抄録
【目的】
授業を計画、実践、評価し、改善する力は教師の専門的力量として、長年の経験の中で熟達化されていくものである。また、教師は自らの授業実践の探究だけでなく、学習指導要領の改訂による教育内容の変化等の影響を受け、教師の経験年数に関わらず、生徒に付けたい力や教材内容の見直しを図っている。中学校や高等学校の場合は、家庭科の教師は各学校に一人しか配置されていないことも多く、授業改善を目指す際に、学校内で同一教科を担当する教師に相談したり、指摘を受けて改善したりする環境は整っていない現状がある。そのため、勤務校に限らず所属を超えた授業研究グループやネットワークの構築が目指されている。
秋田ら(2008)は、教師研究アプローチによる授業研究は、ある教師によってその授業研究がどのように捉えられたかが研究的問いとなってくると指摘している。そこで本研究では、家庭科関連の教師および研究者が協働で授業研究を行うことにより、授業者がどのような視点を獲得、あるいは変化したかを事例的に検討することとした。
【方法】
授業者は教員歴20年の私立中学校教諭、授業研究を行った期間は、2016年11月~2017年2月であった。授業研究グループは、授業者と家庭科教育関連の大学教員7名(うち2名は現場経験者)の計8名で構成された。検討した授業は、中学校1年生の消費生活の内容全6時間で、うち5時間目を研究授業としてグループメンバーが参観し、授業後に協議を行った。授業は2017年2月14日に2クラス実践し、授業後に協議会を行った。分析対象は、授業研究会、授業、協議会の逐語録、授業者の記録であった。授業研究の枠組として、ルイス(2006)のレッスンスタディサイクルをもとに、授業研究の各段階における授業研究グループの活動および授業者の省察を分析した。
【結果および考察】
1.授業研究のプロセス
授業計画では、授業者による題材選定と指導案が提示され、その内容について授業研究グループで討議を行う一連のやりとりが、研究会等の場で6回にわたり行われた。授業者は、最初の段階では、授業内で商品購入の意思決定を生徒にどう体験させるか中心的課題であったが、メンバーとの討議や教材研究によって、授業の導入からまとめまでの生徒の思考に注目するようになった。その後、探究型の授業となるよう、買う側と売る側の両方の立場を体験させ、グループでのPOP作成の活動を取り入れること、身近な消費行動と適時性からチョコレートを教材に取り上げることになった。また、最終的に、より現実的な意思決定を促すために、チョコレートの種類や数等の詳細を検討した。研究会では生徒の実態や本題材で育てたい生活者像についても共通理解を深め、討議を重ねていった。
2.参観による授業改善
授業実践では、1クラス目の授業を参観したメンバーの意見をもとに、2クラス目の授業では、授業目標の強調、生徒のグループワークの指示内容、教材の配布方法の変更等を行った。いくつかの変更により、生徒が活動の意図を理解しやすくなり、授業の流れが改善された。なお、活動への取り組みでは1クラス目の方が生徒の発言は活発であったとの指摘もあり、授業改善の分析にはクラスの特徴の影響も加味する必要があった。授業後の協議会では、参加者から生徒の活動や発話に対する詳細な指摘があった。その情報をもとにワークシートの内容や教材の示し方の改善等、更なる課題が見出された。
3.授業者の思考の変容と授業者が捉えた授業研究の効果
授業者は普段、自身の授業を協働して計画する機会が無く、授業計画の段階で滞ったり、教師主体で授業をまとめることも少なくなかった。今回の授業研究を通して、授業者は二つの視点を獲得した。一つは、他者からの意見を参考にし、授業の見方を少し変えることで授業目標に近づけていけること、もう一つは、授業内の生徒の思考から授業全体を捉え直す視点であった。
? なお、本研究はJSPS科研費15H03505の助成を受けた。