」「調理実習で作ったもの家で作った」と回答しているが,学習が必ずしも生徒の食生活の改善に生かされていないことが明らかとなった。以上のことから,今後は,メディアから発信される情報についても授業で取り上げ,生徒が自分のボディイメージを正しく認識し,間違ったダイエットにより,健康被害を起こさないことや適切な食習慣の形成を目指した具体的な家庭科の食指導が重要であることが示唆された。 注)***p<0.001,**p<0.01,*p<0.05
  • 鈴木 洋子
    セッションID: A1-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    <目 的>
     子どもの生活自立力を高めるには、自発的な体験活動の蓄積が肝要であり、食生活改善の打開策は体験的要素に富む調理にあると考えている。しかし、家庭科における調理実習の時間は減少し、食品の調理性を理解させることはもとより、調理に必要な技能技術を習得させることさえ難しくなっている。さらに、家庭での家事参加への低減も、調理技能技術の低下に拍車をかけている。
     英国における国策としての食育は、1998年に保健省と教育省(後に教育・職業技能省に改名)が共同で児童生徒の食生活改善に対する施策として National Healthy Schools Programmeを発表したことに始まり、2001年に発表されたFood in Schools Programmeを中心に実施されてきた。Food in Schools Programmeは、8つの領域から構成されており、その中の「料理クラブ」では、特に楽しみながら学ぶことに重点を置き、調理を促進してきた。
     今回報告するクッキングバスは、1998年にチャリティーにより組織された団体Focus on Food Campaignにより運営されている。運動の核に、調理が食育の中心であることを掲げ、そのための学校における調理設備の改善や教師の指導力の向上はじめ、食育を小・中・高等学校の必修科目にすることを目的としている。
     そこで、食育を調理中心に推進する際の示唆を得ることを目的に、クッキングバスにおける実践を視察し、運営方法などの具体的な方法を調査するとともに、教科科目デザイン&テクノロジー中のフードテクノロジーの調理室における学習との違いについて調べた。
    <方 法>
     Focus on Food Campaignの創設者で現在ディレクターのAnita Cormac 氏へのインタビューと、クッキングバスの調理指導の視察並びに実施者Sarah Helliwell氏へのインタビューを行った。
     クッキングバスによる実践はヨークシャー州のSt Aidan’s C of E High Schoolにおいて、2010年3月16日に行われた。10学年対象の実習と、同校に勤務する教師を対象にした実習の2件を視察した。クッキングバスにおける実習と学校内の調理実習室における実習を比較するために、同校におけるフードデザインの9学年の授業を視察した。インタビュー及び視察の補足として、現地で収集した資料等を参考にした。
    <結 果>
    ・Focus on Food Campaignは、Food Standards Agency(食品企画庁)や、 BBC放送、デザイン&テクノロジー協会、ピザエクスプレスなどの官民にわたる多くのパートナーとスポンサーにより支えられている。
    ・クッキングバスはスコットランド、ウエールズ、ヨークシャーの各1台と、インドランド2台の合計5台が稼働している。
    ・クッキングバスでは、フードテクノロジーの教員免許保持者2名が指導にあたる。ドライバーは、バスに宿泊している。
    ・クッキングバスの経費の一部は、調理用具の販売や同組織が運営する料理学校の収入により賄われている。
    ・フードテクノロジーの学習が座学中心であるのに対し、クッキングバスの学習は実習に重点をおいている。
    ・クッキングバスの調理実習では、児童生徒が調理に集中できるように、洗い物等の作業をボランティアの保護者に委ねている。
    ・クッキングバスには、教師や地域住民に、調理を中心に食育を推進する必要性をアピールする目的がある。
    付記:本研究は平成21年度科学研究費補助金(21530932)の交付を受けて行った。
  • ―自己学習力を高めるFBシートの開発―
    林田 秩子, 筒井  佐和子, 加藤(植山) 敦子, 平野 いずみ
    セッションID: A1-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    【目的】 私たちは、高校の普通科目「家庭基礎」(2単位)を履修した生徒達に、将来、食生活の自立を促すことができる知識や技術を身につけさせることを目指して、調理実習の効果的な指導法の開発に取り組んでいる。第1報では、視覚的に捉えられる写真で構成したオリジナルレシピ集を開発し、その検証授業の結果、生徒達は主体的に実習を進めることができ、調理への興味・関心が高まったという報告をした。 本研究では、継続して実践を行っている福岡県立A高校2年生で実施した筆記テスト(183名2009年2月)の結果、実習に関する知識の定着が浅いという課題から授業での知識や技術の理解度を高める手段として、自己評価表(FBシート)の開発を行い、その効果を検証することを目的としている。 【方法】 (1)自己評価表の開発 調理実習における評価について先行研究を調査し、調理実習での自己評価表の開発を行った。 (2)自己評価表を用いた検証授業 2009年10月から2010年2月にA校(2年148名)で4回、B校(2年145名)で2回・C校(1年280名)で2回の検証授業を行なった。 (3)質問紙法と筆記テストによる分析 実習前後に質問紙法と実習に関する筆記テストをA・B・C校で実施した。 【結果と考察】 (1)「家庭基礎」の4回の調理実習で調理の知識を身につけさせるために、実習後に「自分達の実習はどうであったか」という授業の振り返りができるフィードバックシート(FBシート)の開発ができた。その活用によって、実習での評価基準(目標)がわかりやすく、 生徒達は自らの学びを客観的に評価できるようになった。 (2)A校で2008年度と2009年度の同一進路別クラスでの筆記テストの結果を比較したところ、2009年度では平均値が約3.7点上昇し、質問毎の平均正答率も向上した。つまり、FBシートによる振り返りは、実習中に行う作業の一つひとつの目的や役割を確認することに繋がり、学習の理解度を高めるために効果があることが分かった。 (3)また、A校での実習前の筆記テスト結果から生徒を4グループに分類すると、中位層下位~下位層の生徒の伸び値が大きい。つまり、これまで家庭で調理の経験が少なかった生徒に対してこのFBシートが効果的であることを示している。この傾向はB・C校においても同様の結果が得られた。 以上の結果から、FBシートは生徒の知識の理解を促すと同時に実習への意欲を引き出すなど生徒の自己学習力を高めることがわかった。また、教師にとっても生徒一人ひとりの実習状況が把握しやすくなるという利点もあった。今後の改善点として、FBシートの効果をさらに高めるためにはその使い方や記入手順を明確にするとともに生徒が使いやすく、使用効果が実感できるものへ改善することが必要であると考えている。
  • 米飯とみそ汁の学習を中心にして
    児玉 喜久子, 石井 克枝
    セッションID: A1-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    【目的】
     学校における食育が行われ,給食指導や総合的な学習の時間,学級活動,教科学習などでも取り組まれるようになったきた。それぞれの取り組みが連携していくことで充実した食育プログラムになると考えられる。本研究においては,種々の活動の連携を図り,食育における家庭科の位置を明確にした食育プログラムを開発することを目的とした。食材の成り立ちから調理法までの食育プログラムにより,食材を活かした調理技能が習得でき,児童の食意識の向上につながることを検証する。
    【方法】
     千葉県立公立小学校5年生の児童64名を対象に,2009年10月から12月にかけて,家庭科学習「米飯とみそ汁」10時間の学習を中心にして,他教科等においても,食のワークショップや食の成り立ちを知る体験学習を実施した。事前と事後で質問紙にて調査し,それらを分析の資料とした。
    【結果】
    1.食材を学ぶ学習
     食材の価値を実感させることで,おいしくいただくための調理に着目させられると考えた。みそ汁の実を選ぶために野菜の畑見学を行い,生産者から話を聞き,畑の野菜の様子を観察した。煮干しについては,九十九里の煮干し加工場のビデオ教材を作成し,授業で活用した。さらに総合的な学習の時間における米作り,理科における大豆の成長の観察,学級活動でのみそ造りを関連させた。その結果,児童の食材への関心を高めることができ,食材をおいしく調理したいという意欲につなげることができた。
    2.科学的な視点を持たせた調理学習
     米やみそ汁は調理によって味が変わることをワークショップなどにより実感させ,「ご飯とみそ汁」の調理の課題を明確にした。教師の示範を提示し,加熱中の温度変化と米の変化を示すことにより,児童は視点をもった調理を行った。また、この調理を二人一組で行ったため児童の調理技能の習得を確実なものにすることができた。
    3.家庭での実践につなぐ
     家庭での実践につなげるために保護者へ働きかけを行った。すなわち,親子食育教室で保護者にもみそ造りを児童と一緒に体験してもらったり,家庭科便りで学校での学習の様子を知らせたりした。また,地域への発信として,PTAのバザーでは児童がつくった米やみそをおにぎりとみそ汁にして提供した。家庭実践は3パターンを提示し、家庭の事情に合わせて選択できるようにした。児童のつくった食材と地域の食材をセットにし、食材の価値を家庭で話題にできるように仕組んだ。その結果,児童は家庭でも意欲的に取り組み、食材の価値について家族と話し合い、保護者からも食材の価値や児童の技能習得に関する感想が寄せられた。
    4.家庭科を中核とする食育プログラムの有効性
     家庭科の題材である「ご飯とみそ汁」の学習を中核にして,食材の学びが多角的になるように他教科などと関連づけたため食べもの価値を実感し、調理に意欲的になった。また,視点を明確にした調理学習により調理技能の習得を確実にし、家庭実践へとつなぐことができた。食材の価値を家庭で話題にできるように仕組んだことにより、保護者の食意識の変容もみられた。
  • 中学生のふれ合い体験ビデオ視聴から
    金子 京子, 阿部 睦子, 倉持 清美, 妹尾 理子, 望月 一枝, 西岡 里奈
    セッションID: A2-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    問題と目的
     平成20年の学習指導要領改訂では、子どもとふれ合う活動が中学校で必修となり、ふれ合い体験を通して「幼児への関心を深め、かかわり方を工夫できること」を求めている。ふれ合い体験の効果については、様々な研究が示唆している。そのほとんどが、生徒が幼児に対する肯定的なイメージや感情を持つようになることを指摘している。しかし、実際の『かかわり方の工夫』ができるようになったかどうかを検討した研究は見あたらず、また、『かかわり方の工夫』ができるような授業実践についての検討はほとんどない。そこで本研究では、『かかわり方の工夫』ができるような授業実践を検討し、幼児とのふれ合い場面において、その効果を検討することを目的とする。
     本研究では、幼児とのふれ合い体験の事前の授業で、前年度の生徒がふれ合い体験を行った際に収録したビデオを生徒に視聴させ、どのようなかかわり方がよいかどうかを話し合った。この教材を選定した理由は、次の3点である。第1に、同じ年代の生徒が関わる様子を見せることで、実際に自分自身がどのように振る舞えばよいのかがかわりやすいこと、第2に、ふれ合っている最中に自分の行動を客観視したり幼児の様子を冷静に捉えることは難しいが、ビデオを視聴することで、幼児の様子を冷静に捉えることが可能になること、第3にクラスの中で共通の場面をみることで共通のイメージを持って話し合いができること、以上3つのメリットを考えた。
    研究対象および方法
    1.交流対象 本研究では、対象とする中学校が小学校低学年と交流していたため、小学生とのふれ合い体験の場面を研究対象とした。小学校年少児との交流は、幼児と変わらない効果が得られることが実証されている(倉持・金子・阿部・妹尾・望月,2009) ため、ふれ合い体験として問題ないと判断した。
    2.授業内容 幼児の発達などの授業の後、ふれ合い体験を実施する事前の授業で、ビデオを視聴させ、気づいた点を記述させ、どのようなかかわり方が工夫できるかを話し合わせた。ビデオは、前年度のふれ合い体験の様子なので1時限分はあるが、教師が要所を取り上げて視聴させた。ふれ合い体験の内容は、小学生とともにおやつを作り一緒に食べるという活動で、前年度と同じ内容である。
    結果と考察
    ビデオを用いた授業による生徒の気づきを整理すると次の3点になった。第1に、「準備をしていないと小学生を放置する場面がある」「砂糖とか事前にはかっておいた方が作業がスムーズに行く」など、事前準備の工夫、第2には、「小学生を真ん中にたたせて、中学生は両脇に行く」「空き時間に目を離さず一緒に行動する」「中学生同士で話をするのはやめた方がよい」など、中学生の立ち位置や視線などのかかわる際の工夫、第3には、「小学生を中心に作業をさせて、中学生ばかりが作業しすぎないようにする」「小学生にやりやすい作業をさせて、できないときには補佐をする」など、調理中のかかわり方の工夫である。ビデオを視聴することで、具体的なかかわり方について検討することができていた。その後行ったおやつ作りのふれ合い体験では、事前準備をしっかりと行い、立ち位置を工夫し、調理中のかかわり方も工夫できていた。また、教師にとってのメリットもみられた。教師自身が、生徒のかかわり方に焦点化でき、「前年度と異なり、調理の手順の説明や指示などに時間を取られることが少なくなり、生徒が小学生とどのように関わっているのかをじっくり見る時間を持つことができた」と述べている。
  • 同性カップルの「家族」を描いた絵本を例に
    堀内 かおる
    セッションID: A2-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    〈目的〉2006年に実施された「家族の法制に関する世論調査」(内閣府)によると、家族の役割として最も大事だと考えられることとして、「心の安らぎを得るという情緒面」と回答した者が最も多く44.4%を占め、「子どもをもうけ,育てるという出産・養育面」と回答した者は29.2%である。家族の役割として情緒面の充実が求められる今日、「心の拠り所としての家族」という認識は多くの人々の共感を得ていると考えられる。本研究者は、2009年度より、多様な家族の姿を描いた絵本に着目し、家庭科教材としての有効性を検討してきた。日本家庭科教育学会2009年度例会では、父親と子どもとの関わりが描かれている絵本を分析した結果を報告した。今回は、アメリカで出版されている同性カップルと子どもによる「家族」を取り上げている絵本に着目した。日本人の作家による同性カップルを描いた絵本はいまだ見られないことを鑑み、先行するアメリカの状況において、これらの絵本がどのように評価されているのかを調査するとともに、絵本の構造を分析し、絵本の中に込められたメッセージを明らかにするとともに、家族の在り方を問う家庭科教材としての可能性について検討することを本研究の目的とする。
    〈方法〉1.アメリカで出版された同性カップルとその家族を描いた児童書・絵本の変遷について、インターネットや文献資料から明らかにする。2.日本では無名であるが45冊を超える絵本を刊行しているアメリカ在住の著名な絵本作家であるパトリシア・ポロッコによる絵本“In Our Mothers’ House”, Philomel Books, New York, 2009を取り上げ、登場人物の描かれ方と内容のメッセージについて考察する。3.家庭科教材として「多様な家族」を取り上げる際の着眼点について検討する。
    〈結果及び考察〉1.同性カップルとその家族を描いた児童書・絵本としては、1981年にデンマークで出版され1983年に英語で翻訳出版されたスザンヌ・ボッシュによる“Jenny lives with Eric and Martin” が最初である。その後、1989年にアリソン・ワンダーランド社より“Heather has two mommies”が出版され、続いて同社から1990年に“Daddy's Roommate”、1996年には続編となる“Daddy’s Wedding”が出版された。これらの図書は、論争的テーマの作品として話題になり、政治論争にまで発展した。
    2.パトリシア・ポロッコによる作品“In Our Mothers’House” は、23のシーンから構成されており、女性の同性カップルが生後間もない3人の養子を次々に迎え、子どもたちとともに様々なイベントを楽しみ、地域の中で近隣の人たちと親しく暮らしている様子が描かれている。地域の人々の中には一人だけ、彼女たちを敵視する女性がいるが、この女性は例外的存在となっている。年月を経てカップルの女性たちが年老いて亡くなってからも、子どもたちの拠り所として、「母さんたちの家」はいつまでも位置づいている。子どもたちが成長しそれぞれの配偶者を得てからの姿までも描いているところに、本書の特色がみられ、「家族」は時とともに形を変えながら次世代に継承されていくという暗喩が示唆される。
    ストーリーは、「同性カップルによる家族」というテーマのみならず、人種や民族がそれぞれ異なる3人の子どもたち、インターナショナルな文化的背景を持った地域の人々との共生という「多様性」が主題となっている。「多様性」を前提とした「共生」について、示唆を与えうる絵本であることが確認された。同時に、「家族」が成立する必要十分条件として不可欠なのが「愛情」であるというメッセージが込められていた。
    3.絵本を「教材」として取り上げようとすると、教師には、その絵本に内在するメッセージ(イデオロギー)に対する解釈が問われることになる。特に、論争的なテーマに関しては、その教材を使用することによって「何を伝えたいのか」ということをめぐり、慎重な検討を要する。一つの家族形態のみを提示するのではなく、「多様な家族」の形を示す複数の絵本を提示し、それらの「家族」の共通性に焦点を当てるという方法が考えられる。
  • 本村 めぐみ
    セッションID: A2-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    1.問題関心
     家庭科教育において、「家族」の授業を展開することはとても難しいという声がよく聞かれる。その理由の一つが今日の家族の多様性に対応できない、という点である。
     たとえば、その内実は曖昧にされたままに、教室にはかならず「”複雑な家庭”に育つ子ども」と表現される子ども達がつくり出されている。彼らは、ステレオタイプに「家族について考えることさえ拒む存在」「家族を語ることは出来ない存在」と見なされがちである。と同時に、そのような子どもの存在に教員らは「配慮」が必要であると感じており、そのため「家族語り」は、出来るだけ遠ざけながら家族の授業を展開することを模索しようとする議論さえ生まれている。
     しかし、「語る」という営みは本来、自己の存在を他者に知らしめ、他者からの承認を得るための人間的行為である。「自身の家族語り」を阻害しているのは、果たして本当に彼ら自身の家族経験そのものなのか。また、「複雑な家庭の子ども」とラベリングされる子どもたちは、本当に自身の家族について語りたくないと考えているのだろうか。
    2.目的
     本研究では1980年代頃までは「病理家族」とも捉えられていた「ひとり親家族」のもとに育った子ども達の語りの分析を行うことを方法論とし、まずは、彼らの主観的認知に観られる「一人親家族として生きる困難」の内実を抽出する。
     そのなかでも特に学校文化、および教室(とくに「家族」を扱う家庭科の授業)のなかで受けざるを得なかった周囲からの「配慮」という名の一つの排除が、概して彼らがおおらかに家族を語ることを「抑圧」し続けてきた事実を読み解くことによって、家庭科という科目が、教育的には逆機能してしまっている側面への気づきを促し、これからの家庭科教育における「家族」の授業の意義と課題について言及したい。
    3.調査協力者とインタビューの方法
     本研究においては、回想法によって自己認知の言語化が十分に可能であると思われる大学生になったひとり親家族の子どもたちを対象とした。
     国立W大学において90名程度の受講生がいる教室にて、趣旨の説明と協力の呼びかけを行い、協力を申し出てくれた母子・父子家庭の大学生男女14名を対象とした(女子9名、男子5名)。対象者の平均年齢は20歳である。親の離別・死別を共に含む。本研究の対象者は母子家庭がやや多く、離別が多いことが特徴である。8割の対象者は奨学金を受けており、一部を除いて経済的には豊かであるとは言えず、殆どはアルバイト生活を送っている。調査時間は一人1回につき、90分~半日(1回につき)。必要に応じて2度行っている。
    4.結果
     主な結果は以下のとおりである。1.「ひとり親家族を生きる」子どもたちは、教室内でマイノリティとしての存在を表明することによって生じる周囲からの不必要な同情や過剰な「配慮」に困惑を覚えている。2.そのため、彼らは周囲の「標準家族意識」の秩序をかき乱さない程度に、あるいは何らかの工夫を施しながら「家族語り」をせざるを得ない。3.彼ら配慮という名の下に誰からも「聞いて貰えない」「尋ねて貰えない」という触れられない経験を重ねることによって「閉じて生きる」ことを緩やかに強要されている。
    当日は具体的なデータを示しながら家庭科教育における「家族」授業のおおきな課題について言及する。
  • 大学生の人工妊娠中絶について
    得丸 定子
    セッションID: A2-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】大学生の人工妊娠中絶について、その悲しみや悩み、その対応に関する実態調査をおこない、いのち教育の一環として、公認されないグリーフケアの一つである中絶へのケアのあり方を探ることを目的とする。
    【方法】2009年7月~12月にかけて2段階の調査を行った。まず調査1では、J大学の男女学部学生・院生(n=460)を対象に自記式アンケートを留置方法で行った。アンケートの内容は、男女によって内容を変え、女性への質問は本人自身のことについての内容(中絶経験の有無、母親との愛情関係、飲酒、自由記述等)と回答者の知人に関する内容(知人の中絶経験、知人の具体的悩み、相談内容、自由記述等)について実態把握を試みた。男性への質問は当然ながら知人友人に関する内容(上記女性への質問内容に準ずる)のみで構成した。次の調査2では、調査1のアンケート回答者のうち、インタビュー調査に同意した人を対象に、面会と電話による半構成インタビュー(調査1の補足、相談した人との関係、相談されたきっかけ、相談した側の反応、相談した側の中絶の悩みの解決方法、相談をした人の現在の様子、相談を受けた側の意識の変化等、10項目)を行った。統計処理はエクセルを用いた。
    【結果と考察】調査1では、回収できた回答用紙100通(回収率21.7%)のうち、「本人が中絶経験者である」との回答は皆無であったため、「知人友人に中絶経験者がいる」と回答した22人(女性9人、男性13人)のデータを分析した。
    知人友人の中絶の悲しみ・悩み・その相談への対応は男女で異なっていた。相談した側が女性の場合、全件とも中絶後に相談を受けたという回答であった。このことはまさに公認されない悩みや悲しみということであり、中絶前に相談できる状況作りや教育の重要さが示されていいる。相談を受けた女性側の対応は「聞き役」であり、「共感」が多く占められていた。しかしながら、相談を受けた側は話を聞くことしかできないという無力感も回答された。一方、相談した側が男性の場合、事前の相談はあったものの、相談と言うよりも妊娠の報告や中絶の費用のことであり、相談を受けた側も中絶の悩みや悲しみのケアとしての対処ではなかった。中絶という課題における男性側への対策はこころのケア以前のものであり、パートナーとしての自覚や女性側への配慮等の教育が必要であることが示された。
     調査2のインタビューでは、調査同意者は5人(女性2人、男性3人)であった。
    悩みを相談されたきっかけとしては、3つのパターンに分類され、回答者(相談を受けた側)がはなしのきっかけを作ったケース(これは女性に多いケースであった)、知人からきっかけを作ったケース、会話の途中で相談されたという3ケースであった。また、どのケースにも共通する点は、1対1の状況で悩みを話していることであった。このことは、中絶に関する話は社会的に受け入れられないという思いを男女共に持っていることが関係していると考えられる。
     悩みへの対応については、相談を受けた側は、相談した人の悩みを聴き、「そばにいてあげる」という心情と態度を示すことで、相手の悲しみが和らぐことが示された。また、特に男性に多いケースとして、相談する側の中絶に関する内容は「悲しみ」「自責」というより、「負担」、「失敗」、「面倒なこと」という回答傾向であった。また、男女とも、親子関係が良好な回答者では、親に対して中絶の相談をしているという回答が得られた。
     本研究は少数回答ではあったが、男性への調査を行ったという点で、わが国では例が見られない調査であり意義の大きい調査であった。今後、家庭、学校、医療機関と連携をとり、単なる避妊知識を扱う「性教育」ではなく、生き方として、性について考える教育の展開がより必要である。さらに、中絶予防的教育に留まらず公認されない悲しみへのケアとその対応に関する教育や取り組みが望まれる。
  • ―大学生と中学生のジェンダー意識の分析―
    青木 幸子
    セッションID: A2-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     男女平等は世界共通の課題である。今年度は、1979年の「女子差別撤廃条約」の採択から31年、85年の批准から25年とちょうど節目の年に当たり、しかも国連女子差別撤廃委員会への第6回報告書に対する最終見解の受理等と併せて、我が国の今後の取り組み課題について見直しを図っていく時期でもある。
     政府においても第3次男女共同参画基本計画の策定準備が進められており、「男女共同参画社会基本法」に謳われた21世紀社会の喫緊の課題としての男女共同参画の新たな方針を検討中である。
      固定化された男女の役割分担への意識や行動は、以前に比べると薄らいできたが、経済状況の悪化による環境整備は難しい局面を迎えており、男女平等への道のりは険しい状況にある。
     一方、平成生まれの子どもが大学生となり、彼らは小学校から高等学校まで男女共学で家庭科を学んできた。家庭科に男女別学の時代があったことを知り驚いている状況があり、それほどまでに男女平等は彼らにとっては「当たり前」のことである。
     1998年の教育職員免許法の改正により「総合演習」が大学の教職科目として新設された。爾来、「ジェンダーと教育」講座を開講してきたが、そのうち2年間をかけて『男女平等を考える教育カルタ』を製作した。
      昨年度の大会において、このカルタを家庭科の授業で活用し、女子中学生のジェンダー観の涵養に果たすカルタ教材の効果を分析した。その結果、カルタ教材を使用した授業は、生徒の性差意識に揺さぶりをかけ、自らのジェンダー観をリセットする契機としての効果が確認された。
     今回は、この「教育カルタ」を活用し、男女平等を当たり前と認識している教員を目指す大学生のジェンダー意識を分析し、「教育カルタ」の教材としての汎用性について検討することを目的とする。
    【方法】
    1.対象者;T大学「家庭科教育法_I_」履修者(大学2年)81名
    2.調査時期;平成21年12月~平成22年1月
    3.研究方法
    * 「家庭科教育法_I_」の授業中にカルタ大会を実施し、学生はワークシー トを作成する。
    * 授業後にジェンダーチェックを行なう。
    * ワークシートの記述内容とジェンダーチェックシートの得点から大学生の  ジェンダー意識の涵養に果たすカルタの効果を分析する。さらに、中学生  の結果との比較分析を行ないカルタ教材の汎用性について検討する。
    【結果と考察】
    1.気になったカルタは、44枚中33枚とカルタ全体の75%に及んだ。選ばれ たカルタは、中学生の結果に比べると分散傾向にあることが確認され た。
    2.授業のワークシートの分析から、大学生は、考える>意思表示>分かる  >気づく、の順で学びとっていることが確認された。これは、意思表示 > 気づく>分かる>考える、の順で学びとった中学生の学びとは明らか に異なり、学び手の発達段階や経験から多様な学びとりができることを  期待させる結果となった。
    3.ジェンダーチェックシートの分析から、固定的な性別役割分担の考え方   には反対する傾向が強いが、身体的・生理的特性に関する項目について   は、固定的な性差観にとらわれる傾向が強い。
    4.本カルタ教材について汎用性が期待できるが、より多くの学びを提供で  きる多角的な視点を持ったカルタの必要性が確認された。
  • 正保 正惠, 林原 慎, 伊藤 圭子
    セッションID: A2-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【背景・目的】
    昨年度の大会において、新指導要領に表記された「家庭生活を大切にする心情」をどう育むか、について家庭科の価値論的な論考と、台湾の家族生活教育で用いられているロールプレイングという方法について発表を行った。また、西敦子ら(2006)の研究等では、小学生の自尊感情がアサーショントレーニングで高まることが示されている。本報告は、我が国の小学校家庭科において、ロールプレイングを用いて「家庭生活を大切にする心情」を育むということを具体的にはアサーティブなコミュニケーションによって自尊感情(家族)を高めるととらえ、どのようなタイプの児童に効果的なのかを研究授業と事前・事後テスト、家庭へのアンケートを実施して実践的に影響を測定することを目的とする。
    【方法】
    方法として、(1)家族とのコミュニケーションを改善することをめざすロールプレイングの授業(アサーティブな態度を身につけさせる授業・広島県内M小学校5年生2時間×2回・2クラス)を設計し実施した。(2)事前テスト、事後テストを行った。また、(3)事後テスト終了後、保護者へのアンケートを実施し、家庭内での普段のコミュニケーションのタイプ等を聞いた。
     アンケートによって児童のタイプを(1)個人要因として、保護者に聞いた家庭でのタイプをa.「アグレッシブ」、b.「アサーティブ」、c.「ディフェンシブンシブ」、d.「その他」(未記入及び複数回答)に分け、検討した。また、コミュニケーションの頻度が違うかと考え(2)家族数要因としてA.一緒に住んでいる家族員数、B.きょうだいの数による影響を検討した。  本報告では、家庭内でのタイプによって事前における自尊感情(家族)の値が違うのか(家庭内でのタイプが「アサーティブ」な児童は、自尊感情(家族)が高いのか)、2回の授業で授業目的を理解(事前―事後の変化量で測定)し、「アサーティブ」な態度が育まれた児童は、自尊感情(家族)も高くなるのか、測定を行った。
    【結果】
    (1)家庭内での態度が「アサーティブ」な児童は、「アグレッシブ」な児童に比べ、自尊感情(家族)が有意に高い傾向が見られた(p<0.10)。(2)ロールプレイングの授業は、「アグレッシブ」な児童と、「アサーティブ」な児童に特に効果的であった(p<.001)。(3)家庭で「アグレッシブ」な児童は、授業によって自尊感情(家族)も有意に高くなった(p<.01)。(4)授業目的の理解の変化量と自尊感情(家族)には、正の相関関係があった(Pearsonの相関係数.269*:5%で有意)。(5)家族員数、きょうだい数による影響はなかった。
    【考察】
    (1)4つのタイプ別の授業目的の理解の変化をみると、いくつかのタイプで事前と事後において有意に理解が深まっていることから、「家庭生活を大切にする心情」を家庭生活におけるコミュニケーションの改善としてとらえると、ロールプレイングを用いた授業は効果があったということができる。なかでも、(2)事前において最も値の低かった「アグレッシブ」な児童において、その変化量が大きく、保護者からみて攻撃的な児童には最も良い影響が見られた。(3)もともと「アサーティブ」であった児童においても有意な差ではないがプラスの変化があり、自分の態度を相対化して納得する上で重要な機会であったと推測される。(4)「ディフェンシブ」な児童は変化量が少なかったが、元々他者からの攻撃を受けやすい傾向のある児童をどのようにしてアサーティブにしていくのか、今後検討をする必要がある。
  • ―家族の仕事と自分の役割に着目して―
    本庄 則子, 堀内 かおる
    セッションID: A2-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    【目的】
     家庭科では、日常生活を中心とした人間の生活を学習対象とし、生活の現状や将来の生活を考えて家庭生活の中から適切な学習課題をみつけ、解決し、日常の生活で実践する力をつけていくことが重要である。この実践力を高めるためには、まず、家族の一員として自分にできることは自分でやろうとする態度や自分の成長を自覚し周りの人に感謝する気持ちを育てることが必要である。心を育てることが家族への思いを深め、家族の一員として、生活をよりよくしようとする実践的な態度を育てることにつながると考える。しかし、身近な生活や家族は、小学生にとってあたりまえのことであって、生活の何を見つめてよいかわからず、生活の何をよりよくしていけばよいかとらえるのが難しい。
     そこで、本研究では、小学校家庭科の新学習指導要領「A家庭生活と家族」の内容をとりあげ、授業実践を通して日常生活を可視化してとらえさせ、確かな実践力をはぐくむ授業を開発することを目的とする。
    【方法】
     授業実践は、横浜国立大学附属小学校第5学年1組~3組 男女120名を対象として、本研究者の本庄が平成22年1月に、4時間で行った。題材は、「家族の仕事と自分の役割を見直そう」である。日常生活を可視化するために、事前調査で「家族からはじまるイメージマップ」を、家庭での課題で「家族への1日密着取材」の様子を、授業で、「家庭の仕事表」「メッセージポスター」を作成させ、自分の生活を見つめ直す手立てとした。また、授業による子どもたちの変化を客観的にとらえるため、実践段階を考え、授業前と授業後の家族や家庭の仕事に対する意識を分析した。
    【結果および考察】
    (1) 家族からはじまるイメージマップ
     「『家族』と聞くと、何を思い浮かべますか。」と問い、子どもたちの家族へのイメージを可視化し、実態把握を行ったところ、身近である家族についてじっくり考えたり、生活に疑問をもったりすることが少ない実態が明らかになった。
    (2) 家族への1日密着取材
     冬休みを利用し、最も家庭の仕事をしている家族に1日密着して、その行動と密着して感じたことを書かせる課題に取り組むことにより、児童らは自分の家庭生活を見直し再確認していた。
    (3) 家庭の仕事表の作成
     付箋を利用し、家庭の仕事を衣・食・住・家族に関する仕事にまとめ、今の自分にできること・6年生の自分・中学生の自分・大人の自分と付箋を動かしながら家庭の様子を可視化した。この活動は、児童が現在の自分を自覚するうえで有効であった。
    (4) メッセージポスターの作成
     家庭実践を友達と紹介しあうために、メッセージポスターを作成した。家庭からのメッセージ・これからの自分へのメッセージも書き入れて発表することにより、友達と自分との違いや共通点を見出せた。
    【まとめ】
     授業前は、家族に頼まれて「お手伝い」をしていた子どもたちの80%以上が、授業後は家族のことを考え、自分ができることを継続していこうとする意欲をもった。この意欲の高まりが、確かな実践力をはぐくむ原動力になると考える。また、日常生活を可視化することによって、実生活の課題を発見しやすくし、問題解決的な学習を充実させることができた。今後は、学校の実態に合わせた家庭との連携や、家族への思いを高める学習の具体的な年間計画への位置づけが重要となる。
  • 鎌田 美穂, 大竹 美登利
    セッションID: A4-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    1.研究の目的
     近年、都市部では高校生が進路決定を先送りした状態で上級学校に進学・卒業するという「進路決定の先送り現象」が生じている。以上のような高校生の進路選択に関する問題を改善するために、国や文部科学省は,細分化されたサポートシステムの構築やカウンセラーの育成、学校以外に若者の就職支援を行う施設の設置などを進めている。また学校現場では、小学校からのキャリア教育を推進し、生徒が学校に在籍し進路選択を行うまでに、働くことの意義や大切さに気付き働く意欲や態度を身につけることが必要であるとしている。特に高等学校家庭科教育においては、自己実現をめざした経済的自立と職業生活の認識を高めることが課題であると多くの研究者が指摘している(片田江・大塚[2000:103-108])(志村・佐藤[2003:25])。
     一方、志村(2006)が大学生を対象に行った調査では、彼らは保護者等からの経済的自立意欲を持ち、社会人として経済的な社会の責任を担うことに肯定的である一方、具体的な経済観念や家計管理行動に関する認識等が低いことが認められた。
     以上のことより、高校生に自らの生活に関わる基本的な経済感覚を持たせると同時に、「経済的自立意識」を育む一つの要素として、自分の望む将来の生活像や現実的な生活経営の視点を持たせることを目標として授業を行った。その結果、生徒の経済観と将来展望に授業前後でどのような変化があったのかを分析することをこの論文の目的とする。

