日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第54回大会・2011例会
セッションID: A3-2
会議情報

高等学校「家庭」における食生活を中心とした新しい授業構想とその評価
~食卓写真の比較から私たちの生活を探る~
*佐藤 友紀増澤 康男
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.研究の背景と目的
本研究の目的は,高等学校「家庭」において,私たちの生活全体をとらえて課題を発見し,身近な生活の中で解決を考える新たな授業を構想することである。生活全体をとらえるためには,嘉田らが提唱した「生活環境主義」1)における研究手法から,時間的(過去と現在),空間的(日本と世界各地)な比較が有効であること,写真はこのような比較のための有力な情報を提供できることを踏まえて,参加型学習を取り入れた授業を構想し,その効果を検証した。

2.研究の方法
人間の営みの中で最も基本的な「食」を切り口にし,環境,消費,文化など関連する分野に視点を広げる授業を計画した。写真素材として『地球の食卓』2),『聞き書大阪の食事』3)などを用い,授業構想のテーマを「食生活写真を通して考える私たちの社会」,目的を以下の1~3として全9時限の授業を構想した。

3.授業実践の結果と考察
平成21年5月~9月に大阪府立S高等学校第2学年3クラス(124名)を対象に授業を実施し,事前・事後アンケート(6段階尺度,自由記述,イメージマップ),各授業のアンケート(項目選択・複数回答可,自由記述),グループワークの成果物を分析した。授業の目的ごとに考察する。

目的1 世界と日本,過去と現在の食卓写真を比較することで,社会の変化と現在の私たちの生活課題を認識し,課題に前向きに取り組む態度を育てる。
事前・事後アンケートの比較から「現在の日本の食生活には問題がある」「世界共通の食に関する課題がある」「自分の将来の食生活について心配や不安がある」の3項目で有意な変化がみられた(Wilcoxonの符号付順位和検定p<.05)。イメージマップには「食料危機」「孤食,個食」など現代の食生活課題に関する記述が増加した。また,学習のまとめには「無駄の少ない食事をつくり,便利さの裏にあることを考えたい」「食料不足解消のため,ゴミと無駄を減らす」「食の平等を実現し,地球に住む全員が楽しい食事の時間を過ごしたい。そのために自分にできることを考え,行動に移したい」など身近なことから地球規模の思考まで,各自の今後への意思が記された。

目的2 写真やイラストなどの視覚教材を取り入れた学習の効果を検証する。
写真教材は「興味をひきつけるのに効果的」「イメージや考えが深まった」「新しい知識を得た」という回答が6段階尺度(中央値3.5)で平均5.0以上であった。写真のメッセージ性が生徒を惹きつけ,イラスト描画表現や各自が記録した夕食写真も比較して学ぶための効果的な教材となった。

目的3 グループ活動を中心とした授業による生徒の相互学習効果について検証する。
「グループ内で積極的に意見を言う」「クラス全体にわかりやすく発表する」「家庭科の授業は楽しい」の3項目で有意な変化があった(p<.05)。「家庭科は楽しい」に対する事後アンケートの自由記述内容の半数はグループ学習に関するものであり,友人との相互の意見交換を通して学びを深めている様子がうかがえた。

  4.まとめと今後の課題
高等学校「家庭」において私たちの生活全体をとらえて課題を発見し,身近な生活の中で解決を考える授業を構想し,写真教材や参加型学習を取り入れた授業を実施した。生徒は授業を通じて,食を起点にして生活全体について考え,時間,空間の二方向から比較して学び,そこから発見された課題解決について考えるようになった。今後は,食以外を起点にして生活全体をとらえる授業の提案や,数時限ずつの段階に分けた実践しやすい授業の構想などを行いたい。

1)『環境社会学』嘉田由紀子,岩波書店,2002 2)『地球の食卓 世界24か国の家族のごはん』ピーター・メンツェル+フェイス・ダルージオ,TOTO出版,2006 3)『日本の食生活全集27聞き書き 大阪の食事』農文協,1991

著者関連情報
© 2011 日本家庭科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top