日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: B2-6
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第60回大会:口頭発表
生活設計に必要な金銭資源についての授業の試み
高校生の進路選択に焦点をあてて
仲田 郁子*久保 桂子*中山 節子
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抄録

1.目的
 これまで筆者らは、高校生に対して必要と考えられる生活設計教育の指導内容について、検討を重ねてきた。その中で、人生のリスクマネジメントを考えることが効果的であること、女子高校生の生活設計への態度は、進路についての意識や希望するライフコースの影響を受けることなどを明らかにしてきた。また、生活設計に必要な資金準備の方法については、種類が多く理解しにくいこと、ローンには消極的であることも明らかになった。
 そこで、生活設計における資金準備の方法の学習は、具体的な状況を設定して学習することにより効果が表れると考え、高校生にとって最も身近な「大学進学」を資金準備の必要なライフイベントとして取り上げた。授業は「生活設計と金銭資源」というテーマとし、授業の目的は①高校卒業時の進路選択について、金銭資源との関係を軸にして、設定された選択肢の長所・短所を検討すること、②自分の希望するライフコースのために必要な金銭資源とその準備について考えることの2点とした。本研究ではその効果を検証し、今後の課題を検討することを目的とする。特に、生活設計における資金準備方法を見据えた意思決定の過程を重視した授業実践を試みた。
2.方法
 授業は、本校普通科2年生6クラス(242名)で実施した。科目は家庭基礎、実施時期は2017年2月である。
 「生涯の生活設計」の単元の指導計画は、(1)人生におけるリスクと生活資源の活用、(2)生活資源としての社会保障制度、(3)ライフコース別の家計シミュレーションの順で進め、その後本授業として(4)生活設計と金銭資源を実施した。単元のまとめとして、(5)男女共同参画社会について考える授業を実施した。本単元は、「生涯の生活設計」に加えて、「青年期の自立と家族・家庭」、「共生社会と福祉」、「消費生活と生涯を見通した経済の計画」を合わせて構成・立案した。
本授業の流れは以下の通りである。①学歴別生涯賃金、奨学金や教育ローンの実態、非正規雇用など若者の就労の実態などの資料の解説を行い、検討材料を提示する。②「大学に進学したいが、経済的な余裕がなく難しい」という状況を設定し、3つの選択肢を提示する。それぞれの長所短所を各自が考えた後、グループディスカッションを行う。③各グループの結果発表を聞き、自分の意見をまとめる。授業実践後、生徒の振り返りの記述などから、授業の効果を検討した。
3.結果
 ライフイベントとその資金準備については、高校生はこれまでも興味を持って取り組んでいたが、今回のテーマは高校生には身近な内容で、積極的に取り組むことができた。生徒の振り返りには「進学は考えていなかったが、ローンなどを組んで頑張って進学したい」と借り入れを積極的に受け止める意見や、「大学進学には、学力以外にも壁が存在することが分かった」と生活設計には金銭資源の検討が必要であること、さらに、「奨学金があることは良いが、社会に出たときに借金があるところからスタートする」など、リスクへの理解が深まった。また話し合いの中からは「給付型奨学金の充実を望む」「特待生制度についてもっと知りたい」という発展的意見も出され、グループ協議の効果が感じられた。このように今回の授業では目標とした「進路選択の場面において、それぞれの選択肢の長所・短所を検討すること」については、効果があったと考えられる。
 進路とそのための資金準備の方法、さらに様々な選択肢の長所・短所を検討する授業は、生活設計のライフデザイン、生活資源、リスクマネジメントという3つの側面について、具体的に関連づけられることが確認できた。なお、ローンについて、一般論としては消極的に捉える生徒も、進学に必要であれば利用することも選択肢の一つであると受け止めていた。今回の授業では、奨学金や教育ローンの返済金の滞納が近年社会問題となっていることも取り上げたが、借り入れ・返済についての理解を深めるために、新卒の収入と返済金の比較など、具体例を示す教材の開発が課題である。

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© 2017 日本家庭科教育学会
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