    2.研究の方法
     東京都内の公立高校で1年生の生徒を対象に、生活に必要な衣食住の具体的な消費財の購入をシミュレートすることにより「生活費」を確認し、それを踏まえて将来の生活展望を考える授業を半年間実施し、この授業のそれぞれのテーマの授業前と授業後に、生徒の「生活観」や「将来展望」に関する感想を記述させた。この自由記述の感想文の内容を分類し、授業前と授業後の記述内容の変化から、生徒の経済観、将来展望に関する意識の変化を探ることにした。

    3.結果および考察
     授業を行う前に生徒が描いた将来展望は、非常に曖昧なものであった。仕事に関しては「働いている」「自分の夢を叶えている」といった抽象的な内容で、具体的な職業名や働き方を記述したものではなく、働くことと収入が結びついていなかった。またその収入の額や、収入と生活費とを結びつけた記述はみられず、経済観が乏しかった。
     「生活費」がいくらかかるかを記述してもらった結果、「一人暮らし」や「夫婦二人暮らし」の生活費については適当な額を想像し記入していたが、「子どものいる暮らし」については想像できていない生徒が多かった。すなわち、一人暮らしは自分の現在の生活から類推でき、またそれを単純に2倍した程度で類推できる夫婦の暮らしの生活費の金額まではおおよそ想像することはできるが、育児・教育の費用など複雑な要素が入る世帯類型までは類推できず、「これまで生活費について考えたことがなかった」という感想を書いた生徒が多くみられた。
     授業は、「食生活の見直し」「一人暮らしの家選び」「衣服購入シミュレーション」などの単元を設定し、自分の生活を思い返し具体的な金額を計算し、暮らしに必要な生活財の費用を積み上げて「生活費」を確認する授業を行った。
     授業を行う以前から、携帯電話に代表される通信費については1ヶ月に必要な金額を明確に把握しており、それを稼ぐためにアルバイトをしていると答えた生徒がみられた。
     しかし多くの場合、生徒は自分の現在の生活を「生活費」という視点から捉えた経験は浅く、授業ではじめて「生活」に「お金がかかる」という認識を得ていた。また、将来展望について授業後の記述をみると「生活費を稼ぐには仕事をしなければならない」「子どもを育てられるお金を稼げるように夫婦で協力する」といった「生活費」を仕事や収入と結びつける記述がみられるようになった。
     このことからも、生徒にとって普段から自分の生活とそれに関わる費用を意識させることは、「自分が望む生活」をするために「働く」という視点を育てることにつながるといえるだろう。

