日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: B1-5
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第60回大会:口頭発表
大学生の食生活実態と家庭科の学び
石丸 千代*速水 多佳子
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抄録

【研究目的】
 平成25年12月に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録され、日本人が育んできた食文化が世界に認められた。長年世界一を誇る平均寿命の長さも、衛生状態や医療の発達と並び、栄養バランスのとれた和食中心の食事によるところが大きいと考えられる。豊かな食文化と正しい栄養摂取により、私たちは健康で文化的な食生活を作り上げてきた。ところが、昨今の日本では、社会環境が変化する中で家族の食生活にゆがみが生じ始めていると言われている。
 これまで、小中高を通した家庭科における学びが食育の中心的な役割を担ってきた。しかし、家庭科の授業時間数は減少しており、その中で様々な生活事象を学習対象として扱わなければならず、限られた時数の中での指導を余儀なくされている現状がある。そこで、食生活の実態とこれまでの家庭科教育の学びとの関連を明らかにすることから、今後のより効果的な授業開発を目指して、その手がかりを得ることを本研究の目的とした。
【研究方法】
 平成28年10月にN大学の学生166人(男性88人女性78人)を対象にアンケート調査を実施した。調査内容は、大学生の属性、食生活に対する意識、食生活に対する知識・技能、食生活の実態、家庭科とのかかわりについてである。
【結果及び考察】
 「自分の食生活を豊かにしていきたいと思うか」に対して「とてもそう思う」「そう思う」「どちらともいえない」「あまりそう思わない」「思わない」の5項目を挙げ尋ねたところ、「とてもそう思う」「そう思う」と肯定的に回答したのは87.9%となった。しかし、「あまりそう思わない」と答えた人も少数見られた。「食事に関することで家族や友だちと話すことがありますか」という問いに対して、「栄養」「マナー」「旬」「作り方」「その他」の5項目について複数回答可で回答を求めたところ、97.6%から回答があり、食事に関する話題がよくされていることがわかった。その内容については、「作り方」71.7%「栄養」45.2%「マナー」41.0%「旬」38.0%の人が選択しており、「作り方」について関心が高いことがわかった。
 食生活に対する知識・技能として「炊飯の仕方」「だしの取り方」「魚のおろし方」について質問した。「できる」と回答したのは、「炊飯の仕方」97.0%、「だしの取り方」53.6%、「魚のおろし方」25.9%であった。「できるようになりたい」と回答した人は、「炊飯の仕方」3.0%、「だしの取り方」42.8%、「魚のおろし方」68.7%であり、現在はできないと回答した人も料理に対する前向きな姿勢は見られた。少数ではあるが、「できなくてよい」と答えた人もいた。
 日常食として15品目の献立名を挙げ、「手づくり」「市販品」「外食」「あまり食べない」の中から現在はどのように食しているか質問した。「野菜炒め」や「卵焼き」、「みそ汁」といった手軽に調理できるものは手づくりの食品を食べているが、「天ぷら」や「ポテトコロッケ」などの手間のかかる料理は市販品や外食の機会が多いことがわかった。また、「継承したい料理」について質問したところ、和食は次世代に伝えたいと考える人が多かった。しかし、「紅白なます」のような普段あまり食べたことがないと回答した献立については、伝承意識が低いことがわかった。
 全体の54.2%の人が食生活について気にかかることや心配があると答え、自炊をはじめたものの、栄養バランスについての知識や調理の技能に自信がなく不安を抱えている人が多いことがわかった。また、現在身に付けている食生活の知識や技能は、「家庭科と家庭の両方」で学んだ人が50.0%、「家庭のみ」は28.9%「家庭科のみ」は12.7%であった。家庭科で学んだことを家庭で生かすことで、知識や技能の習得効果が最も高いことがわかった。

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