日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: A4-6
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第60回大会:口頭発表
高等学校家庭科の主体的な学びのあり方を求めて
吉野 淳子*石井 智恵美
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抄録

目 的:次期学習指導要領では,高等学校家庭科は「家庭基礎」2単位と「家庭総合」4単位が設置される予定である.「家庭基礎」の履修が今後増加することは想像がつくが,少ない授業時間でどの位の力が身に付くのかと危惧している.平成11年度埼玉県高等学校家庭科教育研究会が行った「生徒の意識調査」を先行研究として,平成28年度意識調査を基に,「家庭基礎」と「家庭総合」の履修よる成果と課題について考察し,今後の家庭科教育の充実に役立てる.
方 法:平成11年度と28年度調査の比較,「家庭基礎」と「家庭総合を履修した生徒の比較.将来どのように授業が活きてくるか等を高校生と大学生の比較を「そう思う」という回答数を基に検証した.
結果等:家庭科観については,家庭科の授業は「生き方について考えさせられた」等の質問項目では,平成11年度高校生が28年度よりも高い割合であった.平成28年度高校生を「家庭基礎」と「家庭総合」の履修者別に比較すると,全て「家庭総合」の履修者の方が高い割合であった.学習領域は変わることなく授業時間のみ削減された「家庭基礎」に対して,「家庭総合」4単位では生徒はゆっくり時間をかけて学習し,色々な内容を吸収する時間があったのではないかと思われる.また,生徒にとって被服実習や調理実習は別として,ワークシートを行うことやグループ討議なども受動的な授業と受け止めているのではないかと思われる.学習内容については,平成11年度の生徒達が特に学ぶ必要があると感じている内容に男女差があり,「家事・育児・介護は女性の仕事」という性別役割分担意識が強く感じられると考察されていた.平成28年度高校生だけでなく大学生も,女子の方が多くの項目について学ぶ意義を感じていた.平成11年度の調査では男女必修に対応した学習内容の変更や教材の工夫改善を行ったので,逆に生徒はそれに対する自分の好みがはっきり出たのではないかと思う.このことは,平成11年度調査時には,教員と生徒の両者に男女必修の意識の転換が不十分であったことがうかがえる.平成28年度調査の高校生,大学生は「家庭基礎」の履修者も増え,少ない授業時間数の中での学習の密度が希薄になったため,学習内容の好き嫌いを特に意識することが少なくなったと思われる.高校生でほとんどの学習内容において意義があると答えたのは、「家庭総合」の履修者の方が多い.「家庭総合」では学習内容と時間数が多いので,より充実した学習ができたためと考えられる.大学生の結果については現在の生活状況によるところが大きい.「一人暮らし」の大学生は「家族と同居」している大学生に比べ,全ての学習内容について意義があると思っている.「一人暮らし」をすることで生活の自立をする上での家庭科の意義や必要性を再認識していると考える.家庭科教育による今後の変化については,「女性の社会進出が進む」では平成11年度高校生は28.4%と28年度より10%以上多くそう思っている.これは社会の変化,女性の社会進出が以前より向上したことも結果に影響していると考える.他の質問項目では平成28年度の高校生の方がそう思うと答えている.他の質問項目は自分の意識の変化であるのであり,希望的見方ではあるが今後さらに,家庭や社会の意識も変わりより男女の相互理解が深まると考える.平成28年度「家庭基礎」と「家庭総合」を比べてみると,「家庭総合」の履修者は肯定する回答が多かった.
 今回の調査結果では生徒の家庭科観,学習内容の捉え方,意識や考えの変化について,履修科目によって学習の密度,考えの深まりに差が出ることが明らかになった.男女が協力して主体的に家庭や地域の生活を創造する資質・能力の育成を,時間数が少ないなかで,効果的に行う必要がある.本研究の家庭科観の中の家庭科は「興味・関心がある」,「生徒が活動する機会が多い」の回答が少なかったことが,キーワードではないかと思う.家庭科の教員はこのことを工夫しているが,より生徒に響く授業の開発が必要であると思われる.

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