    引用文献
    片田江綾子・大塚洋子,2000,「戦後高等学校家庭科における生活設計(第2報):家庭一般教科書の分析」『日本家庭科教育学会誌』第43巻第2号,103-108
    志村結美・佐藤文子,2003,「家庭科における自己実現と経済的自立に関する教育内容の探究」『日本家庭科教育学会誌』第46巻(1),14-26
    志村結美,2006,「家庭科教育における自己実現と経済的自立に関する研究-大学生の認識と実態から-」第49回日本家庭科教育学会大会抄録
  • 仲田 郁子, 久保 桂子
    セッションID: A4-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    1、目的
    平成21年告示の学習指導要領において、生活設計は新たに独立した単元として、すべての高校生が家庭科学習のまとめとして取り組むことが明示されている(家庭総合)。
    筆者らが2007年に行った分析から、生活設計の学習においてリスク管理の視点を組み込むことは、人の一生について深く考えさせる点において効果があると考えられたが、統計的な確認は課題として残された。またリスクへの対策が貯蓄や保険に集中する傾向が見られ、それら以外の社会保障制度や、様々な人的ネットワークなどと関連させた授業設計も今後の課題であると考えられた。
    そこで本報告は、より総合的な生活設計の授業の構築のために、統計的な手法を活用して、高校生の生活設計への積極的態度に影響を与える要因を検討し、その積極的態度と家庭科教育との関係を明らかにすることを目的とする。
    2、方法
    千葉県内公立高校4校を対象として、各校の家庭科担当教諭に依頼して質問紙調査を行った。実施時期は2009年12月~2010年2月、対象生徒は家庭科を学んでいる1~3年生である。配布数670票、回収率100%、性別不明票を除き有効票数は665とした。属性は男子320人、女子345人、1年347人、2年274人、3年44人である。分析に先立ち、生活設計への積極的態度の尺度を作成した。仕事や家族形成について考えているか、40代の自分、70代の自分を考えることがあるか、将来のことを考えることが大事だと思うか、将来のために勉強や習い事を頑張るべきかなどの7項目について、「そうである」(5点)から「全くそうでない」(1点)を得点化し、7項目の合計点を算出し、積極的態度の尺度とした(7項目のα係数=.7276)。
    3、結果
    (1)生活設計への積極的態度に影響を与える要因について、性別、学習意欲、親からの働きかけ、肯定的自己認識、リスクについての認識の5項目の変数を選び、重回帰分析を行った。その結果、すべての変数について有意な関係が認められた。その中で最も強く影響を与える要因は肯定的自己認識であり、次に影響を与える要因はリスクについての認識であった。また、男女別に重回帰分析を行った結果では、親からの働きかけについて、男子では影響が認められたものの、女子では影響が認められなかった。
    (2)生活設計への積極的態度の得点を、高得点・中得点・低得点の3グループに分け、家庭科学習の重要性の認識、生活資源の重要性の認識、社会保障制度への関心について、関係を検討した。その結果、高得点グループは、他の2グループと比べて3項目のいずれにおいても、高い認識や関心を示した。
    (3)以上の分析結果から、生活設計への積極的態度は、個人の自己認識や家庭環境から影響を受けるものの、家庭科教育との関連では、リスクについての認識から影響を受けることが明らかになり、リスク認識を高める教育内容の重要性を統計的に確認することができた。またリスクは大きく3つのカテゴリに分類でき(事故・病気、仕事、家族)、それぞれが異なる特徴を持つことが明らかになった。さらに、生活設計に対する積極的態度は、衣食住を含めた家庭科学習への積極性や生活資源、およびさまざまな社会保障制度への興味、関心とも強く関連することが認められたため、家庭科の全領域と関連させながら生活設計に積極的に取り組ませることは、きわめて大きな意味を持つことが確認された。
  • ~費目に着目したワークシートを通して~
    小守 友里恵, 山田 忍, 仙波 圭子
    セッションID: A4-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】経済状況の悪化により、日本の貧困率は15%となり児童扶養手当受給者は年々増加する一方、家計簿の売上げは2008年、前年比1割増で、やりくりへの関心の高さを反映していると言える。平成20年高等学校家庭科新学校学習指導要領においても、細やかな家計管理の学習が求められていることから、本研究は、高校生の高校生のライフマネジメントと金銭管理の関係を明らかにし、今の時代に求められている家計の教育をさぐることを目的とした。 【方法】1.2008年12月に市販されていた家計簿23冊を入手し、記述内容を調査をした。2.市販家計簿の費目が生活実態を反映していることに着目し、高校生の個計の費目について検討した。3.「家庭基礎」の消費生活の授業で、費目に着目したワークシートを用い、「各費目の負担者」、「欲しい物があった時の消費行動」、「貯蓄目的」について分析した。 【結果・考察】 方法の3から得られた結果は以下の通りである。  費目の負担者については、「映画・娯楽」「書籍(漫画)」の自己負担が多かった。他の「飲食代」「携帯代」「化粧品」「洋服・靴」「文具・雑貨」「交通費」は、家族の一定の理解があり、家族が負担しているものと考えられる。欲しい物があった時の消費行動は、「諦める」「親に頼る」「自分の力で購入する」の3パターンであった。貯蓄については、将来なにかしら必要であると考え貯蓄する生徒や、目の前にある欲しいもののために貯蓄する生徒が多いということが分かった。  そこで費目の負担と「消費行動」及び「貯蓄行動」の関係について、SPSSを用いてコレスポンデンス分析を行った。  その結果「消費行動」に対する回答パターンでは、「自己負担している女子」は、「自分で購入する」「バイトする」の回答パターンに、「自己負担している男子」は、「貯めて購入する」の回答パターンに、「自己負担していない女子」は、「親に購入する」の回答パターン、「自己負担していない男子」は、「諦める」の回答パターンに類似している。このことから、「自己負担している男女」は、他人には頼らず自分の力で入手していると分かった。  また、「貯蓄目的」に対する回答パターンは、「自己負担している女子」及び「自己負担している男子」は、「長期的目的がある」「長期的目的はない」「短期的目的がある」の回答パターンに、「自己負担していない女子」は、「短期的目的はない」の回答パターンに、「自己負担していない男子」は、「無回答」の回答パターンに類似している。このことから、男女とも自己負担のある生徒は、貯蓄に対してある程度具体的な目的を持ち、また、将来的に使う目的で貯蓄をイメージしていることが読み取れる。以上の結果、高校生は「自己負担をしている、していない男女」で異なる金銭管理を行っていることが明らかとなった。  高等学校家庭科においては、「自己負担をしている、していない男女」がそれぞれ異なる「消費行動」と「貯蓄目的」をすることを踏まえ、それぞれに必要な指導を明確にする必要があると考えられる。  「消費行動」では「自己負担をしている男子」は、「貯めて購入する」、「自己負担をしている女子」は「自分で購入する」「バイトする」回答パターンとの類似から「意思決定」が必要であろう。また「自己負担していない男子」は、「諦める」回答パターンとの類から、「自己投資」が必要であると考えられる。また「自己負担していない女子」は、「親が購入する」パターンとの類似から、「資金管理」が必要であると考えられる。  「貯蓄目的」では、「自己負担をしている男子」及び「自己負担している女子」は、「長期的目的がある」「長期的目的はない」「短期的目的がある」回答パターンとの類似から、「生活の見直し」「生活設計」が必要であると考えられる。「自己負担していない男子」は、「無回答」回答パターンとの類似から、「資金管理」が必要であると考える。「自己負担していない女子」は、「短期的目的はない」回答パターンとの類似から、「生活設計」が必要であると考えられる。
  • 若月 温美, 中山 節子, 冨田 道子, 藤田 昌子, 中野 葉子, 松岡 依里子, 坪内 恭子
    セッションID: A4-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]
    本研究は、社会環境の激変の中で進行する格差社会において、どのように生活経営を考え、暮らしをつくりかえていけばよいのか生活経営領域を中心としたカリキュラムを検討することを目的とするものである。本報告では、セーフティネットをどう構築していけばよいのかを探求する授業実践分析を中心に報告を行う。最後に、授業実践分析結果を踏まえながら、本研究の授業設計やカリキュラムの構築の課題を明かにする。
    [方法]
    対象校は、千葉県の私立高校(B校)と東京都の私立高校(C校)の2校である。対象学年は、B校1年生、C校2年生である。授業実践時期は、2010年1月~2月である。両校ともに4時間の授業計画で、導入で『ホームレス中学生』を教材として用い、そこから住まいに住むために必要なこと(B校)や生きていくために必要なこと(C校)を考察させた。次に、派遣社員やネットカフェ難民の実態をVTRで視聴させ、格差や貧困の問題を身近な課題であることを理解させた。B校の対象者は格差や貧困の問題が自分の生活課題として捉えることが難しいことが予想されたため、VTR視聴後に自分自身の生活設計を考えさせた。両校ともに、最後に社会的排除を生み出す社会構造について解説し、ホームレスやネットカフェ難民、派遣社員などの厳しい生活実態から抜け出すためには何が生活資源として必要なのか、また資源を得るためには何が課題となるのかを考察させた。これらを踏まえて、自分自身の生活資源について考えさせ授業のまとめとした。
    [結果]
    導入の『ホームレス中学生』を取り上げた授業後の記述内容から、「住むこと」や「生きること」に必要なこととして、B校では、基本的な最低限度の生活を維持するのに必要な「物的資源」に関する内容やお金や仕事など「経済的資源」に関する内容が最も多く記述された。次に人や関係性に関する「人的資源」の内容が多く、具体的な記述としては「家族」よりも「近所の人」や「友達」などの記述が多くみられた。また、「個人の努力や能力、運、夢」など個人の資源や能力の問題として捉える記述も見受けられた。C校では信頼関係、頼れる人、家族、友人、つながりなど「人的資源」が最も多く記述され、続いて知恵、知識、資格などの「能力的資源」、「経済的資源」が続いている。その他、生きる希望、プラス思考などの「精神的資源」など、より多くの種類の資源があげられた。派遣社員やネットカフェ難民の実態については、両校ともに「初めて知った」や「大変だと思った」など驚きの反応が観察され、授業後の感想からは、これらの実態から漠然とした不安を抱きながらも自分の将来についてや仕事を得ることの重要性を客観的に見つめようとする様子が伺えた。社会的排除を生み出す社会構造の把握については、生徒の発達段階やこれまでの記述内容などを考慮し、それぞれ独自に工夫した教材を用いたことが効果的であった。自分自身の生活資源を考えることは、労働や福祉の諸課題、転落しやすい社会をどう変えていけばよいのかなど幅広い議論に発展することが明らかとなった。雇用労働環境が厳しさを増し、高校生の就職や進路も益々深刻な問題となっている中、自分がどうすればよいのかわからず悲観的あるいは消極的な状況に留まり続ける生徒の支援が今後の課題である。
    [課題]
    カリキュラム全体の課題としては、時間数の確保である。これまでカリキュラムの内容を厳選し、6~8時間計画のカリキュラム試案を提示した。 試案を部分的に複数の学校で実施したが、時間数に関わる具体的な課題が見え、カリキュラムのコアを定めることがさらなる課題として明らかになった。

    1 田村裕(2007) 『ホームレス中学生』ワニブックス、田村 裕(2008)『コミックホームレス中学生』ワニブックス
    2 日本家庭科教育学会2009年度例会 分科会5配布資料
  • 松岡 依里子, 坪内 恭子, 藤田 昌子, 中山 節子, 若月 温美, 富田 道子, 中野 葉子
    セッションID: A4-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    【目的】  2008年の経済危機を発端とした連鎖的な雇用破壊に伴い、セーフティネットからこぼれ落ちて貧困化する若者が増加した。彼らが貧困に陥った要因は、仕事や福祉の欠如に加え教育、健康、家族、人間関係などの重層的な欠如にある。これまで言われてきた自己責任論からの脱却を図り、安定した暮らしを希求するのは権利であることを認識させることが重要である。本研究では、社会環境の激変に対応した家庭科の生活経営領域のカリキュラム構築を検討することを目的とし、第1報では、授業実践によるセーフティネットの理解の現状と定着について授業分析を中心に報告する。
    【方法】  対象校は2校(A校B校)である。A校は神奈川県の単位制総合高校で多様な選択科目が設定されている。対象学年は、高校2年生である。B校は千葉県の私立高校(普通科)であり、約9割が進学、1割が就職する。対象学年は、高校1年生である。最初に、生徒がどの程度セーフティネットを理解しているかについて、労働に関することと社会保険の理解度を測るためのアンケートを行った。次に社会保障ゲームやDVD(2008 NHKスペシャル「セーフティネットクライシス vol1.2」)の教材を使用し生徒の事前、事後学習の成果について考察を行った。
    【結果】  アンケート結果では、正社員の長所は「雇用の安定(収入・待遇)」79.0%、「福利厚生面の充実」5.0%、短所は「時間的縛り」42.3%、「責任が重い・人間関係」23.0%、フリーターの長所は「時間の自由である」44.2%、「仕事を自由に選べる」32.8%で、短所は「収入や雇用が不安定」86.4%、「社会保険や保障がない」5%であった。以上のように、働き方と社会保険などを具体的に結びつけた回答は5%程度で、セーフティネットに対する認識の低さが推察された。また、「社会保険」という言葉について「名前だけ知っている」は、A校88.2%、B校76.9%、個別の保険になるとその割合は低くなり、「雇用保険」は、A校77.8%、B校47.1%で、B校は「知らない」と同数であった。全般にA校では、「名前だけ知っている」がB校に比べて多かった。次に、セーフティネットを理解させるために、A校では1)事前アンケート2)生活設計チェック3)社会保険ゲーム4)労働法○×クイズ5)DVD視聴6)解説とまとめ7)事後アンケートという流れで、3時間の授業を試みた。今回は、1)3)5)7)についての結果を報告する。社会保険ゲームを行った感想から、正社員では生活できるが、フリーターでは生活できないということを大半の生徒が再認識したようだ。B校の授業では、社会保険ゲームを実施していない(詳細は次の発表)。そこで、事前アンケート、DVD視聴の反応部分について考察した。
    結果、仕事を失ったときに必要なことは、資格や職業訓練などの「能力的資源」、生活保護やハローワークなどの「社会保障」が一番多く挙げられていた。感想から、B校では、事実をとらえたときの驚き(「3人に1人が非正規労働に驚いた」、「今のうちに知識を蓄えておくべきだ」など)「仕事を得る重要性」「将来に関する記述」などが挙げられていた。A校では、事実をとらえたときの驚きについての記述はなかった。最後に、事後アンケートの結果からは、セーフティネットについて「なんとなくわかった」「何が保障されているのかがわかった」という生徒は同数程度であった。「講義だけよりも興味関心がもてた」などの意見が大半であった。以上のことから、この授業の効果が見られたが、さらに精緻化された内容を検討したい。
  • 神山 久美
    セッションID: A4-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    [ 研究の背景・目的・方法 ]
     家庭科では、消費者教育の内容が増加しており、平成20年告示小学校・中学校の学習指導要領においては、「消費生活・環境」は、4内容区分の1つに位置付き、内容の取扱いにおいて、他の3内容の学習と関連を図り、総合的に展開するよう配慮すると明記されている。消費者教育の新しい動向を踏まえながら、家庭科において消費者教育を積極的に導入していく必要がある。
     平成20年版国民生活白書は、「消費者市民社会への展望」がテーマであり、消費者市民社会への転換を謳ったものであった。この白書では、消費者市民社会の定義を「個人が、消費者・生活者としての役割において、社会問題、多様性、世界情勢、将来世代の状況などを考慮することによって、社会の発展と改善に積極的に参加する社会」とし、「そこで期待される消費者・生活者像は、自分自身の個人的ニーズと幸福を求めるとしても、消費や社会生活、政策形成過程などを通じて地球、世界、国、地域、そして家族の幸せを実現すべく、社会の主役として活躍する人々」であり、そのような人々を「消費者市民」と示している。このような近年の動向を踏まえて、神山(2010)は、「消費者教育とは、消費者が商品・サービスの購入を中心とする消費プロセス全体に関わる行動を通して、消費者市民としての権利や責任を自覚しながら、生活環境を変革していく能力を開発する教育である」と定義をしている注1)。家庭科において消費者教育を進めるために、消費者市民教育の概念が重要である。
     本研究は、家庭科における消費者市民教育の意義を検討することを目的とする。近年の消費者教育の動向や、先行研究により検討を行った。

    [ 結果・考察 ]
     消費者教育では、消費者市民の育成が、最上位の目的になると考えられた。従来から消費者教育の内容を扱ってきた家庭科においても、消費者市民教育を目指すことが必要であり、学習者自身の消費生活から出発し、生活環境を変革していくという方向性が、家庭科で実施する独自性となる。
     家庭科の学習内容において消費者市民教育を行う意義は、次のようにあると考えられた。
     1.家庭科では、学習者に消費生活に関わる基本的な価値観を形成し、消費者市民としての権利と責任の自覚を促し、生活環境を変革する能力の育成や社会参加を目指す学習が可能である。
     2.家庭科のさまざまな学習内容と関連させながら、学習者の消費生活に関わる意思決定プロセスをはじめとした問題解決過程の省察を繰り返し行うことにより、消費者市民として必要な批判的思考力を育むことが可能である。
     3.家庭科では、学習者の身近な消費生活に関わる題材の学習を通して、体系的に消費者市民教育を行うことが可能である。
     また、家庭科の学習方法では、実践的・体験的な活動や問題解決的な学習を中心にして、学習者自身の消費生活に関わる内容を扱ってきた。参加・体験型の協同的な学習も行われている。これらは、共生の理念を持ち、行動変容や社会参加を目指す消費者市民教育に関して有効な学習方法であると考えられた。

    [ 注 ]
    1)神山久美.(2010).家庭科における消費者教育の指導と評価に関する研究. 東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士論文.p.18
  • 黒光 貴峰
    セッションID: A4-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    研究目的と方法  本研究は、学校教育における家庭科の学習実態と学習者の家庭科に対する意識・イメージを明らかにすることを目的としている。研究方法は、小・中・高等学校家庭科を学習した大学生を対象にアンケート調査を行った。調査期間は、2007年から2009年である。回答数は、908票:男性386票(42.5%)、女性507票(55.8%)、2007年496票、2008年213票、2009年199票である。調査内容の主な項目は、1)小・中・高等学校の家庭科の学習内容、2)家庭科に対するイメージ、3)家庭科を学んだことによる意識の変化である。 結果 1)小・中・高等学校の家庭科の学習内容  小・中・高等学校の家庭科の学習歴について、「家庭生活」、「衣生活」、「食生活」、「住生活」、「消費生活」、「保育」、「覚えていない」という選択肢を設け複数回答で聞いたところ、「家庭生活」小:697票(76.9%)中:596票(65.8%)高:548票(60.5%)、「衣生活」小:836票(92.3%)中:810票(89.4%)高:656票(72.4%)、「食生活」小:863票(95.3%)中:866票(95.6%)高:782票(86.3%)、「住生活」小:589票(65.0%)中:655票(72.3%)高:538票(59.4%)、「消費生活」小:457票(50.4%)中:702票(77.5%)高:625票(69.0%)、「保育」中:499票(55.1%)高:546票(60.3%)、「覚えていない」小:35票(3.9%)中:22票(2.4%)高:89票(9.8%)であった。  家庭科を学んだことへの受け止めについて、「肯定的である」、「否定的である」、「どちらともいえない」という選択肢を設け聞いたところ、「肯定的である」817票(90.5%)、「否定的である」47票(5.1%)、「どちらともいえない」39票(4.4%)であった。「肯定的である」と回答した者(817名)にその理由を「他の教科で学べないことが学べた」、「実生活で役立つ」、「授業が面白い」、「実習がたくさんあった」、「特に理由はない」、という選択肢を設け複数回答で聞いたところ、「実生活で役立つ」600票(73.4%)が最も高く、次いで、「実習がたくさんあった」368票(45.0%)であった。「否定的である」と回答した者(47名)にその理由を「他の教科を学びたかった」、「学ぶ必要を感じなかった」、「授業がつまらなかった」、「特に理由はない」、という選択肢を設け複数回答で聞いたところ、「授業がつまらなかった」6名(12.8%)、「無回答」41名(87.2%)であった。 2)家庭科に対するイメージ  家庭科に対するイメージについて、「そう思う」、「やや思う」、「あまり思わない」、「思わない」という選択肢を設け聞いたところ、生きていくために重要な教科「そう思う」382票(42.5%)「やや思う」460票(51.5%)、生活に密着していて面白い教科「そう思う」377票(42.2%)「やや思う」427票(47.6%)、具体的でわかりやすい教科「そう思う」218票(24.5%)「やや思う」426票(47.9%)、友達と相談や話し合いが出来る教科「そう思う」185票(20.8%)「やや思う」424票(47.7%)、活動が多くて楽しい教科「そう思う」450票(49.8%)「やや思う」362票(40.4%)、実生活に役に立つ「そう思う」569票(63.1%)「やや思う」295票(32.9%)、家族と話題にしやすい教科「そう思う」146票(16.9%)「やや思う」336票(38.4%)、学校で学ぶことに意義がある教科「そう思う」229票(26.2%)「やや思う」477票(54.4%)であった。 3)家庭科を学んだことによる意識の変化  家庭科を学んだことによる意識の変化について、「そう思う」、「やや思う」、「あまり思わない」、「思わない」という選択肢を設け聞いたところ、自分の生き方や考え方が変わった「そう思う」33票(3.7%)「やや思う」346票(38.4%)、家庭生活は男女がともに営むものであると考えるようになった「そう思う」364票(40.3%)「やや思う」413票(45.7%)、家族のことを考えるようになった「そう思う」218票(24.4%)「やや思う」480票(52.9%)、社会問題に関心を持つようになった「そう思う」161票(17.9%)「やや思う」478票(53.2%)、生活を科学的に見つめるようになった「そう思う」38票(4.3%)「やや思う」196票(21.7%)、子育ての意義や親の役割などへの関心が深まった「そう思う」229票(25.6%)「やや思う」452票(50.3%)、高校卒業後の進路に影響があった「そう思う」42票(4.7%)「やや思う」55票(6.0%)、生活上の課題について解決しようとする態度をもつようになった「そう思う」75票(8.3%)「やや思う」447票(49.7%)であった。
  • 安部 暖, 大竹 美登利
    セッションID: A5-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    【目的】 近年、教育分野においても環境整備や教育コンテンツの情報化が求められている。デジタルコンテンツなどICTを活用した授業は「確かな学力」の向上につながる教育的効果が見込まれ、更なる調査・普及が進められている。  本研究では、ミシンの扱い方を学ぶ学習におけるデジタルコンテンツ使用の学習効果や有効な利用方法を明らかにする。本研究で試用したデジタルコンテンツは、ミシンの使い方を初めて学ぶ小学校教材として、小学校での使用、教師等による評価などを元に改善を加えて作製したFlashアニメ教材、および実写DVD教材である。  この2種のデジタルコンテンツを単体にて使用した場合、また実写・ア二メ教材を共用した場合に、教育的効果に相違があるかを比較検証することを本研究の目的とした。 【方法】 調査対象は国立大学附属S小学校第5学年3クラス(1組36名、2組37名、3組37名)の計110名である。2008年10月20日と10月28日に教材を用いて授業を行った後、アンケートを実施した。授業で用いたデジタルコンテンツは、1クラスは(1)実写DVD、もう1クラスは(2)Flashアニメ、そしてもう1クラスは(3) 実写DVDとFlashアニメの両教材を使用して、3クラスの学習の定着度や児童の感想などを比較した。授業は、3クラスとも一斉指導形式で同一教諭が行った。 学習の定着度を測るポスト質問紙アンケートを実施した。アンケートは、下糸のかけ方などの糸の軌跡を書かせ、正確に書けているかの正答率、また児童が理解できたかどうかの○×よりる回答数、ならびに自由記述の感想から構成される。アンケートの回収率は93%であった。 【結果】 「下糸入れよう」の正答率は、(1)実写DVDを使った場合43%、(2)Flashアニメを使った場合65%、(3) 実写DVDとFlashアニメの両教材を使った場合84%となった。実写DVDを使うよりもFlashアニメのほうが正解率は高く、またFlashアニメだけを使うよりもFlashアニメ・実写DVDの両教材を使ったほうが正解率は高かった。 「上糸をかけよう」の正答率は、(1)実写DVDを使った場合73%、(2)Flashアニメを使った場合59%、(3) 実写DVDとFlashアニメの両教材を使った場合92%となった。「下糸をかけよう」と逆に、Flashアニメを使うよりも実写DVDのほうが正解率は高くなっていた。ただし単体で使用するより両教材を併用したほうが正解率が高かった。  「下糸をまこう」「下糸を入れよう」「下糸を引き上げよう」「上糸をかけよう」「ぬい始め・ぬい終わり」の5項目のうち、よく理解できたものを複数選択可で○をさせた。「上糸をかけよう」では(1)実写DVD76%、(2)Flashアニメ68%、(3) 実写DVDとFlashアニメの両教材使用89%の児童が○をしていた。実写DVDやFlashアニメ単独の使用よりも、両教材使用のほうがよく理解できる項目が多かった。他の項目でもほぼ同様の傾向であった。  本研究では実写DVD<Flashアニメ<実写DVD+Flashアニメ共用の順に理解度が高い結果となり、場面によって実写DVDが良い、Flashアニメが良いなどがあることが分かった。両教材の使用によって理解しづらい部分を補い合い、児童にとって分かりやすくなるのだと考える。
  • 一色 玲子, 鈴木 明子
    セッションID: A5-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    1.研究の背景と目的
     活動を通した学びを学習者個々に内化させ定着をうながすために,学習者による自己評価の有効性が吟味されている。教育評価でいう自己評価とは,「子どもたちが自分で自分の人となりや学習の状態を評価し,それによって得た情報によって自分を確認し今後の学習行動を調節すること(田中,2008)」であり,学習活動の自己制御(self-regulation)としての目的をもつ評価である。平成20年に告示された小学校学習指導要領家庭科においては,興味・関心をもつこと,基礎的・基本的な知識・技能を習得すること,日常生活で活用すること等といった,認知変容をともなう製作能力の育成が求められている。一連の製作学習における学習者の自己評価活動は,製作学習を通して育成されるこれらの能力をメタ認知させる手立てとなると考えられる。
     製作学習には,設計・構想場面,製作場面,製作物のふりかえり場面といった異なる自己評価の目的をもつ3つの場面がある。本研究では,小学校家庭科の巾着袋製作学習の中で,自己評価項目を各場面に設定し,構想と実際の製作の違い,製作場面のつまづき,製作物のできばえと自己評価との関連といった認知過程を分析することを目的とした。
    2.方法
     東広島市立M小学校5年生29名(男児17名,女児12名)を対象に2009年12月,120分の巾着袋製作の授業をおこなった。事前に巾着袋の形と中に入れるものを選択,決定させ,本時は装飾(自由構想)と縫製をおこなわせた。授業形態は4~5人班とし,班員の構成は製作学習に関する学習スタイルと意識調査を参考にした。各班に15×20cmの布16枚と材料キット(40cmひも1本,ボタン3個,刺繍糸3色,5cm角フェルト2枚)を6セット配布し,児童に1つずつ選択させた。
     構想場面では,選択した材料を見ながら巾着袋の装飾を考えさせ,作る順番を計画させた上で,装飾に取り組ませた。装飾の制限時間は20分とした。製作場面では,授業者が作業手順を示し,同じ進度で巾着袋を製作させた。工程の指示は,縫製にかかわる「布を裏側にして半分に折る」から「ひもを通す」までの8つの作業とした。
     分析資料は,自己評価シートの3場面における評価および記述と製作物とした。自己評価項目は,「装飾の材料とデザイン,順番を構想し,実際に製作した上でどう感じたか」,「作ることは楽しかったか,その理由」,「難しかったこと(14項目から複数選択)」,「袋のできばえと製作の課題」とした。
    3.結果
    (1)装飾,順序の計画と達成状況
     8割の児童が装飾計画の全てを達成することができていなかった。自己評価では,全ての児童が「むずかしかった」,「思っていたより時間がかかった」等,構想と実際の製作との違いを記述していた。
    (2)製作場面のつまづき
     製作学習をふりかえり,難しいと自己評価した作業は,「デザインを考えること(14名)」,「ひも通しのところを並ぬいすること(13名)」,「ひもを通すこと(11名)」の順に多く,「袋の横を並ぬいすること(6名)」や「布を選ぶこと(1名)」は少数であった。
    (3)製作物のできばえと一連の自己評価との関連
     製作物と一連の自己評価活動を照らし合わせて事例を検討した。その結果,自己評価活動は児童自身の学習状況の把握や製作活動を調節する自己調整的な役割をもっていること,できばえの自己評価の対象が自由構想による装飾に偏っていること等が特徴としてみられた。
  • -衣生活における不要な布を使ったスリッパ作りの授業実践-
    大西 友恵
    セッションID: A5-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    【目的】
     本研究は昨年発表の「不要な布を使ったスリッパの教材開発と授業の展開」に続き、平成21年度に実施した中学校の実習授業の実践結果を報告するものである。日常生活と密接した教科家庭科において、安価な商品を大量消費する時代に育った生徒達に身近な衣服から限りある資源に気付かせ、生活を見直す意識付けが必要であると考える。本研究は被服実習において基礎的な縫製技術を習得させ、資源に配慮した衣服のリフォーム方法を身に付けさせることを目的とし、教材開発及び授業の展開をし、その教材の学習効果を検討した。
    【方法】
    (1)対象
     県内の公立中学校2学年118名を対象に、教科家庭科において「不要な布を使ったスリッパ」制作を平成21年9月~平成22年1月にかけて1回50分の授業を計11回実施した。授業前に事前調査、授業終了後に事後調査を行い、学習効果を検討した。
    (2)教材開発と授業の展開
     基礎的な縫製技術を習得することと、資源に配慮した衣生活の観点から古着及び古タオル等の不要な布をリフォームする方法を学ぶことを目的とした教材開発を行った。学習活動は1~2時間目_丸1_古着の解体_丸2_型紙の選択、3時間目_丸3_印付け、4~6時間目_丸4_ミシン縫い、7~8時間目_丸5_縫いしろの処理_丸6_中表部分の裏返し_丸7_閉じ口の返し縫い、9~10時間目_丸8_スナップボタン付け、11時間目_丸9_装飾用のボタン付けをした。
    【結果】
    (1)生徒の実態(事前調査)
    縫製技術…小学校で学んだ縫製技術についてはボタン付けが多く、次いでミシン縫い、並縫い、アイロンかけであった。各家庭で経験のある縫製技術についてはアイロンかけが多く、次いでボタン付け、並縫いであった。被服制作で難しく感じる部分については手縫いが多く、次いでミシン縫い、裁断であった。
    不要な衣服や布のリフォーム…家庭で不要になった衣服や布の有無については「わからない」が46%と多く、着られなくなった衣服の処分方法については、「兄弟姉妹や親戚の子、友達等に譲る」が51%、「捨てる」25%、「わからない」12%、リフォームに関しては「その他」10%の「雑巾にする」「捨てずに布にして保存」「座布団カバーに作り変える」だった。小学校で不要な衣服や布を使ってリフォーム作品を作ったことがある生徒は23%で作ったものは雑巾、トートバッグ、クッションカバー、エプロンであった。家庭で不要な衣服や布を使ってリフォーム作品を作ったことがある生徒は15%で作ったものは巾着、雑巾等であった。
    (2)生徒の変容(事後調査)
    縫製技術…ミシン縫いについて「上達した」「どちらかといえば上達した」が合わせて81%、手縫いの返し縫いについては「上達した」「どちらかといえば上達した」が合わせて80%、布の裁断については「上達した」「どちらかといえば上達した」と「どちらかといえば簡単だった」「簡単だった」が同数となった。
    不要な衣服や布のリフォーム…家庭で着られなくなった衣服や不要な布の有無については「あった」が84%と多かった。不要な衣服や布を使った作品(スリッパ含)をまた作ってみたいかについては「作ってみたい」「どちらかといえば作ってみたい」が合わせて63%、全体を通しての感想は「楽しかった」「どちらかといえば楽しかった」が合わせて83%、自由記述では「不要な布を必要な物に変えることができたから」「不要な布でも色々な物に作り変えられるんだと思ったから」「いらない布を活用できるのがおもしろかったから」「自分で自分の物を作るのは楽しいから」「スリッパを作ってみて楽しかったから」「将来、役立ちそうだから」等の記述が見受けられた。

