抄録
[研究目的]
グローバル化が進展する中、世界の国や環境が異なる人々やその文化を理解して、共に生活していくためには、日本や地域の伝統や文化についての理解を深め、尊重する態度を身に付けることが重要である。中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」(2008)においては、家庭科の関連事項として、「衣食住にわたって伝統的な生活文化に親しみ、その継承と発展を図る観点から、その学習活動の充実が求められる」と明記された。そこで本研究は、家庭科教育における日本の伝統的な「生活文化」に関する教育内容・教育方法について検討し、小・中・高校の授業を創造し、実践し、検証して授業提案を行っていくことを目的とする。すでに、家庭科における「生活文化」に関する先行文献や、戦後の小・中・高等学校における学習指導要領や解説、教科書等の記述を検討し、生活文化の定義を明らかにするとともに、全国の教育学部の附属小・中・高等学校の教員対象に生活文化に関連する授業実践調査を実施し、具体的な授業実践を試みている。本報では、お茶や浴衣に関する授業実践を中心に報告を行う。
[研究方法]
お茶に関する授業実践は、中学校1校を対象に行った(2014年9月)。ミニ浴衣に関する授業実践は、高等学校2校、短大1校、大学1校において実施した(2013年12月~2014年9月)。
[結果及び考察]
1.お茶に関する授業実践(中学1年生対象)
生活時間の変化、食生活の合理化などにより、家族そろってお茶を飲む習慣が減り、日常でお茶を味わう機会も減っている。授業実践前の実態調査では、「お茶を好き」と答えた生徒が84%で、家でよく飲む飲み物は無糖のお茶が一番多く、2、3位の水、牛乳を大きく上回っていた。しかし、急須でお茶を入れることができる生徒は44.6%で、特に男子の割合は24.3%と低い。家で緑茶を飲む生徒は68.9%であったが、急須でお茶を入れる家庭は、冬でも49%であった。また、夏は全員が冷たいお茶を飲むと答え、冬でも冷たいお茶を飲む生徒が、29.4%を占めていた。授業は、宿泊行事で7月にお茶摘み体験をした後に1時間行った。普段飲んでいるお茶の種類を発表しあった後、お茶の種類や製法、入れ方を確認した。その後、実際に急須を使って、煎茶とほうじ茶を入れ、飲み比べを行った。授業実践後の感想では、お茶の種類によって色、味、香り、入れ方などが異なることに対する気づきが多く認められた。生徒のお茶や授業に対する興味・関心は高く、身近な日本の食文化を考える機会として、今後も実践を積み重ねていくことが大切であると思われるが、小学校の授業との継続性、家庭との連携等が課題としてあげられる。
2.ミニ浴衣に関する授業実践(高校生、短大生、大学生対象)
これは、縮小版の浴衣を作り、ペットボトルに着せ付ける授業である。目的を和服(浴衣)の構成、たたみ方、着装を知り、和装についての理解を深め着てみたいという意欲を高めることとし、約10時間を当てた。手ぬぐいの幅を1/4に切り、それを反物の並幅に見立てて作成した。生徒・学生の実態として、(1)85%が和服(浴衣を含む)は好きであり、(2)これまでに89%が着たことがあり、その中で61%が七五三、盆踊り等で3回以上着たことがあり、(3)39%の学生が作ったことがあった(附属高校で製作した学生が短大生には多くいたことと授業で製作した大学生がいたため)。実習後は(1)92%が和服の構成がわかった、(2)85%が浴衣(ミニ)の着付けの仕方がわかった、(3)85%が和服の興味も深まった、という回答であった。難しかったが楽しかったという記述が多く、本物の浴衣も作ってみたい、すごく複雑な着物のイメージが一気に身近なものに感じることができたとの声もあった。手ぬぐいを利用したことで、和の布の文化やその柄行に触れることもできた。今後の課題は、大人数や男子に対応した題材や授業の工夫等である。