日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: 5-3
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2017年例会
理系女子高校生のキャリアパス形成の構造
荒井 きよみ
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抄録

男女共同参画社会の実現には、高校生に対する意識啓発は不可欠である。これまで、スーパーサイエンスハイスクール(以下、SSH)指定校の1年生を対象に、「家庭基礎」の生活設計学習で100年のライフデザインから高校生が描く「婚姻」「子ども」「働き方」「離職年齢」について検討した。その結果、「婚姻」「子ども」「働き方」に関してSSHクラスと非SSHクラスによる有意な差は認められなかったが、ジェンダー差は有意に認められた。男子はDEWKS(共働きで子供あり)、SEWKS(方働きで子供あり)の順で希望が多かったのに対し、女子の第1希望はDEWKSと男子と同じ結果であった。ただし第2になると、SSH女子(以下SG群)はDINKS(共働きで子供なし)、非SSH女子(以下NG群)はDEWKSであったが第3にDINKSがあげられた点が、男子と異なる傾向となった。「離職年齢」については、SSHクラスにジェダー差は有意に認められなかったが、非SSHクラスにおいては有意なジェンダー差が認められた。非SSH男子(以下NB群)は60歳台で離職を希望する者が半数以上を占めたのに対し、NG群は60歳台が4割弱、次いで出産時に2割弱が離職を希望していた。SSHクラスでは男女ともに60歳台、次いで70歳台を希望していた。したがって、ライフデザインにおいてジェンダーバイアスは未だ存在する一方で、SG群は他群に比べ、子供を持たずに仕事をする、あるいはNG群に比べ70歳まで働く希望が多い傾向にあった。

以上の高校生のライフデザインの傾向を鑑み、ジェンダーバイアスによるステレオタイプからの転換を図ることを課題とする。したがって本研究の目的は高校生を対象として、とりわけ理系女子にキャリアパスを意識させ、将来の展望を拓かせる実践的スキルや具体的要因を明らかにすることとする。そのため以下の2つの仮説に基づき検討を加える。
①女子高校生の将来の選択として、理系進学や研究者志望はコミュニケーション能力や課題発見能力を高める
②アクティブ・ラーニングやパフォーマンス評価の導入は、高校生のキャリアパス設計の実践的なスキルを高める

そこで、「勤労観・職業観の育成」「コミュニケーション能力、課題発見・解決能力、論理的思考力の育成」「キャリアに関して身につけるべき知識や能力の明確化」(文部科学省2012)を目指し、キャリアパス設計に必要な実践的なスキルを「「働くこと」の意義を理解し、自ら主体的に判断した計画を実行し、修正しながら実現していく力」と定義した。まず2017年5月に「課題発見力」「課題解決力」「プレゼンテーション力」「自然科学系研究者志望」など12項目からなる質問紙調査を実施し、仮説1を検証した。クラス×ジェンダーの二元配置分散分析の結果、1年生の「自然科学系研究者志望」についてはSSHクラスが非SSHクラスより、男子が女子より有意に高かった(F(1,362)=34.15***,F(1,362)=5.28*)。

次に21世紀型能力(国立教育政策研究所)を援用し、キャリアパス設計に必要な実践的スキルの尺度として作成した質問紙調査を実施し、4つの群で比較検討する。「社会の一員として、何か社会のために役立ちたい」「地域への参画が、新たな人と人のつながりを構築するきっかけとなる」「SNSを利用している」「近隣の人にあいさつをするなどの交流がある」「育児期間は人生の立派なキャリアである」「育児期間は社会復帰に備える期間となる」など10項目について4件法による質問紙を作成し、仮説2を検証する。

今後の課題として、得られた成果を基にして、TALIS(OECD国際環境指導調査)から実践的なスキルを育成するために必要な教育環境について検討を加える。なお、本研究は日本学術振興会による科学研究費補助金(課題番号:17H00045)を受けたものである。

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