日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: P34
会議情報

第60回大会:ポスター発表
家庭科教師の成長に関する研究
教職経験におけるエピファニーに焦点化して
若月 温美*河村 美穂*小清水 貴子*椎谷 千秋*千葉 悦子*滝本 浩世*仲田 郁子*中村 恵美子*松井 洋子*松岡 文子*瀨川 朗
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抄録
<研究目的>
反省的実践家モデルに代表される教師の成長に関する研究は多角的な視点から取り組まれている。なかでもライフヒストリーを用いた教師の成長に関する研究は、研究知見を得るということだけでなく、対象者となる教師自身のリフレクションを促し、併せてこのライフヒストリーを読む個々の教師が共感し、自らもリフレクションすることを期待できる。
本研究グループではこれまで家庭科の調理実習・保育学習・中高一貫カリキュラム等の研究をメンバーの実践に即して行ってきている。その中で教材選択やカリキュラムを開発する際に、個々の教師の生活や学校教育、家庭科教育に対する考え方がそれらに大きな影響を及ぼすということを理解した。
そこで、本研究では、個々のメンバーがライフヒストリーを作成し議論する中で、自らの家庭科教師としての経験を振り返り、さらに複数のライフヒストリーを比較検討することによって家庭科教師が成長するということはどのようなことなのかを明らかにしたいと考えた。その際に、分析的に複数のライフヒストリーを比較検討するために、教師経験にとって大きな意味を持ったと考えられるエピファニーを書きだしてライフヒストリーとの関連を考察することを試みた。
今回分析視点としたエピファニーは、調査対象者が危機に直面し経験する問題的相互作用状況に生ずるものである(Denzin1989)。つまりエピファニーを解釈するということは、個人的トラブルや個人生活の問題が公的な問題とどのように関連しているのかを理解することである。エピファニーに焦点をあて、普遍性と独自性との間や、ある個人の人生における私的なトラブルと公的な問題との間の複雑な相互関連性を歴史的な視点ももって明らかにすることは、家庭科という教科を教える教師が教科の内容や教師経験を通してどのように成長するのかということを明らかにできると考えた。
<研究方法>
本研究はメンバーのうち9名(30代2名、50代5名、60代2名女性)のライフヒストリーを分析対象とする。ライフヒストリーの作成と分析は、ButtとRaymond(1985 )によるオートバイオグラフィーの方法を援用し以下のように行った。
(1)2人1組となってインタビューを互いに行いライフヒストリーを2人で2つ完成させる。
(2)研究会ですべてのライフヒストリーを読み合い解釈しあう。
(3)(2)を受けて、各自、自分のライフヒストリーに追加修正を行う。
(4)教員経験におけるエピファニーを各自が書く。
 エピファニーの抽出基準はエピファニーの4つの形態①主要なもの②累積的なもの③副次的で照射的なもの④再体験的なもの、のいずれかにあてはまることとし、エピファニーを経験した前後の自分の変化を書き出すこととした。
(5)研究会でエピファニーを中心としてライフヒストリーを相互に発表する。
(6)エピファニーとライフヒストリーの関連を考察する。
<結果・考察>
9名の家庭科教師のライフヒストリーはそれぞれ異なる教師経験やこだわり(大切にすること)を示すものであった。個人的な生活経験も多く示されており、教師経験と個人的な生活経験が互いに関連して教育観、指導観、家庭科観を形成していることがわかった。
そのうち教師経験におけるエピファニーとして抽出された内容を比較検討したところ、類型Ⅰ家庭科の教育内容を究める。類型Ⅱ学校組織の一員として教師になる。に大別できることがわかった。類型Ⅰでは①教材に関するこだわり②生徒理解から授業改善を行う営み③研究活動を通した思考の深まりなどがエピファニーとして示された。さらに類型Ⅱでは学校という組織の一教員として学校の教育方針に対する違和感が示され、一方で家庭科の教員としてのあり方について考えるものも示された。どちらの類型も最終的には自らが家庭科教育に対して理解を深めることによって、家庭科という教科の位置づけや内容を明らかにするということにつながっていた。
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© 2017 日本家庭科教育学会
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