抄録
<研究目的>
小学校学習指導要領解説家庭編では、基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け、日常生活で工夫し活用する能力を育てることを主なねらいとしている。
しかし、小学校家庭科の食生活学習は、栄養や調理に関して、理想的なあるべき姿を前提としているという問題状況がある。家庭の経済状況や養育状況等が厳しい児童にとっては、実生活と結びつきにくく、生きて働く力を十分に育成するまでには至っていないという課題である。
そこで、児童に必要な力として、家庭環境によらず、実生活で知識や技能を活用可能とする能力として「応用可能力」を位置づけ、その育成を図ることとした。
本研究では、「応用可能力」を、応用力という完成された力の前段階に位置づけ、基礎的・基本的な知識・技能を試行錯誤しながら組み合わせて獲得していく力と定義し、小学校の食生活学習におけるいためる調理を研究対象として、「応用可能力」を獲得するプロセスについて検討することを目的とした。
<研究方法>
①調理した野菜のおいしさを体感する、②調理を科学的に学び、いためる調理のスタンダードを理解する、③食材の知識や料理のレパートリーを増やすための方法が分かる、の3つの視点をもとに、全8時間の授業実践プログラムを作成し、授業計画を立てた。
第1時は、生のキャベツの試食を通して、野菜をおいしく食べる方法について話し合い、いためる調理について学んでいくことを確認した。第2時は、家庭でのインタビュー調査をもとに、いためる調理について考えた。ゆでる調理と比較するなどして、科学的な理解を促した。第3・4時は、キャベツ、ホウレンソウ、ニンジンをいためて、ゆでた野菜との味や食感の違いを確かめた。ホウレンソウとニンジンは、下ゆでしてからいためた場合の味や食感の違いにも気付くようにした。第5時は、家によくある野菜を使っていため料理を作る計画を立て、第6・7時は、計画したいため料理を調理し試食して、ふりかえりを行った。第8時は、調理実習から1週間後、全ての授業のふりかえりを行った。
実施時期は、2016年5月-7月である。対象は、埼玉県内公立小学校第6学年69名(男子41名、女子28名)である。
本研究では、第6・7時(調理実習直後)と第8時(調理実習1週間後)のふりかえり記述を中心に分析を行った。
<結果・考察>
第6・7時(調理実習直後)は、「キノコとベーコンの組み合わせがおいしかった」、「タマネギやネギやみじん切りの方が食感がさらにシャキシャキになった」、「野菜をかたい順で炒められてよかった」など、直前の調理や試食についての記憶が鮮明に記述され、調理操作や味についての具体的な記述が多くみられた。一方、第8時(調理実習一週間後)の記述には、「どの組み合わせがよいか考えられるようになった」、「下ごしらえする意味が分かりました」、「いためる順番を考えることができるようになりました」など、より調理を一般化してとらえるような記述、つまりその後に使えそうな知識としての記述が多くなった。
これらのふりかえり記述を応用という点から検討すると、第6・7時(調理実習直後)は、「○○ができた」、「△△が分かった」等、第5時までに学んだ内容について、調理実習を通して確認したような記述が多かった。一方、第8時(調理実習一週間後)は、「□□を考えられるようになった」、「◇◇する理由が分かった」等、これまでに学んだことをもとに、自分なりに試行錯誤して理解したことが記述されていた。これは食材等の条件が変わったとしても、新たないため料理を調理することが可能であると推察できる記述と考えられる。
すなわち、第8時(調理実習一週間後)のふりかえり記述の内容は、「応用可能力」が醸成された結果とみてよいのではないかと考えた。