(1) 対象老の世帯の主たる収入源別の分析によると保護世帯は給料, 年金世帯よりも「1人世帯」が多く, また「100万円未満」の低収入の割合が高く, それぞれ8割近くを占めており, 保護世帯の世帯属性の特性がよく表れている。また保護世帯に属する対象者は後期高齢者が多いことから, 健康状況について日常の生活圏域からみると「住居周辺生活圏」という生活圏狭域化の傾向がみられる.
(2) 住居水準を便所, 浴室, 電話の専用率, 設置率からみるといずれも保護世帯では低く, 住宅の基本的設備, とくに高齢者にとっては不可欠な設備条件が欠落している場合が多い.
(3) 保護世帯にとって直接家賃を給付する住宅扶助は家賃負担を軽減しているが, 近年の地価高騰による地上げ, 建て替えによる立ち退き, 家賃値上げによって居住不安が増加し, 住宅扶助費の範囲内の借家を求めて移動するケースがあることが予想される.
(4) 親子の居住関係は子なし世帯が多く, 家族状況の特異性が表れている.子あり世帯についても既婚子を有する比率は極端に低く, 子の県外居住率が高く, 既婚子との同居率は極小である.
(5) 一般に高齢者は住居移動を好まず定住する傾向が強いといわれているが, 民営借家居住の保護世帯は頻繁に住居移動を行っており, その理由も他律的ないしは消極的な選好理由であり, 家賃や立ち退き等の理由で移動せざるをえないという居住の不安定性を有している.
(6) 居住歴を家族人数歴, 居住地歴, 住宅所有関係歴からみると若年期, 中年前期からの小人数家族, 中年後期, 高齢期になってからの市内居住, 長期にわたる民営借家居住の特性を有していることが明らかになった.
以上のことから, 典型的なそして究極の低所得層としての民借居住の中・高齢保護世帯は, 長期にわたる民借居住のもとで, きわめて不安定な居住状況におかれており, その居住不安の解消のための施策が重要である.すなわち, 社会的な解決策, たとえば立ち退き不安の解消のためにはこれに対応した中・高齢者向け住宅の保障 (公的ケア付き住宅や民間アパートの借り上げ) と低家賃住宅の供給および家賃補助政策が考えられる.これらの施策は現在大都市において一部実施されているが, 本調査対象地のような住宅事情の厳しい, 低所得層の多い地方都市においても今後の実施が必要とされよう.また規定の住宅扶助費の範囲内の借家居住を対象にした現行の扶助費のあり方を, 家賃補助の性格をもたせることができるよう, 弾力的運用が検討されるべきと考えられる.
今回の報告では保護世帯の居住, 住宅に関する志向, 要求, 要望については部分的にしか触れていないが, 現在の居住実態にいたる過程のなかからいかなる居住, 住宅要求が出されているかについて明らかにすることは重要な課題であると考え, 本アンケート調査項目でもいくつか取り上げており, さらに引き続き生活保護世帯への聞き取り調査を実施している (1989年).これらの調査から, 保護世帯の住要求をふまえた, より具体的な住宅政策課題を明らかにすることを今後の研究課題としたい.