抄録
【目的】
家庭科における技能は,2016年12月に中央教育審議会の答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」では,学習した知識・技能を実生活で活用することが求められており,そのためには基礎的な知識・技能を確実に身に付けることが必要である。小学校家庭科において習得される手縫いの技能は,玉結びや玉どめ,なみ縫い,ボタン付けなど,日常生活を営む上で最小限必要なものである。現状を見ると,手縫いを苦手とする学生が増えている。そこで本研究では,小学校の教員をめざす大学生の基礎縫いの技能の程度について実態を調査し,それらの技能を習得させるために必要な指導内容の工夫について研究を進めた。
【方法】
(1)小・中・高等学校において製作実習した作品について,大学生を対象としてアンケート調査を行った(2016年4月,12名)。
(2)小学校で習得する技能のうち,玉結び,玉どめ,なみ縫い,名前の縫い取りについて実技調査を行った。大学生150名(男子83名,女子67名)を対象として,各自にフエルト(10cm×10cm),縫い針,手縫い糸,糸切りばさみ,針さしを配布し,2016年10月に実施した。実技調査の評価項目として,玉結び・玉どめの個数とできばえ評価(3段階),なみ縫いの長さ(cm)と縫い目の大きさ,なみ縫いの表裏の均一性(3段階)について評価した。
【結果】
(1)大学生が小・中・高等学校においてそれぞれ実習した被服製作品について調査したところ,小学校では,エプロン,クッションカバー,リュックサック,ティッシュボックスカバー,フエルトのマスコット,雑巾等,家庭科の教科書に記載されている生活に役立つ物が製作されていた。中学校では,エプロン,シューズ入れ,ショートパンツ,ティッシュボックスカバー,ランチョンマット,トートバッグ等,小学校で製作したものと同じ製作品を含んでいることがわかった。高等学校では,トートバッグ,エプロン,刺しゅうをしたエプロン,平織コースター,巾着,バッグ,浴衣等,指導する教員によって幅広い製作内容であることがわかった。小・中・高等学校を通して同じ教材であるエプロンを製作した学生が存在し,技能の積み上げとしての問題点がみられた。
(2) 実技調査時に参考として,小学校家庭科教科書中の手縫いの方法が掲載されている箇所を配布した。練習なしで実技を行ったところ,3分間の制限時間内に,玉結び・玉どめの出来上がり個数は0個~11個まで差が広がった。針に糸を通すところから計時したため,最後まで針に糸が通らなかった学生が150名中9名であった。平均すると出来上がり個数は3.8個となり,針と糸に慣れていない学生が多いことがわかった。玉結びのできばえ評価では,A評価16.0%,B評価54.0%,C評価30.0%となった。玉どめの評価では,A評価26.0%,B評価58.0%,C評価16.0%であり,玉結びより玉どめの評価が比較的高い評価結果となった。すなわち,学生にとって玉どめより玉結びが不得意である。なみ縫いの評価では,3分以内に縫えた長さは1.1cm~25.6㎝であり,平均16.3㎝となった。4mm以下の縫い目の大きさでなみ縫いができた大学生は73.3%もいたが,表裏が均一でまっすぐ縫えたA評価の大学生は33.3%となり,なみ縫いの縫い目の大きさと美しく縫うことが対応しないという結果になった。
これらの基礎縫いに関する実態調査の結果から,小学校で習得すべき技能の中で特に玉結びとなみ縫いの基本的な技術の習得が大切であることが分かった。これらの技能を確実に身に付けるための教材を考える必要性がある。
最後に,実技調査の集計に協力された福井ともこ氏に感謝する。