日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第61回大会/2018年例会
セッションID: A2-1
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ナラティヴ・アプローチによる家庭科教師のカリキュラム・デザインと私的生活経験の関連の検討
*瀨川 朗河村 美穂
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抄録
【目的】 本研究は,高等学校の家庭科教師の「私的生活経験」がカリキュラム・デザインに関する信念や知識にどのように結びついているのかをナラティヴ・インタビューにおける語りをもとに明らかにしようとしたものである。

 教師の成長・発達に関する近年の研究では,職業上の経験だけでなく,一見教育実践と直接的な関係が薄い私的生活経験,すなわち日常生活経験や家族関係における経験と関係も注目されている。例えば,Elbaz(1983)は,教師の実践知をとらえるには私的生活経験を含む「生活経験」が重要であることを指摘している。またGoodsonら(1994)は,学校内で身につけた知識・経験だけでなく「家庭,学校そしてより広い社会的な場で起こった過去および現在の出来事や経験」へと視野を広げることが教師研究に必要だとしている。さらに家庭科教師にあっては,教科内容が直接に家庭生活を対象とすることから,私的生活経験に着目してその発達・成長のプロセス,とくにカリキュラム・デザインに関する知識・信念の形成過程について私的生活経験も含めて検討することが必要だといえる。

【方法】 研究デザインは混合研究法であり,質問的調査により家庭科教師のカリキュラム・デザインの全体的傾向を把握したうえで,複数の教師を対象に授業観察およびインタビュー調査を行った。

(1) 質問紙調査

 2016年10~11月にかけて,無作為に抽出された高等学校720校に調査票を郵送し,家庭科教師に回答を求めた。質問項目は5つの大項目から構成され,「カリキュラム・デザインに用いる知識・経験」では,18種類の「知識・経験」についてリカート式尺度(6件法)により重視する度合いを尋ねた。そのうえで因子分析により私的生活経験の位置づけを明らかにするとともに,クラスタ分析を行い「知識・経験」の活用パターンによる教師グループを生成した。

(2) 授業観察およびインタビュー調査

 2017年4~2018年3月に,質問紙調査で得られた各グループに属する教師2名ずつに協力を依頼し,授業観察およびインタビュー調査を行った。授業観察は食生活および家族領域について2時間以上実施し,フィールド・ノーツを作成した。その後,エピソード・インタビュー(Flick, 1998)の手法を参考に,ナラティヴを導くインタビューを行い,カリキュラム・デザイナーとして「大切にしていること」について尋ねた。インタビュー終了後に逐語録または聞き取り記録ををもとにテーマ分析(Riessman, 2008)を行い,カリキュラム・デザインとその背景となる経験に着目してコード化したうえで,複数のコードからなるカテゴリを生成した。

【結果と考察】 協力が得られた341名の回答をもとに因子分析を行った結果,「知識・経験」について解釈可能な4因子が生成され,それぞれ「I 生徒との関係・日常生活における経験」「II 教科書・教材から得た知識」「III 家族関係における経験」「IV 教育実践に関する専門的知識・経験」と命名した。さらに,クラスタ分析から「知識・経験」の活用パターンが異なる4つの教師グループが得られ,うちグループ2を「私的生活経験重視度高群」,グループ3と4を「低群」とした。

 「高群」「低群」に属する2名ずつ計4名のインタビューのナラティヴ分析を行ったところ,「低群」の教師の私的生活経験とカリキュラム・デザインの関連についての関連づけは希薄であったが,「高群」の教師は日常生活経験を意識的に参照したカリキュラム・デザインを試みていることが明らかになった。また,「高群」の教師のナラティヴ・アカウントからは公的カリキュラムに付加するオリジナルな部分に「失敗談」などの日常生活経験を活用することがうかがわれたほか,カリキュラム・デザインの根幹にも家族から受けた影響があるとした語りもみられた。今後は,今回対象としていない教師グループからの事例も加え,理論の構築を目指したい。
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© 2018 日本家庭科教育学会
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