抄録
皮脂成分の代表的な油脂成分のうち, パルミチン酸, オレイン酸, トリオレイン, コレステロール, 流動パラフィン, スクアレンの6種の汚染布を作成し, 繊維上におけるそれぞれの油脂よごれの酸化にともなう黄変と洗浄について検討を行なった。
繊維上で, 油脂よごれは温度が高くなるにしたがい黄変が促進され, 油脂のうち不飽和化合物であるオレイン酸コレステロール, トリオレイン, スクアレンは, 飽和化合物のパルミチン酸, 流動パラフィンに比して黄変が速く大であり, 同じ不飽和化合物においても二重結合の数の多いものほど黄変は大となる.また, 繊維基質によって黄変性はことなり, 木綿布はポリエステル布に比して黄変が著しい.紫外線は油脂よごれの黄変を抑制する作用があることが認められた.
一般に, 油脂よごれはドライクリーニングにおいて容易に溶解除去されると考えられているが, ドライクリーニング方式では20℃で, ランドリー方式では40℃で洗浄を行なったこと, およびモデル洗浄の機械力の差なども関与しているかも知れないが, 後者の方式において高い洗浄性がえられた.
油脂よごれの種類のうち, 油脂自身が拍動酸化し重合するものは分子量が大きくなるため洗浄性が低下すると考えられる.しかし, Rf値の大なものが必ずしも分子量が小さいとはいえないが, コレステロールは酸化重合し黄変するにもかかわらず, エージングによりRf値が大となり, ドライクリーニングによる洗浄性は高い.また, 木綿のような官能基をもつ繊維は, 油脂よごれと化学的に結合しやすいため, ドライクリーニングによる洗浄性は低くなるものと考えられる.