日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: B1-4
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第60回大会:口頭発表
高等学校家庭科における教師の社会関係資本が授業にもたらす効果
プロを招いての味噌作り授業の考察から
遠藤 大輝*堀内 かおる
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抄録

【問題の所在と目的】
 急速なグローバル化の進展に伴い、人々の流動性が増し、従来のコミュニティにおけるつながりの希薄化が危惧されている。学校もまた、地域における役割が問われており、学校が地域コミュニティ形成の基盤となるよう機能しなければならないとの指摘もある。
 さらに、次期学習指導要領改定に向けた論点の一つとして、「社会に開かれた教育課程」が掲げられており、学校外部の資源を積極的に取り入れた実践を行うことや、教育活動の場を積極的に社会に開いていくことが重要とされている。このことからも、学校や教師が社会的なつながりを教育活動に取り入れていくことは必須である。加えて、これからの教職に求められる専門性の一つとして、教師が同僚や社会とつながり、自らのネットワークを教育活動に生かしていくことがあげられ、社会との接点をもつことへの関心が高まっている。
このような社会背景の中、教育学において社会関係資本が着目されている。社会関係資本とは「社会的ネットワークを通じてアクセス可能なそれらの資源のこと」と定義されており、行為者の社会的なつながりが、諸活動にどう寄与し得るかを表す概念である。
 従来、高等学校家庭科では、地域の物的・人的資源を取り入れた実践が多く行われている。しかしながら、これらの実践の多くは実施された授業のみに焦点が当てられた研究が多く、どのようにそれらの資源にアクセスしたのかという授業実施までのプロセスが取り上げられることは少ない。学校外部の資源活用を、より実現可能なものにしていくためには、社会関係資本の概念を授業研究に援用し、授業実施までのプロセスを含めた分析を行うことが重要と考える。
 そこで、本研究では、家庭科教師の社会関係資本が授業にもたらす効果を明らかにすることを目的とし、教師の社会関係資本の一事例として地域の味噌作り職人をゲスト・ティーチャーとして招いた授業を分析・考察する。
【研究方法】
 1.教師へのインタビュー調査、2.授業の参与観察をもとに、授業後の生徒の振り返り用紙の記述分析を行う。
【結果および考察】
 分析の結果、教師は生徒の保護者というネットワークを通じて、ゲスト・ティーチャーにアクセスしていた。学校外部の資源獲得のために新たなネットワークを構築したのではなく、既存のネットワークからアクセスしていたことが特徴である。また、ゲスト・ティーチャーを自分にはない役割を果たすものとして捉え、授業の「マンネリ化脱却」や、「授業の特別感」、「外部の方と接する緊張感」、「どんな授業になるのだろうという期待感」を意図して授業に取り入れていた。さらに、前時までの学習内容をさらに深く理解させることも意識した授業であった。教師は自らが授業で果たす役割を十分に把握した上で、自分では果たせない役割を、ゲスト・ティーチャーを取り入れることにより改善させていたことが示唆された。
 実施された授業では、ゲスト・ティーチャーは教師にとっての授業パートナーであることが示唆された。また、授業における発話の分析と授業後の振り返り用紙の記述分析から、ゲスト・ティーチャーが教師と生徒をつなぐ媒介となることや、教師や生徒と応答関係を築き、対話をする中で学習内容を深めていたことが明らかになった。さらに、教師によるゲスト・ティーチャーへの働きかけが、ゲスト・ティーチャーを機能させていたことからも、教師はゲスト・ティーチャーに授業を一任するのではなく、教師はゲスト・ティーチャーと生徒をつなぐファシリテーターとしての役割を果たしつつ授業を進行していたことが示唆された。
 ゲスト・ティーチャーを取り入れることにより、実施する授業のみならず、授業づくりの段階から影響を及ぼしていたことは、今後の授業開発にとっても良い事例となるだろう。
 しかしながら、本研究では、取り上げた授業が一事例に留まり、教師の社会関係資本が授業にもたらす効果を明らかにするには十分とは言えないため、今後、本研究で得られた示唆をもとに、社会関係資本を生かした授業研究を蓄積していきたい。

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© 2017 日本家庭科教育学会
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