日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第61回大会/2018年例会
セッションID: P10
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調理実習におけるウェアラブルカメラの活用
五感で感じる調理を目指して
*有友 愛子和田 早苗
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抄録
[目的]
 
本校家庭科の調理実習では、調理による食材の変化を五感を活用して見た目や匂い等の変化に着目させ、なぜそのような変化が起こったかについて自分自身が感じたことを既習の知識と関連付けて考えさせ、調理のコツをつかませることで調理に対する興味・関心や自信につなげていくことを目指している。
 ICTが備え持つ効果・特性のうち「視覚化」「共有化」に着目し、ウェアラブルカメラで撮影した生徒の目線から見た調理場面の動画の活用により生徒の主体的な学習活動における言語活動が充実し、学習の理解につながったことを報告している(2017)。そこで、和食の味の基本であるだしに着目し、だし取りの実習において、グループのふり返りの学習場面でそれぞれが五感を活用して観察して得た情報にウェアラブルカメラの動画や色差計で測定し数値化されたデータをあわせてだしの仕上がりやその根拠について考えさせ、今後の調理実習について見通しを持たせる授業をデザインした。
[方法]
 
すまし仕立ての汁物に適しただしを目指して混合だしを取る実習に取り組んだ。グループの実習の様子はタブレットPC上で授業支援アプリケーション(ロイロノート・スクール)を用いてカード形式で整理させた。はじめにすまし仕立ての汁物に適しただしの条件を確認し、調理操作で気をつける点を【予測】のカードにまとめてから実習に取り組んだ。だし取りの調理操作をウェアラブルカメラ(GoPro)で撮影した。完成しただしについて、昆布を取り出すタイミング、かつお節を入れ火を止めるタイミングやだしの濾し方を中心にだしの仕上がりの根拠となった操作についてウェアラブルカメラせ撮影した動画を視聴しながら話し合い【結果】のカードにまとめた。根拠となったシーンを静止画としてカードにつなげ、【根拠】として文章化してまとめだしの取り方のポイントやコツについて整理した。今後の調理実習に向けグループごとに話し合った内容を共有しあった。グループごとにまとめたデータ、ワークシートの記述内容、質問紙調査の結果を分析した。
[結果]
 
カード形式で調理実習の様子をまとめていくことで、調理操作を言語化するために表現の仕方について確認したり、教科書やワークシートを見直したりする様子が見られた。また、【根拠】を考えさせることで他のグループのだしと比較したり、すまし仕立ての汁物に適しただしとしてどうだったかについて考えたりすることで根拠をもとにした活発な言語活動が見られた。また、色差計を用いて数値化されたデータを用いて話し合ったり、【予測】としてあげた点が適していたかをふり返ったりする様子も見られた。授業後の感想では「だしを取ったところをカメラでとっていたので、なぜ透き通らなかったなどが発見できたのでよかったです」「透明度などが数値化されていて、目に見える形になっていたのでわかりやすかったです。一番だしのうま味がよくわかりました」等の記述があった。調理科学的な思考や判断、表現の育成につながる生徒の主体的な活動であったことがうかがえる結果であった。
 今後の調理実習で生かしたいことに関する自由記述の分析では、出現回数が多い単語として「タイミング」「時間」「沸騰」があげられた。調理操作の少しの違いが仕上がりに影響することをだし取りの実習とその結果を数値化されたデータをもとに話し合い、実体験を通した気付きにつながったことが考えられる。
 本学の理系女性育成のための教育プログラム開発の観点で行った三件法による質問紙調査の結果は、①授業を受ける前よりも家庭科のこの分野への興味が増したか[2.08]、②この授業に関連する本を読む、自分でこの授業に関連したことを調べる、関連した実験を計画するなどの発展的な学習をしたいと思うか[1.78]、③家庭科を勉強する意欲が強くなったか[1.85]であった。調理実習において五感で感じ取り、ICTや科学的な根拠を活用して根拠を考える授業デザインが有効であったと言える。今後は様々なデータを活用する等して発展した内容で取り組んでいきたい。
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© 2018 日本家庭科教育学会
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