抄録
目的 近年,子どもの自尊感情が低いことが指摘されており,学校における自尊感情を育む取り組みの充実が重視されている。本研究では,家庭科における自尊感情向上のための一方法として,幼児とのふれあい体験学習に着目する。ふれあい体験では,中学生が幼児とのかかわりを通して幼児に頼られる経験をすることで,中学生が自己をかけがえのない存在,価値ある存在として受け止めることができ,自尊感情の向上につながるのではないかと考えられる。本研究では,ふれあい体験後に書いた生徒のナラティブを読み取ることで,自尊感情上位群と下位群の生徒のふれあい体験に対する幼児へのかかわり方や感情の変化を明らかにすることを目的とする。
方法 中学校技術・家庭「家庭分野」の「幼児の生活と家族」の位置づけで幼児とのふれあい体験を実施した。埼玉県内の公立中学校第3学年の1クラス38名を対象とし,家庭科教諭の協力のもと事前に質問紙調査を行い,自尊感情上位群(上位25%)と下位群(下位25%)を抽出し,ふれあい体験後のナラティブ記述の比較をおこなった。ふれあい体験は,中学校近隣の私立幼稚園でおこなった。ふれあい体験は全体で2時間半程度,活動の流れは次のとおりである。場面1:園に到着 → 場面2:あいさつ,ペア決め(中学生と5歳児がペアをつくる) → 場面3:園の先生が用意したゲーム → 場面4:中学生が用意してきた食育活動(代表班による食育クイズ・食育劇) → 場面5:ペアの幼児と班で昼食をとる → 場面6:自由遊び(ペアの幼児と自由に遊ぶ) → 場面7:お別れのあいさつ,園を出る。 ふれあい体験終了後,最初の家庭科の授業で生徒にナラティブを書かせ,ナラティブを上記の場面1~場面7の各場面ごとに区切り,カテゴリー分けをして分析をおこなった。
結果 ナラティブは一文ごとにカテゴリー分けをおこない,次のA~Fの大カテゴリーに分けられた。「A 活動の流れ・行動に関する記述」「B 幼児の行動・反応に関する記述」「C 幼児の気持ちに関する記述」「D 中学生自身の気持ちに関する記述」「E ふれあい体験を通じた中学生の気づきに関する記述」「F 園の先生の行動に関する記述」。今回は中学生の自尊感情に焦点をあてたため,これらの中から中学生の気づきや心情の変化に関するD,Eを中心にナラティブを読み取った。ナラティブの下位カテゴリーは次の4つに分けられた。1.「嬉しかった」「楽しかった」など,中学生の肯定的感情に関するもの。2.「不安だった」「悲しかった」「嫌だった」など,中学生の否定的な感情に関するもの。3.「階段の段差は小さく,幼稚園児にものぼりやすいようになっているんだなと思った」など,ふれあい体験を通して得られた気づきに関するもの。4.「(幼児は)明るくてうらやましい」など,気づきから生じた中学生の感情に関するもの。これらの下位カテゴリー数を場面ごとにまとめたところ,自尊感情上位群と下位群では,次のような違いがみられた。
・場面1では,上位群はふれあい体験に対して「楽しみ」などといった肯定的な記述が多いのに対し,下位群は「小さい子があまり好きではない」「嫌だなぁ」などといった否定的な感情が目立った。
・全体的な否定的感情の記述について,上位群では「木のぼりときいて危ないし,(幼児が)落ちたらどうしよう」など,幼児のことに関する記述が中心であったが,下位群では「自分のせいで,みんなに迷わくをかけないようにという心配心」といったように,中学生自身に関する気持ちの記述が中心であった。
・下位群では,ふれあい体験を通して「誰にでもちゃんと悪いところは悪いっていえるところとか正直うらやましかった」など,自分の気持ちを素直に表現できる自由な幼児の行動を見て感じた幼児への羨ましさや,自分もこうしたいといった願望がナラティブの記述に表れているのが特徴的であった。
・場面7では,上位群,下位群のいずれも「また来たい」「嬉しかった」といった肯定的感情が多くみられた。