抄録
【目的】近年、住生活上の課題が大きくなっている。例えば、アトピー性皮膚炎やハウスダスト・ダニなどのアレルギー、気管支喘息といった疾患をもつ人が増えている。この原因は明確にはされていないが、原因の一つとして適切に室内環境が整備されていないことが影響していると考えられている。今日、建物の気密性や断熱性能および冷暖房設備が格段に向上した結果、かつては一年間のある限られた時期のみに生存していた室内のダニやカビ類が、一年中住みついてしまうという実態がある。また、近年、東日本大震災や熊本地震、御岳山噴火、広島市土砂災害など甚大な自然災害が発生している。これらに対して、初期段階における対策として、日常的な住環境の整備は非常に有効とされている。さらに、2010年人口動態統計によると、家庭内の事故死は交通事故死の約2倍にのぼる等、住生活上の大きな課題である。このような実態にも関わらず、現在の中学生は部活動や塾等で多忙化しており、自らを取り巻く住環境の整備を保護者にまかせっきりにしている状況が増加していると思われる。そのため、家庭科教育における住生活に関する学習は非常に重要となる。本研究では、現在静岡県内の中学校で実際に行われている住生活領域における授業実践について、授業の目的や方法、教材などを明らかとするとともに、現場で必要とされている教材についても調査する。また、現在の中学生が抱えている住生活上の課題について、教員自身がどのように捉えているのかを明らかにする。これらを通して、中学校家庭科住生活領域における授業実践の実態と課題を明らかにすることを目的とする。
【方法】2017年2月に、静岡県内の全中学校家庭科担当教員(297名)を対象に、郵送法による質問紙調査を実施した。有効回収数は80名(有効回収率26.9%)であった。調査項目は、中学校家庭科住生活領域における子どもに身につけさせたい力、授業実践の学習内容、授業方法、教材・教具、そして、教員が捉える現在の中学生を取り巻く住生活上の課題である。調査で得られたデータの分析には、SPSSソフトとテキストマイニングソフトを用いた。
【結果及び考察】調査の回答者の約16%が家庭科の教員免許のない中学校教員であった。また、家庭科の教員免許をもつ教員の約75%が家政系学部出身であり、半数近くが専攻や卒業研究分野が食物領域であった。次いで多いのが被服領域であり、住居領域を専門とした教員は80名中わずか一名であった。住生活領域の授業で実践している内容と特に力をいれている内容について、尋ねたところ、取り上げている内容としては、「住まいの役割」を9割以上、次いで、「家庭内事故と安全対策」「家族の生活と住み方」「生活行為と住空間」を8割以上と多くの教員が実施していた。これらは中学校学習指導要領で中心的な内容であるが、同様に重視されている「騒音」については実践している教員は半数であった。また、特に力を入れている内容としては、「災害に対する安全対策、防犯対策」「家族の生活と住み方」が多く挙げられており、静岡県では南海トラフ巨大地震の発生が予測されているため、これを危惧する教員が特に力を入れて実践していることがわかる。また、家族関係と住生活領域を結び付けて授業実践を行っている教員も多く認められた。授業方法としては、半数の教員が「グループディスカッションなどの議論」を用いた方法で実践しており、間取り図を使用したり、視聴覚教材を利用したりしてディスカッションを進める教員が多いことが明らかになった。特にDVDやビデオなどの視聴覚教材を活用している教員が半数以上を占めた。また、教員が必要としている教材として、「コンピューターソフト・アプリ」を4割強の教員が挙げており、自由記述でも子どもが簡単にシミュレーションできるソフトや模型、体験グッズなどが挙げられた。ICTの活用を考えている教師が多いことも明らかになった。