日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第54回大会・2011例会
セッションID: A3-3
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高等学校家庭科への食育プログラム導入に係る実践的検討
—「3・1・2お弁当箱法」による学習効果を視点として—
*多田 江利子長澤 由喜子渡瀬  典子
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抄録

<目的> 平成19年に岩手県高教研家庭部会では、岩手県内の高校生約3000名を対象として生活実態調査を実施した。この調査から約25%の高校生が、1日に清涼飲料水を毎日1リットル以上飲んでいる食生活の実態が明らかになった。食育における重要なねらいの一つは、「自分にとって適量でバランスのよい食事を理解し、日常生活において実践すること」である。前述の結果は、それが高校生の身についていないこと、併せて「何をどれだけ食べたらよいか」に関する適切な知識・理解が生徒に欠落していることを示すものである。 また、「食事の整え方」については、小・中・高等学校と発達段階に合わせて授業が積み重ねられているが、その知識が小学校から大学生まで全く定着していない実態も先行研究から明らかになっている。 これらの実態に鑑みて、本研究ではバランスのよい食事を理解させる効果的な方法として、針谷・足立らによる「3・1・2お弁当箱法」(以下、「お弁当箱法」と記載)に注目した。高等学校家庭科において「お弁当箱法」を用いた先行研究は、小規模クラスでの実践事例や実施回数1~2回程度の報告例であり、教材としての有効性をより高めるための具体的な学習指導の方略を示した研究報告はみられない。そこで、本研究では、高校生が「自分の適量を理解して食事バランスを整える」ことをねらいとした「お弁当箱法」を用いた食教育プログラムの有効性を明らかにすることを目的とした。
<方法>  2010年9~11月、岩手県立M高等学校(全日制・普通理数科)の1年生「家庭基礎」履修者2クラス(各々男子20名、女子19名、計39名)78名を対象に授業実践を試みた。実験群には「お弁当箱法」を中心に、対照群には食事と栄養バランスの授業後に調理実習を行った。授業配当時間は実験群22時間、対照群21時間であった。授業の前後と途中に食事スケッチ及び生徒の自己効力感・食行動・食事満足感についての4件法による自記式質問紙調査を実施した。併せて、実験群には3名の大学生による学習支援を組み込んだ。
<結果> (1)生徒の食行動に関する自己効力感・食行動等の変容から、「お弁当箱法」による授業は、「自分の適量を理解して食事バランスを整える」ことの理解について優れた学習効果を示した。 (2)実習の実施回数は3回以上が望ましいことが示された。 (3)学習効果には教員の指導力の影響が大きいことが明らかとなった。お弁当箱法を熟知している者の指導は、生徒の授業実践初回終了直後の自己効力感を高め、食行動への移行頻度を高めた。 (4)食事構成力についても「お弁当箱法」の実験群の方が形成されていた。しかし、3回の実習を組み込んだ「お弁当箱法」だけでは、1日の食事構成力は形成されなかった。また、食選択については、生徒のこれまでの食歴や生活習慣、嗜好による影響が大きく、「家庭基礎」の学習だけでは全ての生徒に食事構成力を身に付けさせることはできなかった。 (5)「お弁当箱法」を用いた食教育プログラムだけでは生徒の直接的な食事作りにかかわる行動変容には至らなかった。この結果の背景には、生徒の生活経験に基づく「食事を整える」イメージの形成が関わっていることが推察される。
<今後の実践課題> (1)指導時間の確保について 3回以上の実習実施で学習効果が表れたが、「家庭基礎」では一般的に調理実習は3回程度である。日常生活での実践化に至るためには、知識とそれを具現化できる技能の習得が不可欠である。「お弁当箱法」と併せて技能習得のための指導時間確保の問題がある。 (2)教師が指導する生徒数について 「お弁当箱法」には個別対応の具体的な指導が欠かせない。それには人手が必要である。地域のボランティアを授業に入れる方法も考えられるが、指導者の質を確保する上で事前指導が必要となる。その意味では既学習者として上級生の活用も考えられる。

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