日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: A4-7
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第60回大会:口頭発表
家庭科教員養成におけるアクティブラーニング
伊深 祥子
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抄録

1.アクティブ・ラーニングの課題
 アクティブ・ラーニングとは、教員による一方向的な講義形式とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称とされている。アクティブ・ラーニングは、日本では大学教育改革から始まった。さらに平成28年改訂の学習指導要領では、初等中等教育でのアクティブ・ラーニングを進めることが明記された。学習指導要領において内容だけではなく方法が示されたのは初めてのことである。初等中等教育では、アクティブ・ラーニングは「学力の3要素」(主体性・多様性・協働性、思考力・判断力・表現力、知識・技能)を育成するための方法として、資質・能力の形成と結びつけられて論じられている。
 アクティブ・ラーニングの課題の一つは、どのような資質・能力を育成するのか、資質・能力を育成することにはどんな意味があるのかを問うことなくアクテイブ・ラーニングに取り組むことである。課題の二つは、子どもたちの学びを深めるという本来の意味が問われることなく、形だけのアクティヴ・ラーニングが実施されてしまうのではないかが危惧されることである。
 本論では、G大学小学校家庭科教育法(2016年後期)で実施したアクティブラーニング型の講義の内容を事例報告する。本論で取り上げる事例は、アクティブ・ラーニングとして実施したものではない。家庭科教育法を学生と深く学ぶために実施した教育方法である。
2.家庭科教育法のガイダンス (アクティブ・ラーニング型講義)
①家庭科教育法のガイダンスの第1の目標は、家庭科の特徴を捉えることである。まず、2人組で家庭科の授業で印象に残っていることを交流する。つぎに4人組を作って2人組でのペアの内容を他の二人に伝達する。4人組の内容の中から一つを選び、キーワードを発表してグループで取り上げた家庭科の内容を全体で交流する。
②ガイダンスの第2の目標は、家庭科の授業での教師の役割を学ぶことである。①でキーワードを発表して家庭科の特徴をまとめた後、「この講義の中で教師は何をしていたか、教師の行動、発言、思い、感情などを記述しなさい」という課題で授業を振りかえる。
3.「教師は何をしていたか」
【学生の記述内容の6つ分類】
①授業の進行 資料の配布・グループ分け・空気の入れ替え
②授業構想 家庭科の意義を理解させたい。
③授業方法 生徒と教師でみんなでつくる授業。
④交流 深めるために問いかけクラスで共有していた。
⑤共感 思い出を共感していた。
⑥感情 みんなが楽しそうに発表していて嬉しい。
【学生の記述の具体例】・・・・一部抜粋
*・・・・・今やるべきことを黒板に書いているのも、緩やかに進んでいるように感じながらもみんなが同じ方向を向いて授業を進めることができる一つの要因であるように感じる。発表中は発表者を見ながらも周囲を気にかけたり、総評とは言わずとも終わりに一言そえることで授業のテンポが保たれていた。・・・・全体を通して、先生がいなくても授業は進み、かつ先生がいなければ授業は進まないニュートラルな不思議な感じでした。ですが、同時に教師はこうでなければいけないんだな、と感じる距離感でした。
6.学びを深めるために
 アクティブ・ラーニング型講義の中で、「聴く」ことを重視することの必要性を感じている。学習者が受け身で聞くのではなく、学習者どうしで聴き合う・学習者が教材と向き合い教材から聴き取る・教師が学修者の声をを聴く・学修者が自分自身の声を聴くという複数の「聴く」ことが必要である。複数の「聴く」が成立するためには、学習者が表現する場面・学習者が教材と向き合う時間・全体で共有し各自の学びへ戻すことがアクティブ・ラーニングで必要であろう。そのことがどのような資質・能力を育成することになるかを探ることは課題である。確固とした育てたい資質・能力が初めにあるのではないのではないだろか。

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