     以上から、縫製技術については基礎的な縫製技術であるミシン縫い、手縫いが上達したことがわかった。不要な衣服や布のリフォームについては、家庭に不要な衣服や布があることを実感した生徒が多くおり、リフォーム作品を作ることで布の価値や資源の大切さに気づき、また、物作りの楽しさを感じ取った生徒が多いことがわかった。このことから本研究の目的である基礎的な縫製技術の習得、及び資源に配慮した衣生活の観点から古着及び古タオル等の不要な布をリフォームする方法を学ぶことができたと考えられる。
     今後の課題としては、生徒が苦手とする縫製技術をどのように作品の作業行程に組み込むかの見直しと、最後まで布を使い切る工夫あるリフォーム作品の検討が必要と考えている。
  • 山崎 真澄, 池崎 喜美惠
    セッションID: A5-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    目的
    帰国生らに家庭科の指導をした経験から、帰国生の中には今までに一度も被服分野を学んだことがなく、初めて被服製作をするという生徒もいることがわかった。その理由として、帰国生の様々な海外生活経験や通学校の違いなどによって、家庭科の学習環境が違っているからであると思われる。彼らが高等学校時に帰国した場合、ボタン付けなどの基礎縫いもできずに、成人を迎えることとなるであろう。
    また、成人した帰国生から家庭科教育の実施についてインタビューしたところ、調理に関しては習い事で少しでも補うことができるが、被服に関しては身につけることが難しいと言っていた。
    このような帰国生の現状や家庭科に対する要望を踏まえて、本研究では、帰国生がどの程度、被服製作に関する用語の認知度や理解度があるかを調査した。さらに、なみ縫いと半返し縫い、玉結び、玉どめの技能の習得状況を調査した。そして、帰国生の被服製作における教育の一助となることを目的として本研究を行った。
    方法
    調査時期:2010年2月
    調査対象:東京都内帰国高校生
    現地校やインターナショナルスクールに通っていた生徒に関しては、被服製作を経験していることは少なかった。しかし、日本人学校に通っていた生徒は授業の中で被服製作を行っていた。小学校を日本で過ごしてから海外に渡航する生徒もいるため、家庭科の学習経験に大きな差がみられた。
    調査項目:質問紙調査、実技調査
    ・用具、布、縫製方法に関する知識、理解
    ・知識の入手方法
    ・衣生活に関する家庭での実践状況
    ・海外生活について(通学校、滞在国、滞在年数等)
    ・なみ縫い、半返し縫い(玉結び、玉どめを含む)を各5分間で実施
    結果及び考察
    1.用具に関して「まち針」「縫い針」などの製作用語の認知度は高かったが、「へら」や「リッパー」「ルレット」など普段の実習であまり使われていない用具に関しては認知度が低かった。
    2.「なみ縫い」「ミシン縫い」の縫製方法に関しての認知度は高かったが、「半返し縫い」「本返し縫い」に関して「知らない」と回答した生徒が多くみられた。
    3.布の「縫いしろ」は半数程度の生徒が「知っている」と回答したが、「バイアス」や「みみ」などの用語を「知っている」生徒は少なかった。
    4.用具についての用語を何から学んだかについては、「親などの家族」が一番多く、続いて「教員」であった。縫製方法に関しての用語は「教員」という回答が一番多く、続いて「親などの家族」という結果であった。
      5.用具に関する用語については認知度と理解度が一致していた。しかし、縫製方法に関する用語については、認知度と理解度が一致していなかった。また、布に関しては、認知度も理解度も低い傾向がみられた。
    6.通学校別に用具、布、縫製方法について比較したところ、日本人学校に通っていた生徒のほうが、認知度が高いことが明らかとなった。このことは、日本人学校に通っていた生徒は家庭科の学習で被服製作など様々な経験をしてきたことが、用語についての認知度に結果として現れたと考えられる。
    7.実技調査に関しては、ビデオ録画から縫う状況を見た結果、自己流の縫い方をしており、正しい縫い方をしている生徒は少なく裁縫に慣れていないといえる。
    今後の課題
    帰国生のみの知識及び技能について調査したが、今後は一般生との比較をしつつ、被服製作の知識や技能を生活に活かすことができるように、授業計画を考案していきたいと考えている。
  • 環境教育的視点から
    木村 美智子
    セッションID: A5-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    <目的>持続可能な社会の構築が叫ばれ、学校教育の中に環境教育の視点が導入されてからすでに20年が経過した。この間、「総合的な学習の時間」が設置され、環境学習を実践するケースが増えていったが、今回の新学習指導要領では「総合的な学習の時間」は縮減されることとなった。一方、持続可能な社会づくりを支える、環境に配慮した消費者を育成することへの期待感は大きく、これまで以上に教科横断的な視点から環境教育を進める必要があると同時に、地域活動と連携して推進することがますます重要になってくると考えられる。本研究では、公民館活動の一環として、小学生と保護者を対象に行われた「草木染め体験プログラム」を通し、染色教材を用いた環境教育の可能性を探ることを目的とする。 <方法>公民館活動の特徴は、地域の子どもや大人を中心に大学生がサポーターとして加わるプログラムを展開できることにある。また、子どもたちは、学校では同じクラス・同年齢集団で学習することが一般的であるが、公民館では異年齢集団で遊び学べることが特徴である。本研究では、水戸市・五軒町公民館が小学生やその保護者を対象として毎週土曜日に行っている「五軒みんなのサタデー」活動の協力を得て、午前中2時間の枠内で実施できる「草木染め体験プログラム」の有効性を検証した。【体験プログラム】2010年1月に実施、小学生16名(1年生7名、2年生3名、4年生1名)、保護者3名、および大学生7名がサポーターとして参加した。染色材料として、梅(枝)、栗(イガ)を用意し、木綿布を染色した。梅は水戸市偕楽園で剪定された枝を使い、栗は水戸市に隣接する笠間市の農家から提供を受けた。染色時には、石を布でくるむ、輪ゴムや洗濯ばさみを使って絞り染めをするなど、模様を作りだす作業も取り入れた。【評価】プログラム終了後、小学生を対象として、植物を使った遊び経験の有無・色や模様・実習内容に対する感想、を中心に意識調査を行った。また、大学生サポーターを対象に、授業内容(子どもたちの興味をひくことができたか・安全性への配慮・楽しめる内容だったか・五感を使った内容だったか・小学校の授業で実践可能か)に対する意識調査を行った。 <結果>子どもたちは染色作業を進める中で、栗のイガを煮出す時には「山の匂いがする」、梅の枝を折る際には「中はピンク色だね、ピンク色に染まりそう」などと反応し、染液の色の変化にも強い関心を示したことから、予想以上に子どもたちは匂いや色の変化に敏感であり、注意深く観察している様子が窺えた。子どもたちへの意識調査の結果では、植物で遊んだ経験があるのは9名であり、ほとんどが「また草木染めをしたい」と回答していた。これに対して、植物で遊んだ経験がない子どもたちの半数が「したくない」と回答しており、その理由として「匂いで気持ちが悪くなった」ことを挙げていた。子どもたちが興味を示した「色」については、3割が「自分がイメージした色と違った」ことを挙げており、「もっと濃い色に染まることを期待」していたようである。大学生サポーターによる評価では、「草木染めに子どもたちが強い関心を示し、異学年交流が活発に行われ楽しむことができた」、「五感を活用できた」など、いずれも高い評価を得た。その一方、安全面では、火傷の危険性や換気・室温調節への配慮が十分ではなかったことが指摘された。また、授業化する場合の課題として、作業内容をどの学年のレベルに合わせるのか、また、安全面を確保するには複数のサポーターが必要、という点であった。さらに、環境教育の視点からは、その地域に根づいている植物を用い、五感を活用した環境学習教材として有効だと評価できる一方、染色に使用する植物を子どもたちと一緒に探す時間を設け、この植物が生息する地域自然環境の特性に気づかせる内容を加味する必要性が指摘された。
  • -甲斐絹の伝承と発信をめざした産官学プロジェクトの一環として-
    志村 結美, 斉藤 秀子
    セッションID: A5-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    目的

     現代の子どもたちは、生活実感すなわち、生活を自らのものとして具体的に捉える力が欠如し、自らの生活に関心が薄いと言われている。このような子どもたちの現状に対し、家庭科教育は、日常生活の営みである生活文化に目を向け、その歴史あるいは先人の知恵や技術を理解し主体的に生活を捉えることで、新たな生活文化を創造し、生活をより豊かにしようとする心を育むという役割を担っている。特に、学習指導要領の改訂(2008・2009)において、伝統と文化に関する教育の充実が謳われている現在、家庭科教育も果たすべき役割は大きいと言えよう。
     そこで本研究では山梨県の児童・生徒を対象に、山梨県の伝統文化、伝統産業の一つである「甲斐絹」を取り上げた、地域の伝統産業と連携した家庭科の教育プログラムの開発を行うこととした。本プログラムの開発には、甲斐絹製品を生産・販売している企業(甲斐絹座)、県庁等の行政機関、教育機関が一体となった産官学が連携して携わっており、甲斐絹の商業的展開の発展をも目指している。もちろん、教育プログラムとしても児童・生徒が現実的に甲斐絹の発展や継承について捉え、より具体的に地域、日本の伝統や文化を継承していくことの意義を認識し、実践的な態度を育成することができるため、有効である。また、甲斐絹を使って小物製作を行う実習を組み入れることにより、基礎的な裁縫技術を習得できるとともに、五感を使って本物の絹に触れる経験ができ、さらにはプログラム全体を通して自らの地域の伝統と文化等に誇りを持つことにより、自己肯定感の育成等に関与できると考える。本報告では、Y大学附属中学校で試行的に実践した家庭科の実験的研究授業を分析・検討し、山梨県全域で普遍的に継続的に実践できる教育プログラムのあり方を探ることとする。

    方法

     実験的研究授業は、Y大学附属中学校3年生1クラス40名を対象に、2010年1月13日、20日の各1時間、計2時間実施した。授業前後のアンケート、授業中のワークシート、甲斐絹を用いて製作した小物(ポケットティッシュケース)等を分析対象とした。

