抄録
【目的】
平成29年3月に公示された小学校家庭科及び中学校家庭分野の学習指導要領では,「A家族・家庭生活」,「B衣食住の生活」,「C消費生活・環境」の3つに内容が再構成され,生活経営学に関わる学習の重要性がこれまで以上に高まっている。中間(2002)は生活の営みを「生活価値と生活資源を各生活領域にインプットし,意思決定過程を経て,価値の実現,資源変換がアウトプットされるというプロセスといえる」と説明している。生活の知識や技能は,生活課題の解決策を構想したり,それを実践したりするための生活資源であるといえよう。しかし小学校家庭科及び中学校家庭分野において,生活課題の解決に対する生活資源の有用性についての学習はほとんどなされていない。高等学校家庭科の「家庭総合」では,生活設計の内容に生活資源の学習項目が明記されているものの,他の内容で学ぶ知識や技能もまた,生活を営み,生活課題を解決するための生活資源なのである。小学校家庭科及び中学校家庭分野においても,どのような生活資源を有しているか,それらを活用できているかによって,生活のあり方や生活の質に多大な影響が及ぼされることへの理解を深め,生活の知識や技能を学ぶ意義を捉え直していく必要があろう。本研究は次期学習指導要領において中学校家庭分野の3つの内容すべてに位置づけられ,小学校家庭科でもAの内容に新設された「生活の課題と実践」を主軸とした家庭科教育の学習指導について追究することを終極的な目的としている。そのための一段階として,自己の生活資源を再認識し,それらを活用して他者や地域・社会の生活ニーズ・生活課題に取り組む主体的・協働的な学びの有効性を検討した。
【方法】
国立大学法人F大学における3年次生を対象とした開講科目「生活経営学」では,生活資源に対する理解を深める複数のアクティビティ(個人または3~4名のグループによるもの)を組み込んだ授業を実施している。グループワークの1回目は生活資源と生活ニーズのマッチング,2回目は生活資源を社会的に活用した企画の立案である。本研究の実施にあたって2017年度は,1回目にマッチングの結果を整理するワークシート,1回目と2回目の終了時にリフレクションシートを課し,受講生25名の記述内容を分析した。
【結果】
(1)生活資源と生活ニーズのマッチングは回答者全員が興味をもって取り組むことができており,「自分の生活資源を認識するために」,「自分の生活ニーズに気付くために」有効であったと評価した。また,生活資源を認識することは生活の質の向上につながると回答者全員が実感できていた。さらに,いま充実させたいと思う生活資源を質問したところ,第1位が「時間」,第2位が「情報」,第3位が「人的生活資源」という結果であった。
(2)生活資源を社会的に活用した企画の立案は全員が興味をもって取り組むことができ,生活資源を認識することが生活の質の向上につながると実感できていた。一方,「自分の生活資源を認識するために」,「自分の生活ニーズに気付くために」有効であったとは「思わなかった」とそれぞれ2名,1名が回答しており,「他者の生活や地域・社会のニーズに気付くために」有効であったと「思わなかった」受講生が1名いた。企画の立案に際して「自分の生活資源を活用することができた」と「思わなかった」回答の受講生が3名,他者の生活や地域・社会の課題を解決するために自分が充実させたいと思う生活資源の第1位と第2位に挙げられたのは「人間関係資源」,第3位は「経済的生活資源」であった。
【文献】中間美砂子.(2002).Ⅰ章 生活をみつめる.内藤道子ほか共著.生活を創るライフスキル―生活経営論―(pp.5-19).東京:建帛社
本研究は,福島大学学内競争的研究資金(17RK001)の助成を受けた。