抄録
<研究背景と目的>
グローバリゼーションの進展のもと、私たちの暮らしから長く守り伝えられてきた伝統や生活文化が失われつつある。その中で、学校教育においては伝統文化に関する学習の充実が求められており、家庭科の新学習指導要領においても、生活文化を学ぶことが重視されている。そこで本研究では、中学校家庭科での住生活に関する学習において、住文化に対する関心と理解を深めるための授業および教材の開発に取り組んだ。授業開発にあたっては、主体的・対話的に学びを深められるよう意識した。
<研究方法>
1若者の住文化に関する意識・知識に関する整理
2教科書における住文化の扱いに関する整理
3体験的・実践的に住文化を学ぶための教材の検討
4授業計画の作成と実践およびその効果の検証
<結果>
1住文化に関する若者の知識の実態と教科書の記述内容
筆者らの調査では、中学生・大学生ともに和室に関連する名称や特徴についての知識や理解は十分とはいえないことがわかった。
2教科書の記述内容
住文化に関する教科書分析によると、小学校ではすだれやよしずといった伝統的な住生活の工夫の内容や意味を学ぶことが多い。中学校では日本の伝統的住まいや住まい方について、和室と洋室を比較しながら理解するというのが主な内容である。
3教材の検討と開発
住文化に関する知識や理解の現状をふまえ、伝統的な和室について学ぶ際には実物に触れ、五感を使って感じながら考える学びとなることが重要であると考えた。そこで、地元の職人の方に、ミニサイズの畳、障子とふすまの建具(引き戸)のミニチュア製作を依頼した。畳には新素材である和紙畳も含め、現代の主たる床(フローリング)材である木材も教材として準備した。
4授業計画および実践
授業として、開発教材を活用した題材「ライフステージに合わせた住まい」を計画し実践した。授業では、実体験と対話を重視し、対話に説得力(根拠)を持たせるために、事前にレポート課題「高齢になったら和室と洋室のどちらに住みたいか」を与えた。これにより主体的な学びが促されると考えた。本課題設定にあたっては、住生活学習に家族や家庭生活を関連付けることを意識し、現在と将来の両方の家庭生活を展望し、実践的な態度を育むことをめざした。事前学習により根拠を持った活発な対話が生まれ、新たに得られる知識や実体験が活用され、今後の生活を展望する力が育まれることを重視した。
<考察>
授業の結果、生徒たちの考えの変化は興味深いものであった。当初、洋室派と和室派では洋室派がやや多くいたのだが、安全面や活動性から洋室の良さを主張していた生徒の中から、伝統的な和室の良さを多面的に知り、考えが変化した生徒が複数みられた。しかし、その逆の変化はみられなかった。変化の要因としては、他の生徒の生活実感に基づいた発言や実際の体験を通して、自分だけの経験や学びでは得られない伝統的住文化の長所を知ったことがあげられる。例えば、高齢者の精神面での和室の意味に気づいたこと、和紙でできた畳など新たな素材により従来の短所を補うことができると知ったこと等である。日本の住文化の象徴である和室の特徴について、主体的・協同的に学んだことで、生徒らは住文化に対する新たな認識を獲得したことが示唆された。