日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: B4-1
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第60回大会:口頭発表
中学校家庭科教員のICT活用指導力の実態と課題
アンケート調査から
中西 佐知子*堀内 かおる
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抄録

【目的】中学校技術・家庭科(家庭分野)は,限られた授業時数の中で,「実践的・体験的な学習活動を通して知識や技術を習得し,自分の生活を見つめなおし課題をもって生活をよりよくしようとする能力と態度を育てる」ために,効率的・効果的な授業づくりが求められる。その一助としてICT活用が考えられるが,家庭科教員のICT活用についてその実態は明らかにされていない。生活の中にICTが欠かせない存在となっていく時代に,家庭科の授業においても教員のみならず,生徒がICTを活用して学ぶ意義は大きい。そこで本研究は,中学校家庭科教員のICTに関する実態を調査し,今後の家庭科教員の力量形成に向けた教科別教員の研修の在り方,教員間の情報共有の方法について検討する手立てとしての課題提起を目的とする。
【方法】2016年12月から2017年1月にかけて,神奈川県公立中学校412校の技術・家庭科(家庭分野)担当教員を対象に,郵送による質問紙調査を実施した。質問項目は,1.文部科学省実施調査「教員のICT活用指導力」(A教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力,B授業中にICTを活用して指導する能力,C生徒のICT活用を指導する能力,D情報モラルなどを指導する能力,E校務にICTを活用する能力),2.家庭科の授業におけるICT活用,3.家庭科担当教員としてICT活用に関する意識・考え,4.属性とした。
【結果】1.平成27年度文部科学省の調査結果から,神奈川県平均はすべての項目で全国平均を下回っている中で,家庭科教員は「教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する」「校務への活用」が県平均を上回ったことから,得意であることが明らかになった。具体的には授業に必要なプリントや資料の作成,評価を充実させるためにコンピュータやデジタルカメラなどを活用して生徒の作品・学習状況・成績などを管理・集計である。一方,「授業中にICTを活用して指導をする」「生徒のICT活用を指導する」は,県平均からも大きく下回ったことから,課題が明らかになった。世代別平均値では,特に50代が大きく下回った。2.授業におけるICTの活用頻度は,「たまに活用する」が最も多く約58%,「毎回,ほぼ毎回」が約10%,それに対し「ほとんどしない」,「全くしない」が約32%で,その理由は,ICT環境の不備によるもの,自身のスキルや自信のなさによるものが多かった。活用している教員の使用教室(以下,複数回答)は,普通教室が約77%,被服室は約60%と多く,学習形態は,一斉学習が100%,グループ学習や個別学習は約30%であった。活用場面は,「導入」と「展開」が約86%に対し,「まとめ」は約40%であった。活用の主体は,「教員」が100%に対し,「生徒」が約44%であった。活用目的で多かったのは,「教員の説明資料の提示」が約92%,「課題の提示」「動機づけ」が約55%であった。活用ツールとして多かったのは,「コンピュータ」が約90%,「デジタルカメラ」が約63%,「プロジェクタ」「実物投影機」が約60%であった。使ってみたい機材として「タブレット」が多く挙げられた。3.ICT活用について,「積極的に活用している」が約50%,「義務感」が約20%を含め,活用しているかいないに関わらず,約85%が「必要」と考えていた。一方,「必要を感じない」の内訳は60代,50代が多かった。
【今後の課題】家庭科教員のICT活用指導力は,特に資料や教材作成において高く,授業中の活用のための環境整備や教員のスキルの向上が今後の課題であることが明らかになった。また,アクティブラーニングの視点からは,グループ学習や個別学習での活用,「まとめ」の段階で生徒による活用が求められる。ICT活用が必要と考えていながら自身の指導力不足から,活用をためらっている実態も多く,家庭科の授業を想定した具体的な活用のための研修が必要である。

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