    結果及び考察

     実験的研究授業の第1次では、甲斐絹座のメンバーが実際の甲斐絹の布地や製品を紹介しながら、甲斐絹の歴史、特徴、織り方、甲斐絹の現状等の講義を行った。その講義を踏まえて、地域の伝統と文化の意義を理解し、実践的に継承していくための方策をグループで話し合い、発表した。第2次では、甲斐絹の素晴らしさを実感できる小物の製作を行い、最後に授業のまとめを行った。
     授業の分析の結果、伝統と文化等に関する学習への興味・関心は、学習後に有意に高くなり、特に衣文化に関して、食文化と同様に9割以上の生徒が興味・関心があると答えている。また、甲斐絹を使った小物製作については、学習前に3割の生徒が否定的に捉えていたが、学習後には、全員の生徒が意欲的に取り組むことができたと回答した。これは、甲斐絹座による講義や、甲斐絹の色、光沢、手触りの素晴らしさに触れ、しっかりとした製品を創り上げたいという意欲がわいたためと推測される。性別による比較では、学習前は女子の方が意欲・関心が高い傾向が見られたが、学習後には有意な差が認められなくなり、男女ともに興味・関心を高めながら、その差を縮める結果となった。甲斐絹を広く社会に発信していくための工夫としては、マスコミの活用や本授業のような体感する機会の増加、その他、具体的な商品開発のアイディア等が積極的に述べられた。また、自らが伝統と文化に興味・関心を持ち、学び、伝えていく意義、甲斐絹を含めた地域や日本の伝統と文化に対する誇り等の自由記述も認められた。
     今後の課題として、短時間で完成する小物の開発、小・中・高校と発達段階に即した教育プログラムの開発、小物製作キット等の作成等があげられ、今後も教育現場で活用できる教育プログラムの開発の検討を行う予定である。
  • 香取神宮の御田植祭の事例調査を中心に
    早川 礎子
    セッションID: A5-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    1.背景 服飾文化では、「被服の基本型と文化、着装などに関する知識と技術を習得させ、服飾文化の伝承と創造に寄与する能力と態度を育てる。」が目標である。歴史学、民俗学、家政学等の研究と重なる部分もある。しかし、家庭科教育の服飾文化の相違点は伝承と創造への意欲にある。生活の中で、どのように用いられるかという伝承と創造への意欲への授業研究が、課題ではないだろうか。
    2. 目的・研究方法 本稿は、家庭科教育における伝統色彩の象徴性を調査し、授業課題に提案することを目的とする。日本三大御田植祭の一つの香取神宮御田植祭(千葉県香取市)を選び、文献・現地調査を行った。以上の結果を踏まえ、服飾文化の伝承と創造の課題を提案する。
    3.御田植祭の服飾文化の事例調査 御田植祭とは、神田を耕作し五穀豊穣を祈願する祭礼である。香取神宮では、現在、耕田式と翌日の田植式が行われている。 第一日目は、田植えに先立ち田の神を迎える祭礼を行う。
    鎌・鍬・鋤や、五色の絹に彩られた牛により田を耕す風景を模した行事が行われる。太鼓、仮面を被った人、鎌・鋤・鍬役の人、稚児、田舞、早乙女と続く。田舞は花笠を背負う。その後、赤の布を背に巻いた牛が場内を一周する。早乙女が早苗を植える。早乙女は青地に白の竹の文様の着物に赤の襷掛ける。菅笠を赤い紐でむすぶ。田舞、稚児は白地に赤の袴・襷を着装する。赤が祭礼において、特別な色彩であることが伺われる。楼門に傘が立てられ、白地に赤の線入りである。ここにも赤が認められる。赤が随所に配されていることが伺われる。
    第二日目は、前日と同じ装束で早乙女が田の神を拝む。田植え歌を唄いながら、苗を植える。祭員、稚児・早乙女が御神田へと向かう。
     以上の調査から、次の結果を得た。
    (1)赤が祭礼の中心的な色彩である。
    (2)早乙女・田舞・稚児が赤の襷、赤の袴を着装する。
    4.考察 家庭科教育における服飾文化の伝統色彩の提案 結果から、家庭科教育における服飾文化の伝統色彩の課題について以下のように提案する。
    御田植祭において、赤が随所に用いられ、早乙女・田舞・稚児は、服飾に襷がけ、袴に赤を着装していることが分かった。
    それは、歴史的背景から赤への色彩象徴があり、祭礼における象徴的な色彩として用いると思われる。赤の象徴性とはどのようなものか。福田邦夫は、赤への畏敬を指摘する。古代人にとって赤色は魔除け、厄除けのまじないに使われたことを指摘する。土偶、埴輪には赤く彩色された人物像が多く見出せる。それらは単なる装飾だけでなく祭祀的意味合いを持つと考えられている。この観点から、赤と歴史的背景、日本文化との関係を課題とできると提案する。
    以下の3点の家庭科教育の目標に沿った課題として、以下の授業課題が考えられる。
    (1)歴史的背景、文化などとのかかわりの理解に、祭礼の赤の色彩象徴の課題が考えられる。
    (2)気候、風土、文化により祭礼での赤の装束の用いられ方の相違、類似の課題が考えられる。 (3)伝承と創造は、伝統色彩の赤を用いる年中行事等の身近な生活での伝承を調べ、自らの生活に赤を象徴的に取り入れる課題が考えられる。現在に合わせた装束として、地域に提案する課題も考えられる。
    4:結論  家庭科教育における伝統色彩の象徴性の調査を行い、その象徴性を授業課題に提案することを示した。
    服飾文化の伝統色彩を家庭科教育に活用するためには、伝統色彩の象徴性を理解し、歴史的背景、文化とのかかわりを分析し、得た知見を伝承と創造へ広げる課題にする必要がある。その一例として年中行事等で用いられている伝統色彩を観察し、また自らが伝統色彩を用いるという試みをすることが提案できる。伝承と創造への意欲をもたせる伝統色彩の象徴性の活用が、今後に残された課題である。
    1.香取神宮社務所編、発行、香取神宮、2010 2.佐々井啓編、衣生活学、朝倉書店、2000 3.島崎恒蔵・佐々井啓、衣服学、朝倉書店、2000 4.文部科学省、高等学校学習指導要領解説 家庭科編、開降堂、平成17年1月 5. 福田邦夫、日本の伝統色、東京美術、2005
  • 「おいしさ」を中心におき、他教科と関連させて
    佐藤 雅子, 石井 克枝
    セッションID: B1-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    【目的】
     栄養学習は食教育の中でも重要な位置を占めているが,十分な理解が得られていない。小学校の献立作成では,栄養バランスはとれているものの様式や味にこだわらない献立なども見られる。また,脂肪分や糖分の過剰摂取はよくないと知りつつ,日常生活に生かせない児童も多い。そこで家庭科と他教科の学習を関連づけることで,栄養の認識を深めさせる学習を構築する。本研究では特に第6学年理科との関連を図り,五大栄養素の学習を小学校家庭科の最後に位置づけることで,栄養の概念を認識しやすくなると考える。
    【方法】
     千葉県公立小学校6年生の児童32名を対象に,2009年4月から11月にかけて,他教科と関連させた家庭科の授業を実施した。内訳は,理科「植物の成長」「人の体のつくりと働き」と家庭科「楽しい食事をくふうしよう」11時間である。事前と事後で「1.『栄養』『栄養素』に関する意識調査」「2.献立構成の要素」について質問紙にて調査し,それらを分析の資料とした。
    【結果】
    1.理科と関連させた栄養学習
     6学年2学期の理科学習「水溶液の性質」で扱った内容を次単元「人の体のつくりと働き」につなげ,消化と関連させた。またこの単元では呼吸や食べ物の消化・吸収を扱う。呼吸の学習では鉄の存在に気付かせ,鉄を摂取する必要性を理解させた。そしてこの仕組みを家庭科学習「食べ物の体内での働き」と関連させた学習を構築した。また,1学期の理科学習「植物の養分」と家庭科学習を関連づけ,人の成長に必要な炭水化物が植物によって生成されていることと人がこれらを摂取していることを認識させた。これらの学習を関連づけることにより,児童は食べ物が体内で消化・吸収されたあと,その働きにより3つに分けられること,それに五大栄養素が関係していることを学んでいった。この学習は栄養素と食品の体内での働きを関連づけるのに有効であった。
    2.家庭科の学習を保健の内容に発展させる
     保健学習では生活習慣病についての学習において「塩分,脂肪分,糖分の過剰摂取による害」などを扱う。この学習を家庭科における栄養学習の後に位置づけ,過剰摂取による害のみでなく,本来の栄養の意味と栄養素の役割を再認識させた。児童は部分的な知識でしか捉えていなかった栄養について,より広い視野で考えることができ,自分の食生活を振り返るのに有効であったといえる。
    3.「おいしさ」を中心においた学習の展開
     五感を使って味わうことを2年間の家庭科学習全般に位置づけた。「おいしさ」をテクスチャーや嗅覚などでも感じられることを実感していった児童は,献立学習においても栄養バランスのみでなく,様式や色など種々の要素を意識的に取り入れた献立を作成した。そして食の学習のまとめの段階で栄養を考える意味を知らせ,五大栄養素の学習を行いながら,食を総合的に見る視点をもたせた。栄養学習を6学年2学期に時期に位置づけることは,栄養の認識を深めるのに有効であるとともに,中学校家庭分野の内容ともつなげることができ,効果的であるといえる。
    4.まとめ
     他教科と関連させることにより,消化・吸収という現象と食品に含まれる成分を理解し,それらが「自分が食べる」という行為と結びついた。また,栄養素が体内に入り,それぞれの働きに応じて食品が群分けされていることにも気付き,栄養素と食品,体内での働きの関連が図れたと考える。さらに,家庭科の学習を保健学習につなげたことで,摂取する量にも着目し,中学校の学習内容への関心をもたせることにも有効であった。栄養学習を小学校第6学年の2学期に位置づけることは,実感を伴った栄養学習とするのに有効であることが示唆された。
  • 柴 英里
    セッションID: B1-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     健康増進や疾病予防において,いかに問題行動の克服あるいは望ましい行動の定着を図るかは重要な現代的課題である。健康行動変容に関する確立された理論に基づくことにより効果的に行動変容を促すことができることが指摘されており,なかでもトランスセオレティカル・モデル(Transtheoretical Model;以下,TTMと略す)は,行動変容を促す介入モデルとして,研究と実践の両領域において幅広く利用されている理論の一つである。
     近年,日本では,栄養の偏り,不規則な食事といった食に関する様々な問題が顕在化しており,健全な食生活が失われつつあることが懸念されている。そのため,健全な食生活の実現に向けて効果的な食育を模索する必要がある。そこで,本研究では,食行動変容という観点から日本の食育のあり方に対する示唆を得ることを目的として,アメリカで実施されているTTMに基づいた栄養教育プログラム「La Cocina Saludable(ヘルシー・キッチン)」に焦点を当て、その構造と効果を探ることにした。
    【方法】
     La Cocina Saludableプログラムの関連教材および文献を収集・分析し,その内容構成や特徴等について明らかにした。
    【結果】
     (1)La Cocina Saludableは,コロラド州立大学がアウトリーチ活動の一環として行っている栄養教育プログラムとして開発されたものである。(2)このプログラムで使用される教材は,遺伝的素因や,貧しい生活や過酷な労働状況といった環境的素因により,健康上の問題を抱えていることが多いとされる低所得のヒスパニックの人々を対象として開発されており,リテラシーが低い人にも理解できるよう平易な文章で書かれている。(2)プログラムで使用される教材としては,La Cocina Saludableの手引き書,フリップチャート,オリジナルのフード・ガイド・ピラミッドといった教育者用のキットと,プラスチックの調理器具セットといったプログラム参加者用のキットがある。(3)TTMに基づいて開発されたこのプログラムは,「Make It Healthy(健康的になろう)」,「Make It Fun(楽しもう)」,「Make A Change(変えてみよう)」,「Make It Safe(安全に)」,「Make A Plan(計画を立てよう)」,「Make A Great Start(さあやってみよう)」という6つのユニットから構成されており,各ユニットには,「テーマについて説明する」,「グループディスカッションをする」,「テーマに関連する事実について教える」,「フリップチャートを使用して学習内容をまとめる」,「学習の到達を自己評価する」といった具体的な活動が組みこまれている。(4) 「Make It Healthy(健康的になろう)」では,フード・ガイド・ピラミッドを使用するなどして,基本的な栄養知識について学ばせる。(5) 「Make It Fun(楽しもう)」では,就学前の子どもたちに健康によい食べ物を楽しく食べさせるためにはどのようにしたらよいかを学ばせる。(6) 「Make A Change(変えてみよう)」では,食事に含まれる脂質,塩分,糖質を減らすことや,食物繊維を増やすことについて学ばせる。(7) 「Make It Safe(安全に)」は,食の安全を確保・保持することについて学ばせるユニットで,具体的には,清潔を保つこと,食品の安全な調理,適切な食品保存方法など,食品の安全技術について学習させる。「Make A Plan(計画を立てよう)」では,健康的な食べ物の選択,簡単に体によい食事を作る方法について学ばせる。(8) 「Make A Great Start(さあやってみよう)」では,3食のうち,特に朝食の重要性について説明しており,先のユニットで学んだことを生かして実際に朝食を作るように促す。
     La Cocina Saludableの内容構成や教材は,食行動変容を目的としたわが国の食育プログラムを開発する上で,具体的な指針を与えてくれると考えられる。
  • 大南 絢一, 大石 太郎, 有路 昌彦, 高原 淳志, 北山 雅也, 本多 純哉, 荒井 祥
    セッションID: B1-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的
    食品の安全・安心に対する消費者意識が高まっている。その中でも各種アンケート調査結果によれば、「食品添加物」は不安項目の上位に挙げられることが多い。
    本来、あらゆる食品にはリスクとベネフィットの両面が存在する。食品添加物もその例外ではない。「食品添加物は健康に悪い」というイメージがつきまとうが、食品添加物は科学的な安全性評価に基づき健康影響の出ない使用基準が定められている。また、食品添加物は食品の保存性を高める効果がある等、消費者の食品選択の幅を広げる。したがって、食品添加物について正しく学習することは、消費者教育上重要であると言える。
    家庭科教育における食品添加物に関する従来の研究では、実際の教育現場での教育例や、大学生や児童の意識調査についての報告が多数を占めている。したがって、食品添加物について現在の消費者の理解や認知状況を把握することは、今後の家庭科教育プログラム作成に少なからず貢献するものと考えられる。
    本研究では一般消費者を対象にしたアンケート調査を実施し、食品添加物に対する知識や態度について現状を把握すると同時に、消費者の食品添加物に対する認知構造について分析および考察を行った。

    2.方法
    アンケート調査は、東京都および大阪府在住の20歳代以上から70歳代までを対象にして行い、インターネットを通じてサンプルを回収した。回収数は合計で400件であり、実際の年齢構成に依拠したアンケートサンプルの割り付けも実施した。
    本研究では、消費者の認知構造を明らかにするために、共分散構造分析を行った。共分散構造分析とは、直接観測できない概念を潜在変数として導入し、その潜在変数と観測変数との間の因果関係を同定することにより社会現象や自然現象を理解するための統計的アプローチである。ここでは、標準的に用いられる多重指標モデルを用いて、食品添加物に関する正確な知識を示す潜在変数(知識潜在変数)とネガティブな態度を示す潜在変数(態度潜在変数)との因果関係を検証した。
    知識潜在変数および態度潜在変数を構成する観測変数はそれぞれ7個である。なお、食品添加物に関する知識観測変数(使用基準の設定や遵守の必要性、体内への蓄積性がないこと、複合反応が健康に影響を与えないこと、アレルギーの原因でないことなど)は「知らなかった=1」「聞いたことはある気がする=2」「聞いたことはある気がするがよくはしらなかった=3」「知っていた=4」とする4水準のカテゴリカル変数である。また食品添加物に対する態度観測変数(安全性への懸念、科学的根拠への不信、食品メーカーへの不信、過去の記憶など)には、「とてもそう思う=1」「そう思う=2」「どちらとも言えない=3」「そう思わない=4」「全くそう思わない=5」とする5水準のカテゴリカル変数を用いた。

    3.結果
    共分散構造分析の結果、まず、モデルの適合度はGFIが0.958、RMSEAが0.06となった。一般に、GFIは0.9以上、RMSEAは0.08以下であれば、適合度が高いモデルと判断される。したがって、本モデルを用いて考察することとした。
    次に、知識潜在変数「添加物に対する正しい理解」と態度潜在変数「食品添加物に対する不信」間の因果関係について考察した。両変数間のパスの推定値は-0.05(P=0.246>0.10)となり、10%水準で統計的に有意ではなかった。したがって、今回の推定結果から、食品添加物について正しい理解が伴えば、消費者は食品添加物に対する不信の態度を形成しないことが示唆される。
    なお、本アンケートでは、食品添加物に関する情報源を過去も含めて調査した。その結果、400名中「学校での教育(家庭科)」を挙げたのは14名(3.5%)しかみられなかった。それ以外では情報源はテレビや新聞記事といったマスメディアが多数を占めており、消費者団体や行政からの情報提供の利用についても一部にとどまっている。したがって、家庭科は食品添加物を科学的に学習できる重要な機会であるため、量・質ともに適切な食品添加物の教育が今後必要になってくることも示唆される。
  • 文部科学省委託事業の実践事例の分析から
    河村 美穂
    セッションID: B1-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    研究目的
    近年の食の問題状況の解決に向けて食育への期待が高まっている。とくに2005年に栄養教諭制度が施行され、食育基本法が制定されてからは、学校教育における食育の実践が以前にもまして盛んに行われるようになった。
    戦後の家庭科教育においては一貫して食教育を実践してきているが、これらの実践と現在の食育実践の相違はなんであろうか。本研究は、最終的には家庭科教育における食教育の特徴を明らかにすることを目指し、まず、現在の学校教育における食育実践の特徴を明かにすることを目的とする。
    本研究では、食育の典型的な実践として、文部科学省が全国の都道府県に委託し実施されてきた「食育推進事業」における実践事例を対象として検討することとした。

    研究方法
     全国47都道府県の教育委員会に、郵送により依頼し(2009年11月)、24の都道府県の文部科学省委託食育推進事業に関する89資料(2006~2008年度分)を収集した。
     資料は、事業報告書、食育指導資料、啓発用のパンフレット等多岐にわたったため、このうち、事業報告書、指導資料等に掲載されている実践事例を抽出し、学習内容、対象学年、指導形態、実践されている教科などについて分析した。

