抄録
<目的>
中学2年生を対象として、「身近な消費生活と環境」の全4時間の授業を構成し、生徒に提示する学習問題の内容の違いによる、生徒の反応や問題解決能力育成への影響を検討することを目的とする。題材は「豆腐」とし、豆腐の選択に必要な情報に関心をもち、得られた情報を活用して、目的に応じた豆腐を選ぶことができることを目標とした。学びを通して、情報を収集・整理して、判断する観点が違う生徒同士が出会い、自分の観点を整理し直し、判断する観点を広げながら目的に応じた豆腐を選択し、判断の根拠を明確にして語る生徒の姿を期待して授業づくりを進めることにした。授業は、その時間で考えるための学習課題や学習問題が提示されることによって始まる。本研究は4時間構成の3時限目の学習問題を3タイプ作成して、3通りの授業を実施し、その効果を比較検討する。
<方法>
まず、豆腐を題材にして、「豆腐の選択と購入」に関する全4時間の授業を構想する。見た目や価格のみで表示に目がいかない生徒の実態から、どのような観点で商品を選べばよいかを4時間の授業で考えられるように留意した。3時限目の学習課題は「大切な観点を考えて、目的に応じた豆腐を選ぼう」とし、この学習課題を解決するために3タイプの学習問題を作成する。2学年の3つのクラスでそれぞれの学習問題を提示した3パターの授業を行い、子どもの反応や授業の効果の違いを分析する。授業実践は信州大学教育学部附属松本中学校教諭本木善子氏による。
<結果>
1.次のような全4時間の授業を構想した。1時限は、教師が提示した3種類の豆腐のパッケージを比較して、自分が選択する豆腐を考え、選択する理由を説明する。2時限は、豆腐のパッケージの表示からわかる情報を洗い出し、さまざまな選択の観点(価格、パッケージのデザイン、原材料名、内容量、消費期限、賞味期限、保存方法、製造業者、フードマイレージなど)を考える。3時限は、「大切な観点を考えて、目的に応じた豆腐を選ぼう」という学習課題を提示し、学習問題を「A.家族5人のために冷やっこ用の豆腐を1kgぐらい選ぼう」「B1.家族5人のために、安くて安心安全な冷やっこ用の豆腐を1kgぐらい選ぼう。B2.家族5人のために、環境に配慮した冷やっこ用の豆腐を1kgぐらい選ぼう。」「C1.家族5人のために冷やっこ用の豆腐を1kgぐらい選ぼう。C2.家族3人のために麻婆豆腐用の豆腐600gぐらい選ぼう。」の3種類とした。4時限は家庭実践の評価または調理実習である。 2.生徒から多様な意見が引き出せたのは学習問題Cであった。学習問題Bでは、生徒の反応が一律であり、選ばれた豆腐にもあまり差がみられなかった。学習問題Bは「家族5人」「冷やっこ用の豆腐」「1kgぐらい」は共通にして、B1は「安くて安心安全」、B2は「環境に配慮した」という選択の観点をあらかじめ提示したことが、生徒の多様な意見を引き出すのには障害になってしまった。学習問題C は学習問題Aの「家族5人」「冷やっこ用の豆腐」「1kgぐらい」だけではなく、さらにC2として「家族3人」「麻婆豆腐用の豆腐」「600gぐらい」という異なる条件を提示したことにより、生徒間だけではなく、個人の中でも目的による食品選択の差異を感じられるようになった生徒が多い。3つの授業は対象となる生徒は異なるものの、学習問題Cが最も多様な意見が活発に出され、問題解決能力の育成につながると判断できる。多様な選択の観点を生徒自らが見つけ出し、自ら学び、主体的に判断し、よりよく問題を解決できる能力の育成につながっていくと思われる。 3.学習問題として生徒たちに問いかけられたものは,その授業の中での主発問である。学習問題を追求することによって、学習課題の本質的な内容に迫るものでなければならないが、問題によって子どもたちの反応が拡散したり、停止したり、画一的になることが明らかになった。学習問題は、目標へと生徒自ら近づくように仕向けるための大切な道標であり、慎重に取り組まなければならない。