抄録
【目的】平成元年度版学習指導要領(1989)以降、小・中・高の全学校段階で男女必修の教科となった。現在、平成元年度版学習指導要領期に高等学校家庭科を学んだ世代が家族形成期にある。子どもの頃の家事経験は、成人後の家事にどのような影響を与え得るだろうか。本研究の目的は、子どもの頃のお手伝いと若年層の家事実態との関連を質的研究から明らかにすることにある。
【方法】お茶の水女子大学JELSが2014年3月~10月に行ったJELS卒業生インタビュー調査データを使用する。お茶の水女子大学JELSは、2003年から関東・東北の2地域において青少年期から成人期への移行についての追跡的研究を継続している。本データは、2003-4年調査の参加者(当時高校3年生)に郵送にて調査依頼し、協力を得られた55名(年齢27~29歳、男性26名、女性29名)を対象として、ライフヒストリーを主とする半構造化インタビューを行った(約90分)。調査者は、JELSメンバー(7名)が分担し(対象者1名につき原則2名)、調査地は、対象者の最寄り駅近くのコーヒーショップ等とした。 本報告では、「子ども頃のお手伝い」と「高校卒業後の家事」についての語りがみられた46名(男性21名/女性25名、関東出身者25名/東北出身者21名)のトランスクリプトを分析対象とする。
【結果と考察】
1.子どもの頃のお手伝い
お手伝い内容として、「風呂掃除」「食事の準備」「料理の手伝い」「お弁当づくり」「親がいない時に自分の食事を作る」「皿洗い」「米とぎ」「洗濯物を干す」「洗濯物をたたむ」「洗濯物を取り込む」「水着を洗う」「カーテン閉め」「玄関の電気をつける」「玄関掃除」「雨戸閉め」「自分の部屋の掃除」「農作業」「洗車」「祭りの前に掃除機かけ」「ごみ出し」「おばあちゃんの肩もみ」等が語られた。性別よりも出身地域の影響が大きく、関東出身者は男女共に「ほとんど手伝わなかった」と語る者が多く、手伝いをした/しなかった双方の理由として「きょうだい(男女、出生順)の平等」が語られるケースがあった。東北出身者は、男女共に「手伝いをしていた」との語りが多く、「あまりしなかった」と語る場合にも、一人一人の語りの分量が多く、例示する内容が関東出身者よりも幅広かった。「農作業」「洗車」「祭りの前に掃除機かけ」「おばあちゃんの肩もみ」等の地域性が反映された例も挙げられ、三世代で家業(農業漁業)や家事が伝達される語りもみられた。
2. 子どもの頃のお手伝いと高校卒業後の家事実態の関連
対象者の語りを「子どもの頃のお手伝い」及び「高校卒業後の家事」を「していた(いる)」群と「していなかった(いない)」群にカテゴリー化し、過去と現在の家事頻度の関連を検討した。その結果、昔「していた」*今「している」ケースが最も多く(24件)、昔「しなかった」*今「していない」ケースが二番目に多かった(12件)。従って「子どもの頃のお手伝い」経験は、家族形成期にある成人の家事実態を予測する主要な要因の一つであると考えられる。昔「していなかった」*今「している」ケースは12件あり、進学や就職を機会とする「一人暮らし経験」や家族と暮らす場合に「家族全員が職業を持っていること」が家事を行う理由として語られた。昔「していた」*今「していない」群は4件と少なく、仕事の多忙さと共に体調不良や外食・中食利用、結婚が理由として語られた。
家庭科教育の効果として子どもの家事参加が進むことは、多くの先行研究が指摘する(日本家庭科教育学会編2004等)。家庭科教育において家事技能を身に付けジェンダーについて学ぶことが、若年層のワーク・ライフ・バランスを促進させると考えられる。
注)本研究は、平成24~26年度科学研究費補助金基盤研究(B)課題番号24330233「青少年期から成人期への移行についての追跡的研究(第4次)―就業と家族形成」(研究代表者:耳塚寛明)の助成を受けて実施した(報告者は、研究分担者として参加した)。