抄録
院内感染は医療訴訟の中でも重要な位置を占めている。
そこで,院内感染に関する過去 20 年間(平成 6 年一平成 25 年)の裁判例を検索し,39 事例を得たのでこれを解析した。
患者側勝訴 22 件( 56 % )で医療機関側勝訴 17 件( 44 % ) であった。
原因菌は 30 件( 77 % )がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus : MRSA)に関連するもので,診療科別では外科系が 32 件( 80 % )であった。
裁判所が院内感染防止対策を怠ったことで医療機関の責任を肯定したものはほとんどなかったが,早期の診断・治療を適切に行わなかったことで責任を認めたものは 26 事例中 17 件( 65 % )に及んだ。
この数値は過去 20 年間変わっていない。
患者側は院内で感染症を併発した場合,すべて院内感染と考え医療機関に責任をもとめるため,院内感染の紛争リスクは相当高いと思われる。
常在菌化したMRSA感染の場合,院内感染かどうか分子疫学的解析も必要であり,担当主治医が感染症の専門医ではないことも理解を得るべきである。