    結果と考察
    収集資料のうち、食育実践事例が掲載されていたのは53資料であり、さらにそのうちの40資料が指導案を掲載して指導内容を詳細に示していた。
    学習内容が詳細に示された実践事例は316事例であり、実践報告、および実践をした上での実践の提案として示されていた。これらは学校段階別にみると、小学校215事例、中学校64事例、高等学校8事例、特別支援学校28事例(不明1事例)であった。
    教科・活動別にみると、小・中学校の場合、学級活動における食育実践が全体の4割以上を占めていた。家庭科は小学校高学年で3割、中学校で1割であった。抽出した食育実践事例はその他の教科(社会科、生活科、理科、保健体育)や総合的な学習の時間においても実施、提案されていたが、その割合はいずれも1割前後であった。
    これらの実践事例には次のような特徴が見られた。
      (1) 学級活動における食育実践は、1時間単位で行われるものが多い。
    (2) 社会科、理科で実践されているものは、本来の単元のテーマの中にトピックスとして食育を位置づけるものが多い。そのため、食育実践としての目的は明確になりにくい傾向がある。
    (3) 総合的な学習の時間における食実践事例は、年間指導計画の中で各教科と連携を図るものが多い。
    (4) 食育実践事例の学習内容は、朝ごはんの重要性、栄養のバランス、生活リズムの確立、学校給食と関連させたものが多い。
    (5) 学級活動としての食育実践事例が多いことからも、栄養教諭とともに、担任の役割が大きい。
    (6) アンケートの調査結果、検診結果などを用いて実態からはじめる授業が多く見られた。
     食育実践事例は、児童生徒の実態から必要に迫られて構成されることが多い。その結果として朝ごはんの欠食を防ぐような授業が多く実施されているのではないかと考えられる。ただし、実態と理想的な食生活の乖離を解消するような実践を工夫することが課題である。
    とくに「朝食のよさ」「バランスよく食べることのよさ」といった、あるべき姿を設定して啓発するような実践は、「早寝早起き朝ごはん」といったスローガンの多用とともに、精神主義的な食育への傾斜として懸念される。
    実践事例校においては家庭との連携も工夫されているが、日々の授業の中で行われる食育と家庭生活における問題状況との関連をはかる工夫もより必要とされていると考えられる。
  • 京都高大連携実践共同教育プログラムを通して
    高取 逸子, 増澤 康男
    セッションID: B1-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    1 研究の背景と目的
    中央審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(1999年12月)の中で「高等学校における生徒の能力・適性・意欲・関心に応じた進路指導や学習指導の充実」が明記され、「高大連携」は飛躍的に拡大した。勤務校では、京都高大連携研究協議会「2006~2008年度実践研究共同教育プログラム」*による授業を「家庭基礎」で実施した。本研究の目的は、この実践の成果を検証し今後の方向性を探ることである。
     今回の学習指導要領の改訂において、「家庭科」では、生徒自身が考える場面を設定し、科学的根拠に基づいた学習指導を行うことが従来にも増して大切になると考える。一方、昨今の「食の安全」に関わる社会問題の増加は、「家庭科」の授業内容を理解し生活に生かすことが、21世紀を生きる生徒にとってますます重要となっていることを浮き彫りにしてきた。現代人の食生活にスポットをあて、飽食の時代に生きる高校生が自らの栄養事情を考えることができる授業を構築することが、家庭科に求められているといえよう。
     以上を踏まえ、本研究では、高大連携授業を通じて大学での専門的で、かつ先端的な知識を学ぶことにより、現在の若年層の中でスポーツ効果やダイエット等注目を浴びているサプリメントや機能性食品について、どのような知識・情報を持って選択していけばよいか、またその科学的効果について考えることを目標に授業を構築し、以下の4点が達成できたかどうかを検証することとした。
    (1)探求的学習として興味・関心が得られたか。
    (2)授業への積極的な参加が促されたか。
    (3)教科内容の理解は向上したか。
    (4)進路希望実現への「学び」の広がりはできたか。
    2 高大連携授業の内容
    (1)連携大学:京都府立医科大学・京都府立大・同志社大学
    (2)対象生徒:2006・2007年度3年生、2008年度2年生「学力伸長コース」
    (3)学習内容:題 「サプリメントを科学する。 _I_・_II_・_III_」
    日常摂取する食材や市販サプリメントについて の実験・調査研究。
    (4)学習目的:データ収集と分析、考察、科学的根拠に基づいての検証。
    (5)授業回数:2006・2007年度 6回10時間、2008年度8回14時間
      3 結果と考察
    主として、2年生を対象とした2008年度における生徒アンケートにもとづいて評価・考察を行った。アンケート結果においては、検証目的であった4点について、ほぼ達成出来たことを示していると考えられた。特に教科内容の理解向上については、大学の先生より現代人における食生活の実態やその問題点、生活習慣病との関わり等、現代の「食」についての理解を深める講義を受け、その中で自分の食生活についても問題点はないのかを考え、毎日の食事の大切さとバランスの良い栄養摂取方法についての理解も深めた。
     講義レポートでは70%の生徒が自分の理解できた具体的な内容を書いており、次の講義に向けて、20%の生徒が質問を投げかけている。大学の講義内容に不安を持って臨んだ生徒も、前向きに大学の講義内容を理解しようという姿勢が見られたことが評価される。生徒たちは、「調査・研究」という新しい授業に対して、興味を示しつつも最初は戸惑いも多い。しかし内容を理解するにつれ、楽しんで積極的に取り組む生徒が大半になった。「仮説」「実験」「検証」というプロセスを通して、思考方法や、学びに対する視野が広がり、また「地域・保護者授業公開」という大きな場での発表で、良い評価を得て自信になった。同時に、プレゼンテーションの難しさを経験することも出来た。
    「進路希望実現」という課題においては、大学で学ぶ目的を、早期から具体的に考える生徒が多く見られ、本校での進路指導にも大きく貢献することも出来た。
     今回の取り組みは、生徒の「学習意欲向上」につなげることが大きな目的であった。この点については所期の目的を達成したと考える。そして、高校と大学双方の教員が互いに影響し合いながらともに高め合える関係が構築されるようにすることも大切な課題であるが、高校と大学が共通理解を持って連携教育プログラムを開発するには、事前準備等の時間的確保や校内での周知徹底と授業時間確保などに対する学校体制の整備、予算面での行政支援等が望まれる。そのためには的確なコーディネーターの存在が必須であると考える。
    (謝辞)2006年度~2008年度までの3年間にわたる高大連携授業の実施では、京都高大連携実践研究プログラム総括責任者を務めていただいた京都府立医科大学吉川敏一教授をはじめ、同志社大学市川寛教授、大妻女子
  • 齋藤 和可子
    セッションID: B1-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【研究目的】 学習指導要領改訂に伴い、各教科においての言語活動が重視されることになった。言語力は、思考力・判断力・表現力等の問題解決学習のためだけでなく、生きるために必要な基礎的かつ重要な能力である。 本研究では、言語力の大切さを認識した上で、家庭科教育における言語活動の適切なあり方について追究する。言語活動は、生活に必要な基礎的・基本的な知識及び技術の習得を通して生活を工夫し創造する能力、実践的な態度を育てることを目標にしている家庭科と密接に関わっていると考えられる。  そこで本研究の目的は、家庭科の独自性をふまえた言語活動のあり方を検討し、実践可能な指導法を追究することである。 【研究方法】 アンケート調査は、質問紙留置法で、尺度評価と自由記述で実施した。調査対象は、関東の公立中学校1~3年生408名、公立高等学校2~3年生188名、合計596名、調査期間は、2009年10月~12月であった。また、文献調査においては、平成20年度改訂小・中学校学習指導要領、小・中学校学習指導要領解説、中央教育審議会言語力育成協力者会議報告書等を参考に言語活動の意義や内容について分析・検討した。 これらをふまえて、家庭科の独自性に留意して「食」における言語活動に限定して調査研究を行った。 【結果】 『食物・調理過程への興味』の結果においては、食事時、実際に食べているものと直接結びつく内容は話題にのぼりやすいことが明らかとなった。このことから、食事に対する考え方や価値観を共有しやすいと考えることが出来る。 『食事時の会話の役割』においては、食事時に話す内容、食事時に立てる音に対して敏感であることが明らかとなった。食事場面では、食事に適した話題を取捨選択しているため、場面に合った話題を選択する力がつくと考えられる。また、食事場面において、食べたときに感じた味覚・嗅覚・視覚は、表現しやすいということが明らかとなった。自由記述調査での「食事のときは、なぜか自分の思っていることが率直に話せる」等の記述により、五感だけではなく自身の心理的内面をも表現しやすくしていると考えることができる。以上の結果から、食事時の会話による言語活動は、自己表現に必要なスキルを身につけることが出来ることが認められた。 『食事の満足度と会話』においては、食事の満足度が高いことと、食事時の会話が弾むことには関連があり、食事の満足度を構成する1つの要因として会話が存在することが明らかとなった。 また、『会話の場としての食事』の結果から、食事時の会話に対して肯定的な考え方をもっていることが明らかとなった。家族や親しい人との会話は、食事の場の雰囲気がリラックスできるものであり、その環境要因がおいしさにつながると考えられる。食事のおいしさは、味や匂い、外観、色、音だけでなく、体調や経験のように生理的・心理的要因、食事の雰囲気などの環境要因に起因する。おいしさが喜びとなり、副交感神経の活動が高まることでリラックスした心理状態となり、会話が弾むと考えることができる。また、このことは自由記述結果の「食事のときに会話をしたら体にいい」のように、会話が食事をおいしくし、免疫機能を高めることが実感を伴って現れているといえる。以上の結果から、食事時の会話は健康で豊かな食生活を創ることが明らかとなった。 また、全体を通して、約半分の項目で男女間に有意差が認められた。これは、男女の発達段階や価値意識の違いが原因であると考えられる。言語活動を導入した実践授業の結果から、食事場面だけでなく調理場面からの活動を取り入れることで、男女間の有意差を改善できた。 今後も時代の変化に対応した食事時の会話や教育的意義、よりよい言語活動のあり方を追究していきたい。
  • 日韓食文化 比較を教材として
    武岡 幸子
    セッションID: B1-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    高等学校「家庭」における「食文化」の単元構想  ~日韓食文化比較を教材として~ 兵庫県立尼崎高等学校 武岡幸子, 兵庫教育大学 増澤康男 _I_.研究の背景と目的 本研究では、学校教育において「食文化」をどのような視点で扱っているのかを整理し、「食文化」の基本となる考え方や内容を整理した。また、高等学校「家庭科」における「食文化」の単元を構想し、授業実践を通して、「食文化」の学習のありかたについて考察した。「食文化」の単元構想としては、日本と韓国の食文化比較を取り上げ、日韓の食文化を学び、日本と韓国の食の豊かさを知り、日韓の食文化の共通性や多様性を客観的に受け止めることで、相互理解、相互尊重を図ることを目的とした。 _II_.結果と考察 [1]「食文化」のとらえかたについて 本研究では、石毛、原田、河合らの文献をもとに、次の4つにまとめた。 _丸1_人間の食事の特徴を「共食すること」と「料理すること」の2点にあるとした。_丸2_文化接触の結果、食文化は融合・変容を繰り返しつつそれぞれの国々ごとにその歴史の中で独自の発展を遂げてきた。_丸3_「文化」を考察するときは、「歴史的に見ること」「比較してみること」が重要である。_丸4_「食文化」の学習のねらいは、他国の文化を理解し尊重する態度や、異なる文化を持つ人と共生できる資質や能力を身につけることと、自国の食文化に対する理解を深め、日本の食文化を将来にどのように継承していくのか考えることである。 [2]高等学校「家庭」における「食文化」学習内容 [1]の4つの視点に基づき、学習目標を立て、学習項目・学習内容を考えた。 1.食事の意義を考える。2.文化の伝播・融合・変容について考える。3.文化は比較して考える。4.日本の食文化の継承について考える。 [3]「日韓食文化比較」の授業で取り上げるべき学習内容の考察と授業実践・評価 [2]の3.「文化は比較して考える」について取り上げ、「日韓食文化交流」「食事に関するマナー日韓比較」をテーマとした授業を計画した。 (1)単元目標 _丸1_日本の文化は中国大陸や朝鮮半島の食文化と深くかかわってきたことを理解する。_丸2_日本と韓国の食文化の伝播・融合・変容について理解する。_丸3_日本と韓国の食の豊かさを知る。_丸4_日韓の食事に関するマナーにはそれぞれの国のどのような価値観が存在しているかを理解する。_丸5_日韓食文化の相違を比較し、食文化の多様性を客観的に認識することで、日本と韓国の食文化を正しく理解する。 (2)調査 高校生(兵庫県立尼崎高等学校第2学年約120名)と韓国の大学生(ソウル大学・テグ教育大学計52名)に対して、食に関する意識調査を実施した。 (3)授業内容 平成20年5月から6月にかけて兵庫県立尼崎高等学校第3学年選択科目「食文化」において7時間の授業を実施した。 (4)評価 アンケートや意識調査、レポート、定期考査、ワークシートを分析し、授業の評価を行った。 (5)考察と今後の課題 _丸1_「食文化」の学習においてはさまざまな知識が必要であり、特に、「歴史的な背景・交流」の理解を深める工夫が必要である。 _丸2_具体例により、「食文化の伝播・融合・変容」についての理解が深まった。調理実習を通して、体験的に理解することができた。 _丸3_生徒は日本と韓国は食材や調味料が豊富で調理法がたくさんあることを知った。_丸4_調べ学習により、食事のマナーからわかる日本人の価値観についての理解が深まった。_丸5_食べる姿にもその国独自の方法があり、それには根拠があるということについて理解が深まり、お互いの食文化を正しく理解することにつながった。 _III_.まとめ 本研究では、文献に基づき「食文化」のとらえ方をまとめ、高等学校「家庭」で「食文化」を扱うときの学習目標・内容を整理した。このうち「日韓食文化比較」を題材とする授業モデルを提示し、授業を実施し、一定の成果を収めた。ここでまとめた「食文化」の4つの視点は、高等学校「家庭」のみならず、他の教科・科目で「食文化」を扱うときにも応用できる。
  • ―神奈川県立高校の場合―
    鈴木 敏子, 佐藤 ゆかり, 小高 さほみ, 石引 公美, 鈴木 博美
    セッションID: B2-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【問題設定の背景と目的】
     1990年代以降の高校教育改革における家庭科の動向と課題について、昨年の本学会大会で報告した(小高他、2009)。その際、特色ある3都県の動向から、高校改革の「多様化」という再編成の過程で、普通教科「家庭」では「家庭基礎」2単位の履修が進んでいること、つまり、家庭科の履修の実態が大幅な単位減となっていること、また専門教育の家庭科においても縮小の傾向があり、家庭科は危機に直面していることを明らかにした。
    本報告は、さらに、3都県のなかから、神奈川県の県立高校の場合を事例として、高校改革を背景にして、高校の教育課程に、必履修の普通教科「家庭」および専門教科「家庭」や「家庭」に関する学校設定科目などの位置づき方がどのように変化してきたかについて明らかにし、家庭科が直面している課題を探ることを目的とする。
     神奈川県では、1973年度から始まる「高校百校新設計画」において普通高校を中心に高校が新設され、県立高校は1987年度には165校までになった。鈴木・尾嶋(1996,2002)は、この165校を含めた県内の公立高校を対象に、家庭科の男女共学実施直前の1993年12月、さらに改訂学習指導要領が告示される直前の1999年2~3月に、家庭科の履修状況に関する調査を行い、ほとんどの高校で「家庭一般」4単位が履修されること、改訂学習指導要領では8割の教師が「家庭総合」4単位を履修させたいと希望していることなどを明らかにした。ところで神奈川県の高校改革は、2000年度から10年計画ですすめられ(「県立高校改革推進計画」)、2008年度には147校(内、定時制併設18校、定時制と通信制併設1校、通信制単独校1校)へと再編統合された。その中には、単位制および総合学科の高校が増加した。
    【方法】
     神奈川県の高校改革がほぼ終わりかけた2008年度に設置されていた県立高校の、2004年度以降の「学校要覧」に掲載されている教育課程、学校規模、家庭科教員の配置状況等について分析する。「学校要覧」は、神奈川県立図書館に所蔵されているものを閲覧した。
    【結果および考察】
     2008年度に設置されている全日制・学年制の普通科108校と専門学科17校の場合、普通教科「家庭」の科目は、「家庭総合」4単位が50%、「家庭総合」3単位が14%、「家庭基礎」2単位が31%、コースや系によって「家庭総合」4単位と「家庭基礎」2単位のように区別している高校が4%であった。定時制では「家庭基礎」が多くなっている。単位制の高校では、「家庭総合」と「家庭基礎」など2科目以上が置かれていることが多い。2003年度入学生から15%校で「家庭総合」を3単位とし、18%で「家庭基礎」2単位として以降、減単する高校が徐々に加わってきた。一方08年度、09年度に「家庭総合」4単位に増加させている高校も数校みられた。2003年度入学生以降は、それ以前の「食物」「被服」「保育」などに替えて「フードデザイン」「発達と保育」「服飾文化」「被服製作」などを、3年次に置いている高校が多い。以上のように、高校改革を背景にして、教育課程における家庭科の位置づけは大きく変化している。
    引用文献
    鈴木敏子・尾嶋由紀子(1996)「高等学校1994年度入学生の教育課程におけ る家庭科―神奈川県と三重県―」、『横浜国立大学教育紀要』No.36、72-90 鈴木敏子・尾嶋由紀子(2002)「公立高等学校の教育課程における家庭科の位置づけの実態と家庭科教師の意見」、『年報・家庭科教育研究』(大学家庭科教育研究会)第28集、20-32 小高さほみ他、(2009)「高校教育改革の『多様化』における家庭科の課題」『第52回日本家庭科教育学会大会要旨集』
  • ○鈴木 博美, 小高 さほみ, 佐藤 ゆかり, 鈴木 敏子, 石引 公美
    セッションID: B2-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【問題関心と目的】
    高校教育改革が進められている東京都では、中高一貫校や新しいタイプの高校の導入をはじめ公立高校の再編成が行われている。そのような状況の中、家庭科に関する学校設定科目の設置及び家庭学科の消滅の危機など、公立高校における家庭科も変容してきている(小高他,2009)。一方、東京都には全国的にみても群を抜く237の私立高校があり、都内高校総数に占める私立の割合は54%(平成21年度東京都学校基本調査報告)である。しかし、東京都の私立高校の家庭科教育について、男女必履修実施期の調査報告はあるものの、現在の改革における私立高校の家庭科教育を検討した報告はない。
    そこで本研究では、東京都内の私立高校における家庭科教育がどのように位置づけられ、どのような状況に直面しているのかを明らかにすることを目的とする。 【方法】
     私立中学高等学校名簿による東京都の私立高校の学科の設置状況の検討及び無作為に抽出した東京都の私立高校237校中120校の平成22年度版学校案内を収集し、教育課程、各学校の特色やコース制、家庭科の履修学年、履修科目などの検討という2方法により調査を行った。
    【結果】
    1)学科の設置状況
    学科の設置状況は、237校のうち206校が「普通科」のみの設置である。また家庭科に関係するととらえられる学科を設置している学校としては、「普通・調理・デザイン」「普通・調理」「普通・食物」「普通・商業・家政・衛生看護・衛生看護専攻科」「普通・福祉専攻科」を設置している学校が各1校ある。その他「普通・その他の学科」を設置している学校が19校、「国際科」のみ「鉄道科」のみ設置が各1校、「商業科」のみ設置が2校、「音楽科」のみ設置が3校であった。
    2)コース制の細分化と教育課程の特徴
     普通科での顕著な傾向は、1校に大学入試のレベルに対応した複数のコース(例えば「特進クラス文系」「特進クラス理系」「普通クラス文系」「普通クラス理系」など)が設置され、普通科が細分化していることである。そして、コースに応じてそれぞれの教育課程が設定され、1つの学校に同学年で複数の教育課程が併設されている。
    3)コース制における家庭科の履修状況
     必履修の家庭科の設定は、_丸1_同じ学校の中のコースによって異なる教育課程が設定されているが家庭科は共通に履修している学校、_丸2_コースによって履修学年が異なる学校、_丸3_履修科目が異なる学校、_丸4_履修科目も履修単位数も異なる学校に大別される。
    【まとめ】
     都立高校は各学校の「個性化・特色化」により学校単位の「多様化」「細分化」が進められてきているが、私立高校は主に大学受験を目的とした「普通科」を中心としてコース制を設けて細分化し、1つの学校に複数の教育課程が存在している特徴が明らかになった。家庭科の設定状況は、生徒が進むコースによって履修科目や履修学年が異なることが明らかになった。
     このような中で、生徒たちが家庭科を学ぶ機会が等しく保障されているのか、また大学受験を中心とした教育課程の中で、家庭科教師はどのような課題と向き合っているのかを明らかにすることが今後の課題である。
    小高さほみ他(2009)『高校教育改革の「多様化」における家庭科の
    課題』日本家庭科教育学会第52回大会要旨
  • ○佐藤 ゆかり, 小高 さほみ, 鈴木 敏子, 鈴木 博美, 石引 公美
    セッションID: B2-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     第14期中央教育審議会答申は高校教育の諸制度についての方向性を示唆しし、それ以降、高校教育改革が急激に進んだ。一方、我が国において私立高校は、国公立高校と並んで、学校教育制度の一翼を担っている。しかし、高校教育改革の中で私立高校における家庭科教育を検討した報告はまだない。
