抄録
【背景・目的】
家庭科の調理実習において、教員は適切な調理技能を子どもに伝え、習得させることが求められる。そのため、教員は十分な調理技能を身につけていることに加え、子どもに伝えるための効果的な演示方法や指導方法を習得していることが必要である。そこで本研究では、教職課程必修科目の調理実習の授業を履修する大学生が調理を教えること、特に「切ること」を教えることに対してどのような意識を抱いているかを把握するとともに、確かな調理技能の習得と指導方法を習得するための授業開発を行った。すでに「切ること」を教える苦手意識については報告済みである※1)。本報告では、指導方法の効果的な習得を目指した調理実習の授業構成を検討し、切り方を教える実演演習(以下、実演演習)を組み込んだ授業を実践したので報告する。
※1)五十嵐清子,福留奈美,露久保美夏(2016)、教職課程の調理実習における大学生の意識調査—「切ること」を教える苦手意識について—、文化学園大学紀要、47、pp153-163
【方法】
1.導入した活動内容
(1)示範中の口頭説明に沿った「5つの切り方ポイント」を白板に掲示(2)平成27年度12回の実習の調理工程内において、毎回2名が教える教員役(実践者)、2名が生徒役(評価者)となり実演演習を行った(3)ICレコーダーにより、実演演習中の発話を録音(4)教え方を評価するための6項目(安全面の配慮、適切な手順、大きさ・形状・均一さ、ポイントの説明、話し方や立ち居振る舞い、その他改善点)に対する自己評価・他者評価を自由記述および評点方式によって評価
2.収集したデータと分析方法の検討
(1)調理実習の履修前後(4月、7月)にアンケート及びインタビュー調査を行い、調理実習と実演演習を行った効果について報告※1)(2)自己・他者評価シート及び実演時の音声データを分析することで、提示した切り方ポイントをふまえた教え方の評価が可能であることを確認(3)実施者の手元と視線をとらえたビデオ映像を撮影した。音声情報と合わせてみることで、立居振舞いやアイコンタクトに関する評価が可能であることを確認
3.授業内への実演演習導入における、時間的負担、材料・設備・機器類のモノ的負担、指導教員および助手の心理的負担の検討
【結果】
1.調理実習および実演演習の効果
履修前後(4月、7月)に行ったアンケート調査およびインタビュー調査から、切り方を教えることに対する苦手意識が軽減し、示範を行う教員の教え方に対する意識の高まりや教える上で自分に足りないスキルに対する認識が高まったという結果が得られた※1)。
2.実演演習実施の結果
履修生全員は、教員の示範中に切り方の5つのポイントを確認し、切り方だけでなくその教え方を習得しようとする姿勢が観察された。実演演習の音声データと自己・他者評価シートを合わせて分析することで、切り方ポイントの多くを認識し、意識して教えることができていたことが確認できた。実演演習は平均3分8秒で終了しており、調理実習を時間内に終了する上での時間的弊害は認められなかった。切り方ポイントの掲示に際し、教員は内容設定する準備時間が、助手は白板に記載する時間が必要となったが、実習当日の時間的な負担および心理的負担感は教員、助手共になかった。ICレコーダーの音声記録については調理実習終了後に実践した学生へデータを渡して振り返りの評価に活用するように促したが活用がどこまでできていたかはわからない。
【まとめと今後の課題】
実演演習では、学生全員が初回から切り方ポイントをふまえた教え方で実践ができていた。本演習の導入は、教職課程の調理実習において「教え方」を習得させる効果的な授業の第一歩として有効であると考えられた。今後、自己・他者評価内容、音声テキスト、映像記録等を合わせた詳細な分析により、教え方のスキル向上に関係する要因の分析および調理実習に実演演習を取り入れる効果の検証をしていく。