抄録
【目的】
家庭科における住生活の学習は、健康で快適な住生活を実践するための能力を養う学習である。特に、社会に出る直前の時期にあたる生徒も多い学校段階である高等学校での住生活学習は、住生活能力の育成を図るための重要な役割を担う。今日、住生活が多様化している実態があることから、住居に関する様々な情報を集めて分析して、自分にとって望ましい住生活を考える思考力や創造力を育てる必要がある。これは、21世紀型能力、すなわち生きる力といえよう。
一方で、住生活学習が低迷していることも事実であり、教員にとって苦手意識を感じやすい領域であるとの報告も少なくない。そこで、住生活領域が苦手な教員でも使用しやすく、授業時間数の少ない中で膨大な情報を扱うことが可能で、低価格で特別教室の使用を必要としない学習方法である“知識構成型ジグソー法”に着目した。ここでは、様々な情報や知識を統合し、よりよい解を発見・構成する総合的な課題、住生活学習における本質ともいえるテーマとして「自分の将来の住生活を考える」ことを課題とした。
ジグソー学習では、現代日本の住居に関する現状を踏まえ、①自然との関わり、②人々との関わりという二つの軸を考え、特徴が極端に異なる4つの住居(日本家屋、スマートハウス、超高層マンション、コレクティブハウス)を取り上げることにして、生徒同士で住居に関する思考の深め合いができるような教材の開発を目指した。教材を作成して授業実践を行い、その成果から汎用性のあるジグソー学習の教材開発を行うことを目的とする。
【方法】
本研究では、ジグソー学習に必要となる教材(第1案)の開発を行い、静岡県立K高等学校「家庭基礎」1年生59名を対象に、全5時間(導入1時間+ジグソー学習4時間)のプログラム(2017年1~2月)を実施した。その事前・事後に「あなたはこれからどんな住居に住みたいと思いますか?住みたい住居の特徴をできるだけ多く挙げ、それぞれの理由や根拠を文章で書きましょう。」という問いを設定し、20分間で自由記述式の回答を求めた。ジグソー学習では、A日本家屋、Bスマートハウス、C超高層マンション、DコレクティブハウスそれぞれA3×2枚とワークシートの作成を行った。それぞれの概要、機能、利点・欠点、環境との関わり等、将来の住居を構想する際に必要となる情報に加え、その住居の特徴を把握しやすいよう写真やイラスト、図も多く取り入れた。自由記述から得たテキストデータの分析は、形態素解析ソフトKHcoderを使用しテキストマイニングを行う。
【結果】
(1)授業実践:ジグソー学習においては積極的に取り組む生徒が多くみられた。授業後の感想では、楽しく学べたこと、授業が進むにつれ自分の知識が増え、考えがはっきりとまとまってきたこと、事前に考えた時とは考えが全く異なってきたこと、多くの知識を元に様々な視点から物事を考えることの重要性に気付けたことなど、今回のジグソー学習を受けて、自分の考えの変化を実感したり、住居に関してもっと知識を身に付けていきたいと感じたりしている生徒が多くいることが明らかとなった。
(2)テキストデータ分析:事前と事後の自由記述の比較では、文字数の平均が207文字から344文字へと変化しており、住みたい住居の特徴や根拠をより多く書けるようになっていることがわかる。また、その内容も、自分の理想を抽象的に描いた記述から、現代社会の住居の特徴や様々な住居の特徴を組み合わせる、家族関係と関連させて考える、セキュリティ面に目を向ける等、具体性を持った記述へと変化している。
(3)今回の実践より、4種の住居を扱ったジグソー学習が、自分にとって望ましい将来の住生活像を考える思考力や創造力の育成に効果を発揮することが明らかとなった。しかしながら、ジグソー活動でのプレゼンテーションの差が自由記述に影響を及ぼしてしまう傾向がある点が課題となった。そのため、今後は改良を行ったプログラムと教材を用い再度授業を実施する予定である。