     そこで、本研究はかつて公立高校の家庭学科・学校が30近くありながら、現在は4校3学科となっている新潟県(小高他,2009)において、私立高校における家庭科教育がどのように位置づけられ、どのような状況に直面しているのかを明らかにすることを目的とする。
    【方法】
     新潟県私立高校全18校の2009年度学校要覧・学校案内及びホームページ掲載内容を収集し、教育課程及び学科・コースの設置内容などを分析した。
    【結果】
    (1)課程・学科・コースの設置状況
     18校中15校が全日制であり、そのうち12校が普通科のみ、普通科・食物科、普通科・生活服飾科、普通科・衛生看護科を設置する高校が各1校であった。なお、生活服飾科は2009年度入学生を最後に募集停止となっていた。18校中3校は単位制、単位制・通信制、単位制による通信制が各1校であった。また、全18校に普通科が設置されていた。18校中15校の普通科では1年次から複数のコースが設置されており、「進学」が共通するキーワードであった。
    (2)必修家庭科の設定状況 
     全日制15校の普通科では、10校が家庭基礎、2校が家庭総合、3校がコースにより、それらのいずれかであった。家庭基礎はすべて2単位であるが、その履修学年は学校により異なり、1単位ずつ2年間での履修という学校が1校あった。必修が家庭総合である2校のうち1校は、生徒の性別により履修単位が異なっており、もう1校は標準単位数に満たない3単位であった。普通科のコースによって、家庭総合を設置している学校の中には、1年次2単位、3年次2単位という、連続しない学年への設定があった。食物科及び生活服飾科は家庭総合4単位であり、衛生看護科は家庭基礎2単位であった。また、全日制以外の高校は、すべて家庭総合4単位であった。
    (3)選択家庭科の設定状況
     選択科目としては、普通科の「進学」を最重要視しない2コースにおいてフードデザイン、発達と保育やデザインと服飾・住生活、家庭看護・基礎という学校設定科目が設定されていた。また、この2校は現在または以前に家庭学科を設置していた学校であった。
    (4)必修科目・選択科目以外における家庭科の位置づけ
     家庭科の位置づけとしては次の3ケースを挙げることができる。第1は食物科設置校であり、資格取得と職業に直結、第2は講座という名称により教養の醸成を志向、第3は、卒業研究への発展に結びつけるケースである。
    【まとめ】
     以上の結果から、新潟県私立高校においては、家庭学科の減少及び課程・学科・コースによって必修家庭科の科目・設置学年・履修単位数が異なることが明らかになった。家庭科が縮小の中、あるいは同一校にも関わらず異なる必修科目・学年・履修単位のもとに授業を行っている教員はどのような課題を抱えているのだろうか。それらを明らかにし、解決方法を探ることが今度の課題である。
     小高さほみ他(2009)『高校教育改革の「多様化」における家庭科の課題』日本家庭科教育学会第52回大会要旨集
  • 野中 美津枝, 荒井 紀子, 鎌田 浩子, 亀井 佑子, 川邊 淳子, 川村 めぐみ, 齋藤 美保子, 新山 みつ枝, 鈴木 真由子, 長澤 ...
    セッションID: B2-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高校家庭科は、女子のみ4単位必修から、平成6年に男女4単位必修となり、男女共同参画社会を背景に新しい家庭科の時代を迎えた。しかしながら、学習指導要領改訂で平成15年に「家庭基礎」2単位科目が登場し、この数年で多くの学校が2単位の「家庭基礎」科目へ移行し、家庭科の単位減により家庭科教員の配置や学習環境が悪化していることが懸念されている。
    そこで、家庭科教員へアンケート調査を実施して、現在の高校の家庭科の履修状況や教員配置・単位減に伴う学習内容の変化、学校現場での家庭科教員の抱えている問題を把握して、単位減をめぐる問題点と課題を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
     16都道府県の普通科を設置している公立の全日制高等学校の家庭科主任へ、平成22年2月に郵送によるアンケート調査を実施した。1311校へ郵送して611校から回答があり、回収率は46.6%であった。普通科のみを調査した理由は、平成21年現在高校生の72.3%が普通科に所属しており、専門学科では専門科目の縛りがあり、総合学科や単位制の学校は数が少ない上必修科目の選択制も多いため、家庭科の履修状況について、普通科のみの教育課程を調査対象とした。
    調査項目は、家庭科教員の配置と持ち時間、家庭科の履修状況、家庭科への理解、家庭科の単位減の影響と問題点、家庭科の教科観と学習活動、家庭科の単位減に関する取り組み等である。
    【結果】
    (1)家庭科の教員配置は、専任1人の学校が62.5%で、専任を置いていない学校が6.2%であった。家庭科の専任1人当たりの平均授業総持ち時間は15.3時間であるが、約6割が家庭科に加え、「総合学習」「情報」「福祉」「学校設定」の教科等を担当していた。
    (2)家庭科の必修について、12.6%の学校で2種類以上の教育課程が設けられ、複数設置の場合、複数の必修科目を設置するよりも、同一科目で履修単位数を変える学校の方が多い。教育課程の延べ数でみると、「家庭総合」35.7%、「家庭基礎」63.3%、「生活技術」0.6%であるが、「家庭総合」「家庭基礎」ともに2単位から6単位以上の履修もあり、必修科目名では必ずしも単位の履修状況は計れない。
    (3)勤務校における家庭科への理解や状況は、34.5%が教育課程の編成に教科の意見が反映されにくいと感じており、もう既に「家庭基礎」2単位の学校も多いが、8.2%が現在家庭科の単位減を勧められていると回答していた。また84.5%の教師が、生徒は家庭科の授業に意欲的であると考えており、約6割が、学校や他教科教員は、家庭科の内容や取り組みを理解し評価している、と捉えていた。
    (4)約7割が家庭科必修科目の単位減を経験し、削減した学習内容は「衣生活」「住生活」が多く、約8割が実習時間を減少させていた。また、家庭科が単位減になって約8割が困っていることがあると回答し、そのうちの4割が、専任が減らされたこと、教科のことで相談する人がいないことを挙げていた。
    (5)家庭科の教科観として「自立」と「共生」を重要と考え、家庭科の授業を通して「生活の知識・技術」「問題解決能力」「人とかかわる力」を重視して指導している。家庭科の希望単位数として78.6%が4単位以上をあげ、現在よりも単位増になった場合、「調理実習」の回数を増やし、「保育や高齢者福祉関連実習・交流」「調理実験」「調べ学習」を実施したいと考えている。
    (6)家庭科の単位減に対する取り組みは、73.5%があると回答しており、都道府県の高校家庭科部会や地区会・自主的研修会で実態調査や情報交換をしている。
  • 高木 幸子
    セッションID: B2-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    背景と目的
     中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」(平成20年)では、教育の質を保証するシステムの再構築にむけて「何を教えるか」から、「何ができるようになるか」に焦点をあてることが求められている。教師としての成長を視野に入れて教員養成段階を考えると、職務の中心である授業実践を支える知識や基本的な教授技術を身につけることが必要である。また、家庭科においては、生活環境を正しくとらえることや意思決定、価値判断などを含めて授業をよりよくする視点から課題を見出す力が求められているととらえることができる。そこで、本研究は、授業を分析的に見る目を付けるプログラムの開発を目的として、学生が教育実習で行った授業(一部、模擬授業含む)を省察する方法の検討を行う。
    方法
    1 開発プログラムの内容と実施対象
     本プログラムは,中等家庭科教育法4(後期に実施)を用いて、14名の大学3年次生を対象に行う。プログラムは児童生徒の学習状況をとらえる学習評価の視点と自分の行った授業の課題を見出す授業分析の視点を組み込んだ3つの内容で構成する。具体的には、基本的な学習評価の方法や分析方法に関する知識の理解を意図した内容(内容1)、共通の家庭科授業の事例を対象に評価問題・解答例を作成する演習(内容2)、教育実習(または模擬授業)で行った家庭科授業を対象に自己分析し省察する内容(内容3)である。
     以下、本報告に関連する内容3の部分のみ記述する。
    2 授業を分析的に見る力が付いたか否かを評価する材料と規準
     評価材料には、学生が作成した授業の自己分析レポートを用いる。また、自分自身の授業を客体化して見直せているか否かの判断は、2つの規準(規準1:分析した事実に基づいて課題を見出すこと、規準2:自分の課題に正対した改善方策を考えられること)から、それぞれの実現状況を考察する。
    結果と考察
    1 学生が授業分析に用いた方法
     14名の学生が用いた分析方法は、発話分析(14名)、教授・学習行動分析(8名)、教材分析(ワークシートや資料)(7名)、学生が考えた方法(3名)であった。
    2 自己分析レポートの記述レベル
    (1)規準1の実現状況
     3段階で示した実現状況のレベルを基準に照らして分類した結果、13名の学生が分析した事実に基づいて課題を具体的に指摘すること(レベル3)ができていた。記述されていた主な課題は、教師が多く話しすぎていたこと、指示・説明が中心であったこと、教える知識の理解が不十分だったことなどであった。
    (2)規準2の実現状況
     このように具体的な課題を抽出できていたにも関わらず、改善方策については、抽象度の高い言葉を用いて一般的な考えを記述し、自分の問題としてとらえるレベルまでいっていないものが見られた。
    (3)考察と課題
     課題の指摘と改善方策を記述するレベルに差がみられたのは、見えている課題の要因を分析する力が不足していた結果が表れたものと推察する。本取組では、教育実習の授業(1時間)の全てを対象に省察することを課したが、今後は、学生が最も課題を感じた場面のみを対象として、教師と生徒との相互のかかわりを詳細に分析させる方法や学生間の相互協議を含めた方法についても検討をすすめる。
  • 貴志 倫子, 中西 雪夫, 財津 庸子, 柳 昌子, 赤崎 眞弓, 宮瀬 美津子, 小林 久美, 福原 美江, 長山 芳子
    セッションID: B2-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 
     教員養成において実践重視のカリキュラムが求められている今日,教育実習の位置づけはますます重要になってきている。教科指導の観点から教育実習を対象とした研究では,教科間の比較から教科特有の課題を検討した照井,井上(1998)など個別の大学を単位とした調査が広く行われている。一方,教育実習に受け入れ校の視点を加えると,各大学の多様な教育理念や実習システムの相違が,実習指導を困難にしている側面も浮かんでくる。大学の枠を超えて,多面的な観点から実習の課題を整理し,家庭科特有の課題を明らかにする必要がある。
     そこで,家庭科の教育実習の実態を明らかにし,それをもとに実習改善に資することを目的とした共同研究が日本家庭科教育学会九州地区会有志によって立ち上げられた。研究は,「実習受け入れ校担当者の意識と実態」「大学の教育実習カリキュラムの現状」「教育実習生の意識と実態」の3班に分かれて行われている。本報告では実習生調査の結果を分析すると共に、それを先行して実施された受け入れ校担当者への調査結果とつき合わせることによって、家庭科の授業を行う教育実習生への支援充実のための課題を明らかにすることを目的とする。
    【方法】
     2009年2月~2010年1月に,教育実習を終えた大学生に質問紙調査を行った。対象は,教員養成系学部および家政系学部で初等または中等家庭科の教育実習に参加した者とした。調査票は各校の担当より学生に配布し,留め置き法により回収した。福岡,佐賀,長崎,大分,宮崎,熊本の6県9校から計134票を回収した(有効回収数56.1%)。主な調査項目は,(1)授業準備や実習中の生活等,実習生自身の活動に関する項目,(2)事前事後指導や実習環境等,大学および実習校に関する項目である。
    【結果】
     (1)学生が教育実習前と実習中に行った活動のうち,自主的に授業準備を始めた時期について,「1ヶ月前」(45.6%)との回答がもっとも多く,以下「2ヶ月以上前」(22.3%),「1週間前」(20.4%)であった。実習で行った家庭科授業時数の平均は,小学校が3.4時間,中学校9.6時間,高等学校9.5時間であった。このうち,実習・実験を含む授業時数の平均は,順に1.9時間,2.8時間,3.0時間で,平均授業時数に占める実習・実験を含む授業時数の割合は小学校の54.5%に対し,中・高等学校では3割程度であった。
     (2)大学での事前指導について,「とても役に立った」と回答した者が多かった項目は「実習校での授業参観」(58.0%),「大学の先輩の助言」(55.7%)で,教育実習・家庭科指導に関連する科目等での「学習指導案作成」(50.5%),「模擬授業」(46.5%)と続く。大学教員による個別の「学習指導案添削」,「教材研究指導」は2割程度が「役に立たなかった」と回答し,「大学全体の事前指導」は35.3%が「役に立たなかった」と回答した。事後指導で「とても役に立った」と回答した者が多かった項目は,「実習校教員による事後指導」(62.9%),「家庭科の大学教員による事後指導」(41.1%),「大学教員による事後指導」(35.6%)であった。
     (3)実習校における実習に必要な資料・備品・設備について,実習生にほとんど不満はみられなかった。ただ,受け入れ校調査の結果では,実習生が受身的で自ら工夫しようとしないことが課題とされており,不満のなさは,実習生の要求水準の低さの表れとも考えられる。実際に多くの実習生が実習前に購入していたのは「教科書」と「学習指導要領」にとどまっており,実習校の資料・備品やインターネット検索等の範囲の教材研究となっていることが推察された。
  • 妹尾 理子, 井口 真由美
    セッションID: B3-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    背景と目的<BR> 現代は、衣食住のあらゆる場面において科学技術の発展による恩恵を受け、便利で快適な生活をおくっている。一方で、深刻化する環境問題への対応が重視されるようになり、家庭科においても「環境に配慮した生活」が小・中・高校を通した学習テーマのひとつになっている。小学校における住まい学習においても環境の視点からの展開が望まれる。しかし、家庭科における環境学習の中には、快適な住まい方、ごみの減量や掃除の工夫などについて、生活の知恵を学び実践するといった体験的内容はみられるものの、高学年の学びとして、家庭科の授業が学び甲斐を感じられるものになっているのか、疑問を感じることもある。「習得」「活用」「探究」が重視されているなか、家庭科における授業の再検討が必要になっていると考える。<BR> そこで本研究では、家庭科の中でも実践研究が不十分であるとされる住まい学習における環境教育の方向性を探ることを目的としている。その際、先行授業実践から成果と課題を整理したうえで、その課題を克服するための教材および授業研究を行い、実際の授業実践を行って検討する。なお、本研究は主として小学校家庭科を対象として行うが、中学校についても考察の対象とする。<BR> 研究方法<BR> 1.小中学校における環境に配慮した住まい学習の授業実践および教材研究に関する報告・論文を収集し、そのねらいや内容について分析・考察する。<BR> 2.先行実践の考察結果をもとに、住まい学習として科学知を重視した授業の研究および教材開発を行う。<BR> 3.授業および教材研究の結果を生かし、開発教材を使用して実践した授業について検討を行う。<BR> 結果および考察<BR> 1.住まい学習において環境教育を行う先行実践をみると、生活の工夫や小物製作などが行われる傾向が強い。製作に子どもの意識が焦点化されてしまうことで、授業の本来のねらいが達成できないなどの問題点がみられる。今後は衣生活学習との関連をはかる学習が考えられるが、学習のねらいを絶えず意識して、授業を構想していくことが求められる<BR> 2.住まいの授業において、現状(問題)を把握(実感)する、問題解決(改善)の方向を探る、実践を行い検証する、結果を評価する、といった問題解決プロセスが重要になる。その中で科学知を重視した授業をつくることが大切になる。伝統的な暮らしの知恵を再認識し、同時にそれを現代に生かす方法を科学的に検証しその根拠を解説できるような力を育てることが必要になるだろう。それらは、社会科や理科での学習成果を応用することでもあり、活用する力を重視する近年の動きとも重なるものといえる。したがって他教科の学習内容の把握も大切になる。その際、小学生では理解が困難だが学んでいてほしい内容が出てくることもある。小学校と中学校の学習テーマを厳密に決めすぎず、子どもたちの実態や発達段階をふまえ、中学校でも小学校と同じテーマを科学的に深めるような学習も必要と考える。<BR> 3.先行事例や教材研究をもとに構想し実施した授業では、子どもたちが体験をもとに思考力や判断力、想像力を働かせて学んでいく生きた学習が可能になっていた。子どもたちが授業後に学習を振り返って書いた作文を分析すると、子どもたちの中に学びのプロセスが残っており、授業のねらいが達成できたことを示すものとなっていた。<BR> ※なお、本研究は、岡山市立中山小学校・三島千絵教諭、高松市立下笠居小学校・白川恵美子教諭から多大な協力を得たものである。
  • 川合 みちる, 龍野  征代, 仲島  尚子, 平野  道子, 大本 久美子, 矢野  由起
    セッションID: B3-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    目 的
      平成20年に改訂された、小・中学校家庭科学習指導要領では、A家族・家庭、B食生活、C衣生活・住生活、D消費生活と環境の4つとなり、衣生活と住生活の内容が1つにまとめられた。
      学習内容は、これら4つの内容について、「相互に有機的な関連を図り、総合的に展開されるよう適切な題材を設定して計画を作成すること」と示されている。
      一方、昨今家庭や地域社会においては、さまざまな生活の変容が見られるようになった。そのような社会に生きる子供たちの生活実態をふまえ、題材を設定する必要もある。そこで本研究においては、生活の器でもある「住まい」に焦点を当て、小、中、高等学校の家庭科学習における家族・家庭、食生活、衣生活、住生活各分野の相互の関係性を深め、有機的な関連性を理解しやすくするための学習内容を検討することにした。
    方 法
      日本家庭科教育学会近畿地区有志12人により、2008年12月に「住生活研究会」を立ち上げた。小・中・高・大学の教員が一同に集まり、以下の手順で研究を進めた。
     まず、今までの家庭科教育における「住居領域」学習の在り方と、新学習指導要領における「住居」の扱いについて検討した。その中で、衣生活や住生活は、それぞれ独自の領域としての取り上げ方もあるが、住まいの中で衣生活―洗濯、収納、管理などの―合理化を図るといった課題を結合した学習も可能なことが提案された。このような視点を他の分野にまで広げて考察してみると、住まいを基本舞台として、さまざまな家庭生活を有機的・総合的に捉えることも可能ではないかとの構想が浮かび上がった。
     そこで小・中・高等学校のこれまでの住居学習に関連する各分野の授業実践を持ち寄り、新たな住居学習の基本構想モデルと小・中・高等学校別に学習内容を整理したマトリックス表を作成した。
    結 果
      基本構想モデルは、住まいを基本舞台として家庭生活全般を考えたものである。個々の住まいを含みつつ、より広い空間が地域である。それは、基本舞台を取り巻いているとも言える。それらの軸は人であり「家族・家庭・ご近所」が中核となっている。
      「家庭生活」の中で営まれている行為に着目すると、「食べる」「着る・装う」「育つ・育てる・支える」に加えて「くつろぐ・楽しむ」などがあり、それらの行為は単独のものではなく、複雑に絡み合い生活が成り立っている。この「生活」は安全かつ、最低でも健康で文化的でなければならない。さらに「生活」では、能率と快適性も必要である。
      そして、人々の生活の営みの中から、さまざまな文化を生み出し、それらを伝承し、「家庭」や「地域」の中で大切にされてこそ、持続可能な社会が形成されると言える。
      「食べる」「着る・装う」「育つ・育てる・支える」「くつろぐ・楽しむ」の「家庭生活」が、住まいや地域の舞台とどのようにつながり、どう展開しているのかを理解することが、家庭生活を総合的に捉えるひとつの方法ではないだろうかと考え、住まいを基本舞台として捉え直し、生活の総合的把握が進むような、子供たちに備わっている力を伸ばし、バランスの取れた発達・成長といった点に配慮し、基本構想モデルを具体化したマトリックス表を作成し「住まい学習」の充実を図った。
      2010年1月に高等学校の学習指導要領解説が公示された。今回の改訂では、消費者教育や環境教育が重視され、家族や生活の営みを人の一生とのかかわりの中で総合的にとらえ、生活を主体的に営む能力と実践的な態度を育て、男女が協力して家庭や地域の生活を創造する能力を育てることなどが目指されている。ウ.住居と住環境では、「住居と地域社会とのかかわりなどに必要な基礎的基本的な知識と技術を習得させ、安全で環境に配慮した住生活を営むことができるようにする」と明示された。今回作成したマトリックス表にも反映させている。
    ( 研究助言協力者  西村一朗 奈良女子大学名誉教授)
  • -日光をテーマにした授業実践-
    田中 志穂, 阪口 美香, 谷口 明子, 鈴木 洋子, 田中 洋子
    セッションID: B3-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目 的】
     「住まいを基本舞台として家庭生活を総合的に考える」における基本構想モデルを起点に授業を設計した。基本構想モデル中の住まいを取り囲む要素の中から、生命保持に直結する「健康」「快適」に焦点をあて、日光を横断的学習の核に設定した。日光は誰もが無料で使えるエネルギー源であり、どの子にも考えさせる場を設定することが可能である。日光を核に置き、住まいで繰り広げられる生活行為に着眼し、住まいを生活行為と関連付けた学習を展開することにより、衣食住の学習の分断を回避できると考え、「日光と私たちの生活」の授業を実践し、その成果を検討した。

