日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第61回大会/2018年例会
セッションID: A3-2
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小学校家庭科におけるマインドフルネスの視点を入れた「だし」の学習教材の検討
*渡瀬 典子
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抄録

【目的】小学校家庭科では「みそ汁」が学習内容に位置づけられ,現行学習指導要領「内容 B 日常の食事と調理の基礎」では「米飯及びみそ汁の調理ができること」として「だしをとること」を児童は学習する。新学習指導要領では「内容 B 衣食住の生活 食生活」の「内容の取扱い」において「和食の基本となるだしの役割についても触れること」が付記され,「だしのとり方」よりも踏み込んだ学習を児童に求める記述になっている。同箇所の解説を見ると「(だしを生かして作ったみそ汁とだしのないみそ汁の比較をして)観察して気付いたことなどを,実感を持って言葉で表現したりする学習活動」を促している。そこで本報告は,小学校家庭科の授業における「味わって」「おいしく」食べる内容について,「みそ汁」の味わいに大きな影響を与える「だし」に焦点を当て,課題把握と教材解釈を試みる。分析にあたり,鍵概念として「マインドフルネス」と「味覚教育」を設定し検討する。「マインドフルネス」とは,臨床心理学や精神保健学など,様々な分野で応用的に用いられている考え方である。熊野によれば,この概念は2600年も前にブッダが提唱した,悩みや苦しみから自由になるための心の持ち方を指し,「今,ここにある現実をあるがままに知覚する心の在り様」を表す。本報告では「味わって」「おいしく」に係る視点として援用する。2つ目は「味覚教育」である。「味覚教育」はフランスのジャック・ピュイゼ氏によって提唱されたものであり,五感を使って食べものと向き合うことを入り口に,「自分で感じて考える力」,「感じて判断する力」,「感じたことを表現して人と分かち合う力」を育成するという。本報告では,ジャック・ピュイゼ氏の理論に基づいて,日本で味覚教育を推進している石井克枝氏の実践をもとに検証をする。また,マインドフルネスの考え方から,うまみをしっかりと味わい,受け止めて,心の安寧へと導く学びへのヒントを得ることを目的とする。
【方法】本研究は2つの内容で構成される。(1)みそ汁の「だし」に関する児童の学習状況分析(2017年10月実施,岩手県内のA小学校5年生29 名)小単元「おいしいみそ汁について考えよう」の児童の学習記録の記述分析 (2)岩手県内の大学生対象の「だし」官能検査の分析(2018 年 2 月実施,小学校の教員免許状取得を希望する大学3,4年生 27 名)
【結果】分析対象であるA小学校の児童の家庭で「朝食の献立にみそ汁がある」のは約 1/3 であり,彼らにとってみそ汁が日常食,とは必ずしも言えない状況にある。よって,児童が学習を深めるためには「おいしいみそ汁」のイメージの共有化・具体化を図る必要がある。授業では「おいしいみそ汁とは?」という問いから,児童に味を決める様々な要素(実,汁の状態)を気付かせ,味わいに影響を与える「みそ」や「だし」の学習へと進んでいく。また,「だし」の味わいや役割について,児童が実感から気づくことができるように,「だし入り/だし入りではないみそ汁」をそれぞれ試食させ,「見た目・香り・味」を比較することで,「だしを入れると風味や香りが増し,塩分を抑える役目も果たす」という学習の「まとめ」につなげていた。
 次に,大学生を対象に「煮干し・かつおぶし・昆布・しいたけ」を用いた2 種類(1.「だし」の味わいの表現・好み,2.うま味の相乗効果に関する「だし」の調合)の簡易官能検査を実施した。「だしの好み」では,好まれる傾向にある食材(煮干し,かつおぶし)もあったが,順位付けは人それぞれであり,グループ内で比較をすることで,他の人の味の好みを考える機会にもなった。味覚教育やマインドフルネスが提唱する,“いま(食材)”に向き合って,五感で味わいを受け止める経験は,食事が生活の豊かさや滋味深さに貢献しうることを児童に気付かせ,このような考え方を習慣化できる心性を養うものと考えられる。また,様々な食材や調理したものを観察したり,味わったりして表現をすることは,調理実習記録の充実につながる効果が期待される。

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© 2018 日本家庭科教育学会
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