日本家政学会誌
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加熱により相変化をともなう食材系の熱移動と力学的性質の変化
長尾 慶子
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2004 年 55 巻 11 号 p. 837-844

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抄録

加熱下で食材成分に起こる相転移現象を顕在化させるため, 転移により液化する典型としてO/W型エマルションを含む油脂系, および寒天とゼラチンの高分子水溶液ゲルを, 転移により固化する試料として鶏卵の卵白, 卵黄, これらを混合し均一化した全卵, および馬鈴薯, 米, とうもろこし各デンプン~水懸濁系を対象に, それぞれの温度上昇曲線を測定した.併せて, 各試料の瞬間弾性率と加熱温度との関係を調べた.加熱により試料中各成分に相変化が生じ, それぞれの温度上昇曲線に吸熱による一時的な温度低下や複雑な形状が観察されるが, デンプン系では糊化温度範囲が広く, 各温度に対応した糊化状態が加熱中に連続して現われるため, デンプンの起源に無関係にスムーズな温度上昇曲線が得られ, どの曲線も一定の時定数を持った既報の指数式によく適合する.
一定応力下で観測される各試料の瞬間弾性率と加熱温度との関係は, 試料成分の相変化に基づく試料全体の状態変化を反映し, 固化や液化による系の弾性率の増減の詳細が観察される. 例えば, 熱凝固した卵黄の瞬間弾性率は卵白のそれの一桁以上大きく, 卵黄と卵白を均一に混合した全卵系の弾性的挙動が卵黄のそれに非常に近いこと, あるいは穀物デンプン系の弾性率は, デンプン分子中の結晶領域の崩壊に対応して温度75℃から80℃の範囲で最大値を示すこと等である.
本研究を通して, 実用食材全体の温度上昇曲線に対し成分の相変化が如何に影響するのか, あるいは上記曲線の定式化に際してその影響を如何に処理するのかが今後の課題として浮上したと考えられる.また, このような相変化による食材全体の状態変化を追跡するため, 各試料の詳細なレオロジー的性質を測定する方法を改めて検討したい.

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