抄録
【背景・目的】
日本の食文化の特徴のひとつに魚食文化がある。地域で獲れる魚を季節ごとに調理・加工の工夫をして食べてきた伝統があるが、肉の消費機会が増え、サーモン等脂ののった骨がない切り身や輸入魚を消費する傾向が強まっている。
本授業開発および実践の目的は、1) 日本人の伝統的な食文化のひとつとして地域の魚を自ら調理しておいしく食べるための知識・技術の習得、2) 魚食を通して地域の食文化の特徴を知り、地域への愛着や誇りに思う意識を育てること、3) 地域内全中学校実施に対する地域の期待と課題抽出、以上3つである。
本授業は、調理実習で敬遠されがちな丸のままの魚としてキビナゴを用いた点、地域とのつながりを授業に組み込むために地域で活動する食生活改善推進員に学校ボランティアとして参加いただいた点、魚食の要件として欠かせない鮮度のよい魚の調達に地元の漁業協同組合の協力をあおいだ点等で、地域の食文化に焦点をあてた地域に開かれた授業展開の試みを含んでいる。
【方法】
■対象クラス: 種子島の中学2年生5クラス計147名。内1クラスは授業研究のための公開授業とした。
■指導計画: 3学期(1月末~2月)に家庭科調理実習「魚を調理しよう」1時間(50分)の中で実施した。同授業は、前年度までのサーモンのムニエルに代えて、地元で水揚げされた生のキビナゴを手開きして蒲焼きにするメニューとした。実習1週間前の事前学習の時間に、地域でよく獲れる魚の種類、キビナゴの知識、魚料理の種類、キビナゴ手開きの動画確認、調理の手順確認等を行った。実習当日は、実習の注意点と流れの確認、キビナゴの手開き実演、各台に分かれて生徒1名につきキビナゴ4尾の手開き個別指導、フライパンで蒲焼き作り、試食、片づけ、評価シート記入、2-3名の発表を実施した。
■分析対象:生徒への事前事後アンケート調査、家庭へのアンケート調査、漁協担当者へのインタビュー、参加した学校ボランティアへのアンケート調査、授業研究参加者へのアンケート調査、種子島の他地域の保護者・学校関係者へのアンケート調査を実施した。
■授業開発研究としての準備・協力:学校長への授業実施の説明および生徒・保護者へのアンケート調査実施の許諾依頼、家庭科教員と協力した指導案作成、食生活改善推進員の学校ボランティア参加調整、鮮度のよいキビナゴを確実に当日手配するための漁協との協力連携調整を行った。
【結果】
・キビナゴの手開き実演と個別指導は、食生活改善推進員2名と教員1名の計3名で行った2クラスと、教員1名のみで行った3クラスがあった。
・調理実習に参加した生徒のキビナゴの手開きに対する自己評価は、よくできた(28.6%)、できた(47.6%)、あまりよくできなかった(19.7%)、まったくできなかった(2%)であった。まったくできなかったと答えた生徒は教員1名のみで手開き指導をしたクラスであった。
・キビナゴの蒲焼きを家族に作ってあげたい/ぜひ作ってあげたいと答えた生徒は計70.1%であった。あまり作りたくない/作りたくないと答えた計18.5%の生徒の多くは、手開きで手がくさくなって嫌だったと答えた。
・手開き指導を行った学校ボランティア6名からは、もう少し時間が欲しかったという要望が多くでた。
・漁協関係者、学校ボランティアの本授業に対する評価は非常に高く、他地域の保護者・学校関係者においても本授業で取り上げた内容に対する関心の高さを確認できた。
・授業観察を行った家庭科・理科担当教員5名は、同様の授業実施が自校で可能である/難しいができる可能性はあると評価した。
【まとめと今後の課題】
・サーモンのムニエルをキビナゴ手開きと蒲焼き作りに代えて行った調理実習は、漁協や学校ボランティアの協力により他校でも実現可能性の高い授業となった。
・今後種子島全島の中学校(3校)の実施を目指す中で、授業時間の拡大に合わせた授業構成、地域との連携の仕組み作りなど課題抽出ができた。