抄録
目的
平成19年度から特別支援教育が開始されているが、家庭科担当教師はどのように授業を進めていけばよいのかという戸惑いを持ちながら、家庭科授業を実践しているのが現状である。
一方、平成24年7月に中央教育審議会初等中等教育分科会 特別支援教育のあり方に関する特別委員会によって「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」が示された。この報告においては、インクルーシブ教育の推進と「合理的配慮」への留意が強調されている。「合理的配慮」とは「障害のある子どもが、他の子どもと平等に『教育を受ける権利』を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」である。家庭科においても、今後はさらにすべての子どもが共に学び,子どもたちの特別な教育的ニーズに応じて、必要な支援が提供されるインクルーシブ教育によって学習する機会が多くなる。つまり、特別な支援を必要とする子どもたちに関する専門的知識を持ち,その子どもたちに適切な支援が行える家庭科教師の育成が急務となっている。
そこで本研究は、インクルーシブ教育の観点から通常学級で家庭科授業を実践する(これを以下、「インクルーシブ家庭科」という)教師の実践的指導力向上を図る研修プログラムを開発するための課題を明らかにすることを目的とする。
方法
1.2012年6月下旬から7月上旬に、H市小学校家庭科部会初所属の現職家庭科担当教師66名を対象に、家庭科授業での困難状況や「インクルーシブ家庭科」の授業方法を検討する研修会への参加希望や要望などを問う質問紙調査を実施・分析した。有効回収率は56.1%(37名)であった。
2.2012年9月・12月、2012年3月に研修会を開催し、参加者を対象にアンケート調査及びインタビュー調査を実施・分析した。
結果
1.「インクルーシブ家庭科」研修会に関する調査から、家庭科授業を実施する上での困難状況として、実習 学習では「手先が不器用、用具や器具がうまく使えない」(56.7%)、理論学習では「活動に時間がかかる.課題が終わらない」(35.1%)が最も多く挙げられていた。そして、インクルーシブ教育の観点から家庭科授業を考える研修会への参加希望者は、「是非参加したい」「参加したい」をあわせて17名(46.0%)であった。さらに、家庭科の学びを全ての子どもたちに保障するための取り組みとして有効な支援方法には、デジタル教科書などの視聴覚教材の活用、特別支援アシスタント、学生ボランティア、PTAや地域人材との連携などが多く挙げられていた。
2.上記の調査結果から、特別な支援を必要とする子どもたちに関する専門的知識および家庭科における支援方法習得のための研修会と教員同士が情報交換を行える機会を設けることが必要であると考えられた。そこで、研修会の内容として、特別支援教育専門の大学教員による「気になる子どもの理解と支援方法及び評価」についての講演と、インクルーシブ教育の視点からの授業実践報」等で構成し、開催した。教員同士の情報交換の機会として、研修会中に教師間で意見交流できる時間を確保し、さらに研修会後にも意見交換できるメーリングリストを作成し、運用した。
3.「インクルーシブ家庭科」における実践的指導力向上のための現職家庭科担当教師への研修の課題として、次の3点が提起された。1つ目は現職家庭担当教師のインクルーシブ教育への関心喚起の方法の検討、2つ目は核となる教師による「インクルーシブ家庭科」の教材開発や支援の在り方などの波及方法の検討、3つ目は現職家庭科担当教師に研修参加を促す体制づくりであった。