抄録
【目的】
現行の家庭科における金銭教育は、小学校で物や金銭の使い方と買い物の学習、中学校で主として自分の消費に関する金銭管理と計画的な消費、高校で生涯を見通した長期的な経済計画や家計収支が扱われてきた。小・中・高の系統性という点からは、中学校から高校へのジャンプアップが大きいという指摘があった。こうした課題やキャッシュレス化の進行への対応などから、次期学習指導要領では、中学校家庭科「消費生活・環境」の内容に「金銭の管理」が新設された。家庭の収入と支出や金銭管理についての内容が盛り込まれ、自分だけでなく家族の生活に必要な物資・サービスについての金銭の管理を扱うことになった。新設された「金銭の管理」の内容をどのように扱っていくのか、指導計画の作成はこれからの課題である。
そこで、本研究では中学校家庭科に新設された「金銭の管理」の内容についてのカリキュラムデザインを試み、その有効性を検討することを目的とした。
【方法】
(1)カリキュラムデザイン:中学生の特性を踏まえた授業を構想するために実施したレディネス調査結果1)をもとに、指導計画を作成する。(2)授業実践による検討:(1)で作成した指導計画により授業を実践し、生徒への質問紙調査(自由記述を含む)によってその有効性を検討する。
【結果】
(1)カリキュラムデザイン
レディネス調査では、対象の中学生には、家庭生活の中で家庭の収入と支出を意識して計画的に金銭の管理を行うための学びの機会があまり与えられていない実態が明らかとなっていた。そのため、指導計画の作成にあたっては、領域・人・実生活における実践とのつながりを重視した。具体的には、「家庭・家庭生活」の内容との関連を図り、生徒の身近な事例を取り上げたケース・スタディーを導入して、ペアワーク、グループワーク、ジグソー学習などの手立てを用いた。
(2)カリキュラムデザインの有効性
授業後の質問紙調査では、授業を通して「家計の収入と支出の関係や自分の家族の金銭管理について想像しやすくなった/自分のお金の使い方を振り返ることができた」とする者が70%程度見られた。また、「グループによる話し合い活動に意欲的に取り組むことができた/課題の解決策について、自分なりに考えたアイディアを出すことができた」とする者が80%程度いた。自由記述にも「友達と解決策を考える中で、自分にはない新たな視点が獲得できた」という意見が多く見られた。授業前後の消費行動に対する意識と行動に関する調査の比較では、「自分の家の収入と支出について知っておくことは必要だと思う」と意識する者の割合が有意に高くなっていた(p<0.05)。また、「商品やサービスを購入する時には、よく比較・検討してから買う/こづかい帳やアプリに、買い物の金額をメモしている/家で、生活費の話をする時に加わっている」といった行動をとると答えた者が増加する傾向が見られた。これらの結果から、領域・人・実生活における実践とのつながりを重視したカリキュラムデザインによる授業に一定の成果が得られたと考える。しかし、「一連の学習を通して学んだことを、自分の買い物や家族の生活に生かすことができた」とした者は50%程度であったことから、ケース・スタディーにおける学習課題の再検討や学習展開の工夫の必要性などの課題も明らかとなった。
1)加賀恵子,磯村さおり,松原由加.(2017).中学校家庭科における金銭教育の検討-中学生の消費生活についての実態調査から-.大阪教育大学家政学研究会,生活文化研究,Vol.55,1-14.