日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: 5-2
会議情報

2017年例会
グローバル時代における多文化共生の視点を導入した家庭科教育
中学校技術・家庭科家庭分野における食文化の授業開発
星野 洋美*上野 顕子*伊藤 葉子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

研究目的 日本における外国人労働者数は過去最高の108万人(厚労省2016)となっており、それに伴い公立小中学校に在籍する外国人児童生徒も増えている。このような状況下、外国につながりのある児童生徒と日本の文化のもとで育ってきた児童生徒が相互理解をはかることや、多文化共生意識を育むことはとても重要である。この状況を踏まえ昨年度実施した多文化共生が進むカナダでの中学校家庭科の授業の参与観察及び教員への半構造的面接の結果、ある1つの食材、例えばお茶やパンを題材に、それを複数の文化間で比較し、類似や相違を確認し、さらにその違いを生み出すものや食文化が持つ意味を考えさせるといったアプローチが、多様性受容を促すこと等が明らかになった。そこで、この結果をもとに、日本の中学校の家庭科において多文化共生の視点を取り入れた教材を開発し、授業実践を通してその効果と課題を明らかにした。
方法 1)授業の設計:昨年実施のカナダでの調査結果を基に、日本の家庭科教育において様々なお茶から異なる食文化を理解することを題材に、学習指導案や教材を作成し授業を実施した。
2)調査の設計:授業の前後調査の内容、分析方法の検討を行った。内容は、文化背景、文化への興味、相違と相似、多文化学習の関心等で、事後のみ授業の感想等の記述回答を設定した。
3)授業と質問調査の実施:期間は2017年4月~9月、対象はC・S・A地域の中学1・2年生、合計245名とした。授業のねらいは「外国につながりのある子供たちと日本文化のもとで育ってきた子供たちが、ともに日本や他の国の生活文化を理解し、多文化共生を図ること」である。
4)調査の分析: SPSSによるデータ分析及び記述のKJ法分析をおこなった。
結果と考察 ・生活文化の違いを受け入れること:肯定的な回答は事前79.2%→事後86.9%で7.7%伸びた。C校は83.7%→93.5%と非常に多い。C校は首都圏にあり多様な生活スタイルを受入れる傾向が高いと推察できる。⇒前後の有意差が認められた(X2=7.965,df=2,p<0.5)。
・他の国の食文化を試すこと:肯定的回答は事前と事後で約13%の増加が見られた。これまでメディア等から間接的に捉えることが多かった様々な食文化について、今回の授業では直接的に五感で学ぶことができたからと考えられる。「今までこんな授業を受けたことがなかった」というワークシートの記述もあった。⇒前後の有意差が認められた(X2=14.842,df=2,p<0.5)。
・日本のお茶と他の国のお茶の「相違・相似・起源」の説明ができるか:「相違」の説明は、全体で事前12.2%→事後38.8%と26.6%伸びた。C校13.1%、S校42.3%、A校33.1%の伸び率となった。「共通」の説明は、全体で29%伸び、S校は44.7%も伸びた。S校では他教科の教員が参加し生徒の関心が高まったと考えられる。また相違点が多いと予想した生徒が多いことが振り返り時の発言「意外と共通点が多い」からわかった。「起源」は全体で前4.1%→後24.5%、C校1.1%→8.7%、S校3.8%→30.8%、A校6.3%→34.6%で、起源は歴史や地理も関わり説明は難しいと捉えた生徒が多い。⇒3点の有意差が認められた(相違X2=47.652,df=2,p<0.5)(相似X2=55.988,df=2,p<0.5)(起源X2=42.499,df=2,p<0.5)。
・家庭科で他国の生活文化について学ぶこと:全体の肯定的回答は事前で74.7%と高かったが、事後で11.4%の伸びとなり、前後の有意差が認められた(X2=8.313,df=2,p<0.5)。
本研究において開発した多文化共生の視点を導入した家庭科の授業は、多文化共生意識を育むのに有効であることがわかった。また、授業時間数の不十分さという課題や、諸文化の学習は他教科とも関わることも判明した。今後は家庭科を基点に教科横断的授業についても検討したい。

著者関連情報
© 2017 日本家庭科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top