日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: A3-5
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第59回大会:口頭発表
高校におけるアップサイクルを活用した消費者市民教育の授業実践
*葭内 ありさ
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抄録

はじめに 本研究は高校家庭科においてエシカル・ファッションを題材に消費者教育を行い、外部連携や教科横断的試みによりアップサイクルを体験・発信することを通じて消費者市民的な視点の育成を試みたものである。  アップサイクルとは、不要になった物や素材をリサイクル(再循環)する際に、デザインなどの力によって元の物よりも価値や有用性を高めるリサイクルのことである。アップサイクルはエシカル・ファッションの要素の一つであり、実際に「エシカル商品」とされるファッションや生活雑貨の領域では、アップサイクルを手法としたものが多く見られる。  本実践は、2011年度より継続するエシカル・ファッションを用いた消費者教育の一貫であり、2014年度までの実践は、「文部科学省消費者教育推進のための調査研究授業」に採択され家庭科教育学会において発表済みである(葭内、2014、岡山大学/葭内、2015、鳴門教育大学)。2015年度の本実践は、科学研究費奨励研究の助成により行った。     実践では、高校2年生「家庭総合」でのエシカルテーマを「コーヒーとアップサイクル」とした。最初に春から秋まで、伝統工芸の体験や、サスティナブルコーヒーマイスターによる特別授業などを含んだエシカル・ファッションを題材とした授業を進め、エシカル消費への生徒の理解を深めた。その後、コーヒーの麻袋を用いた人気のアップサイクルブランド「KISACCO」と連携してアップサイクルを体験し、さらにスーパーグローバルハイスクール(SGH)指定科目の「国際協力とジェンダー」「経済発展と環境」など複数の「総合」との教科横断的な授業や、消費者庁、エシカル企業と連携することで、学習を深め、対外的な発信に展開させた。  「KISSACO」との連携ではデザイナーの岡本由梨氏と連携し、オリジナルデザインのアップサイクルのクラッチバックを作成した。これは、高校生の家の退蔵衣料と、通常は使用後廃棄されるコーヒーの麻袋を素材に作成したバックである。生徒は幼稚園の時に着ていた服などをアップサイクルした。完成したバックはSGHカリキュラムの一貫として訪問した台湾研修にて、「服と環境」や「途上国の教育支援」をテーマとした発表の一部として、本校提携校の台北市立第一女子高級中学の女子高校生と、本校の生徒とをモデルにエシカル・ファッションショーにて紹介した。さらに、消費者庁「倫理的消費調査委員会」関連事業であるシンポジウム「エシカル・ラボ」では、本校高校生が若者からのエシカル・メッセージを授業の様子を交えながら発信した。  学習の振り返りとして、アップサイクルショップ「pass the baton」を経営する企業、株式会社スマイルズ代表取締役の遠山正道氏による特別授業を行った。   実践は、生徒の自主的な活動につながり、授業終了後も、エシカル・ファションを用いた研究やコンテストへの応募、エシカル・ファッションを題材としたゲームアプリ作成、チャリティー販売など、エシカル消費を発信しようとする行動が相次いだ。昨年の日経ストックリーグ総合優勝に続き、本年度は、中高webコンテストでの経済産業大臣賞・プラチナ賞受賞などの成果も見られた。年度末のSGH報告会でも、生徒による同級生や下級生へ向けた発信が行われ、消費者市民的な視点が育まれ、広がりをみせる様子が伺われた。

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