抄録
目的
2010年の都道府県別生命表において、長野県は平均寿命が男女とも1位となった。かつて長野県は脳血管疾患による死亡率が人口10万人あたり250人を超えており、脳卒中による死亡率は全国1位となる等、健康問題を抱える県であった。健康問題の原因のひとつに地理的条件がもたらす気候風土に由来する食習慣があり過剰な塩分摂取が深く関与していた。現状を前に生活改善に取り組んだのが、1945年に長野県へ赴任した医師・若月俊一が中心となり、呼びかけに応じた診療所の医師、市町村や保健所の保健師・栄養士、食生活改善推進員、保健補助員等であった。具体的な取り組みは、調理実習や食事の塩分濃度の測定を指導する「減塩運動」、冬季の室内温度の低さから起こる脳卒中対策としての「一部屋温室運動」等がある。
長野県の取り組みにみる生活課題を発見し生活改善を目指す実践を家庭科の目的に照らして重ねあわせ考え、現行の家庭科における食生活に関する教育内容を「食塩摂取」「減塩」に焦点をあて再検討を通して、これからの家庭科について示唆を得ることを目的とする。
方法
長野県が長寿県になるまでの実践、および減塩に関する文献研究を行った。文献研究をふまえ、中学校家庭科教科書にも掲載されている調理実習(スパゲッティミートソース)に着目し、「長野県式減塩レシピ」とCookpadで紹介されているレシピをもとにスパゲッティミートソースを試作し、両者の比較・分析を行った。その結果をもとに、家庭科における食生活に関する教育内容について検討を行った。
結果
1.塩分摂取をめぐる現状と減塩の必要性
厚生労働省「平成26年国民健康・栄養調査結果の概要」(2015年12月9日)の発表によると、2014年における成人1日あたりの塩分平均摂取量は、男性10.9グラム、女性9.2グラムである。一方、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書では、18歳以上の男性は1日あたり8.0グラム未満、18歳以上の女性は1日あたり7.0グラム未満の目標値が定められている。また、日本高血圧学会減塩委員会では高血圧予防のために1日あたり6.0グラム未満の制限を勧めている。WHOが示す基準は、厚生労働省が示す基準よりさらに低く、大人1日あたり5.0グラム未満の摂取基準を示している。実際に摂取している量と各機関が示す基準量には大きな差があり、減塩に対する意識の改善と実践が必要であり生活と教育の課題といえる。
2.長野県式減塩レシピとCookpadで紹介されているスパゲッティミートソースの試作(2人前)と比較・分析
1)長野県式減塩レシピは7種類の野菜を使用し、総野菜重量は270グラムであった。一方、Cookpadレシピは4種類の野菜を使用し、総野菜重量は325グラムであった。長野県式減塩レシピはCookpadレシピに比べ50グラム少ないものの、使用している野菜の種類が多い。Cookpadレシピの野菜の内訳をみると玉ねぎが200グラムであった。
2)使用されている調味料に着目すると、長野県式減塩レシピは4種類の調味料を使用し(総量76.5グラム)、塩分量は2.37グラムであるのに対し、Cookpadは5種類の調味料を使用し(総量115.15グラム)、塩分量は9.002グラムであった。
3.中学校家庭科の調理実習(スパゲッティミートソース)の記載と教育内容の再検討の必要性
長野県式減塩レシピおよびCookpadレシピによるスパゲッティミートソースの試作と比較・分析から、スパゲッティミートソースに関する教育内容について検討の必要性があることが示唆され、教育内容の再構成が課題といえる。