日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: A3-4
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第60回大会:口頭発表
小学校から高等学校までの被服製作学習の実態と基礎的知識の定着の現状
大塚 吏恵*池﨑 喜美惠*鳴海 多恵子
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抄録
【目的】
 
高等学校家庭科は、1994年男女共同参画社会を目指すなかで、男女4単位必修となったが、2003年に必修科目として「家庭基礎」2単位科目が登場し、2009年においては「家庭基礎」2単位、「家庭総合」4単位、「生活デザイン」4単位からの選択必修となった。履修単位の減少にかかわる問題点を明らかにした先行研究(野中他、2012)では、家庭科必修科目の履修単位の減少のために授業で削減した分野は、「衣生活」61.4%が最も高く、さらに履修単位の減少による具体的な授業への影響は、「実習時間の減少」81.5%が最も高かったとある。
 しかしながら、家庭科で習得する知識や技術は、「実践的・体験的な学習を通して」身に付けるべきとされ、衣生活に関わる実習や製作学習は、衣服への関心を高め基礎的・基本的な知識及び技能を身に付けることに加えて、製作する物を考え工夫し計画する力の育成、ものを大切にする心や成就感などをはぐくむというさまざまな教育的効果が期待できるとある(文科省、2008)。そこで本研究では、大学生の小学校・中学校・高等学校家庭科の被服製作学習の実態および基礎的知識の定着の現状を分析することを目的とした。
【方法】
 
小学校から高等学校までの製作学習の実態と基礎的知識の定着の現状を調査するために、大学で被服製作演習等の授業を受講する前の大学1年生を対象に授業時に質問紙調査を行った。調査の時期は2016年10月~12月である。配布数460名で有効回答数は455名であった(有効回答率98.9%)。調査内容は、1.小・中・高で製作した作品、2.高等学校で使用した教科書、3.布を使ったものづくりに対する意識、家庭での実践、ものづくりの家庭環境 、4.被服製作の基礎的知識などである。
【結果と考察】
1. 小学校家庭科で製作学習をしてきた者は約97%で、作品はフェルトの小物・エプロン・ななめナップザックなどであった。中学校家庭科では約66%の者が製作しており、幼児のおもちゃ・トートバッグなどが多かった。高等学校では授業で製作してきた者は56%で、作品は巾着袋・ペンケースなどであった。被服製作の実習時間が十分に取れない中、生活に役立つものとして小物の作品を製作していることが分かった。また、高等学校の授業以外では約50%の者が、文化祭や体育祭の衣装・小物を独自で製作していた。高校時全体でみると約76%の者が何らかの製作をしていることが分かった。
2. 高等学校家庭科での使用教科書については、「家庭基礎」約45%、「家庭総合」約36%、「生活デザイン」約1%、「その他」18%で、「家庭基礎」の使用率が極端に高いわけではなかった。
3. 布を使ったものづくりに対する学生の意識については、「ものづくりが好き」「ものづくりは得意」「家でものづくりをする」という学生の基礎的知識の平均得点が高く、知識の定着に影響していることが分かった。しかしながら、「家の人がものづくりをする」ことは、知識の定着との正の相関関係はみられなかった。
4. 基礎的知識の定着を得点で比較すると、80点満点中、製作経験のある者の平均が48.8点で、高校時に製作経験が全くなかった者の平均42.8点より6点高かった。また、基礎的知識を項目別に比較すると、得点が高かったものが「玉結び」「ミシンの返し縫い」であった。「まち針の打ち方」「かがり縫い」「しつけの位置」の得点は高くなかった。
 家庭科の免許を取得する予定の学生は知識の平均が51.9点で、家庭科の免許以外又は取得する予定のない学生の平均45.1点に比べ高く、基礎的知識の定着は家庭科に対する意識の影響があると思われる。
 小学校から高等学校までに、被服製作の経験をしている学生は多かったが、基礎的知識の定着は平均47.2点と高くなかった。布を使ったものづくりや家庭科に対する意識が定着に影響を与えていると考えられ、意識を高める学びとは何か検討していく必要があると思われる。また、技能の定着についても研究を進めているため、今後分析を行う予定である。
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© 2017 日本家庭科教育学会
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