    【方 法】
     授業実践の効果は、主に日光を「刺激言」においたイメージマップ(B5用紙)より検討した。授業は第6学年児童106名(3クラス)を対象に2009年11月に実施した。事前のイメージマップは7月に、事後は12月に描かせた。定着度を見るために2010年3月に同様のイメージマップを描かせた。イメージマップに記述された用語を全て書き出し、児童ごとに事前、事後、定着時の第一用語、第二用語等の数をかぞえた。
    イメージマップ中の用語から項目を作成して分類し、記述した延べ人数から比較を行った。事前のイメージマップの内容は、学習指導計画を立てる際の参考にした。
    学習指導計画 
    「日光と私たちの生活」  (全7時間)
     第1次  日光と住生活・・・・・・・・・・・2時間
          日照・採光・暖房・発電
     第2次  日光と衣生活・・・・・・・・・・・2時間
          熱・乾燥・殺菌・紫外線
     第3次  日光と食生活・・・・・・・・・・・2時間
          食品の保存(殺菌・栄養)
     第4次  日光の役割・・・・・・・・・・・・1時間

    【結 果】
    ・第一用語数、第二用語数の平均値について、対応のあるt検定をした結果、事前と事後、事前と定着時の間に有意差が認められた。事後と定着時の間に有意差は認められなかった。
    ・事前(7月)のイメージマップから(1)熱・乾燥、(2)日照・採光、(3)植物の成長、(4)太陽光発電、(5)紫外線の5つの項目に用語を整理することができた。(3)植物の成長については、理科の学習中であったため、挙げている児童が比較的多かった。
    ・事後(12月)のイメージマップにおいては、事前で作成した項目のほかに、「殺菌」「食品の保存」「洗濯」が加わった。事前のイメージマップの5つの項目のうち(3)植物の成長を除く4つの項目の用語数が増加した。
    ・定着度をみるためのイメージマップ(3月)にかかれた内容と、事後のイメージマップとの間に大差はみられなかった。
    ・「日光と私たちの生活」の題材で、衣食住の横断的な学習を進めることにより、家庭生活が住まいを基本舞台として展開されることを理解させる一助となった。
  • 尾崎 沙和子
    セッションID: B3-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>
     家庭科における住居領域について中・高校の教育現場では積極的に取り入れられていない状況がみられる。また取り扱ったとしても軽く話すだけの授業に留まっている場合が多いようである。その理由として、1教師自身が学生時代の住居領域の授業での楽しい経験が少ない 2住居の話は個々人の家庭の事情からプライバシーにかかわり問題になるのではないかとの心配 3住居の内容は難しく何を指導してよいか分からない、などが推測され、これらの課題解決は極めて難しい。とはいえ<住まいは人間が生きていくためには不可欠であり、人格形成の場である>ことを考えると、このまま放置するわけにはいかない。筆者はここ数年視点を変えて3Dソフトによる住居の学習を試みている。ソフトを活用することで学生の住まいへの興味・関心は高まり、「楽しかった」と多くの学生は感想を述べている。先ずは教職を目指す学生の、住居についての関心が高まることが大切である。本発表は、3Dのソフトに取り組んだ学生の様子から、何がどのように面白かったのかについて報告し、またソフト活用による住居領域指導の可能性と課題等についても触れたい。
    <方法>
     主に家庭科・教職課程の履修生一部・二部生を対象に、20~21年度の「住居学」「教育方法及び技術」「生活美学」等の授業において3Dソフトを利用した。テーマは<ひとり暮らしの住まい><LDKの空間設計><DKの空間設計>とし、それぞれの設計条件は各自で決める。コンピュータ室の利用は90分の6時間程度である。学生はパソコンには多少慣れてはいるものの、3Dソフトの使用ははじめてである。課題の実施に当たり、住居学を学ぶ目的、生徒に学ばせたいこと(考えさせたい・身につけさせたい・実践させたいこと)等を話す。ソフトの立ち上げ方を説明すると同時に、学生の課題への関心は高まった。ソフトでの表現に関しては実生活の体験をふまえ、安全・機能・衛生・慰安性等を考えさせながら個々に対応した。陥りやすい共通の問題についてはソフトの制作会社社員の説明を受けた。また学生同士で教え合うことも勧めた。
    <結果>
     多くの学生が知らず知らずのうちに住まいの設計にはまっていった。最初は操作上の得手不得手もあり、一方では生活上の願いがあふれ、まとまるかしら等の心配された学生もいたが、最後は各自固有の住まいや空間を3次元で表現することができた。二部生の最終回は自作の食空間を画面に映し出し、特徴をアピールした。学生全員が固有の住まい方の多様さに関心を示し、「楽しかった」と感想を述べた。ソフトへの関心の様子は男女によりやや異なりが見られた。
    <考察>
     3Dのソフトを利用することにより、住まいが身近なものになっていると実感できた。●生活を考えさせることができる●設備や家具の大きさと配置、使い勝手等について考えることができる●内装や家具等を好みの色やサイズに換えることができる●照明や配色、またエクステリアの空間まで自由に表現できる●平面計画したものをその場で3次元にかえ、ウォークスルーで室内を確かめることができる、などがこのソフトの特徴と考えられる。3Dソフトによる住まいの表現は平面図の指導では得られなかった住空間への広がりを学生は体験できたと思われる。また現場においても従来の方法より住居領域の指導の可能性を体験できると考えられる。 学校において3Dソフト導入の可能性があれば、住居領域の指導にとって極めて頼もしい教具といえよう。
  • 「家族」の家庭科授業構想
    望月 一枝
    セッションID: B4-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    問題と目的  青年期研究者であるコールマンは、ヨーロッパなどの先進工業国において、若者が一人前になる移行は、長期化し不確実になっていると指摘する。長期化する大人への移行期で若者が経験する最も大きな変化は家族と労働市場の領域において経験されると述べている(コールマン2003)。しかし、若者の大人への移行をポスト産業社会での構造的な問題ととらえたうえでもなお課題は残る。若者自身は、どのように主体的に人生を生き抜いていけばよいのだろうか。たとえば、このような若者の大人への移行にかかわって、労働の問題や消費者教育を「現代社会」で授業実践をしているものに井沼(2008)がある。家庭科の授業では、家族の授業実践が試みられている。だが、若者の移行にかかわる理論的な構想は少ない。そこで本研究では、若者の困難にかかわる問題をふまえた家庭科の「家族」の授業構想の理論的枠組みを明らかにすることを目的とする。 研究対象および方法  若者が抱える困難とシティズンシップについてジョーンズとウォ―レス(1992)の研究を検討する。さらに政治思想研究者である岡野八代のシティズンシップ論(2009)を補助線としてジョーンズらが指摘したシティズンシップ概念の拡張について考察する。これらをふまえ、家庭科の「家族」の授業構想の理論的枠組みを明らかにする。 結果と考察  ジョーンズらは,社会学における若者を理解するための主なアプローチを二つに整理している。一つは,若者が置かれている状況を構造的に把握するアプローチであり,もう一つは,個人に焦点を当て若者を把握するアプローチである。ジョーンズらは,前者を構造主義者のアプローチ,後者を個人主義者のアプローチであるとしたうえで,これら二つのアプローチは家族というコンテキストを見ていないだけでなく,現状では,二項対立的に捉えられていると指摘している( Jones and Wallace.:4-12 )。そこで、ジョーンズらは,ライフコースアプローチこそ,「公的世界と私的世界を再結合させる」( Jones and Wallace1992:13 )新しい全体論的アプローチであると述べている。 他方、岡野は、「私」と「公」に境界線を引き,私的領域と,シティズンが活動する場が公的領域を峻別してきたことに問題が孕まれていると指摘する。岡野は、これまでのシティズンシップ論は,たとえば,「子どもたちに心配りを払う母親の必要性」と「自立したシティズンという価値」が対となって構造化されている。このような「私」と「公」が対となって構造化されるシティズンシップ論においては,自立したシティズンは,一定のものたち(例えば母親たち)を二級市民へと囲い込み続けると批判した(岡野2009)。加えて,これまでのシティズンシップ論は,市民が自律的な存在であることを前提として,「自立」が強調されていることであり,「自立」を前提とすると「普遍的な正義」を守る原理や規則を遵守することが「市民の責任」となってしまう。つまり,具体的な市民一人ひとりに対する応答ではなく,一般的な原理・規則の遵守が強調され,具体的な他者に対する無関心が醸成されてしまうと批判する。(岡野2009)。岡野は,責任はつねに関係性の中でこそ新しく生まれてくるのであるから,ヴァルネラブルな者をケアする責任を社会の中で分有し,ケアが必要な者が放置されない仕組みが必要であると論じている(岡野2009:262-272)。これらをふまえた家庭科の「家族」の授業が構想されなければならない。
  • 石島 恵美子
    セッションID: B4-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     家庭科は,これまで家族関係や調理,被服など個人の家庭生活に関する内容が中心であった。今後の家庭科教育に更に必要なのは,社会との有機的な結びつきの中で豊かな家庭生活を営むために,社会に働きかける知識とスキルを養うことである。つまり「社会参画」を支援するような学習が必要になってくる。社会参画とは,一般市民が主体的に社会づくりに関わってゆく活動であるが,高校生にとって,社会参画とは発達課題であるだけでなく,成熟した社会をつくるという点でも必要不可欠なことだと考える。
     ロジャー・ハート氏は「子どもの参画」について,「子どもの参画の梯子」という表現で社会参画度を8段階に分けている。「操り参画(1段目)」から,「子どもが主体的に取りかかり大人と一緒に決定する(8段目)」段階までである。この基本的な考え方を高校生にも援用し,高校生の社会参画を促す授業づくりを発展させていくことが期待される。
           本研究では,高校生の社会参画という視点から,その意識と実態を質問紙調査によって明らかにし,社会参画を支援する授業づくりにおける有益な示唆を得たいと考える。
    【方法】
     千葉県の4つの公立高校に通う2年生,432名(男子179名,女子253名)を対象に,「高校生の社会への参加に対する意識」質問紙調査を行った。調査内容は,「社会参画意識(10項目)」,関連要因として「権利意識(5項目)」,「公益を受けている意識(5項目)」「ジェンダー意識(5項目)」,「進路意識(5項目)」,また家庭科の授業に関わる要因として、「生活文化の認識(27項目)」と「学習方法の認識(19項目)」,「高校生の社会参画意識(9項目)」である。調査時期は2010年3月である。
    【結果】
    「社会参画意識」について因子分析を行った結果,2つの因子が抽出され「社会参画への意欲(6項目)」と「社会参画への効力感(3項目)」とした。また高校生の社会参画意識に影響を与える家庭科の授業に関わる要素の「生活文化の認識」について因子分析をした結果,4因子が得られ,「生活文化への関心」,「人との交流への興味」,「生活モラルへの関心」,「地域活動への意欲」とした。また,「学習方法の認識」について因子分析をしたところ,4因子が抽出され,それぞれ「調べ学習への興味」,「協働学習への興味」,「問題解決への意欲」,「情報の発信と共有への興味」とした
     高校生の社会参画意識に対して、関連要因がどのように影響を及ぼしているのかを明らかにするために,「社会参画意識」の下位尺度である「社会参画への意欲」,「社会参画への効力感」を,それぞれ従属変数として重回帰分析を行った。その結果,前者については,「生活文化への関心」,「人との交流への興味」,「調べ学習への興味」,「問題解決への意欲」が有意であり,後者については,「人との交流への興味」,「協働学習への興味」,「生活モラルへの関心」が有意であった。
    【考察】
     以上のことから,高校生の社会参画意識には家庭科の学習の要素として「生活文化への関心」,「人との交流への興味」,「生活モラルへの関心」,授業方法として「調べ学習への興味」,「問題解決への意欲」「協働学習への興味」が関連していることがわかった。
  • 主観的指標と客観的指標の総合評価から
    名嘉 一幾, 得丸 定子
    セッションID: B4-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
    会議録・要旨集 フリー
    目的: 子どもたちにとって、超高齢社会での生き方、高齢者との関わりについて学ぶことの教育的意義は大きい。学校教育現場において、この教育的意義を果たすべく、2000年前後から学校教育における福祉教育の取り組みが盛んに行われた。具体的な内容として、高齢者と児童を対象にした世代間交流実践や、高齢者福祉施設、障害者福祉施設におけるボランティア活動に視点を当てた実践、点字や車いす等の障害者支援に関する内容等が挙げられる。しかし、こうした取り組みは、一過性のものとなる傾向が強く、継続的な実践例はほとんどみられず、福祉教育がブーム化している可能性があることが問題として指摘される。さらに、少子高齢化の進展や世代間にバリアが生じていることが指摘されおり、福祉教育実践の充実や、学校教育現場における世代間交流の必要性が叫ばれている。しかし、我が国の世代間交流分野における研究は、プログラム実践が先行しその評価方法までを見通した研究は少ない。さらに、プログラムの評価指標として、生化学的指標を用いた実践はみられない。そこで本研究では、まず、継続的な実践へ向け、地域に根ざした交流プログラムの開発を行った。次に、プログラム評価として、主観的評価指標に加え客観的な生化学的指標を用いることで、世代間交流プログラム実施前後における高齢者のストレス度を明らかにすることを試みた。 方法: 1 世代間交流プログラム実践 交流プログラムは、2008年に筆者が企画したプログラムの反省点や先行実践を踏まえ、昔遊びや、地域の文化財である伝統舞踊を取り入れた内容とした。交流対象は、新潟県上越市内のNPO法人が市の委託事業として運営する予防介護事業参加高齢者15名(82.7±2.6歳)及び、同区A小学校、B小学校の学童保育利用児童39名(1~5年生)とした。交流日時は、2009年8月4日、6日の2日間で、4日は高齢者9名とA小学校学童保育児童24名、6日は高齢者6名とB小学校学童保育児童15名が交流を行った。 2 世代間交流プログラム評価 ストレス度測定対象は、参加高齢者のみとし、同時に主観的指標として顔マークによる気分測定も実施した。精神的ストレス度を測定する生化学的指標として、唾液アミラーゼ(以下AMY)活性を測定した。(唾液アミラーゼモニター・二プロ社製) 3 高齢者健康体操時のストレス度評価 身体的ストレス度と精神的ストレス度とを区別するため、交流とは別日で高齢者のみで行われる健康体操実施前後におけるAMY活性値測定も実施し、世代間交流プログラム実施前後のデータとの比較を行った。実施対象は、世代間交流プログラムと対応のない予防介護事業参加高齢者10名で、測定日時は、2009年9月15日とした。なお、本研究における有意水準は、探索型研究に採用される「p<.15=有意傾向、p<.10以降を有意」とした。 結果: 1 世代間交流プログラム実践 参加者の感想から、昔遊びや、地域の文化財舞踊を取り入れたことを評価する記述が多くみられたが、交流会は、年に1度の行事的実践となった。しかし、交流の模様が地元紙に掲載されたり、地域の祭りで紹介されたことで、世代間交流を地域に発信することができた。 2 世代間交流プログラム評価 プログラム実施前後におけるAMY活性値測定の結果、参加高齢者のAMY活性値は、有意な上昇を示した(t(7)=-4.49、p<.01、Sig.)[対応のあるt検定]。また、顔マークによる主観的気分測定の結果、交流後の高齢者の主観的気分は、有意に向上する傾向を示した(3(3vs0)、p<.15、sig.)[サイン検定]。このことから、世代間交流に参加した高齢者は、有意に精神的ストレスを感じていながらも、それらは快ストレスではないかという可能性が示唆された。 3 高齢者健康体操時のストレス度評価 高齢者の健康体操時のAMY活性値測定の結果、AMY活性値は有意な減少を示したことから(t(9)=2.10、p<0.10、Sig.)[対応のあるt検定]、「結果2」のAMY活性の上昇は、身体運動に伴うものではなく、精神的なストレスによるものであるということが示された。
  • 吉野 真弓
    セッションID: B4-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    「目的」
    現在「障がい者制度改革推進会議」では、障害者へのあらゆる差別を禁止する法案を制定するための協議がすでにはじめられている。この中で、障害のある子どもに関する教育福祉も議論がなされている。 これまで障害のある子どもにとって、本人や家族へのよりきめ細やかな医療の提供や発達への支援をするために「早期発見・早期治療」が大切とされてきた。しかしながら、その結果として、障害を持った子どもたちを地域社会から遠ざけ、とりわけ同年齢の子どもたちとともに学び育つ環境を失わせる結果にもつながってきた。 
    今後、生まれたときから障害のあるなしにかかわらず、すべての子どもは、学校や地域社会でともにかかわりをもって生活していくインクルーシブな社会を目指している。このことは、現在特別支援学校に通っている、より重い障害を持った児童・生徒も、今後地域の学校に進学することはまちがいない。そのため教育現場においてこうした子どもたちを受け入れる体制を早急に整えていく必要がある。
    学校教育における障害を持った子どもの問題は、広く学校全体で取り組んで行くべき問題である。これらの学校での取り組みは、その子の教育に限られるものではない。さらに一歩踏み込んだ、その障害児の生活や家族全体への支援を含めた問題は、家庭科教員こそがまさに担うべき役割である。そのため家庭科教員は重度の障害を持った家族に焦点を当てた研究を、今後家庭科教員もさらに考えていかなくてはならない問題である。現在こうした子どものケアは主に親が行っており、その身近に接している相手が訪問看護師である。それゆえ家族とのコミュニケーションのあり方を訪問看護師から学ぶべきところが多い。
    そこで本研究では、小児在宅医療を受けている家族の現状と問題点を明らかにするとともに、学校教育において重症障害児に対する家庭科教員の果たす役割を明らかにすることを目的とする。
    「方法」
    調査は、家族に一番接している訪問看護師を対象とし、T県すべての訪問看護ステーションにアンケート調査を行った。調査実施時期は、2007年5月である。活動中の訪問看護ステーションは57ヶ所であった。アンケートに対し、55ヶ所から返答があり、回収率は、96.5 %であった。また、協力の得られなかった2ヶ所のステーションに対しては電話にて調査を行い、どちらも小児の訪問看護を行っていないことを確認した。
    「結果および考察」
    結果として明らかとなった小児在宅医療の現状は、第1点目として、在宅で医療的ケアを必要とする子どもを育てていくことは、家族にとって肉体的、精神的にも負担であり、家族を非常に疲弊させている。第2点目は小児在宅医療をしていく上で大切なことは、現在から将来に渡っての家族や患児の不安や悩みの相談にのるなど、患児だけでなく家族とのかかわりを大切にすることが重要であることが示された。第3点目は、今後小児の在宅医療が広がるための支援として必要なことは、社会および行政による家族を支えるシステムづくりが重要であることが明らかとなった。このように在宅医療を必要とする重度の障害児の家庭生活を支援するには、家族全体を支援することが必要不可欠であり、家庭科としても重要な問題である。今後ますます、多くの重症な障害を持った子どもたちが小学校や中学校に入学する方向に向かうと考えられる。その時家庭科教員は、学校と家庭・および医療機関、社会福祉士などと連携して子どもの学校生活および家庭生活を支援する中心的な役割を積極的に果たしていくことが重要である。
  • -友人との交流が学習活動に与える影響-
    小泉 万里子, 三野 たまき
    セッションID: B4-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    目的
     近年,子どもの友人とのコミュニケーションはメールやインターネットなどの普及により,間接的な方法を多く用いるようになったと言われている.久野(2007)によれば,子どもは他の子どもとの話し合いによってお互いの学びを重ね合わせ,自らの考えを深め,新しい考えをつかめるようになるという.子どもたちの学習を深めるためには,友人と直接コミュニケーションする機会を授業に取り入れる必要があると我々は考えた.そこで本研究では,子どもが友人と直接コミュニケーションしながら交流する授業を設定し,これが学習活動に与える影響を明らかにした.またこの結果を踏まえ,児童自らが考えて学習を深めるための,教師の支援の一提案を試みた.
    方法
     調査対象者は長野市内のS小学校6年生の1学級(37名)であった.彼らに2時間続きの家庭科の授業を2回,計4時間実践した.授業形態は,友人との話し合いから課題を達成する調べ学習で,児童自らが学習方法を選択した.児童に2種類の提出物〔ワークシート2回(94.6%の児童は2回,5.4%の児童は1回提出),ICレコータ゛ーの記録2回(43.2%の児童は2回,27.0%の児童は1回,29.7%の児童は未提出)〕を,2回の授業毎に提出させた.提出物の合計数から彼らを4ク゛ルーフ゜に分け,便宜上,4つ提出した児童をA(n=16),3つをB(n=10),2つをC (n=9),1つをD(n=2)児童とした.(1)ワークシートの課題に対する回答率(教師の要求回答数を基準とした相対値)を求め,ク゛ルーフ゜間で比較した.(2)ワークシートの行数・文字数とその比,自らの考えを他児童に説明して得るサインの獲得率(教師の要求サイン数を基準とした相対値),記述内容を着眼点・理由・期待できる効果とその合計の記述数(これを“学習の深まり”とした)に分けて調べた.“学習の深まり”を目的変数とし,これに影響を与える因子を従属変数とした時の重回帰分析を行った.また,ク゛ルーフ゜ごとに,回答率,記述量・内容,サイン獲得率等の7項目間の相関係数を算出した.(3)サインの授受による児童間の交流関係を調べた.(4)2回目のICレコータ゛ーの記録に着目し,2組の児童の対話の内容を調べた.
    結果・考察
     (1)D児童は他児童に比べ回答率が有意に低いものの,A~C児童間では有意差がなく,97.1%の回答率であった.(2)ワークシートIの“学習の深まり”YIは,回答率(aI)と文字数/行数(bI)から重回帰式が得られた〔YI= 0.422aI+0.354bI(r=0.814)〕.なお,ワークシートIIの“学習の深まり”YIIは,YI,回答率(aII)と文字数/行数(bII)から重回帰式が得られた〔YII=0.516YI+0.382aII+0.280bII(r=0.824)〕.このことから,学習を深めるためには,回答率を上げることと,ワークシートへの記述を丁寧に取り組ませる必要があることが分かった.またワークシートIではAとC児童の回答率とサイン獲得率との間に有意な正の相関関係があったことから,友人のサインを得るために回答を仕上げたと考えられ,交流学習の効果があったと考えられた.一方ワークシートIIでは,C児童の行数とサイン獲得率との間に有意な正の相関関係があったものの,A児童は記述量とサイン獲得率の間に有意な負の相関関係があった.これはワークシートIIの課題がC児童には適度であったが,A児童には物足りなく,記述の充実よりも,サイン獲得に時間を費やしたと思われる.(3)どのク゛ルーフ゜の児童でも,サイン獲得率はワークシートIよりIIで有意に増加した.このことから,児童は2回目の授業の方がより友人に自分の成果を説明し,交流していたと考えられる.一方A児童は自らのク゛ルーフ゜内でサインを授受し,D児童に与えなかった.つまり関わる友人に偏りがあると言える.B児童はどのク゛ルーフ゜の児童ともサインを授受していたことから,関わりやすい存在であると考えられた.(4)2名のA児童の対話は授業に関連した発言が多いいものの,相手の意見を聞かずに自分の意見を押し通す場面が多かった.A児童であってもこのようにコミュニケーション上に問題がある児童がおり,今後彼らには他の児童の意見を聞く,つまり「教わる」体験をする場を設ける必要があろう.また他児童に比べて有意に低いD児童の回答率を上げるためには,関わりやすい存在であるB児童との交流の場を設定する必要があろう.さらにC児童の回答率がサイン獲得率と有意な正の相関関係にあったことから,楽しめる要素を課題に盛り込むことが効果的と考えられた.
  • 中学校家庭科におけるアクティブ・エイジングの学習
    角間 陽子
    セッションID: B4-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/13
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    【目的】
     新学習指導要領における中学校家庭科の目標には、「これからの生活を展望して」という文言が加えられている。生活は現在の生きる営みであると同時に、過去から現在、未来へとつながる連続したプロセスでもある。人生が長期化するなかで、生涯にわたって生活の質を追求する、すなわち「アクティブ・エイジング」を実現できることが求められている。したがって、アクティブ・エイジングは現在、高齢期にある人だけでなく、すべての世代を対象としているのである。本研究では、自分自身の現在の生活を省察して課題を見出し、生涯を展望して生活をよりよくしていこうとする生徒を育成するためのエイジング学習プログラムの開発を目的として、「若年世代の主たる活動の場でアクティブ・シニアが中学生を支援する」類型の世代間交流活動と連携させた中学校家庭科の学習について構想し、授業実践を通してその効果を検討した。
    【方法】
    (1)長野県佐久市の中学校3年生70名を対象として、2009年10月上旬、無記名質問紙法による集団調査(事前調査)を実施した。調査内容はエイジングクイズ、加齢に対するイメージ、高齢者との交流についての意識、生活への向き合い方などである。
    (2)2009年10月15日、「総合的な学習の時間」における世代間交流活動(老人会の方々との交流会)の参与観察を行った。
    (3)交流会の終了直後、まとめの時間に事前調査とほぼ同内容の事後調査を実施した。
    (4)2009年12月3日、「めざそう!アクティブ・エイジング」を題材とした授業を行った。授業では、交流した高齢者が元気でいきいきしていられる理由を話し合うことでアクティブ・エイジングの実現にはそれまでの生き方が関与していることに気づき、2年次の学習をふりかえることで現在の自分がこれまでの生活の積み重ねによってあることを再認識できるようにした。その後、これからの生活を見通しながらアクティブ・エイジングに向けて今の自分にできることを考えた。
    (5)授業後に行った調査から、エイジング学習の効果を検討した。
    【結果】
    (1)エイジングクイズの正答率を事前調査と事後調査で比較すると、5割以上であった項目の数が3項目から5項目に増加した。また、項目2以外の5項目で事後調査の正答率が事前調査を上回っており、特に項目5では20.0ポイント、項目1では17.2ポイント上昇していた。さらに各生徒の得点を算出して平均値の差の検定を行った結果、事前調査は3.271、事後調査は3.729となり、5%の有意差が認められた。
    (2)加齢に対するイメージは、特に項目3と項目5で事後調査が事前調査よりポジティブな回答が増加した。一方、学習後調査では特に項目1と項目7が事後調査に比してポジティブな回答が増加した。また、各生徒における事前-事後、事後-学習後の変化について分析したところ、8項目のうち6項目で1%の有意差が認められた。
    (3)生徒が自分自身の生活に対してどのように向き合うことが望ましいと考えているかを質問したところ、10項目のうち「人との共生」の1項目でのみ、事後調査と学習後調査が同値となったものの、それ以外の9項目は事前調査より事後調査で、事後調査より学習後調査で平均値が高くなるとともに、事後調査と学習後調査との間で1%の有意差が認められた。
     交流会のみでも生徒は加齢イコール喪失ではないと感じているものの、授業によって、交流した高齢者がアクティブ・シニアとなり得るような年の重ね方をしてきたことを認識し、高齢者の永続的な理解が深まったといえる。アクティブ・エイジングを学習することで、生徒は自分自身もまたエイジングの主体であることを自覚し、現在の生活に対する意識を高め、主体的に向き合う態度を涵養することができたといえる。
     なお、本報告は平成21年度科学研究費補助金基盤研究(C)20530797の一部である。
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