抄録
1.研究の背景
小・中・高等学校の家庭科、技術・家庭科(家庭分野)は、学習指導要領の改訂ごとに授業時数が削減されている。特に、衣生活領域の製作においては、昭和50年代までブラウスなどの日常着の製作がなされていたが、現在では「布を用いた物の製作」として簡単な衣服や小物の製作になっている。このような状況において、生徒の製作への意識や技術の低下を危惧する報告が見られる一方で、簡単な衣服や小物の製作には生涯教育へのきっかけとしての役割があり、教育的価値があるとする先行研究も見られる。そこで、生徒は簡単な衣服や小物の製作にどのように取り組んできたのか、その状況を把握したところ、「頑張りが認められず、製作が嫌いになった」と回答した生徒が多く見られ、生徒は意欲や製作態度を評価してもらいたいと考えていた。一方、教員は製作活動を通して技術を身に付けてほしいと考えており、製作では技能を重視していることがわかった。このことから、評価に対する生徒と教員の考え方に相違があるのではないかと考えた。先行研究には、「布を用いた物の製作」の評価に関する報告は見られたものの、生徒と教員の考え方の相違に関する報告は見られなかった。
そこで、本研究は、評価に対する生徒と教員の考え方の相違について明らかにし、評価の在り方を検討することを目的とする。
2.調査方法
(1)調査対象・調査時期
調査対象者は、小・中学校時において小物の製作を行い、その評価を受けた札幌市内の中学生522名(有効回答率98.1%)と、北海道内の中学校及び高等学校教員72名(有効回答率98.6%)である。調査時期は平成28年10~12月である。
(2)方法・内容
評価に関する27項目を設定し、生徒に対しては「各項目について、どの程度評価してほしいか」、教員に対しては「各項目について、どの程度評価するか」を尋ね、評価してほしくない(評価しない)、あまり評価してほしくない(あまり評価しない)、やや評価してほしい(やや評価する)、評価してほしい(評価する)をそれぞれ1点、2点、3点、4点とし、自分の考えに当てはまるものを選択してもらった。また「布を用いた物の製作」の現状を把握するため、生徒に対してはこれまでに受けた評価について、教員に対しては現在行っている評価について尋ね、記述内容の分析を行った。
3.結果
因子分析の結果、生徒については2因子の構造が想定され、第1因子は〈技能〉、第2因子は〈関心・意欲・態度〉に関する項目であった。教員については4因子の構造が想定され、第1因子は〈関心・意欲・態度〉、第2因子は〈技能(縫い方)〉、第3因子は〈技能(裁断・しるしつけ)〉、第4因子は〈創意工夫〉に関する項目であった。両者の比較から、教員は評価の観点に沿って評価を行っているのに対し、生徒は評価を漠然と捉えていると考えられた。また、因子の平均得点を算出したところ、生徒は〈関心・意欲・態度〉を重視してほしいと考え、教員は〈技能〉を重視して評価している結果となり、生徒と教員の相違が明らかになった。
4.「布を用いた物の製作」における評価の在り方
本研究から、評価において重視すべき事項について次の4点を導き出した。①生徒の実態を把握し、実態に即した評価規準を具体的に設定する。②評価規準を明確に生徒に伝える。③製作態度を軽視することなく、工夫をこらして評価する。④生徒の上達度を必ず生徒にフィードバックする。
「布を用いた物の製作」の評価とは、生徒の成長のための評価であると考える。生徒に評価規準を示すことで、生徒は目標を立てることができ、何に向かって努力すべきかが明確になる。製作を終え、その目標を達成できた時に、生徒は自分自身で成長を実感することができるはずである。そして、その成長を教員が認識し、生徒の努力に見合う評価を行わなければ、生徒の成長には繋がらないと考える。教員は、生徒一人一人の上達をしっかり見取り、生徒自身が自分の製作に満足することができるような評価をする必要があるのではないかと考える。