1999 年 50 巻 11 号 p. 1119-1126
わが国では, 国民栄養調査が行われ, その結果は健康増進のための基礎資料として用いられている.しかしながら, その値は生の値のみが記された食品成分表を用いて計算したものであり, 調理による変化は考慮されていない.本論文では, 実際の調理操作の脂質量への影響を系統化することを目的として, 豚薄切りロース肉 (脂身付き) を試料として「ゆで」「妙め」「揚げ」を行い, 脂肪酸量, 脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーを用いて分析した.さらに, 「妙め」「揚げ」においては, 豚肉由来, サラダ油由来の脂肪酸量を算出した.
脂肪酸組成は「ゆで」で変化せず, 「妙め」「揚げ」ではサラダ油の付着によって変化した.豚肉の調理前脂質量に重量減少率は影響されなかった.豚肉の調理前脂質量の増加につれて, いずれの調理操作においても豚肉由来の脂質溶出率は増加し, 「揚げ」ではサラダ油の付着率も増加した.「妙め」では調理前脂質量にかかわらずサラダ油の付着量は一定であった.これらのことから, 脂肪酸量の実測値と成分表を用いた計算値は異なっており, 調理操作ごとに, 試料中の調理前脂質量から調理後脂質量を推測する必要性が示された.